58 / 85
第56話 ほう、お呼び出しですか、うわぁ、面倒くせえな。
しおりを挟む
テシテシ、テシテシ、ポンポン、いつもの朝起こしで私の一日は始まる。この心地よい起こしのおかげで今日も頑張る気力が出てくるというものだ。顔を洗って1階に降りて朝食を頂いてから部屋に戻って4人でまったり過ごしながら今日は何をしようかと考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「アイスさん、いますか?」
「いますよ、どうぞ。」
「では、失礼しますね。っと、何ですかこの部屋?」
メラちゃんが部屋に入ると驚いた顔をしている。何で驚いているのだろうか? 別に部屋は特に改造しているわけではないのだけど、一体どうしたんだろうか?
「? 普通に利用しているだけですが、何か問題がありますか?」
「いえ、あまりの綺麗さに驚いているんです。普通は連日宿泊されるとある程度汚れますが、アイスさん達が利用している部屋は汚れていないというか、むしろ綺麗になっているので驚いたんですよ。」
「ああ、そういうことですか。それはここにいるライムが綺麗にしてくれているんですよ。」
「えっ? ライムちゃんがですか? なるほど、そういえば、スライムって汚れなども食べてくれるから一部の貴族はスライムを飼っていると聞いたことがありますが、そういうことですか。」
「はい、何か私が寝ているときに綺麗にしてくれているみたいで。こちらは全く気付きませんでしたよ。」
「それは、羨ましいですね。私もライムちゃんみたいな可愛いスライムを飼いたいです。」
「うんうん、気持ちはよくわかります。けど、ライムはあげませんよ。大事な家族ですからね。」
「ぴーーーー!!」
私がそう言うと、ライムは嬉しそうにその場でピョンピョン跳ね出した。うん、可愛いな。
「ところで、何か私に用があるのでは?」
「あっ、そうでした! 戦姫の方達がアイスさんに用があるそうです。」
「おお、そうですか。こちらに案内してもらうのは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。しかし、アイスさんも隅に置けませんね。」
「いや、そういう話ではないですよ。それよりも早く案内してください。時間をかければかけるほど、このホーク亭がやばいことになりますよ。」
「は、はい、わかりました!!」
メラちゃんは急いで部屋を出た。ドタドタと凄い音で階段を降りていく。しかし、戦姫の3人がこの部屋に来たことが知られると何かとまずいな。こちらの意図していないところで恨みを買ってしまうな。とはいえ今更どうにかなることではないか。それよりも折角来てくれたのだから、お茶の用意くらいはしておきましょうかね。しかし、考えてみたらこの世界に来てから茶というものを飲んだことがないな。今ある採集物でお茶に出来るものはないかな、、、、。お、これを使ってみますか。名前は知らないけど、オレンジとパイナップルを足して3で割った感じの味がする木の実があったな。それを絞り出してお湯で薄めてみますか。足して2ではなく3で間違いないからね。残りの1は何かわからないけどそんな感じの味かな。
絞り汁1のお湯3で結構いい塩梅になったので、これにしようか、と準備完了となったときにようやくノック音がした。やはり何かあったな、これ。
「ア、アイスさん、お、お待たせしました。」
メラちゃんの声が途切れ途切れだ。大変でしたね。
「メラちゃん、お疲れ様です。入ってもらってください。」
「失礼します。」
私がドアを開けようと思ったら、マーブルが開けに行ってくれた。猫っぽく飛びながらドアを開ける。ちなみにドアは開き戸みたいな感じだ。しかし器用だよね。
ドアが開くと、疲労困憊のメラちゃんと、そのメラちゃんを心配そうに見つめる戦姫の3人がいた。
「おはようございます、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん。本来は2人部屋なので狭いですがどうぞ、お入りください。」
「ごきげんよう、アイスさん、マーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃん。失礼いたしますわ。」
「アイスさん、おはよう。マーブルちゃん達もおはよう。」
「ウサちゃん達、おはよう。」
「メラちゃん、お疲れ様でした。やっぱり大変だったでしょう?」
「はい、アイスさんが『大変なことになる』と言っていた意味がわかりましたよ。それではこれで失礼しますね。」
「メラちゃん、ありがとうございました。」
