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第129話 さてと、絆を深めますよ。
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前回のあらすじ:金属のプロゲットしたぜ。
急遽決まった歓迎会なので、準備するこちらはてんてこ舞いである。私もそうだが、マーブル達も一生懸命手伝いをしてくれていた。もちろん戦姫の3人も頑張って手伝ってくれてかなり助かった。
案内されていた洞穴族のみんなは思った以上に歓迎されており、当人達が困惑するほどだったけど、子供達はそんなことは関係なくしっかりと打ち解けることができたようで、一安心である。
新たな住人というか、新たな種族の住民が加わった=歓迎会がある、という認識が我が領の領民達にはあるらしく、各自の仕事や訓練が終わった領民達が次々と手伝いに加わったり、狩りや採集で得た戦利品をこちらに提供したりしてくれた。
特に戦姫の3人が手伝いに加勢しているので、野郎どもは大張り切りで手伝いに参加していた。
・・・こいつら、私が単独で頑張っていても、誰も手伝おうとはしないくせに、戦姫が手伝っていると真っ先に手伝おうとしやがる、、、。まあ、気持ちはわかるけど、ねえ、、、。
ちなみに、マーブル達のことは手伝わないのか、というと、手伝わない、というか手伝えない、という方が正しい。マーブルは火魔法による火力の調整や風魔法による空気の流れの調節を担当している。これだけの魔力をもつ領民は我が領にはいない。ジェミニはカット担当であるので、手伝おうと思えば手伝えるけど、速度では誰も付いてこられないので、こちらも無理。ライムに至っては、汚れをキレイにしたりすること担当なので、それこそ私でも無理。そんなわけで、マーブル達への手伝いは現時点ではほぼ不可能ということなのだ。
こうして準備している最中に、奴らが来た、そう、我らがトリトン皇帝陛下である。今回はほぼレギュラーとなっているリトン公爵夫妻と料理長に加えて、今日帝都の仕事に於いて各部署で最も活躍した人達を引き連れての参上である。ちなみに、今回は料理長の他に数名、料理担当の者が一緒に来たようだ。で、さも当然のようにトリトン陛下が調理中の私の所にやって来た。まあ、今回はちょうど良かったといえば良かったのだろうか。
「よう、フロスト侯爵、今日も頼むぜ! って、今日はいやに豪華だな。一体何があったんだ?」
「はい、今日は新たに住人が増えたので、その歓迎会ということで。」
「何? 新たな住人だと!? 歓迎会をするってことは、人とか獣人とかではないんだよな?」
「そうですね。今回、新たに加わってくれたのは、ノーム族とドワーフ族とジャイアント族の方達、計12名ですね。それぞれ一々言うのが面倒なので、私は洞穴族と呼ぶことにして、皆さんも承知しております。」
「ほう、洞穴族ね、いいじゃねえか! ついに帝国にもノームとドワーフとジャイアントが来たのか!!」
「それは喜ばしいことですね。侯爵よ、帝都にも彼らを派遣するのは大丈夫か?」
「リトン公爵、今は正直無理ですね。というのも、彼らはそれぞれ数名ずつしかおりませんし、すぐに仕事に取りかかれるのもそれぞれ1人か2人がいいところですからね。」
「そうか。じゃあ、その代わりに何名か、弟子としてここに住んでもらうことは可能か?」
「恐らく可能だとは思いますけど、今すぐには無理でしょうね。何せさっき来たばかりですし、もう少し生活環境が落ち着いてからの方がよろしいかと。」
「ああ、それはわかっているから安心してくれ。こちらとしても、派遣する人員について調整が必要だから、どちらにせよもう少し先になるだろうから。」
「ところで、フロスト侯爵、洞穴族は、それぞれどんなことが得意なんだ?」
「そうですね、ノーム族は鉱石の鑑定と精錬に優れているようです。ドワーフは金属の加工ですね。ジャイアント族については、実際の採掘や、巨木の加工について優れているようです。」
「なるほどな。ジャイアント族っつってもよ、あいつら普通のジャイアント族より小柄だけど、その辺はどうなんだ?」
「彼らは正式にはケイブジャイアントという種族らしいです。他のジャイアント族と比べると小柄な分、器用でいろいろなことができるそうです。もちろん力もかなりあるようですね。彼らが来てくれたので、我が領でも金属の加工技術が進むと思われます。」
