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第17話 さてと、修行の成果を確認しますか。
しおりを挟む意図せずゴブリンエンペラー率いるゴブリンの集団を倒してから数日後、特にこれといったこともなく狩りの日々が続いた。アッシュ達はあの後も慢心することなく着実に魔物を狩っていった。しばらくはゴブリンで連携や剣術などを磨いて訓練を重ねていったが、ついにオークまで倒すことができるようになっていた。最初こそは6人で連携してようやく1体といった感じだったが、次第に2体3体と一気に倒せるようになっていた。
ゴブリンはともかく、オークは素材になるので、解体技術を彼らに教えた。アッシュは意外にも解体の作業を上手くこなしており、6人の中でもダントツに効率よく解体できていた。とはいえ他の5人も決して悪くない内容だった、とジェミニが言っていた。アッシュ達は「これで素材等を有効活用できる。」と喜んでいた。
訓練の最終日、いつも通り森で狩りをしていたら、彼らで倒せそうな大物が見つかったので、それを卒業試験として彼らに戦ってもらうことにした。それはオーガだ。運良く1体だけで行動していたのでこれを生かさない手はない。
「アッシュよ、ここから200メートル先にオーガがいる。もちろんオークとは比べものにならないくらい強い。しかし、お前達全員で上手く連携できれば倒せない相手ではない。どうだ、やってみるか?」
「はい、兄上。全員で上手く連携して倒して見せます!!」
「よし、その意気だ。これを卒業試験とするから頑張れよ。」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
アッシュだけでなく他の5人からもいい返事が返ってきた。油断しなければ大丈夫だが、万が一ということもある。あとは彼らの攻撃がオーガに通用するかどうかもあるが、そこは上手く考えて欲しいところだ。時間はタップリあるからじっくりと挑んで欲しい。あ、そうだ、オーガに逃げられないように氷の結界を張っておきますか。
100メートルくらいに近づくと、オーガがこちらに気付き、咆哮した後こちらに迫ってきた。アッシュ達の表情を見ると、特に気負いもなく平常心で臨んでいるのがわかる。こちらはオーガに逃げられないように水術で氷の結界を張った。準備は万端、卒業試験開始だ。とはいえ、保険はかけておくに越したことはないので念のためライムに指示を出しておく。
「ライム隊員、大丈夫だとは思いますが、オーガの一撃は脅威です。万が一があるとまずいので、彼らが致命傷になり得る攻撃を受けそうになったらガードしてやってください。それ以外の時は美味しそうな草があったらのんびりと食べていて下さい。」
「わかったー。」
アッシュ達はオーガに集中している上に、迎え撃つために向こうへと移動して距離も離れているのでライムとは普通に会話できる状態だ。ライムが話せることを知っている人間は少ない方がいい。知られるといろいろと面倒だからね。
ん? この気配はオーガか? なるほど、先程の咆哮で呼ばれた感じかな。数は、と、5体か。丁度いいかな。マーブルはもちろん、ジェミニも気付いているな。よし、あの5体は私達が頂きましょうか。2人は私がそろそろ指示を出しそうなことを察知したのか命令待ちの状態で控えている。流石は我が猫達。その期待には応えないとね。
「さて、増援かどうかはわかりませんが、オーガが5体こちらに近づいてきております。もちろん私達で倒します。幸いなことに5体一塊で行動していますので、正面から普通に倒していきましょう。マーブル隊員は左側2体を、ジェミニ隊員は右側2体を、私は正面の1体です。今回はライム隊員が別任務中なので、倒したら一旦収納して後ほど血抜きや洗浄を頼みたいと思います。」
「ミャッ!」
「了解であります!!」
私達3人だけで戦うのは久しぶりかな。これはこれでいいけど、やはり今はライムがいないと物足りないのは否めない。
「ライムがいないと少し違和感があるですね。」
「ミャウ。」
「うん、2人も同じように思っていたか。まあ、それはさておき、任務開始。」
マーブルとジェミニはあっという間に2体ずつ仕留めていた。私はというと、投げ技などで華麗に仕留めたかったのだが、いかんせん体格差がありすぎて無理でした。だって、こっちは170センチあるかどうかなのに、向こうは3メートル超えだよ。裏膝狙って押し蹴りして体勢を崩してから頭部への攻撃で仕留めることには成功したが、投擲で頑張ってもよかったかな、とも思った。とりあえず仕留めた獲物は空間収納に入れて6人が戦っているところに戻った。
