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第145話 さてと、隣の国の王様がやってくるそうです。
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前回のあらすじ:マーブルビールと名付けられたビールは最高のようです。
常温発酵のビール、通称「マーブルビール」が無事完成して大好評でだったことにホッとした1週間後、今度は低温発酵のビールが完成し、こちらも夕食会という名のお披露目を行った。ちなみに、こちらにはマーブルに対してジェミニの名前が付けられ、通称「ジェミニビール」という名前に決まった。あ、決めたのは私じゃないからね、念のため。
ほんのりと甘さの残るマーブルビールと比べて、ジェミニビールは、低温発酵らしく苦さが前面に出ている感じの味のようだ。ちなみに、私は日々確認するための試飲しかしておらず、お披露目の時には、麦汁を水で薄めたジュースを頂いていた。マーブルビールもそうだったけど、ジェミニビールでも、スガープラントの葉を入れても、入れてない状態のものと全く味の違いは感じられなかったので、これ以降はフロスト領で採れた大麦とフロスト領内で生み出される水のみで作ることになった。
マーブルビールとジェミニビールでは、甘みと苦みの違いがあるようで、こちらでも好みが分かれる結果となってはいるけど、どちらも美味いけど、どっちの方が美味いかと聞かれた場合の意見だそうである。これで頼まれた酒造りは完了。あとは、アレンジなり他のやり方など領民達の好きに作ってもらいますかね。
こうしてビールが完成してから、魔道具の方も着々と完成しているようで、作業開始から完成までの日数分の魔道具を完成させたらしい。それに伴って改良点を探すべく、魔道具の増産も少しずつしているようだ。
また、ミードやビールを入れる壺の付与についてだけど、こればかりはラヒラスでも魔道具で作ることができないらしいので、こちらで作ることになりそうだけど、使い捨てではなく再利用前提で作られるので、こちらについては暇を見て作るだけなので問題なさそう。で、その再利用することに当たり、洗浄用の魔道具も作ることになったようだけど、こちらは大して手間ではないそうだ。
ようやく酒造りもしなくて済むようになり、これからどうしようかとワクワクしながら考えていたところに冷や水を浴びせられたかのような報告が来てしまった。
その報告とは、先日話があった、タンヌ王国との同盟締結における話し合いが行われるのだ、なぜかここフロストの町でだ。先日にトリトン陛下から、ここで話し合いを行うことは聞いていたけど、そのときもそうであったし、今もそう思っていることがある。
何でここで行うんだよ! いろいろとおかしいだろ! タンヌ王国の王都だったり、トリトン帝国の帝都で行うというのなら、話はわかる。でもさ、ここっていわゆる辺境の地だよ? 数ヶ月前まで草木すら碌に生えていなかった不毛の地だったところだよ? そりゃ、頑張って領民達が恥ずかしくないような町にできたと思うよ? だけどさ、首都でも何でもない一都市で、そんな重要な話し合いを普通するかい? 極秘会談じゃないんだぜ? しかも1週間後とか抜かしやがった。
というわけで、その準備をすることになった。料理やもてなしについては、帝都から料理長が来てくれることになったので、彼に任せれば良いと思う。料理長は以前から話を聞いていたらしく、料理長いわく、普段から私達が食べている料理で問題ないとのこと。念のために娘であるアンジェリカさんに聞いてみたところ、料理長と同意見であったため、その通りにする。
一番問題視しているのは、護衛に関する問題であった。何せ、これからも町の規模を拡張する前提で作られているので、柵こそあれども、城壁なんて立派なものは存在しない、というか、防御施設なんてものは全く存在しないのがフロスト領なのである。ただ、冒険者にしろ、領民達にしろ、それについては全く問題ないそうで、基本的には魔物はこちらには近づいてこないらしい。というのも、強力な魔物がこちらに住民として住んでいるので、スタンピードなどの異常事態でない限り、下手な都市よりも安全なんだとか。で、結局私がすることはほとんどないことがわかったので、通常通りマーブル達と過ごした。
そんなこんなで、タンヌ王国の国王一同がこの地にやってくる日を迎えるが、私の行動はいつも通り、マーブル達+コカトリスによる朝起こしで始まり、一通りモフモフを堪能してから朝食を摂る。ただ、いつもとは異なっているのは、朝食の時間であるにもかかわらず、呼んでもいないゲストがいたことだった。