「おう、それは楽しみだな! 良いものができたら、こっちにも回してくれよ!!」
幸いにして、トリトン陛下もリトン公爵も好意的なようだ。まあ、反対されても無視するけどね。おっと、そんなことよりも、料理を完成させないと。夕食の準備に戻ると、一緒に来ていたであろう料理長とその部下が話してきた。
「フロスト侯爵、私らも何か手伝わせてくれ。折角来たのに何も覚えずに戻っちまったら、他の連中に何を言われるかわからねえ。」
「それは助かりますね。では、こちらの肉を腸詰めにする作業をお願いします。」
「お? 腸詰め? どうやるのか最初から教えて欲しいんだが、、、。」
「それは第一陣ですので、今は我慢してください。後で第二陣で作りますので、そのときに覚えてくれたらいいと思います。」
「覚えられるんなら、どっちでも構わねぇぜ。よし、俺らに任せてくれよ!」
この国の料理長がこちらの料理に理解のある人物で助かる。他の国だとこうはいかないんだろうなあ。まあ、ここはトリトン帝国という最貧国という理由もあるだろう。正直、料理長の腕も他の国の料理長と比べると数段劣るかも知れない。とはいえ、料理長は料理長である。しっかりと覚えて、これよりもいい腸詰めを作り上げることを期待したい。
そんなこんなで、ようやく料理の方が完成した。宴会場の支度をしていたアンジェリカさん達がこちらにやってきて、完成した料理を次々と運んでいく。もちろん、いいところを見せようと野郎どもが張り切って頼んでもいないものまで運び出そうとする始末。余計なことすんじゃねぇよ、、、。
そういえば、トリトン陛下はこの領内ではトリンという名前の一領民となっているはずなのだが、いつの間にか領民達には我が国の皇帝陛下だということがバレていたらしい。バレてしまったなら仕方ないということで、もうすでにトリトン皇帝として定着しているようだ。ってか、領民達も一向に謙らずに普通に接しているが、そこはトリトン皇帝である。全く気にしていないどころか、逆にそれが気に入ったようである。
また、リトン公爵に聞いたのだけど、帝都でも、優良者が夕食に招待されるようになったことで、宮殿内で働いている者達のやる気もかなり高くなっているらしく、もの凄い速度で仕事が片付いているらしい。より効果を高めようと、今までいがみ合っていた部署が逆に手を組むようにもなり、管理もかなり楽になっているそうだ。その城内の空気に触発されたのかわからないけど、城下も活気に満ちあふれるようになったそうだ。美味い食い物の力、恐るべし、、、。
食事の準備も終えて、会場となっている通称ウサギ広場へ料理も運び終え、フロスト領に今いる全員が集まっていた。真ん中に大量の料理が置かれ、それを囲むように座ってもらう。一応帝都から来た人達や領民の各種族毎に分けてはいるけど、形は円を描くような形の配置となっている。全員が揃ったところで、改めて挨拶することになったので、嫌だけどしなければならない。
「みんな、集まったようだね。いきなりこのような形で夕食になってしまったけど、それは勘弁して欲しい。というのも、今日、新たに領民に加わってくれたみんなを歓迎しないわけにはいかないからだ。それでは、改めて紹介しよう。」
今回私の隣に座ってもらっていた、ロックさん、ガンドさん、ボーラさんとそれぞれの奥様達に一度立ってもらう。
「左から順番に、ノーム族のロックさんとその奥方、ドワーフ族のガンドさんとその奥方、ジャイアント族のボーラさんとその奥方達だ。皆さんには申し訳ないけど、改めて彼らの種族をここでは、まとめて洞穴族と呼ばせてもらう。ここにいる洞穴族のみんなは金属の扱いに長けている。我が領民のみんなも学ぶことはたくさんあるだろうし、洞穴族のみんなも、我が領民から学ぶことは多いと思う。お互いに学び合って、我が領、いや、みんなの生活をよりよいものにしてほしい。」
一旦立ってもらった洞穴族の人達に座ってもらってから、話を続けた。
「あまり長く話したくはないので、この辺りで止めておくけど、一緒に食事をしてお互いに理解し合って絆を深めてもらいたい。また、帝都からいらしたみんなも、食事を楽しんで、できたら我が領民達との絆を深め合って欲しいと思う。」
そんなことを話していると、トリトン陛下から文句がきた。
「おい、フロスト侯爵! 俺は腹が減ってしょうがない! いいからメシを食わせろメシを!!」