オーガ対6人の戦いはまだ続いていた。オーガは全身に傷を負ってはいるが、どれも浅い。また、所々に焦げている部分がある。アッシュはアッシュで攻撃を当てているんだな。
しばらく戦闘を観戦していたが、アッシュは落ち着いて魔力を操作して火魔法をオーガに当てていた。5人はそれぞれアッシュを護るようにしては隙をみてオーガに攻撃をくわえていた。オーガの注意を上手く分散させているな。攻撃も牽制程度の攻撃ならともかく、致命傷となりそうな攻撃は上手く躱している。いい意味で言えば長期戦、悪い意味で言えばグダグダな感じだ。とはいえ、アッシュ達にとってはかなり格上の相手となるので、かなり健闘しているといえた。
互いに有効打が決められない中、アッシュは先程よりも大きい魔力でオーガの右膝の辺りに火槍をぶつける。オーガは激痛で叫び出すと、チャンスと見たのか5人はその部分に次々と攻撃を仕掛ける。こちらも先程までとは違い、気合の入った攻撃だった。攻撃は成功し、オーガが倒れる。オーガが倒れたところにアッシュがすかさずオーガの首あたりに火の玉を当てる。5人もしっかりと追い打ちをかけてオーガは事切れた。アッシュ達はしばらく警戒してその場を動かなかったが、オーガはもう動くことはなかった。6人がかりとはいえ、オーガを倒したのだ。初日はゴブリンすらまともに倒せなかった連中が。よくぞここまで頑張ったものだ。
「アッシュ達、見事な戦いだった。」
「あ、兄上、、、。 な、何とか、た、倒せまし、た。」
「うん、うん、よくやった。初日ではゴブリンすらまともに戦えなかったお前達が、3週間程度でオーガを倒すことができるようになるとは。オーガを倒したことよりも、強敵に落ち着いて対処して戦える状態になったことの方が嬉しい。みんな、卒業試験は合格だ!」
「「「「「「あ、ありがとうございます!!」」」」」」
6人が一斉に頭を下げて私達に感謝の言葉を伝えた。見事にハモっていた。
「そのオーガは6人が協力して倒したものだ。このまま堂々と冒険者ギルドへと持っていけ。って、流石にこんなに重たいものを運ぶ体力は残ってないな。これは一旦私が預かるけどいいかな?」
「お恥ずかしい話ですが、私達では運ぶ体力が残っていないので、兄上にお願いします。」
「喜んで預かるよ。少しやりたいことがあるから、今のうちに休んでおくように。」
そう言って、用意していた湧き水をいれた水筒を6人に渡す。6人はそれぞれ受け取ると、ごくごく飲み始めた。では、先程のオーガを解体しますか。アッシュ達が倒したオーガを空間収納に入れ、私達が倒した5体を取り出す。
「ライム、これらの血抜きを頼むね。」
ライムに血抜きを頼むと、ライムはあっという間に5体の血抜きを終えてしまった。退屈してたんだね。血抜きの終わったオーガはジェミニが皮と肉と内臓に分けた。内臓は流石に食べられないのでジェミニの土魔法で穴を開けて、内臓をそこに入れてマーブルの風魔法で埋めた。肉はジェミニに細かく切ってもらう。
「あ、兄上、そ、そのオーガは?」
「ああ、これね。アッシュ達が頑張って戦っていたときに近づいてきたから、ジェミニ達と倒したやつだよ。」
「オーガの肉って硬いだけで美味しくないと聞いたことがありますが、それを食べるのですか?」
「ああ、オーガの肉って脂身がほとんどないから普通に調理しても美味しくないんだけど、唯一美味しく食べる方法があるんだ。ちょっと仕込まないといけないから今すぐには無理だけど、明日には食べられるようになるから、見事にオーガを倒したお祝いとして、アッシュ達にもそれを分けるよ。」
「いいんですか? もし、できたら私達にもそれを教えて頂けるとありがたいのですが。」
「やり方は簡単だから教えるのはかまわないけど、屋敷の料理人でこれができるかどうかはわからないよ。というより、かなりの燃料が必要になるから、屋敷では無理なんじゃないかな。どうしても、というのであれば、それはアッシュ次第かもね。」
「私次第ですか? あっ、なるほど。私の火魔術でこういったことができるようになれば、ということですね?」
「そういうこと。あとは、オーガの肉がそこまで頻繁に手に入れられるかどうか、といったところかな。」
「なるほど、確かにそうですね。頻繁に出てくるようでは困りますからね。」
アッシュとそんな会話をしている間に、ジェミニの方も肉を切り終えたようなので、肉を収納してトリニトに戻った。すぐに冒険者ギルドへと向かって、アッシュ達が倒したオーガを解体に出した。オーガは皮も肉も硬いので、今のアッシュ達では解体できる道具がないので、冒険者ギルドで解体してもらうのが1番よかったからだ。もう少しトリニトが豊かにならないと、そういった道具はそろえられないからね。