メラちゃんが部屋から出ると、戦姫達を席に案内する。2人部屋ではあるが、一応何とか4人座れるテーブルがあるので何とかなった。狭いけど。戦姫の3人が席に着いたところで、用意していた飲み物を出した。
「お茶でも用意しようかと思いましたが、あいにくとそういったものは持っていませんでしたので、代わりといっては何ですが、こちらをどうぞ。」
「まあ、ありがとうございます、早速頂きますわね。」
さて、気に入って頂けるだろうか。念のため味見はしてあるので大丈夫だとは思うが。
「!! アイスさん、この飲み物は一体どこで?」
「これは、移動中に見つけた木の実の絞り汁をお湯で3倍に薄めたやつです。」
「初めての味で驚きましたが、このほのかな甘みがすばらしいですわ。」
「即興で用意したものなので、お気に召してくれるか心配だったのですが、喜んで頂けて何よりです。セイラさんとルカさんはどうでしたか? 正直な感想を頂けると嬉しいのですが。」
「私はこの味好きかな。甘すぎないところが飲みやすくて美味しいと思う。」
「私は、もっと甘い方が好みだけど、これはこれでいい。」
「そう言って頂けると嬉しいですね。」
うん、3人の表情から察するとお世辞ではないようだ。ちなみにマーブル達はどうかというと、可もなく不可もなくといったところかな。即興だからこれで今は我慢してね。
「アイスさん達はこの部屋で普段は過ごされているのですね。」
「そうですね。ちなみにホーク亭はどれもこういった部屋だそうです。タンバラの街もほぼここと同じ感じの部屋です。ベッドもテーブルも調度品もほぼ同じですよ。さらに言うと、ホーク亭は一族経営だそうで、それぞれのご主人は兄弟だそうですよ。しかも、この宿の看板娘であるメラちゃんとタンバラの街での看板娘のメルちゃんはほぼ同じ顔です。正直私では区別がつきません。それこそ鑑定スキルがないと無理じゃないでしょうかね。」
「このタンヌ王国は一族で経営なさっている店が多いのです。アイスさんは驚かれたかもしれませんが、この国ではそういったことは意外にあるのですよ。ほら、冒険者ギルドでもギルド長のアイシャさんとアルベルトさんは性別以外はほぼ同じではありませんか。とはいっても、それは一般市民の話であって、貴族の方達はそういったことはありませんのよ。」
「確かに、言われてみるとその通りですね。しかし、貴族もそういった似た感じの外見だと面白かったのですがね。」
「外見だけ似た感じだったらいいのですが、貴族は逆に外見ではなく、考え方がみんな似たり寄ったりですの。まったく迷惑ですわね。」
「そ、そうなんですか? 私には無関係な世界なのでその辺のことはさっぱりわかりませんが。」
「ええ、このタンヌ王国は分類的には小国となります。街もここ王都とタンバラの街を含めても街といえる数は6つ程度しかなく、その周辺に集落がいくつかあるだけですの。そのくせ貴族の数だけは他国に引けを取らない数がありますの。そのせいで貴族同士の足の引っ張り合いがもの凄くて、、、。」
「なるほど。そういった背景があるのですね。ところで、今日わざわざここにお見えになったのは?」
今日来た理由を尋ねると、ふと思い出したかのような感じでアンジェリカさんは答えた。
「そうでしたわ。今日はアイスさんにお願いがありまして、、、。」
「その表情から察しますと、あまり良い内容とは言えない感じですねぇ。」
「はい、お父様がアイスさんに興味を持ちまして、それでお会いしたいと言ってきたのですわ。」
「やっぱり。手紙で呼び出そうと考えたけど、断られた挙げ句この国を去ってしまう可能性があるから、アンジェリカさんに話してもらうことで断れなくしてきたと。」
「お察しの通りですわ。」
「しかし、何でまた、そこまでしてこんな冴えないオッサンに会いたいと思うのかねぇ。」
不思議に思っていると、アンジェリカさんではなくセイラさんがそれに答えた。
「あのねぇ、アイスさん、あなたは自分がどれだけ凄い存在かわかってるのですか?」
「え? 別に凄くないでしょう。」
「いいですか? まず、私達戦姫と一緒にパーティを組んでクエストをする唯一の人なんですよ? 私達と一緒にパーティを組もうと誘ってくる人達は大勢いますが、王女殿下が全て断っておりました。それを盗賊討伐のみならずワイルドボアや今回のミノタウロス討伐で一緒にパ-ティを組むこと自体が異例中の異例なんです。王令であっても王女殿下は今まで一度も首を縦に振ったことはなかったんですよ。」
「そ、そうなんですか?」
「そうです。それを自覚してくださいね!!」
「は、はい。」
「それと、今回の護衛依頼。」
今度はルカさんが一言いうと、それに付け足すようにセイラさんが畳み掛けてくる。