陛下の発言にみんなも大爆笑する。まあ、気持ちはわかるので、やれやれとは思いつつも食べる前のいつもの音頭で夕食を始めるとしますかね。
「では、夕食の糧となってくれた、命に感謝をして、いただきます!!」
「「「「いただきます!!!」」」」
私の音頭に応えるように領民のみんなも一緒に「いただきます」の言葉を言う。この言葉は陛下も一緒に言っている。
最初は指定された場所でのスタートだけど、食事が始まると、みんな思い思いの場所へと移動して食べている。種族も身分も関係なく固まって食べている様子を見ると、自分のやってきたことが正しかったという思いがこみ上げてくる。そんな思いを察したのか、アンジェリカさんがこちらに話しかけてきた。ちなみにマーブル達はウサギやコカトリス達のところへと移動して一緒に食べたりしていた。
「アイスさん、いつも思うのですが、ここでの夕食会って、こうして身分や種族を問わずに楽しんでおり、羨ましい限りですわ。」
「そうですね、基本はフェラー族長とカムドさんにほぼ丸投げしているとはいえ、基本的なことは私が決めたりしているんですが、こうしてみんな仲良く暮らしているのを見ると、自分がやってきたことが正しかったって嬉しく思いますね。とはいえ、今は領民の数が少ないからできることなんですけど、これがいつまでできるかと思うと、どうなんでしょうかね、、、。」
「確かにその通りかもしれませんが、今はこの時を楽しんだ方がよろしいのではなくて?」
「確かにそうかも知れませんね。今のこのときを楽しみませんとね。」
こんな感じで夕食会は進んでいった。洞穴族のみんなも、領民達としっかり打ち解けたようで、力比べなんかもしていた。
その力比べだけど、流石にジャイアント族は強かった。領民達や帝都から来た力自慢を次々に打ち倒しており無双状態だったが、それに待ったをかけたものがいた。そう、力といえばこの人、アインである。
今まで敵なしだったジャイアント族もアインが参戦するとあっさりと敗れてしまった。それではと、アイン対複数という勝負となったけど、結局アインには誰も勝てなかったようだ。ってか、ジャイアントより強いアインって一体何者? そう思っていたのは私だけではなかった。
「おい、侯爵よ、アインってよ、本当に人間か? ジャイアント族すら相手になってなかったんだが。」
「人間ですよ、多分、、、。いやあ、アインのパワーは凄いとは思っていたのですが、まさかこれほどとは思いませんでしたよ、私も正直。」
と、こんな感じで楽しく夕食会は過ぎ、無事終了した。
片付けについては、ライムだけでなくオニキスもいるので、それほど時間はかからなかった。というか、余ることを前提に用意していた料理がキレイさっぱり残っていないというのはどういうことなんだろうか。かなりあったストックが半分以下になるほどだった、、、。いや、まあ、後日調達すれば良いのだけどね。それだけ楽しんでくれたと思えば問題ないか。終わりの方では、領民達ばかりではなく帝都から来ていた人達とも仲良くなっていたみたいだし。
他領から来た冒険者なんか、「もうラビット系とは戦えない」とまで言わせるほど仲良くなったみたいだ。ゴブリンについても同様の意見が出たみたいだけど、それについては「我らと他のゴブリンは別物と考えてくれればいいから、今後も遠慮なく倒してくれて構わない」とかハインツさんが言ってたな。確かに、ここのゴブリンさん達は別のゴブリンに襲われていたりしてたからねえ。コカトリスについては、そもそも適わないから関係ないそうだ。
夕食会も大成功に終わって、一日が終わり、いつものテシポンで気分良く目覚めていたところに、ドワーフ族のガンドさんが私の部屋を訪れていた。
「ご領主様、昨日はあれほどの歓迎会ありがとう。ここまで歓迎されるとは思わなかった。」
「いえいえ、お気になさらず。ところで、こんな朝早くからどうしました?」
「うむ。こんなに早く来たのは、早くお礼が言いたかったのと、後は要望かな。」
「要望ですか? 何か住まいとかに不満点がありました?」
「いや、住居についてはここまで立派だとは思わなかったので、満足どころではない。要望というのは、夕食会で気になったことがあってな、、、。」
「気になったこと?」
「ああ、料理は今まで食べたことがないくらい、美味いものだったのだが、そうなると我らはどうしても欲しいものがあるのだ、、、。」
