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第二話 あなたのぜんぶ
あなたのぜんぶ(2)
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そのあとから家に入る長身の青年が呆れたように彼女らの後ろ姿を見やり、それから蓮を見下ろした。
色素の薄い瞳に、心配そうな翳りが過ぎる。
「ささっ、小野くんも。どうぞどうぞ。学生のときから住んでる部屋だから狭いけど」
あいつらを入れて大丈夫なんですか──なんて無言の問いかけが通じるはずもなく、蓮は平和な笑顔で長身の背を押した。
蓮、梗一郎、それからモブ子ら3人がボロ花咲家へと向かったのには、当然ながら理由がある。
授業の終わり。
レポートを提出したモブ子らは蓮の浮かぬ表情に気付いたという。
聞けば、世話になっている先生に押しつけられたアンケートの集計がなかなか終わらないとのこと。
寝不足を表すように、蓮の目元は赤く腫れていた。
「ならば、アタシらが手伝ってやろう」と教員棟の汚部屋に乗り込んだところ、担当の事務員に止められる。
何でも今日から一週間、教員棟の雨漏り補修のため立ち入り禁止ということだ。
先週も言いましたよねと、年かさの事務員に睨まれ、ヘラヘラ笑いを返す蓮。
今日は仕方ないねと解散しようとした蓮に、しかしモブ子らは食い下がった。
「蓮ちん家、すぐそこって言ってたよね」
食い殺す勢いの問いかけに、蓮が抵抗できる由もない。
まんまと自宅まで案内させられた。
おっとり講師の住む豪邸を見てやろうという彼女たちの目論見は、想定外のボロ屋の登場にあっさり崩されることとなる。
「台風が直撃したら間違いなく壊れるな、ここ」
「蓮ちん、流されるんじゃないか。ヤバス!」
「見える。蓮ちんが川に流されて助けを求めている様が見えるぞよ」
狭い八畳和室の真ん中の座卓に陣取る彼女たち。
好き放題に周囲を見渡していた。
部屋の隅に丸められたヨレヨレの布団、床には棚からあふれだした書物が積み上がっている。
学会の発表があるとか言っていたっけ。
書類や原稿が畳のうえにも散乱していた。
「この間、風の強かった日にもグラグラ揺れてたからねぇ。2階に住んでるおばあさんは雨漏りがひどいって言ってたし」
「教員棟といい、どこもかしこも雨漏りじゃないですか」
「あはは、ほんとだね」
色素の薄い瞳に、心配そうな翳りが過ぎる。
「ささっ、小野くんも。どうぞどうぞ。学生のときから住んでる部屋だから狭いけど」
あいつらを入れて大丈夫なんですか──なんて無言の問いかけが通じるはずもなく、蓮は平和な笑顔で長身の背を押した。
蓮、梗一郎、それからモブ子ら3人がボロ花咲家へと向かったのには、当然ながら理由がある。
授業の終わり。
レポートを提出したモブ子らは蓮の浮かぬ表情に気付いたという。
聞けば、世話になっている先生に押しつけられたアンケートの集計がなかなか終わらないとのこと。
寝不足を表すように、蓮の目元は赤く腫れていた。
「ならば、アタシらが手伝ってやろう」と教員棟の汚部屋に乗り込んだところ、担当の事務員に止められる。
何でも今日から一週間、教員棟の雨漏り補修のため立ち入り禁止ということだ。
先週も言いましたよねと、年かさの事務員に睨まれ、ヘラヘラ笑いを返す蓮。
今日は仕方ないねと解散しようとした蓮に、しかしモブ子らは食い下がった。
「蓮ちん家、すぐそこって言ってたよね」
食い殺す勢いの問いかけに、蓮が抵抗できる由もない。
まんまと自宅まで案内させられた。
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「台風が直撃したら間違いなく壊れるな、ここ」
「蓮ちん、流されるんじゃないか。ヤバス!」
「見える。蓮ちんが川に流されて助けを求めている様が見えるぞよ」
狭い八畳和室の真ん中の座卓に陣取る彼女たち。
好き放題に周囲を見渡していた。
部屋の隅に丸められたヨレヨレの布団、床には棚からあふれだした書物が積み上がっている。
学会の発表があるとか言っていたっけ。
書類や原稿が畳のうえにも散乱していた。
「この間、風の強かった日にもグラグラ揺れてたからねぇ。2階に住んでるおばあさんは雨漏りがひどいって言ってたし」
「教員棟といい、どこもかしこも雨漏りじゃないですか」
「あはは、ほんとだね」
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