「そう、護衛依頼です。王女殿下は本人は嫌がっておりますが、王族です。移動となると近衛兵が護衛として必ず着いてきます。普段は冒険者として行動するからといって断っておりますが、今回は強制送還みたいなものでしたから、近衛兵はほぼ決定事項だったのです。それを断ってまでアイスさんに護衛任務を依頼するほどなんですからね。国王陛下が興味を持つのは当たり前です!!」
普段見たことのない2人の勢いに押されてしまう。
「で、ではいつでしょうか?」
「明後日、一緒に昼食を摂りたいとのことですわ。」
「呼ばれるのは私だけですか? マーブル達は置いていかないとなりませんかね。」
「マーブルちゃん達と一緒にとのことだそうですわ。マーブルちゃん達についてはお父様ではなくお母様が特に興味をお持ちですの。」
「マーブル達も一緒ならお受けしますか。ましてアンジェリカさん直々の頼みとあっては断れませんしね。」
「あら、いくらわたくしの頼みとはいえ、マーブルちゃん達と一緒でなかったらお断りなさったでしょう?」
「ありゃ、バレてましたか。マーブル達は登録上は従魔となっておりますが、私はマーブルとジェミニとライムとのパーティだと思っていますので。」
「確かに、マーブルちゃん達あってのアイスさんでしたわね。」
「そういうことです。」
その言葉にマーブル達は嬉しそうに周りを走り回った。狭いから無理しないでね。でも、可愛い。
「はぁ、オニキスが私達のメンバーになって改めて、アイスさんの気持ちがわかりましたわ。」
「でしょう? カワイイは正義です!!」
「うんうん、カワイイは正義。」
ルカさんが即座に反応した。
「ところで、王都に戻ったときに身ぎれいになっていたことについては違和感をもたれませんでした?」
「ええ、城内で入浴したときにメイドに聞かれましたわ。でも、流石にねぐらのことは話せませんし、第一信じてもらえないでしょうから正直困りましたの。でもオニキスがそれを解決してくれましたわ。」
「あ、なるほど。オニキスに綺麗にしてもらったということにしたのですか?」
「ええ、実際にそうでしたわ。オニキスは凄いんですのよ、お願いすると、わたくしの全身を覆うように広がってシュワシュワさせてくるんですの。そのシュワシュワが気持ちいいのですわ。」
「ほう、全身を包むようにですか。それで息はできるんですか?」
「ええ、問題なくできましたわ。」
「なるほど、ところでライム、ライムもそういったことできるの?」
「うん、できるよー。でも、あるじはお風呂に入っているし、特に何も言われなかったからしなかっただけー。」
「そうなんだ、今度お願いしても良いかな?」
「うん、やるよー。むしろお願いして欲しいなー。」
「ということは、オニキスがそういうことができるということは、ライムが分裂するときにそういった能力をつけたのかな?」
「うん、おねーちゃん達がお風呂に凄く興味を持ってるみたいだったから綺麗になる技つけたー。」
「ということは、オニキスがもの凄く硬いのって、ライムが意識して付けたの?」
「うん、そうだよー。ぼくが2体になったら別れた方をおねーちゃん達にあげる約束だったからね。おねーちゃん達には守ってくれる仲間がいなそうだったから、守ることを一番にした方が役に立つと思ったの-。」
「そうなんだ、ライムありがとうね。そこまで考えてくれたんだ。」
ライムの優しさに少し涙ぐむ。マーブルとジェミニもよくやった!! と言わんばかりにライムにスリスリしてきた。オニキスもそれを知ってライムにスリスリしてきた。これもいい絵だ。癒やされる。
「ライムちゃん、ありがとう。わたくし達のことを考えて用意してくれたんですのね。」
「ライムちゃんありがとう、オニキスはもの凄く活躍しているよ。」
「うん、オニキスのおかげで安心して魔法が撃てる。」
うんうん、私は良い仲間に恵まれているな。いつも一緒にいてくれるマーブル達はもちろん、この縁を作ってくれたアマさんに感謝してアマデウス神殿にお祈りと戦利品を献上するとしますか。こうやって素直に感謝などしてくれる戦姫の3人も気持ちの良い人達だ。これから先も良い関係を築いていけたらいいなと思う。
話を戻して、明後日の予定に関して話を詰めていく。城の使いのものをホーク亭に出してくれるそうだ。格好は冒険者の装備で問題ないそうだ。ある程度方向が定まったところで戦姫の3人は部屋を出た。
さて、これからアマデウス神殿に向かいますか。
「アイスさん、いますか?」
「いますよ、どうぞ。」
「では、失礼しますね。っと、何ですかこの部屋?」
メラちゃんが部屋に入ると驚いた顔をしている。何で驚いているのだろうか? 別に部屋は特に改造しているわけではないのだけど、一体どうしたんだろうか?