なるほど、食事に関しては満足してくれたようだね。となると、何となく察しはついたかな。しかも要望出しているのがドワーフだし、、、。何か言いづらそうにしているけど、多分アレだな。
「まあ、話しぶりから何となく察しは付きました。つまりは酒が物足りなかったのですね?」
「そうだ! 料理に比べると、ここの領地は酒が物足りなかったのだ!! 特に、最後の方に食べた、オーガの干し肉なんかを食べた後、体が酒を求めてどうしようもなかったのだ!!」
「なるほど。ただ、申し訳ないのですが、酒については、我が領では一切作ってないんですよ。」
「な、なんだと!? この領地では作ってないじゃと?」
「ええ、そもそも私が酒を飲まないので、作り方も思い浮かばないんですよね、1つを除いて。」
「ご領主!! 酒を飲まないとは、人生を思いっきり損しておるぞ!! ん? 1つを除いてと? 作れるには作れるのか!?」
「一応作り方は知っている程度ですので、実際に作ってみないことには、、、。」
「ご領主!! 是非とも、是非とも頼む!! ワシらの為に、是非作ってくださらんか?」
「・・・わかりました。作ってみましょうかね。ただ、どのくらいの期間で制作できるかはわかりませんので、それは承知しておいてくださいね。あと、どうしても欲しければ、しばらくは頑張って仕事で稼いでギルドから購入してください。お願いしたい仕事は山ほどあるので。」
「おお!! わかったぞ! バリバリ仕事するから、酒の件頼んだぞ!!」
そう言うと、ガンドさんは嬉しそうに部屋を出た。
さてと、いろいろ準備をしないとな、、、。
---------------------------------------
トリトン陛下「何やら侯爵が作りそうだぜ。」
リトン宰相「おお、それは興味ありますな。(一体どこからかぎつけてくるんだろう、、、。)」
急遽決まった歓迎会なので、準備するこちらはてんてこ舞いである。私もそうだが、マーブル達も一生懸命手伝いをしてくれていた。もちろん戦姫の3人も頑張って手伝ってくれてかなり助かった。
案内されていた洞穴族のみんなは思った以上に歓迎されており、当人達が困惑するほどだったけど、子供達はそんなことは関係なくしっかりと打ち解けることができたようで、一安心である。
新たな住人というか、新たな種族の住民が加わった=歓迎会がある、という認識が我が領の領民達にはあるらしく、各自の仕事や訓練が終わった領民達が次々と手伝いに加わったり、狩りや採集で得た戦利品をこちらに提供したりしてくれた。
特に戦姫の3人が手伝いに加勢しているので、野郎どもは大張り切りで手伝いに参加していた。
・・・こいつら、私が単独で頑張っていても、誰も手伝おうとはしないくせに、戦姫が手伝っていると真っ先に手伝おうとしやがる、、、。まあ、気持ちはわかるけど、ねえ、、、。
ちなみに、マーブル達のことは手伝わないのか、というと、手伝わない、というか手伝えない、という方が正しい。マーブルは火魔法による火力の調整や風魔法による空気の流れの調節を担当している。これだけの魔力をもつ領民は我が領にはいない。ジェミニはカット担当であるので、手伝おうと思えば手伝えるけど、速度では誰も付いてこられないので、こちらも無理。ライムに至っては、汚れをキレイにしたりすること担当なので、それこそ私でも無理。そんなわけで、マーブル達への手伝いは現時点ではほぼ不可能ということなのだ。
こうして準備している最中に、奴らが来た、そう、我らがトリトン皇帝陛下である。今回はほぼレギュラーとなっているリトン公爵夫妻と料理長に加えて、今日帝都の仕事に於いて各部署で最も活躍した人達を引き連れての参上である。ちなみに、今回は料理長の他に数名、料理担当の者が一緒に来たようだ。で、さも当然のようにトリトン陛下が調理中の私の所にやって来た。まあ、今回はちょうど良かったといえば良かったのだろうか。
「よう、フロスト侯爵、今日も頼むぜ! って、今日はいやに豪華だな。一体何があったんだ?」
「はい、今日は新たに住人が増えたので、その歓迎会ということで。」
「何? 新たな住人だと!? 歓迎会をするってことは、人とか獣人とかではないんだよな?」
「そうですね。今回、新たに加わってくれたのは、ノーム族とドワーフ族とジャイアント族の方達、計12名ですね。それぞれ一々言うのが面倒なので、私は洞穴族と呼ぶことにして、皆さんも承知しております。」
