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第160話 さてと、面倒事ってのは、向こうからやってくるのですね。

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前回のあらすじ:ゴーレムは強敵でした。


 アンジェリカさん達と地下3階まで案内してボスを瞬殺できたが、裏ボスである炎のゴーレムこそどうにか倒せたけど、次の影のゴーレムと戦う力が残されておらず撤退したけど、やはり勝てないと思って撤退を決意したのは見事という他なかった。私だったら、どうにかして戦っていただろうしね。今一瞬、誰かさんの台詞で「ヒップノユー」という言葉が聞こえたが気のせいだろう。

 てな訳で、今現在、アンジェリカさん達戦姫は、あのダンジョンの地下3階を探索している状況のようです。ギルドで一緒に行くメンバーを募集したところ、戦姫と一緒に冒険できると、希望者が殺到してしまい、暴動寸前になったとかならなかったとか。で、結局のところどうなったかというと、はい、そもそも地下3階にすらたどり着ける冒険者がいなかったというオチです。

 あ、今更ですが、あのダンジョン名が「氷王の訓練場(ルビ:ひょうおうのくんれんじょう)」と決まったそうです。この氷王は、私の水術から採ったそうですが、命名された本人としては、どうしてこうなった、という印象です。というのも、ダンジョン発見から地図作成まで私達だけでやり遂げたことが原因だそうで、本来ならば、これ以上ない名誉とのことですが、私としては、そんな名誉いりません。

 ちなみに、命名には国王など、所属している国の長に申請を出して、彼らの許可がいるそうですが、ここはトリトン帝国、そう、トリトン陛下が国の長、国家元首です。言うまでもなく「そいつは面白ぇな!」と二つ返事で承認されたようです。ってか、リトン公爵、反対意見出してくれよ、と思っていましたが、そのリトン公爵も二つ返事だったとのこと。

 話を戻して、氷王の訓練場だけど、地下3階までの地図は冒険者ギルドに提出してあり、冒険者ギルドでは地図として販売しているそうなので、実力さえあれば地下3階までは進むことができるみたいだけど、地下2階のボスが倒せないらしい。って、あそこボスいたっけ!? それとも実力が足りてないのか? 仮に実力不足で断念したのなら、それは賢明な判断といえよう。

 そんなわけで、私達は現在手持ち無沙汰となっておるわけなんですよ。え? 領主の仕事はどうしたって? もちろんこなしておりますよ、日課のようなものですからね。平和で領民も少ない我が領など、やらなければならないことについても少ないのですよ。フェラー族長とカムドさんがいるのが一番大きいのだけど。

 そんな状態で、領主の決済やら、ミードの仕込みやら、ジャーキーの仕込みやらをしながらのんびりまったりと過ごしているとですね、マーブル達がこちらに可愛い体当たりをかましてくる訳ですよ。要は暇だからどこかへ連れて行け、と。そんなかわいいおねだりをされたら、断れないじゃないですか。

 というわけで、ここしばらくの間は、恵みのダンジョンへと行ったり、氷王の訓練場地下4階以降を探索したり、ねぐらでスガーを採集したりと、久しぶりに私達だけの水入らずで幸せな日々を堪能しておりましたよ、ええ。やはり、改めて私達4人だけでいろいろな場所へ行くというのが一番楽しいと思ってしまったり。

 そうしている間にも、氷王の訓練場については、地下3階へと潜れるようになった領民が徐々に増えてきていた。その中でも、クレオ君とパトラちゃんが地下3階の探索に同行できるほど強くなっていたのは驚くやら頼もしいやら、、、。ここに来ている冒険者でも、救済の風のパーティがどうにか潜れるようになったらしいので、これから潜れる冒険者達も出てくるだろう、出てくるよね?