そう、皇帝陛下ご一行である。いざ朝食の準備をするべく、食堂へと足を運ぶと、トリトン陛下、並びにリトン公爵夫妻がすでに座って待っていたのだった。
「おう、フロスト侯爵、ようやく起きてきたか、待ってたぜ。」
「あのう、待ってたぜ、って、私何も聞いてないのですが、、、。」
「済まんな、フロスト侯爵、陛下がどうしても、ここで朝食を摂るって聞かなくてな。」
「いや、公爵も何しれっと、一緒に待っているんですか、、、。しかも、公爵夫人まで、、、。」
「フロスト侯爵、ごめんなさいね。この人達どうしても聞かなくってね。」
「・・・はぁ、わかりましたよ。すぐに準備しますから、お待ちくださいね。」
不意打ちでの朝食催促だったため、高位の貴族様用の料理なんぞ用意しているはずもないし、彼らがそれを望んでいるのであれば、こちらに来たりはしない、ということで、いつも通りの我が家で食べているものを用意することにした。我が家の朝食は、基本的には押し麦ご飯、コカトリスの目玉焼きに、オーク肉をハムとして扱うハムエッグと味噌汁である。マーブル達には自分たちの朝食は少し遅くなるからと謝ると、マーブル達は「気にしないで」、と言わんばかりにスリスリ攻撃を仕掛けてきた。流石は自慢のかわいい猫(こ)達であった。とりあえず完成したので、それらを持っていくと、陛下ご一行は少し驚いていた。
「フロスト公爵、早かったじゃねぇか。ひょっとして、俺らが来るのを予測してたとか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。今皆様方にお出ししているのは、今さっき作ったものばかりですね。ご飯は昨日寝る前に仕込んでおいたものですけどね。」
3人は少し驚きつつも、用意した食事を食べ始めた。
「侯爵、これはうめぇな! こんな短時間でこれほどうめぇもん作れるんだな。」
「いえ、料理長が毎食用意してくださる気合いの入った食事に比べたら、、、。」
「いや、料理長の腕は全く疑っちゃいねぇ。この味の差は素材の差ということも分かっているんだ。」
「素材の差、ですか? でも、帝都ですから良い素材はたくさん手に入るのでは?」
「あん? 何言ってんだ、侯爵? ここは世界でも最貧国と言われ続けているトリトン帝国だぜ? 良い素材なんてほとんど手に入らねぇんだよ。だから料理長の腕でどうにか美味えもんになっているようなもんだ。」
「いや、それ自慢するところじゃないですからね。」
「ああ、済まんな。けど、それもこれまでだぜ。帝都にいる領民達が頑張っているおかげで、以前よりも良い素材が手に入ってきてるんだ。料理長も以前より金も手間もかからずにより美味えモンが作れるって喜んでたぜ。」
「おお、それは何よりですね。」
「フロスト侯爵、このハムエッグは何か特殊な調理法で作られておりますの? 塩胡椒なしでこれほどまでに濃厚な味わいのものは初めてなので。」
「マリー夫人、これはですね、コカトリスの卵を使っております。コカトリス達は毎日卵を届けてくれるので、朝食が非常に贅沢で豪華になっております。」
「コカトリスの卵!?」
「そうです。マリー夫人も一度はご覧になっていらっしゃると思いますよ、ほら、ウサギ広場にいる大きなニワトリに見える鳥がコカトリスです。」
「は? あれがコカトリス!? コカトリスってもっと黒っぽい魔物ではないのか?」
「リトン公爵、普通の種類でしたらそうかもしれませんが、我が領にいる種類はピュア種と呼ばれる種類らしいですよ。」
リトン公爵夫妻は、驚きながらもどこか納得できない表情ではあったが、ハムエッグの味には満足してくれていたようだ。
朝食が終わって、皇帝陛下ご一行が食堂から出るときに、トリトン陛下から予想だにできなかった一言が出てきた。
「あ、フロスト侯爵、タンヌ国王の出迎えに関してだけど、別に必要ないから、いつも通りに過ごしてくれればいいぞ。」
「はい? 他国の国王がいらっしゃるのでしたら、お出迎えはしないと、別に非公式の会合ではないんですよね?」
「ああ、非公式の会合ではないぞ。ただ、今回出迎えしようとしても徒労に終わるだけだからな!」
「徒労に終わる? まさか、陛下、、、。」
「侯爵が何を考えているかはわかった。恐らく侯爵の考えているとおりだと思うぜ。あ、それと、会合に関してだけど、侯爵は参加しなくてもいいからな。嬉しいだろ?」
いや、嬉しいか? と聞かれりゃ、そりゃ、嬉しいですよ。しかし、こんなにいい加減でいいのだろうか?