「ほう、洞穴族ね、いいじゃねえか! ついに帝国にもノームとドワーフとジャイアントが来たのか!!」
「それは喜ばしいことですね。侯爵よ、帝都にも彼らを派遣するのは大丈夫か?」
「リトン公爵、今は正直無理ですね。というのも、彼らはそれぞれ数名ずつしかおりませんし、すぐに仕事に取りかかれるのもそれぞれ1人か2人がいいところですからね。」
「そうか。じゃあ、その代わりに何名か、弟子としてここに住んでもらうことは可能か?」
「恐らく可能だとは思いますけど、今すぐには無理でしょうね。何せさっき来たばかりですし、もう少し生活環境が落ち着いてからの方がよろしいかと。」
「ああ、それはわかっているから安心してくれ。こちらとしても、派遣する人員について調整が必要だから、どちらにせよもう少し先になるだろうから。」
「ところで、フロスト侯爵、洞穴族は、それぞれどんなことが得意なんだ?」
「そうですね、ノーム族は鉱石の鑑定と精錬に優れているようです。ドワーフは金属の加工ですね。ジャイアント族については、実際の採掘や、巨木の加工について優れているようです。」
「なるほどな。ジャイアント族っつってもよ、あいつら普通のジャイアント族より小柄だけど、その辺はどうなんだ?」
「彼らは正式にはケイブジャイアントという種族らしいです。他のジャイアント族と比べると小柄な分、器用でいろいろなことができるそうです。もちろん力もかなりあるようですね。彼らが来てくれたので、我が領でも金属の加工技術が進むと思われます。」
「おう、それは楽しみだな! 良いものができたら、こっちにも回してくれよ!!」
幸いにして、トリトン陛下もリトン公爵も好意的なようだ。まあ、反対されても無視するけどね。おっと、そんなことよりも、料理を完成させないと。夕食の準備に戻ると、一緒に来ていたであろう料理長とその部下が話してきた。
「フロスト侯爵、私らも何か手伝わせてくれ。折角来たのに何も覚えずに戻っちまったら、他の連中に何を言われるかわからねえ。」
「それは助かりますね。では、こちらの肉を腸詰めにする作業をお願いします。」
「お? 腸詰め? どうやるのか最初から教えて欲しいんだが、、、。」
「それは第一陣ですので、今は我慢してください。後で第二陣で作りますので、そのときに覚えてくれたらいいと思います。」
「覚えられるんなら、どっちでも構わねぇぜ。よし、俺らに任せてくれよ!」
この国の料理長がこちらの料理に理解のある人物で助かる。他の国だとこうはいかないんだろうなあ。まあ、ここはトリトン帝国という最貧国という理由もあるだろう。正直、料理長の腕も他の国の料理長と比べると数段劣るかも知れない。とはいえ、料理長は料理長である。しっかりと覚えて、これよりもいい腸詰めを作り上げることを期待したい。
そんなこんなで、ようやく料理の方が完成した。宴会場の支度をしていたアンジェリカさん達がこちらにやってきて、完成した料理を次々と運んでいく。もちろん、いいところを見せようと野郎どもが張り切って頼んでもいないものまで運び出そうとする始末。余計なことすんじゃねぇよ、、、。
そういえば、トリトン陛下はこの領内ではトリンという名前の一領民となっているはずなのだが、いつの間にか領民達には我が国の皇帝陛下だということがバレていたらしい。バレてしまったなら仕方ないということで、もうすでにトリトン皇帝として定着しているようだ。ってか、領民達も一向に謙らずに普通に接しているが、そこはトリトン皇帝である。全く気にしていないどころか、逆にそれが気に入ったようである。
また、リトン公爵に聞いたのだけど、帝都でも、優良者が夕食に招待されるようになったことで、宮殿内で働いている者達のやる気もかなり高くなっているらしく、もの凄い速度で仕事が片付いているらしい。より効果を高めようと、今までいがみ合っていた部署が逆に手を組むようにもなり、管理もかなり楽になっているそうだ。その城内の空気に触発されたのかわからないけど、城下も活気に満ちあふれるようになったそうだ。美味い食い物の力、恐るべし、、、。