「? 普通に利用しているだけですが、何か問題がありますか?」
「いえ、あまりの綺麗さに驚いているんです。普通は連日宿泊されるとある程度汚れますが、アイスさん達が利用している部屋は汚れていないというか、むしろ綺麗になっているので驚いたんですよ。」
「ああ、そういうことですか。それはここにいるライムが綺麗にしてくれているんですよ。」
「えっ? ライムちゃんがですか? なるほど、そういえば、スライムって汚れなども食べてくれるから一部の貴族はスライムを飼っていると聞いたことがありますが、そういうことですか。」
「はい、何か私が寝ているときに綺麗にしてくれているみたいで。こちらは全く気付きませんでしたよ。」
「それは、羨ましいですね。私もライムちゃんみたいな可愛いスライムを飼いたいです。」
「うんうん、気持ちはよくわかります。けど、ライムはあげませんよ。大事な家族ですからね。」
「ぴーーーー!!」
私がそう言うと、ライムは嬉しそうにその場でピョンピョン跳ね出した。うん、可愛いな。
「ところで、何か私に用があるのでは?」
「あっ、そうでした! 戦姫の方達がアイスさんに用があるそうです。」
「おお、そうですか。こちらに案内してもらうのは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。しかし、アイスさんも隅に置けませんね。」
「いや、そういう話ではないですよ。それよりも早く案内してください。時間をかければかけるほど、このホーク亭がやばいことになりますよ。」
「は、はい、わかりました!!」
メラちゃんは急いで部屋を出た。ドタドタと凄い音で階段を降りていく。しかし、戦姫の3人がこの部屋に来たことが知られると何かとまずいな。こちらの意図していないところで恨みを買ってしまうな。とはいえ今更どうにかなることではないか。それよりも折角来てくれたのだから、お茶の用意くらいはしておきましょうかね。しかし、考えてみたらこの世界に来てから茶というものを飲んだことがないな。今ある採集物でお茶に出来るものはないかな、、、、。お、これを使ってみますか。名前は知らないけど、オレンジとパイナップルを足して3で割った感じの味がする木の実があったな。それを絞り出してお湯で薄めてみますか。足して2ではなく3で間違いないからね。残りの1は何かわからないけどそんな感じの味かな。
絞り汁1のお湯3で結構いい塩梅になったので、これにしようか、と準備完了となったときにようやくノック音がした。やはり何かあったな、これ。
「ア、アイスさん、お、お待たせしました。」
メラちゃんの声が途切れ途切れだ。大変でしたね。
「メラちゃん、お疲れ様です。入ってもらってください。」
「失礼します。」
私がドアを開けようと思ったら、マーブルが開けに行ってくれた。猫っぽく飛びながらドアを開ける。ちなみにドアは開き戸みたいな感じだ。しかし器用だよね。
ドアが開くと、疲労困憊のメラちゃんと、そのメラちゃんを心配そうに見つめる戦姫の3人がいた。
「おはようございます、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん。本来は2人部屋なので狭いですがどうぞ、お入りください。」
「ごきげんよう、アイスさん、マーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃん。失礼いたしますわ。」
「アイスさん、おはよう。マーブルちゃん達もおはよう。」
「ウサちゃん達、おはよう。」
「メラちゃん、お疲れ様でした。やっぱり大変だったでしょう?」
「はい、アイスさんが『大変なことになる』と言っていた意味がわかりましたよ。それではこれで失礼しますね。」
「メラちゃん、ありがとうございました。」
メラちゃんが部屋から出ると、戦姫達を席に案内する。2人部屋ではあるが、一応何とか4人座れるテーブルがあるので何とかなった。狭いけど。戦姫の3人が席に着いたところで、用意していた飲み物を出した。
「お茶でも用意しようかと思いましたが、あいにくとそういったものは持っていませんでしたので、代わりといっては何ですが、こちらをどうぞ。」