 こうして、ここ数ヶ月大きな出来事もなくまったりと過ごしていると、突如アインとラヒラスがマーブル達のモフプヨを堪能しているときに、領主館へと入ってきた。

「お、珍しいね、2人だけでここに来るのは。まあ、2人だけで来たということは、何か面倒事が起こりそうな気がするんだけど、、、。」

「ああ、まさに面倒事が起こりそうだから2人で来た。」

「まあ、ウルヴは面倒事な案件については門外漢だからねぇ。」

「そういうこと。ウルヴは戦場こそが最も活躍出来る場だから、こうしたことは不得手でも問題ないよね。」

「とりあえず、それは置いといて、内容を聞こうか。」

 話を聞くと、サムタン公国が先日大敗を喫してからそれに比例して、国力並びに影響力が落ちたようだ。それで、サムタン公国の隣国の1つであるアバロン帝国がサムタン公国に攻め込むつもりらしい。ちなみに、サムタン公国は数カ国と国境を接しているようで、タンヌ王国もその1つである。

 アバロン帝国についてだけど、建国以来代々戦争によって領土を広げてきた国で、治安もよろしくなく、国土もそれほど肥えていない様子。って、この世界って、まともに開発できている国って少ないのか!? そこそこ都市化していたタンヌ王国が異常なんだろうか? トリトン帝国が一番貧しい国と聞いていたけど、サムタン公国に行ったときも公都以外はこれといったものはなかったし、下手をしたらトリトン帝国よりひどい場所もあったし、、、。ま、まさか、国土の広さ=国力って安直な認識なのか!? しかし、それならある程度納得がいく。

 それでアバロン帝国なんだけど、攻め込む前にいっちょ前に、内部工作で仮想敵国内をメチャクチャにしてから美味しい所を頂く感じらしい。サムタン公国でもかなり前から積極的な内部工作が行われていたらしく、
タンヌ王国に攻め込んだのは、内部工作の成果の1つらしい。それで、タンヌ王国に多数の精鋭を引き連れて攻め込んだところ、逆にフルボッコにされてその多数の精鋭を失い、国防力がガタ落ちしたので、アバロン帝国はチャンス到来とばかりに侵攻計画を整えつつあるようだ。

 確かに、あの召喚部隊は国の精鋭といえるほどのものは持っていると思うけど、それ以上の戦力が控えているとか、そっちの情報収集を怠った結果であり、他国がどうなろうとこちらの知ったことではない。

「うん、アバロン帝国がサムタン公国を攻めようとしているのはわかったけど、仮にアバロン帝国がサムタン公国を滅ぼして占領したとしても、国境は接することはないよね? 確かに厄介事ではあるけど、すぐにどうこう、ということではないよね?」

「ああ、その点だけを見れば、確かにそうなんだが、どうやらそのアバロン帝国の目がこちらに向き出しているようだ。」

「うわぁ、面倒くせぇ、、、。まあ、領土こそ多く持っていても、それを生かし切れていない状況を鑑みれば、ここは天国みたいな場所に見えるよねぇ。そりゃあ、こっちにも目が向いてしまうか、、、。」

「そういうことだ。で、ラヒラスの予測だと、近日中にアバロン帝国の使者がひそかに我が領へと来るのではないか、と。」

「なるほど。ラヒラスがそう予測したのなら、恐らくそれは間違いないだろう。で、ラヒラス、使者がこっちに来るのはいいけど、何を仕掛けてくるかはわかる?」

「恐らくだけど、最初はいつもどおりの切り崩しを謀りに来るつもりだと思う。けど、ここに来てからその考えを180度変えてくると思うよ。」

「何で?」

「だってさ、碌に開発とかしていない地域から、王族が毎日のように食事を食べに来るような場所に来てごらん? そんな場所に援助なんてできるかい?」

「いや、相手はそれが通じると思っているんじゃないかな。何しろ向こうの情報はほとんど知られていない訳だし、謀略好きなら、どうせ嘘八百並べ立てて誤魔化そうとするんだしさ。まあ、援助の申し出なら喜んで受け入れるかな。ところで、180度変えてくるとしたら、どんな手を使ってきそう?」

