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第一章 夜に秘める

屈辱のくちづけ(9)

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 身体の奥へ押し挿るときですら、ゆるゆると小刻みに与えられる快楽。
 漏れる喘ぎを抑えることなどできようか。
 喜悦に揺さぶられ、身体の内側から作り変えられるかのよう。

 自由を奪われ犯されているにも関わらず、こんなにも甘い秘めごと。
 簒奪王の熱い腕に抱かれると、何も抵抗できなくなるのだ。

「こんなの……きもちよくなんかない。こんなの……愛なんかじゃない」

 うわごとのように繰り返される言葉に、カインの返事はすべて「愛している」だ。

「許してくれますか。あなたの:内部(なか)で果てたい」

 アルフォンスは唇を噛みしめた。
 腹の内側をぬるぬると這う感触と、最奥を穿つように放たれる精。
 ぞわりと背骨がとろけそうになる。

 許さない、やめろ──なんて言葉、声にならない。
 ともすれば、腰もはしたなく上下に揺れてしまいそう。

「アルフォンス、きれいだ……」

 汗で額に張りついた黄金の髪を払ってやりながら、カインは静かに微笑した。


     ※  ※  ※


 いつのまにか馬車の揺れは小さくなっていた。
 窓の隙間から零れ入るのは雨上がりの森の匂いか。

 至近距離の黒曜石の眼に映るのは、快楽にとろけた己の表情。
 とろりと視線をさまよわせ、唇を震わせる。

 指先はまだ黒衣を握りしめていた。
 欲望を何度も吐き出された後孔はひくつき、白濁液をはしたなく零す。

 目を閉じたのは簒奪王の顔がゆっくりと近付いてきたからだ。
 角度を変えて何度も唇を重ねながら、カインが空虚な「愛」を語る。

 あなたをずっと愛している──そんな言葉をどうして信じることができようか。
 何も考えられない。

 アルフォンスは、深い声の海にただ溺れていた。
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