「あ、そうだ、侯爵、ひょっとしたらお前さんを呼ぶかも知れねぇから、基本的には好きに行動しても構わねぇが、少なくとも、この町から出ねぇでくれると助かる。」
「まさかの外出禁止!? 承知しました。今日は大人しくしてますよ。」
「済まねぇな。そういうことで、じゃあ、後はよろしく。」
そう言って、トリトン陛下は領主館を出た。後はよろしくって、基本私蚊帳の外なんですが、一体全体どうなっているのやら、、、。
再びマーブル達のスリスリ攻撃が始まった。これは、慰めではなく、催促の場合のスリスリである。基本的にわがままな私ではあるが、マーブル達にこうねだられたり、催促されてしまっては、逆らえない。ということで、急いで自分たちの朝食を用意していく。
朝食も終えて、マーブル達の機嫌も良くなり、これからどうしようかという話になったが、どちらにせよ町からは出てはいけない命令が来てしまったので、あまりできることはない。とりあえず日課を済ませてしまおうと考えて、早速行動に出る。
現在私が行っている日課だけど、1つ目は、オーガジャーキーの仕込みである。私達はオーガを最近狩ってはいないけど、狩り採集班の領民達がちょこちょこ持ってくるので、こまめに仕込んでいるのだ。カットしたオーガ肉にタレをつけ込んでいる状態で用意してくれるので、私は干すだけなので、それほど時間はかからなくて済む。
2つ目はミードの制作である。ミード自体は作るのは非常に簡単なので、これも様子を見るだけなので、それほど時間はかからない。敢えて時間がかかる作業といえば、漉した時に出てくる酵母を取り出すことくらいかな、って、酵母だと!? ふむ、酵母か。ようやくアレが作れるか。よし、早速作るとしようか。
用意しますのは、小麦と各種酵母でございます。ちなみに酵母は3種類、ミード、常温発酵ビール、低温発酵ビールをそれぞれ作成したときに発生した酵母です。本来なら、次の発酵用に再利用すべきかもしれないけど、補充しなくても一定の期日で一定の量を作り出す方がいいと判断し、酵母は毎回取り出して、ビール発酵の再利用ではなく、別のことに再利用しようという考えだ。そこで思いついたのがパンの発酵である。
正直に言うと、酵母の量が多すぎて、今回は使い切れない。とはいえ、今後、フカフカな美味しいパンを作り上げるのに酵母は必須である。パンは領民達の主食であるから、酵母の需要は高いし、覚えてしまえば定期的に作成もできるだろう。
今回は詳しくせずにサクサク進めていくが、結果から言うと、我ながら良い出来だと思った。おもしろかったのは、使った酵母によって味が変わるということだ。ミード酵母を入れたパンは、実はそれほど甘くなく、どちらかといえば、甘みよりも、しっとり感が強かった。逆に、甘みが強かったのは、ジェミニビールの酵母で、ジェミニビール自体は苦みが前面に出る感じの味わいなのに、この酵母で作ったパンは甘みが強かったのだ。訳が分からない。一つ言えるのは、味はそれぞれ違えども、今まで食べてきたパンよりもどのパンも美味しかったということだ。
美味くできてしまったので、これに気をよくしてしまい、小麦もまだ余裕があったので、さらに追加で作っていってしまった。今日が何の日であるかは、すっかり忘れてしまった領主であった。
-------------------------
領民A「ん? 何やら領主館から甘い匂いが、、、。」
領民B「お、本当だ。と、いうことは? (ニヤリ」
領民A「そうだな、、、。(ニヤリ」
領民達「「持つべきは料理の才能ある領主だな!!」」
常温発酵のビール、通称「マーブルビール」が無事完成して大好評でだったことにホッとした1週間後、今度は低温発酵のビールが完成し、こちらも夕食会という名のお披露目を行った。ちなみに、こちらにはマーブルに対してジェミニの名前が付けられ、通称「ジェミニビール」という名前に決まった。あ、決めたのは私じゃないからね、念のため。