「うわぁ、もの凄い悪い顔になってるよ、、、。って、そっちなんだけどね。多分、国力を笠に着て脅しをかけてくると思うよ。援助ではなく脅迫で、向こうに貢ぎ物を要求してくるんじゃないかな? その間に周囲がここの敵に回るように工作するんじゃないかな? 何しろ、この町って防壁が存在しないじゃん。」

「ふむふむ。ところで、この話は陛下やリトン公爵には行ってる?」

「もちろん、伝えてあるよ。というよりも、あの2人の指示でこっちに来てるし。判断はアイス様に任せるからって。忙しすぎて手が回らないから、こういうときこそコキ使うって嬉しそうにしてたよ、、、。」

「は? いや、陛下はともかく、リトン公爵が忙しいのはわかるよ。しかし、コキ使うって、、、。」

「後ね、2人とも、アイス様が向こうの言い分を呑んで、反逆してトリトン帝国を攻めるなら、無条件で帝位を譲るから言ってね、だってさ。」

「そんな面倒なことしねえよ!! ってか、まるで2人ともそうしろって言っているようなもんじゃねぇかよ、、、。ってか、陛下、どんだけ退位したがってるんだよ、、、。退位してずっと居座るつよりかよ、そして、リトン公爵も同意見かよ、、、。まあ、こっちの好きにしていいのなら、そうさせてもらうかな。」

 トリトン陛下とリトン宰相の話に呆れながらも、気を取り直した。しかし、その前に、君達は私直属の部下なんだから、まず話をこっちに持っていくべきなのでは?

「アイス様の考えていることはわかるよ? 何故話を先に向こうへ持っていったのかってね。でもさ、アイス様、考えてごらんよ。あの陛下だよ? アインと2人で情報を精査しているときにいきなり入ってくるくらいアグレッシブな人なんだよ? 話さないわけにはいかないじゃん、、、。」

「・・・なるほどね。わかったよ。ところで、アインにラヒラス。アバロン帝国に限った話じゃないけどさ、やっぱりいろんな角度から情報って集めた方がいい? ぶっちゃけ、マーブル達と楽しく過ごせればいいや、って思ってるからその辺いい加減にしてたけど、、、。」

「・・・アイス様、ぶっちゃけ過ぎだろ、、、。まあ、俺としては集められるものは集めておきたいから、そういうのはできたら欲しいな。でも、アテはあるのか?」

「うん、俺も欲しいかな。あらかじめ知っておけば、魔導具研究の邪魔が最低限で済むし。」

「ラヒラス、おまえもぶっちゃけ過ぎだ、、、。」

「いや、理由は大事だよ。2人とも欲しいのなら、一応アテはあるけど、その交渉は2人に任せてもいいかな?」

「アイス様、まさか? でも、雇う金ってあるの?」

「?? アイス様もラヒラスも、俺にはよくわからねぇから説明頼む。」

「ああ、説明してなかったね。雇うのは暗殺者ギルドだよ。」

「暗殺者ギルド? そういえば、そんなギルドがあったな。確か、恵みのダンジョンを案内するときに一人いたよな。」

「うん、その暗殺者ギルド。あの後、彼ら、ちょくちょくちょっかい出してたんだよね、我が領に。まあ、レオ達が瞬殺してたらしいから被害は皆無だったけど。むしろレオ達は物足りないって不満だったらしいけどね。で、失敗の報告どころか戻ってこないことに痺れを切らした幹部がこっちに来たようで、それに気付いたレオ達が、仕留めたギルド員の首を持ってきて見せてたらしいよ。その幹部を取り囲んでね。」

