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第二話 あなたのぜんぶ
あなたのぜんぶ(1)
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おつかれさま、そこが俺の家だよ──との言葉は、日本史BL検定対策講座講師・花咲蓮らしくのどかで穏やかな口調であった。
その言葉にモブ子らは一斉に足をとめる。
見上げた表情は一様に引きつっていた。
「……蓮ちんは、お坊ちゃまなんだとばかり思ってたんだが」
彼女らの目の前。
色あせた屋根瓦は年月の重みを増して、二階建てのアパートを今しも押し潰そうとしている。
「……蓮ちんのおうちは洋風の豪邸で、庭にはガーベラの花が咲いていて、大きな噴水があるんだと思ってたんだが」
築何年経つのであろうか。
すれ違うことも困難な細い外廊下。
玄関扉は薄いベニヤ板で造られており、扉と壁の間に隙間が空いているのが分かる。
扉の数から、古ぼけたアパートは各階4軒ずつ、計8部屋あると数えられた。
「……蓮ちん家、執事とかいてフランス語を喋ってるのかと思ってたんだが」
──蓮ちんのぜんぶを知りたくて付いてきたのにと、モブ子三人は一斉に叫んだ。
すべての夢破れたと、壮絶な表情で見やるボロアパート。
今まさに、屋根瓦から土塊がパラパラと落ちた。
「やだなぁ、そんなわけないじゃない。このあいだまで職にあぶれてた一研究者だよ、俺は」
「はは……っ」
蓮らしいとぼけた返答にモブ子らは顔を見合わせる。
──帰るか?
──いや、ここで帰るのはあまりに露骨すぎないか?
鋭い視線をかわした結果、彼女らはこう結論づけたようだ。
──とりあえず蓮ちん家(内部)を見てみたい、と。
当の蓮は、ボロアパート1階端のベニヤ扉の前で格闘している。
立て付けが悪く鍵を開けるのにコツがいるらしい。
ガチャっと大きな音がしたところで、体重を乗せるようにして一気に扉を押し開いた。
「ふぅ……ようこそ、遠慮はいらないからね」
ようやく開いた扉に、元より遠慮などするはずもないモブ子らが押し入る。
その言葉にモブ子らは一斉に足をとめる。
見上げた表情は一様に引きつっていた。
「……蓮ちんは、お坊ちゃまなんだとばかり思ってたんだが」
彼女らの目の前。
色あせた屋根瓦は年月の重みを増して、二階建てのアパートを今しも押し潰そうとしている。
「……蓮ちんのおうちは洋風の豪邸で、庭にはガーベラの花が咲いていて、大きな噴水があるんだと思ってたんだが」
築何年経つのであろうか。
すれ違うことも困難な細い外廊下。
玄関扉は薄いベニヤ板で造られており、扉と壁の間に隙間が空いているのが分かる。
扉の数から、古ぼけたアパートは各階4軒ずつ、計8部屋あると数えられた。
「……蓮ちん家、執事とかいてフランス語を喋ってるのかと思ってたんだが」
──蓮ちんのぜんぶを知りたくて付いてきたのにと、モブ子三人は一斉に叫んだ。
すべての夢破れたと、壮絶な表情で見やるボロアパート。
今まさに、屋根瓦から土塊がパラパラと落ちた。
「やだなぁ、そんなわけないじゃない。このあいだまで職にあぶれてた一研究者だよ、俺は」
「はは……っ」
蓮らしいとぼけた返答にモブ子らは顔を見合わせる。
──帰るか?
──いや、ここで帰るのはあまりに露骨すぎないか?
鋭い視線をかわした結果、彼女らはこう結論づけたようだ。
──とりあえず蓮ちん家(内部)を見てみたい、と。
当の蓮は、ボロアパート1階端のベニヤ扉の前で格闘している。
立て付けが悪く鍵を開けるのにコツがいるらしい。
ガチャっと大きな音がしたところで、体重を乗せるようにして一気に扉を押し開いた。
「ふぅ……ようこそ、遠慮はいらないからね」
ようやく開いた扉に、元より遠慮などするはずもないモブ子らが押し入る。
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