ほんのりと甘さの残るマーブルビールと比べて、ジェミニビールは、低温発酵らしく苦さが前面に出ている感じの味のようだ。ちなみに、私は日々確認するための試飲しかしておらず、お披露目の時には、麦汁を水で薄めたジュースを頂いていた。マーブルビールもそうだったけど、ジェミニビールでも、スガープラントの葉を入れても、入れてない状態のものと全く味の違いは感じられなかったので、これ以降はフロスト領で採れた大麦とフロスト領内で生み出される水のみで作ることになった。
マーブルビールとジェミニビールでは、甘みと苦みの違いがあるようで、こちらでも好みが分かれる結果となってはいるけど、どちらも美味いけど、どっちの方が美味いかと聞かれた場合の意見だそうである。これで頼まれた酒造りは完了。あとは、アレンジなり他のやり方など領民達の好きに作ってもらいますかね。
こうしてビールが完成してから、魔道具の方も着々と完成しているようで、作業開始から完成までの日数分の魔道具を完成させたらしい。それに伴って改良点を探すべく、魔道具の増産も少しずつしているようだ。
また、ミードやビールを入れる壺の付与についてだけど、こればかりはラヒラスでも魔道具で作ることができないらしいので、こちらで作ることになりそうだけど、使い捨てではなく再利用前提で作られるので、こちらについては暇を見て作るだけなので問題なさそう。で、その再利用することに当たり、洗浄用の魔道具も作ることになったようだけど、こちらは大して手間ではないそうだ。
ようやく酒造りもしなくて済むようになり、これからどうしようかとワクワクしながら考えていたところに冷や水を浴びせられたかのような報告が来てしまった。
その報告とは、先日話があった、タンヌ王国との同盟締結における話し合いが行われるのだ、なぜかここフロストの町でだ。先日にトリトン陛下から、ここで話し合いを行うことは聞いていたけど、そのときもそうであったし、今もそう思っていることがある。
何でここで行うんだよ! いろいろとおかしいだろ! タンヌ王国の王都だったり、トリトン帝国の帝都で行うというのなら、話はわかる。でもさ、ここっていわゆる辺境の地だよ? 数ヶ月前まで草木すら碌に生えていなかった不毛の地だったところだよ? そりゃ、頑張って領民達が恥ずかしくないような町にできたと思うよ? だけどさ、首都でも何でもない一都市で、そんな重要な話し合いを普通するかい? 極秘会談じゃないんだぜ? しかも1週間後とか抜かしやがった。
というわけで、その準備をすることになった。料理やもてなしについては、帝都から料理長が来てくれることになったので、彼に任せれば良いと思う。料理長は以前から話を聞いていたらしく、料理長いわく、普段から私達が食べている料理で問題ないとのこと。念のために娘であるアンジェリカさんに聞いてみたところ、料理長と同意見であったため、その通りにする。
一番問題視しているのは、護衛に関する問題であった。何せ、これからも町の規模を拡張する前提で作られているので、柵こそあれども、城壁なんて立派なものは存在しない、というか、防御施設なんてものは全く存在しないのがフロスト領なのである。ただ、冒険者にしろ、領民達にしろ、それについては全く問題ないそうで、基本的には魔物はこちらには近づいてこないらしい。というのも、強力な魔物がこちらに住民として住んでいるので、スタンピードなどの異常事態でない限り、下手な都市よりも安全なんだとか。で、結局私がすることはほとんどないことがわかったので、通常通りマーブル達と過ごした。
そんなこんなで、タンヌ王国の国王一同がこの地にやってくる日を迎えるが、私の行動はいつも通り、マーブル達+コカトリスによる朝起こしで始まり、一通りモフモフを堪能してから朝食を摂る。ただ、いつもとは異なっているのは、朝食の時間であるにもかかわらず、呼んでもいないゲストがいたことだった。
そう、皇帝陛下ご一行である。いざ朝食の準備をするべく、食堂へと足を運ぶと、トリトン陛下、並びにリトン公爵夫妻がすでに座って待っていたのだった。
「おう、フロスト侯爵、ようやく起きてきたか、待ってたぜ。」
「あのう、待ってたぜ、って、私何も聞いてないのですが、、、。」
「済まんな、フロスト侯爵、陛下がどうしても、ここで朝食を摂るって聞かなくてな。」