「まあ、ありがとうございます、早速頂きますわね。」
さて、気に入って頂けるだろうか。念のため味見はしてあるので大丈夫だとは思うが。
「!! アイスさん、この飲み物は一体どこで?」
「これは、移動中に見つけた木の実の絞り汁をお湯で3倍に薄めたやつです。」
「初めての味で驚きましたが、このほのかな甘みがすばらしいですわ。」
「即興で用意したものなので、お気に召してくれるか心配だったのですが、喜んで頂けて何よりです。セイラさんとルカさんはどうでしたか? 正直な感想を頂けると嬉しいのですが。」
「私はこの味好きかな。甘すぎないところが飲みやすくて美味しいと思う。」
「私は、もっと甘い方が好みだけど、これはこれでいい。」
「そう言って頂けると嬉しいですね。」
うん、3人の表情から察するとお世辞ではないようだ。ちなみにマーブル達はどうかというと、可もなく不可もなくといったところかな。即興だからこれで今は我慢してね。
「アイスさん達はこの部屋で普段は過ごされているのですね。」
「そうですね。ちなみにホーク亭はどれもこういった部屋だそうです。タンバラの街もほぼここと同じ感じの部屋です。ベッドもテーブルも調度品もほぼ同じですよ。さらに言うと、ホーク亭は一族経営だそうで、それぞれのご主人は兄弟だそうですよ。しかも、この宿の看板娘であるメラちゃんとタンバラの街での看板娘のメルちゃんはほぼ同じ顔です。正直私では区別がつきません。それこそ鑑定スキルがないと無理じゃないでしょうかね。」
「このタンヌ王国は一族で経営なさっている店が多いのです。アイスさんは驚かれたかもしれませんが、この国ではそういったことは意外にあるのですよ。ほら、冒険者ギルドでもギルド長のアイシャさんとアルベルトさんは性別以外はほぼ同じではありませんか。とはいっても、それは一般市民の話であって、貴族の方達はそういったことはありませんのよ。」
「確かに、言われてみるとその通りですね。しかし、貴族もそういった似た感じの外見だと面白かったのですがね。」
「外見だけ似た感じだったらいいのですが、貴族は逆に外見ではなく、考え方がみんな似たり寄ったりですの。まったく迷惑ですわね。」
「そ、そうなんですか? 私には無関係な世界なのでその辺のことはさっぱりわかりませんが。」
「ええ、このタンヌ王国は分類的には小国となります。街もここ王都とタンバラの街を含めても街といえる数は6つ程度しかなく、その周辺に集落がいくつかあるだけですの。そのくせ貴族の数だけは他国に引けを取らない数がありますの。そのせいで貴族同士の足の引っ張り合いがもの凄くて、、、。」
「なるほど。そういった背景があるのですね。ところで、今日わざわざここにお見えになったのは?」
今日来た理由を尋ねると、ふと思い出したかのような感じでアンジェリカさんは答えた。
「そうでしたわ。今日はアイスさんにお願いがありまして、、、。」
「その表情から察しますと、あまり良い内容とは言えない感じですねぇ。」
「はい、お父様がアイスさんに興味を持ちまして、それでお会いしたいと言ってきたのですわ。」
「やっぱり。手紙で呼び出そうと考えたけど、断られた挙げ句この国を去ってしまう可能性があるから、アンジェリカさんに話してもらうことで断れなくしてきたと。」
「お察しの通りですわ。」
「しかし、何でまた、そこまでしてこんな冴えないオッサンに会いたいと思うのかねぇ。」
不思議に思っていると、アンジェリカさんではなくセイラさんがそれに答えた。
「あのねぇ、アイスさん、あなたは自分がどれだけ凄い存在かわかってるのですか?」
「え? 別に凄くないでしょう。」
「いいですか? まず、私達戦姫と一緒にパーティを組んでクエストをする唯一の人なんですよ? 私達と一緒にパーティを組もうと誘ってくる人達は大勢いますが、王女殿下が全て断っておりました。それを盗賊討伐のみならずワイルドボアや今回のミノタウロス討伐で一緒にパ-ティを組むこと自体が異例中の異例なんです。王令であっても王女殿下は今まで一度も首を縦に振ったことはなかったんですよ。」
「そ、そうなんですか?」
「そうです。それを自覚してくださいね!!」
「は、はい。」
