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第ニ章 溺れればよかった、その愛に

刺さる棘(9)

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   ※  ※  ※


「アル、しっかりしろ!」

 ディオールの怒鳴り声に、アルフォンスは我に返った。
 目の前には血を流し横たわるカインの姿。

「同じだ、あのときと……」

 露わになったカインの上半身には、今刺されたもの以外に無数の傷跡が残っている。
 古い傷は、九年前のあのときのものに違いなかった。

 傍らではディオールが必死の様子で止血をしている。
 リリアナはドレスの裾をまくりあげ、王宮へと助けを求めに駆けていった。

「アル、手伝ってくれ……アル?」

 アルフォンスは顔を俯ける。
 両手が小刻みに震えているのが分かった。

「あのとき、俺が……」

 あのとき世間知らずな自分が不用意に関わったせいで、カインは九年たっても消えない大怪我を負ったのだ。
 傷口の大きさと数の多さから、一命をとりとめたのは奇跡に近かったろうと思う。

 なのに自分はあのときのことを悪夢に見ることすらなく、忘却の彼方に……。

 アルフォンスはようやく理解する。
 簒奪王カインは長い間ずっと復讐の機会を窺っていたのだ。
 あのとき自分に怪我をさせた馬鹿な王子を、身も心もズタズタにしてやろうと。

「ならばカイン、お前の計画は成功だ。愚かにもお前を愛してしまった。俺の心は今……死んだよ」

 フラリ。
 立ち上がるアルフォンス。
 どこへ行くんだと叫ぶディオールの声も耳に入らない。
 こめかみで血管が激しく波打ち、目の前は血の赤に染まった。

「やっと分かったよ。お前は俺を憎悪していたんだな、カイン」

 だから再会するなりあんなことを。

 ──でも、憎んでいるなら何故あんなに優しく俺を抱いたんだ?
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