冒険者ギルドを出て屋敷に戻る。屋敷に到着して本館と離れ小屋へと分かれる場所まで進むと、アッシュ達が全員で整列し出す。
「兄上、並びにマーブル隊長およびジェミニ隊長、今日までありがとうございました! 兄上達が私達を鍛えてくれたおかげで、私達がどれだけ分かっていなかったかが実感できました。これからは、私達だけではなく屋敷にいるみんなと訓練をして心身共に強くなり、住民達と豊かになっていくよう頑張ります! 改めて約3週間という短い間でしたが、ご指導ありがとうございました!!」
アッシュがそう言って頭を下げると、他の5人も一斉に頭を下げた。しかし、本当にアッシュも変わったな。この気持ちを忘れずに過ごしてくれれば、いい領主になれると思う。そう思いながら、アッシュ達が頭を上げて私達の方を見たので、ゆっくりと頷いた。へたに何か話すより、こうした方が気持ちが伝わると思って敢えて無言で頷いた。
アッシュ達と別れて離れ小屋へと戻る。3人が出迎えてくれた。
「「「お帰りなさいませ。」」」
「出迎えありがとう。さて、明日から王都へ向けて出発するけど、準備の方は大丈夫かな? 特にラヒラスの木騎馬は大丈夫かな?」
「依頼通り50騎完成しているよ。性能はどれも同じだからね。」
「了解した。他にも頼んだ魔導具は完成している?」
「それは大丈夫、抜かりはない、と、思う、、、。」
「なぜ自信なさげなんだよ。まあ、いいか。基本ねぐらで寝泊まりするけど、ダミーのテントとかの準備はどうなっているかな?」
「その点については大丈夫だ。見た目はかなり使い込んでいる感じはあるが、かなり丈夫にできているから、普段それを使っている、といってもバレることはない。というか、これ、本当に使ってもいいやつだぞ。」
「そうか、あとは食器か、食器も用意できているかな?」
「それも大丈夫だ。空き部屋に用意しておいたものを入れてあるから、後で確認してくれ。」
「ありがとう、ご苦労様。私はちょっとやりたいことがあるから、今日はここを出ないけど、3人は何かやりたいことがあったら、やっててくれてかまわないから。」
そう言って解散してから、私は食堂に行って、大きな壺に調味料などをいろいろ放り込む。それからオーガ肉を取り出して壺の中に入れてしっかりと混ぜ込んでから壺に蓋をして待っている間にマーブル達と転送魔法でねぐらに移る。ねぐらに移ったら、外にある窯と同じ大きさの窯をいくつかジェミニに作ってもらい、その分の網を準備しておいて、離れ小屋に戻る。まだ少し時間があったので、マーブル達をモフモフして疲れなどを癒やす。いい感じに漬け込みが終わったら、壺をもったままねぐらに移動して、漬け込んだ肉を網に並べていく。
最初のうちは一枚一枚丁寧に並べていたのだが、数が数なので疲れてきていた。意外なところで助っ人が現れた。ライムだ。ライムに壺を渡すと、ライムは肉だけを取り込んで網の上に移動して網を包むような感じになること数秒、ライムが離れた後には綺麗に並べられたオーガ肉が。ライムが「ボクにまかせてー!」と言ってくれたので、その後はライムに任せた。全部並べるのに1時間は覚悟していたのだが、5分もしないうちに終わってしまった。
何はともあれ準備はできたので、網を窯にしまってマーブルにそれぞれ火魔術で温め、風魔術で窯の中を対流するように囲んでもらう。全部の窯でその作業が終わったが、しばらく放置しないとならないので、一旦離れ小屋に戻る。
夕食後にねぐらに移動して、窯の様子を確認すると、肉はしっかりと水分が抜けており、味も問題なくできていた。そう、ビーフジャーキーならぬオーガジャーキーだ。味見ということで、食べてみたが、しっかりとできていたので満足だ。マーブル達も喜んでいた。
オーガジャーキーを回収して、ついでに風呂と洗濯を済ませてから離れ小屋に戻る。回収したオーガジャーキーはいくつかの袋に分けて入れていたが、アインがそれに気付いたので1つ味見させると、かなり気に入ったらしいので3人で食べろと1袋渡す。アインは袋を受け取ると2人の所に行った。ウルヴとラヒラスもそれを食べてかなり気に入ったらしい。まあ、気に入ってくれて何よりだ。
さて、明日はここを出発しなければならないから、行く前に父上とアッシュの所に寄っていき、これを渡すとしますか。気に入ってくれるといいのだけど。と思いながら床に就いた。
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