「それと、今回の護衛依頼。」
今度はルカさんが一言いうと、それに付け足すようにセイラさんが畳み掛けてくる。
「そう、護衛依頼です。王女殿下は本人は嫌がっておりますが、王族です。移動となると近衛兵が護衛として必ず着いてきます。普段は冒険者として行動するからといって断っておりますが、今回は強制送還みたいなものでしたから、近衛兵はほぼ決定事項だったのです。それを断ってまでアイスさんに護衛任務を依頼するほどなんですからね。国王陛下が興味を持つのは当たり前です!!」
普段見たことのない2人の勢いに押されてしまう。
「で、ではいつでしょうか?」
「明後日、一緒に昼食を摂りたいとのことですわ。」
「呼ばれるのは私だけですか? マーブル達は置いていかないとなりませんかね。」
「マーブルちゃん達と一緒にとのことだそうですわ。マーブルちゃん達についてはお父様ではなくお母様が特に興味をお持ちですの。」
「マーブル達も一緒ならお受けしますか。ましてアンジェリカさん直々の頼みとあっては断れませんしね。」
「あら、いくらわたくしの頼みとはいえ、マーブルちゃん達と一緒でなかったらお断りなさったでしょう?」
「ありゃ、バレてましたか。マーブル達は登録上は従魔となっておりますが、私はマーブルとジェミニとライムとのパーティだと思っていますので。」
「確かに、マーブルちゃん達あってのアイスさんでしたわね。」
「そういうことです。」
その言葉にマーブル達は嬉しそうに周りを走り回った。狭いから無理しないでね。でも、可愛い。
「はぁ、オニキスが私達のメンバーになって改めて、アイスさんの気持ちがわかりましたわ。」
「でしょう? カワイイは正義です!!」
「うんうん、カワイイは正義。」
ルカさんが即座に反応した。
「ところで、王都に戻ったときに身ぎれいになっていたことについては違和感をもたれませんでした?」
「ええ、城内で入浴したときにメイドに聞かれましたわ。でも、流石にねぐらのことは話せませんし、第一信じてもらえないでしょうから正直困りましたの。でもオニキスがそれを解決してくれましたわ。」
「あ、なるほど。オニキスに綺麗にしてもらったということにしたのですか?」
「ええ、実際にそうでしたわ。オニキスは凄いんですのよ、お願いすると、わたくしの全身を覆うように広がってシュワシュワさせてくるんですの。そのシュワシュワが気持ちいいのですわ。」
「ほう、全身を包むようにですか。それで息はできるんですか?」
「ええ、問題なくできましたわ。」
「なるほど、ところでライム、ライムもそういったことできるの?」
「うん、できるよー。でも、あるじはお風呂に入っているし、特に何も言われなかったからしなかっただけー。」
「そうなんだ、今度お願いしても良いかな?」
「うん、やるよー。むしろお願いして欲しいなー。」
「ということは、オニキスがそういうことができるということは、ライムが分裂するときにそういった能力をつけたのかな?」
「うん、おねーちゃん達がお風呂に凄く興味を持ってるみたいだったから綺麗になる技つけたー。」
「ということは、オニキスがもの凄く硬いのって、ライムが意識して付けたの?」
「うん、そうだよー。ぼくが2体になったら別れた方をおねーちゃん達にあげる約束だったからね。おねーちゃん達には守ってくれる仲間がいなそうだったから、守ることを一番にした方が役に立つと思ったの-。」
「そうなんだ、ライムありがとうね。そこまで考えてくれたんだ。」
ライムの優しさに少し涙ぐむ。マーブルとジェミニもよくやった!! と言わんばかりにライムにスリスリしてきた。オニキスもそれを知ってライムにスリスリしてきた。これもいい絵だ。癒やされる。
「ライムちゃん、ありがとう。わたくし達のことを考えて用意してくれたんですのね。」
「ライムちゃんありがとう、オニキスはもの凄く活躍しているよ。」
「うん、オニキスのおかげで安心して魔法が撃てる。」
うんうん、私は良い仲間に恵まれているな。いつも一緒にいてくれるマーブル達はもちろん、この縁を作ってくれたアマさんに感謝してアマデウス神殿にお祈りと戦利品を献上するとしますか。こうやって素直に感謝などしてくれる戦姫の3人も気持ちの良い人達だ。これから先も良い関係を築いていけたらいいなと思う。