「いや、公爵も何しれっと、一緒に待っているんですか、、、。しかも、公爵夫人まで、、、。」
「フロスト侯爵、ごめんなさいね。この人達どうしても聞かなくってね。」
「・・・はぁ、わかりましたよ。すぐに準備しますから、お待ちくださいね。」
不意打ちでの朝食催促だったため、高位の貴族様用の料理なんぞ用意しているはずもないし、彼らがそれを望んでいるのであれば、こちらに来たりはしない、ということで、いつも通りの我が家で食べているものを用意することにした。我が家の朝食は、基本的には押し麦ご飯、コカトリスの目玉焼きに、オーク肉をハムとして扱うハムエッグと味噌汁である。マーブル達には自分たちの朝食は少し遅くなるからと謝ると、マーブル達は「気にしないで」、と言わんばかりにスリスリ攻撃を仕掛けてきた。流石は自慢のかわいい猫(こ)達であった。とりあえず完成したので、それらを持っていくと、陛下ご一行は少し驚いていた。
「フロスト公爵、早かったじゃねぇか。ひょっとして、俺らが来るのを予測してたとか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。今皆様方にお出ししているのは、今さっき作ったものばかりですね。ご飯は昨日寝る前に仕込んでおいたものですけどね。」
3人は少し驚きつつも、用意した食事を食べ始めた。
「侯爵、これはうめぇな! こんな短時間でこれほどうめぇもん作れるんだな。」
「いえ、料理長が毎食用意してくださる気合いの入った食事に比べたら、、、。」
「いや、料理長の腕は全く疑っちゃいねぇ。この味の差は素材の差ということも分かっているんだ。」
「素材の差、ですか? でも、帝都ですから良い素材はたくさん手に入るのでは?」
「あん? 何言ってんだ、侯爵? ここは世界でも最貧国と言われ続けているトリトン帝国だぜ? 良い素材なんてほとんど手に入らねぇんだよ。だから料理長の腕でどうにか美味えもんになっているようなもんだ。」
「いや、それ自慢するところじゃないですからね。」
「ああ、済まんな。けど、それもこれまでだぜ。帝都にいる領民達が頑張っているおかげで、以前よりも良い素材が手に入ってきてるんだ。料理長も以前より金も手間もかからずにより美味えモンが作れるって喜んでたぜ。」
「おお、それは何よりですね。」
「フロスト侯爵、このハムエッグは何か特殊な調理法で作られておりますの? 塩胡椒なしでこれほどまでに濃厚な味わいのものは初めてなので。」
「マリー夫人、これはですね、コカトリスの卵を使っております。コカトリス達は毎日卵を届けてくれるので、朝食が非常に贅沢で豪華になっております。」
「コカトリスの卵!?」
「そうです。マリー夫人も一度はご覧になっていらっしゃると思いますよ、ほら、ウサギ広場にいる大きなニワトリに見える鳥がコカトリスです。」
「は? あれがコカトリス!? コカトリスってもっと黒っぽい魔物ではないのか?」
「リトン公爵、普通の種類でしたらそうかもしれませんが、我が領にいる種類はピュア種と呼ばれる種類らしいですよ。」
リトン公爵夫妻は、驚きながらもどこか納得できない表情ではあったが、ハムエッグの味には満足してくれていたようだ。
朝食が終わって、皇帝陛下ご一行が食堂から出るときに、トリトン陛下から予想だにできなかった一言が出てきた。
「あ、フロスト侯爵、タンヌ国王の出迎えに関してだけど、別に必要ないから、いつも通りに過ごしてくれればいいぞ。」
「はい? 他国の国王がいらっしゃるのでしたら、お出迎えはしないと、別に非公式の会合ではないんですよね?」
「ああ、非公式の会合ではないぞ。ただ、今回出迎えしようとしても徒労に終わるだけだからな!」
「徒労に終わる? まさか、陛下、、、。」
「侯爵が何を考えているかはわかった。恐らく侯爵の考えているとおりだと思うぜ。あ、それと、会合に関してだけど、侯爵は参加しなくてもいいからな。嬉しいだろ?」
いや、嬉しいか? と聞かれりゃ、そりゃ、嬉しいですよ。しかし、こんなにいい加減でいいのだろうか?
「あ、そうだ、侯爵、ひょっとしたらお前さんを呼ぶかも知れねぇから、基本的には好きに行動しても構わねぇが、少なくとも、この町から出ねぇでくれると助かる。」
「まさかの外出禁止!? 承知しました。今日は大人しくしてますよ。」
「済まねぇな。そういうことで、じゃあ、後はよろしく。」
そう言って、トリトン陛下は領主館を出た。後はよろしくって、基本私蚊帳の外なんですが、一体全体どうなっているのやら、、、。
再びマーブル達のスリスリ攻撃が始まった。これは、慰めではなく、催促の場合のスリスリである。基本的にわがままな私ではあるが、マーブル達にこうねだられたり、催促されてしまっては、逆らえない。ということで、急いで自分たちの朝食を用意していく。
朝食も終えて、マーブル達の機嫌も良くなり、これからどうしようかという話になったが、どちらにせよ町からは出てはいけない命令が来てしまったので、あまりできることはない。とりあえず日課を済ませてしまおうと考えて、早速行動に出る。
現在私が行っている日課だけど、1つ目は、オーガジャーキーの仕込みである。私達はオーガを最近狩ってはいないけど、狩り採集班の領民達がちょこちょこ持ってくるので、こまめに仕込んでいるのだ。カットしたオーガ肉にタレをつけ込んでいる状態で用意してくれるので、私は干すだけなので、それほど時間はかからなくて済む。
2つ目はミードの制作である。ミード自体は作るのは非常に簡単なので、これも様子を見るだけなので、それほど時間はかからない。敢えて時間がかかる作業といえば、漉した時に出てくる酵母を取り出すことくらいかな、って、酵母だと!? ふむ、酵母か。ようやくアレが作れるか。よし、早速作るとしようか。
用意しますのは、小麦と各種酵母でございます。ちなみに酵母は3種類、ミード、常温発酵ビール、低温発酵ビールをそれぞれ作成したときに発生した酵母です。本来なら、次の発酵用に再利用すべきかもしれないけど、補充しなくても一定の期日で一定の量を作り出す方がいいと判断し、酵母は毎回取り出して、ビール発酵の再利用ではなく、別のことに再利用しようという考えだ。そこで思いついたのがパンの発酵である。
正直に言うと、酵母の量が多すぎて、今回は使い切れない。とはいえ、今後、フカフカな美味しいパンを作り上げるのに酵母は必須である。パンは領民達の主食であるから、酵母の需要は高いし、覚えてしまえば定期的に作成もできるだろう。
今回は詳しくせずにサクサク進めていくが、結果から言うと、我ながら良い出来だと思った。おもしろかったのは、使った酵母によって味が変わるということだ。ミード酵母を入れたパンは、実はそれほど甘くなく、どちらかといえば、甘みよりも、しっとり感が強かった。逆に、甘みが強かったのは、ジェミニビールの酵母で、ジェミニビール自体は苦みが前面に出る感じの味わいなのに、この酵母で作ったパンは甘みが強かったのだ。訳が分からない。一つ言えるのは、味はそれぞれ違えども、今まで食べてきたパンよりもどのパンも美味しかったということだ。
美味くできてしまったので、これに気をよくしてしまい、小麦もまだ余裕があったので、さらに追加で作っていってしまった。今日が何の日であるかは、すっかり忘れてしまった領主であった。
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領民A「ん? 何やら領主館から甘い匂いが、、、。」
領民B「お、本当だ。と、いうことは? (ニヤリ」
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