「うわぁ、、、。レオ達に?」

「そう、レオ達に。しかも、コカトリスに足を石化された状態にされてね。」

「うちのモフモフ達、えげつねぇな、、、。」

「そう、そこまでされてね。最後にカムドさんが追い打ちをかけたらしいよ。」

「カムドさん、って、確かゴブリンエンペラーだったよな、、、。」

「そう、そのカムドさんが、「我が領に手出ししない限りは、そちらの身の安全は保証するが、これ以上手出ししたら容赦しない」って警告したらしいよ。」

「周りをSランクの魔物に囲まれた上に、足を石化させられて、更にゴブリンエンペラーとか、それは俺でも怖いな。」

「ああ、俺も無理だ。」

「で、今回はその暗殺者ギルドをこちらで雇ってしまおうと思います。」

「暗殺者ギルドを雇う? アイス様正気か?」

「正気も正気。彼らには今後、暗殺者ではなく、諜報者として活躍してもらうことにします。ということで、先程も言ったように交渉は2人に任せます。お金については心配しなくても腐るほどあるから。」

「アイス様。確かに予算はあるのだろうけど、フェラー族長やカムドさんが首を縦に振るかは別だよ。」

「いや、それについては、私の個人的に所持するお金で対処するから。」

「え? アイス様ってそれだけお金持ってるの!?」

「あるよ。いらないって言ってるのに、領から振り込まれてるし、素材などの売却金もたくさんあるし、何よりあまり使い途がないから、貯まりすぎてて、、、。」

 そんなアイスの話を聞いて、2人は納得した。そう、アイス自身は端から見ているとかなり贅沢な生活を送っているように見えるけど、実際には料理は素材から何から自分で集めたものを使っている。また、個人的に一番金がかかるであろう装備品についても、アイスは基本的に防具なども自前で用意してしまうのでやはり金がかからない。ということで、増えることがあっても、減ることはほとんどないので貯まってく一方なのである。

「まあ、そういうことだから、暗殺者ギルドに交渉してきて。専属に雇われるのであれば、奮発することも含めて頼むね。」

 数日後、ラヒラスとアインに付き添う形で1人の女性がアイスの前に現れていた。

「お初にお目にかかります。暗殺者ギルドのギルド長を務めておりますガブリエルと申します。」

「こちらこそ、初めまして。私はここのフロスト領領主、アイス・フロスト侯爵です。」

「見たところ変装もしていないし、名前も本名を名乗っているね。ということは、こちらの話に賛同してくれるということでいいのかな?」

「はい。隠し事をせずに正体を見せることでこちらの誠意を示したく思いました。それに、侯爵には隠し事をしても見破られるでしょうし。」

「うん、誠意は見せてもらったよ。これからは、我が領の諜報部隊として働いてもらう。もちろん報酬は支払うから。」

「ありがとうございます。ただ、1つ条件がございます。」

「条件? 内容によっては呑めないけど、言ってみて。」

「はい、条件というのは、我らも一領民として接して欲しいのです。」

「領民として? それは構わないけど、いいの? 仕事として依頼料をもらった方が実入りはいいけど?」

「構いません。我らは日陰者として密かに生きていかなければならなかった者達の集まりなのです。」

「ガブリエルはそれでいいとしても、ギルド員はどう思っているのかな?」

「その点についてはご安心を。手下の者達がそう希望しているので。」

「了解した。では、フロストの町の領民としてみんなを迎え入れる。でも、何か問題を起こしたら、わかっているね?」

「はい、理解しております。」

「じゃあ、頼んだよ。アイン、ラヒラス、ご苦労様。細かいことについてはカムドさん達と話をして決めといて。」

「「ハッ!」」

 こうして、暗殺者ギルドはフロスト領での諜報部隊として再スタートをすることになる。そして、彼らを通じて各国の情報を集めることができるようになったのである。

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元暗殺者ギルド員A「こ、ここは天国か!?」
元暗殺者ギルド員B「だな。メシは美味いし、何よりこの子達が可愛すぎる、、、。」
元暗殺者ギルド員C「ああ、可愛いんじゃぁ、、、。」
彼らの膝の上に、ウサギ達(Sランク魔物)がちょこんと座っており、大人しく撫でられている。
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