食事の準備も終えて、会場となっている通称ウサギ広場へ料理も運び終え、フロスト領に今いる全員が集まっていた。真ん中に大量の料理が置かれ、それを囲むように座ってもらう。一応帝都から来た人達や領民の各種族毎に分けてはいるけど、形は円を描くような形の配置となっている。全員が揃ったところで、改めて挨拶することになったので、嫌だけどしなければならない。
「みんな、集まったようだね。いきなりこのような形で夕食になってしまったけど、それは勘弁して欲しい。というのも、今日、新たに領民に加わってくれたみんなを歓迎しないわけにはいかないからだ。それでは、改めて紹介しよう。」
今回私の隣に座ってもらっていた、ロックさん、ガンドさん、ボーラさんとそれぞれの奥様達に一度立ってもらう。
「左から順番に、ノーム族のロックさんとその奥方、ドワーフ族のガンドさんとその奥方、ジャイアント族のボーラさんとその奥方達だ。皆さんには申し訳ないけど、改めて彼らの種族をここでは、まとめて洞穴族と呼ばせてもらう。ここにいる洞穴族のみんなは金属の扱いに長けている。我が領民のみんなも学ぶことはたくさんあるだろうし、洞穴族のみんなも、我が領民から学ぶことは多いと思う。お互いに学び合って、我が領、いや、みんなの生活をよりよいものにしてほしい。」
一旦立ってもらった洞穴族の人達に座ってもらってから、話を続けた。
「あまり長く話したくはないので、この辺りで止めておくけど、一緒に食事をしてお互いに理解し合って絆を深めてもらいたい。また、帝都からいらしたみんなも、食事を楽しんで、できたら我が領民達との絆を深め合って欲しいと思う。」
そんなことを話していると、トリトン陛下から文句がきた。
「おい、フロスト侯爵! 俺は腹が減ってしょうがない! いいからメシを食わせろメシを!!」
陛下の発言にみんなも大爆笑する。まあ、気持ちはわかるので、やれやれとは思いつつも食べる前のいつもの音頭で夕食を始めるとしますかね。
「では、夕食の糧となってくれた、命に感謝をして、いただきます!!」
「「「「いただきます!!!」」」」
私の音頭に応えるように領民のみんなも一緒に「いただきます」の言葉を言う。この言葉は陛下も一緒に言っている。
最初は指定された場所でのスタートだけど、食事が始まると、みんな思い思いの場所へと移動して食べている。種族も身分も関係なく固まって食べている様子を見ると、自分のやってきたことが正しかったという思いがこみ上げてくる。そんな思いを察したのか、アンジェリカさんがこちらに話しかけてきた。ちなみにマーブル達はウサギやコカトリス達のところへと移動して一緒に食べたりしていた。
「アイスさん、いつも思うのですが、ここでの夕食会って、こうして身分や種族を問わずに楽しんでおり、羨ましい限りですわ。」
「そうですね、基本はフェラー族長とカムドさんにほぼ丸投げしているとはいえ、基本的なことは私が決めたりしているんですが、こうしてみんな仲良く暮らしているのを見ると、自分がやってきたことが正しかったって嬉しく思いますね。とはいえ、今は領民の数が少ないからできることなんですけど、これがいつまでできるかと思うと、どうなんでしょうかね、、、。」
「確かにその通りかもしれませんが、今はこの時を楽しんだ方がよろしいのではなくて?」
「確かにそうかも知れませんね。今のこのときを楽しみませんとね。」
こんな感じで夕食会は進んでいった。洞穴族のみんなも、領民達としっかり打ち解けたようで、力比べなんかもしていた。
その力比べだけど、流石にジャイアント族は強かった。領民達や帝都から来た力自慢を次々に打ち倒しており無双状態だったが、それに待ったをかけたものがいた。そう、力といえばこの人、アインである。
今まで敵なしだったジャイアント族もアインが参戦するとあっさりと敗れてしまった。それではと、アイン対複数という勝負となったけど、結局アインには誰も勝てなかったようだ。ってか、ジャイアントより強いアインって一体何者? そう思っていたのは私だけではなかった。
「おい、侯爵よ、アインってよ、本当に人間か? ジャイアント族すら相手になってなかったんだが。」
「人間ですよ、多分、、、。いやあ、アインのパワーは凄いとは思っていたのですが、まさかこれほどとは思いませんでしたよ、私も正直。」
と、こんな感じで楽しく夕食会は過ぎ、無事終了した。