話を戻して、明後日の予定に関して話を詰めていく。城の使いのものをホーク亭に出してくれるそうだ。格好は冒険者の装備で問題ないそうだ。ある程度方向が定まったところで戦姫の3人は部屋を出た。
さて、これからアマデウス神殿に向かいますか。
0
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説
国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~
猫村慎之介
ファンタジー
オンラインゲームをプレイしながら寝落ちした佐藤綾人は
気が付くと全く知らない場所で
同じオンラインゲームプレイヤーであり親友である柳原雅也と共に目覚めた。
そこは剣と魔法が支配する幻想世界。
見た事もない生物や、文化が根付く国。
しかもオンラインゲームのスキルが何故か使用でき
身体能力は異常なまでに強化され
物理法則を無視した伝説級の武器や防具、道具が現れる。
だがそんな事は割とどうでも良かった。
何より異変が起きていたのは、自分自身。
二人は使っていたキャラクターのアバターデータまで引き継いでいたのだ。
一人は幼精。
一人は猫女。
何も分からないまま異世界に飛ばされ
性転換どころか種族まで転換されてしまった二人は
勢いで滅亡寸前の帝国の立て直しを依頼される。
引き受けたものの、帝国は予想以上に滅亡しそうだった。
「これ詰んでるかなぁ」
「詰んでるっしょ」
強力な力を得た代償に
大事なモノを失ってしまった転生者が織りなす
何かとままならないまま
チートで無茶苦茶する異世界転生ファンタジー開幕。
異世界ハニィ
ももくり
ファンタジー
ある日突然、異世界へ召喚されてしまった女子高生のモモ。「えっ、魔王退治はしなくていいんですか?!」あうあう言っているうちになぜか国境まで追いやられ、隙あらば迫ってくるイケメンどもをバッサバッサとなぎ倒す日々。なんか思ってたのと違う異世界でのスローライフが、いま始まる。※表紙は花岡かおろさんのイラストをお借りしています。※申し訳ありません、今更ですがジャンルを恋愛からファンタジーに変更しました。
女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~
ぶらっくまる。
ファンタジー
魔王が未だ倒されたことがない世界――ファンタズム大陸。
「――わたしが下界に降りて魔王を倒せば良いじゃない!」
適当女神のローラが、うっかり下界にちょっかいを出した結果、ヒューマンの貧乏貴族に転生してしまう。
しかも、『魔王を倒してはいけない』ことを忘れたまま……
幼少期を領地で過ごし、子供騎士団を作っては、子供らしからぬ能力を発揮して大活躍!
神の知識を駆使するローラと三人の子供騎士たちとの、わんぱくドタバタ浪漫大活劇を描くヒューマンドラマティックファンタジー物語!!
成長して学園に行けば、奇抜な行動に皇族に目を付けられ――
はたまた、自分を崇めている神皇国に背教者として追われ――
などなど、適当すぎるが故の波乱が、あなたを待ち受けています。
※構成の見直しを行いました。完全書下ろしは「★」、大部分を加筆修正は「▲」の印をつけております。
第一章修正完了('19/08/31)
第二章修正完了('19/09/30)⇒最新話、17話投稿しました。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
死んでないのに異世界に転生させられた
三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。
なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない)
*冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。
*カクヨム、アルファポリスでも投降しております
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる