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第11話 ほう、異種族の生活ですか。

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 目が覚めて周りを見ると明るくなり始めた頃だった。先ほどの真っ白の一直線な廊下ではなく、カムドさんの住居の一室であった。さっきのは夢ではないよな、どう考えても現実です、本当にありがとうございました。それはさておき、ちょっとまだ早そうなのでもう一度寝ようかなと思ったら、マーブルがテシテシしてきた。起きてたんかい。誰かが来る気配がしたので起きたらしい。



「おはよう、マーブル。」


「ミャー。」



 いつもの朝の挨拶をすると、これまた挨拶がてらにモフっていると、カムドさんが入ってきた。



「おや、もう起きてたのですか?」


「あ、おはようございます、カムドさん。さっき起きたところです。」


「おはようございますアイスさん、それにマーブルさんも。」


「ミャー。」


「ほほっ。わざわざありがとうございます。ところで朝食の用意ができたのですが、一緒にどうですか。」


「えっ、いただけるのですか? ありがたく頂戴します。楽しみですなあ。」


「お口に合えばいいのですが。」



 カムドさんに連れられて食堂に向かった。結構大きいな。食堂にいるのは長のカムドさん、その奥さんぽいゴブリンと昨日私になついてくれた子の3人? と私とマーブルという構成だ。



「おはようございます、機能はよく眠れましたか?」


「あっ、おじちゃんと猫ちゃんおはよう。」



 おっ、2人のゴブリンの言葉がわかるぞ。とはいえ、いきなり話せるようになっているとびっくりするだろう、とはいえ、朝の挨拶は基本だから、これだけはしっかりと返しておこう。もちろん人語でね。



「おはようございます、みなさん。」


「ミャー。」



 おっ、マーブルも挨拶したのか、偉いぞ。お父さんは(以下略。


 食事は木の実や果物がメインだったが、個人的には美味しかった。マーブルもご満悦の様子だった。



 食事の後にカムドさんといろいろ話した。集落の事情として今は何とかなっているが、食料が心許ないこと。手先が器用でいろいろな道具が作れること。戦闘が得意ではないので道具が通用しないと手も足も出ないことなどだ。一晩お世話になっているので、こちらとしてもできるだけ力になりたい。というわけで、いろいろと解決策を出してみた。例えば、食料は肉が大丈夫なら、昨日狩ったオークの肉をすべてこの集落に渡すこと、その代わりにこちらの欲しい道具を作ってもらうことなど。



 話し合っているうちに、私たちはこの集落に自由に入れるよう取りはからってくれた。また、集落に来たときに採取したものや狩ったものを道具にしたり、何かの道具や食料と交換することにした。食べられるものの種類が増えることはいいことだ。こちらの目的は人の住んでいる集落に向かうことなので、途中の拠点としてこの場所に出入りできるのは本当にありがたかった。拠点に魔方陣をマーブルに作ってもらい、ねぐらと、この集落を行き来できるようにしてもらいましょうか。頼んだよ、マーブル。



 肝心の戦闘についてだが、強くなってもらうためにマーシィさんに頼みたいところだが流石にゴブリンと一緒に魔方陣には入れないし、あそこはここからだと結構遠いので、往復するだけでも無駄に時間がかかる。あのオブジェごと、こちらに持っていってもいいか今度聞いて見るとしますか。集落の防衛施設はお世辞にも堅い守りとはいえない。というか、柵が低い。これじゃあ、走り高跳びの練習にもならない。柵から矢が飛び出てくるカラクリだそうだが、これだけ低いとあまり意味がないと思う。凄い仕掛けだとは思うけど、これでは宝の持ち腐れだ。段を増やすなりして高さを出した方がいいとは言っておいた。



 話し合いが終わってから、カムドさんに集落を案内してもらった。昼間は男達は採集に出かける者がほとんどで、残っているのは職人と老人子供だそうだ。女達は一部を除いて家事などを行っているそうだ。何か人の営みと似ているな。ついでにゴブリンの職人に大きなそりを作ってもらえないか聞いたところ、材料があれば作れるとのことだったので、後で作ってもらうことにした。材料は他のゴブリンに教えてもらうとしましょうか。



 ある程度集落の様子を把握したところで、私たちは一旦ねぐらに戻ることを伝えた。向こうで蓄えてある食料をこちらに持ってくるためである。最初は向こうは断ってきたが、こちらも余っているから是非と無理に引き取ってもらう形で話が付いた。ねぐらに戻ると、食料庫から半分ほど引っ張り出してゴブリンの集落に戻ってきた。転送だから多少は無理しても大丈夫だ、とマーブルは言っているような気がした。



 食料をカムドさんに渡して、新たに食料庫となった建物に運んでいく。集落に残っていたゴブリン達も手伝ってくれた。子供のゴブリンは楽しそうに運んでくれていた。種族は異なれどもこういった光景はいつ見てもいいものだと思う。



 食料を運び終えた後は、再びゴブリンの集落を出た。今度はマーシィさんに事情を説明して協力できるかどうか聞くつもりだ。転送装置でマーシィさんの像に向かう。相変わらずうさんくさい。今回は訓練ではないので像に触れる前に直接聞いてから触れてみた。相変わらずショボい現れ方だったが、こちらの目的を理解したのか今までで一番あっさりと倒すことができた。戦闘後、手紙があったので読んでみると、「暇だったから是非に」というもので、別に好きこのんであの場所にいたわけではないので、むしろ連れて行ってくれと懇願するような内容だった。移転方法はただあの像を出現させたい場所に置いてくれれば大丈夫とのことだったので、ありがたくお言葉に甘えることにして像を包んで集落に戻った。



 集落に戻ってから、カムドさんにマーシィさんのことを話すと、カムドさんは驚いたが訓練で強くなれることに興味を持ってくれて、結構あっさりと許可がおりた。像の場所はゴブリン達で話し合って決めるそうなので、できるだけ広い場所をすすめておいた。



 次の日、私たちはカムドさんに呼ばれて広場に向かった。広場ではゴブリン達が集まっていた。マーシィさんについて詳しい説明が欲しいそうだ。説明は面倒なので実際に見てもらった方が早いだろう。というわけで、みんなを周りに集めてもらった広いスペースを確保してもらう。確保した場所の真ん中当たりにマーシィさんの像を置いて、像の起動方法、といっても単に触れるだけだが、実際に触れてみた。いつも通り申し訳程度の揺れ、は全く無く妖しい煙が現れただけだった。周りを見ると、ゴブリン達は非常に驚いていた。まあ、いきなりこんな事起こったらビックリするよな。マーシィさんもわかっているのか、割とあっさりやられてくれた。手紙がでてきたので読んでみると、うざいくらいのお礼の言葉がひたすら書かれていた。そこまでさみしかったのかよ。



 起動方法も教えたので、今度は実際にゴブリン達に戦ってもらった。念のため最初はレベルアップ希望という気持ちを込めて触れるようにお願いした。最初はゴブリン達も数で押し切る戦法で何とか勝てていた状態だったが、何度も戦っているとレベルが上がってきたのか、割とあっさり勝てるようになっていた。戦っていたゴブリン達は楽しかったのか日が暮れるまで、人数を減らしたり、いろんな武器を使ってみたりして戦っていた。



 今日は広場でみんな総出で食事するそうだ。私が供出した肉をみんなで思う存分食べた。訓練に参加したゴブリン達は代わる代わる私にお礼を言ってきた。今は言葉がわかるので、ここまで感謝してくれているとわかると思わず嬉し涙が出てしまった。別にお礼や感謝を期待していたわけではないが、こうも感謝されるとやった甲斐があったと思う。食事会のついでにこれからのことを話し合うそうだ。折角だから参加してみた。



 話し合いの内容は、マーシィ像は集落のはずれにかなり広い使われていない場所があったので、そこを訓練施設とすること、また、少人数でも倒せるようになったので、訓練日を設けて交代で使っていくことなどだ。


また、オークの襲撃の件で本体が来そうな雰囲気もあるが、現段階ではオークに勝てないのもわかっているので、間に合えばゴブリン達と共同で私たちが、間に合わなければ私とマーブルである程度狩って数を減らして時間稼ぎする感じになった。ただ、ゴブリン達の訓練はオーク対策というわけでもないので、私たちで倒せるのなら倒してもかまわないということだった。お言葉に甘えてオーク達は私とマーブルで倒しますか。



 私たちがゴブリンの集落を行き来するようになって約1ヶ月が過ぎた。日に日に語彙力を増やしていく形で会話をするようにして、今では完全に会話できる感じになった、というか調整したんだけどね。ゴブリン達もマーシィブートキャンプの甲斐あってかなり戦えるようになっていた。マーシィさんの返事も相変わらず手紙だったが、言葉はなんとゴブリン語で書かれていた。ってゴブリンにも文字あったんかい。オーク達はというと、出現してもせいぜい2、3体程度で脅威どころか最後の方ではゴブリン達だけでも倒せるようになっていた。



 また、マーシィブートキャンプ(以下MBCと勝手に命名)を通じて戦闘のコツをつかみ始めたゴブリン達は、武器だけでなく防具も自分の動きに合わせて加工していた。大人しかった口調も自信がついてきたのか、「ヒャッハー」など、ときたまどこかの世紀末を彷彿とさせる台詞まで出てきていた。もちろんゴブリン語でだ。



 忘れた頃に何とやら、というわけではないけど多数がこちらに向かっている気配を探知した。自力で探知できたけどやはり言うまでもなくマーブルの方が早かった。嬉しいような悲しいような。恐らくオークの集団だろう。



「集団がこちらに向かってきています。恐らくオーク達でしょう。」



 私が伝えると、ゴブリン達は以前の襲撃を思い出したのか一瞬顔をしかめたが、訓練を思い出して落ち着きを取り戻し、次々に戦闘準備に取りかかった。距離はまだ結構あるがゴブリン達は次々と戦闘準備を完了してそれぞれの配置につく。訓練でそれぞれ得意な武器が決まってからは、敵が攻めてきた場合に備えてそれぞれの配置を決めていた。私は客人なので遊撃隊として好き勝手に動いていいことになっている。集団の先頭が見えてきたがゴブリン達に焦りの様子は見られない。



「以前までのゴブリンと思うなよ、オークども。」


「くくっ、食料が集まってきたぜ。」


「こいよ、豚ども。」


「汚物は消毒してやるぜ。」



 それぞれ配置についたゴブリン達は誰に言うでもなくつぶやいた。みんないい顔をしている。でも折角だから戦争前のお約束的な言葉を私は言っておく。



「かかってこい、相手になってやる。」


「ミャー。」



 お、マーブルも気合い入ってきたかな。よし、お父さんと一緒に暴れるとしましょう。
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