片付けについては、ライムだけでなくオニキスもいるので、それほど時間はかからなかった。というか、余ることを前提に用意していた料理がキレイさっぱり残っていないというのはどういうことなんだろうか。かなりあったストックが半分以下になるほどだった、、、。いや、まあ、後日調達すれば良いのだけどね。それだけ楽しんでくれたと思えば問題ないか。終わりの方では、領民達ばかりではなく帝都から来ていた人達とも仲良くなっていたみたいだし。
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夕食会も大成功に終わって、一日が終わり、いつものテシポンで気分良く目覚めていたところに、ドワーフ族のガンドさんが私の部屋を訪れていた。
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「いえいえ、お気になさらず。ところで、こんな朝早くからどうしました?」
「うむ。こんなに早く来たのは、早くお礼が言いたかったのと、後は要望かな。」
「要望ですか? 何か住まいとかに不満点がありました?」
「いや、住居についてはここまで立派だとは思わなかったので、満足どころではない。要望というのは、夕食会で気になったことがあってな、、、。」
「気になったこと?」
「ああ、料理は今まで食べたことがないくらい、美味いものだったのだが、そうなると我らはどうしても欲しいものがあるのだ、、、。」
なるほど、食事に関しては満足してくれたようだね。となると、何となく察しはついたかな。しかも要望出しているのがドワーフだし、、、。何か言いづらそうにしているけど、多分アレだな。
「まあ、話しぶりから何となく察しは付きました。つまりは酒が物足りなかったのですね?」
「そうだ! 料理に比べると、ここの領地は酒が物足りなかったのだ!! 特に、最後の方に食べた、オーガの干し肉なんかを食べた後、体が酒を求めてどうしようもなかったのだ!!」
「なるほど。ただ、申し訳ないのですが、酒については、我が領では一切作ってないんですよ。」
「な、なんだと!? この領地では作ってないじゃと?」
「ええ、そもそも私が酒を飲まないので、作り方も思い浮かばないんですよね、1つを除いて。」
「ご領主!! 酒を飲まないとは、人生を思いっきり損しておるぞ!! ん? 1つを除いてと? 作れるには作れるのか!?」
「一応作り方は知っている程度ですので、実際に作ってみないことには、、、。」
「ご領主!! 是非とも、是非とも頼む!! ワシらの為に、是非作ってくださらんか?」
「・・・わかりました。作ってみましょうかね。ただ、どのくらいの期間で制作できるかはわかりませんので、それは承知しておいてくださいね。あと、どうしても欲しければ、しばらくは頑張って仕事で稼いでギルドから購入してください。お願いしたい仕事は山ほどあるので。」
「おお!! わかったぞ! バリバリ仕事するから、酒の件頼んだぞ!!」
そう言うと、ガンドさんは嬉しそうに部屋を出た。
さてと、いろいろ準備をしないとな、、、。
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トリトン陛下「何やら侯爵が作りそうだぜ。」
リトン宰相「おお、それは興味ありますな。(一体どこからかぎつけてくるんだろう、、、。)」
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ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン
都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。
今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上
レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。
危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。
そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。
妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……
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