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第15話 さてと、修行するぞ×3
しおりを挟む訓練という名のブートキャンプを始めて1週間とちょい、アッシュはもとよりその取り巻き達5人も猛訓練の甲斐あってかなりの成長をしていた。アッシュについては魔力を全身にまとわせることができるくらい扱いが上手になっていて、取り巻き達は連日の走り込みにより一角ウサギなどの比較的動きの速い魔物でも追い続けることができるくらいにまで速度と持続力が増していた。
また、彼らが著しく成長しているのに気付いた屋敷の連中からも鍛錬の依頼があったが、それは断った。そういったことは、アッシュ達が直接後で鍛えてやった方があいつらも話を素直に聴くだろう。何より面倒だから勘弁して欲しい。
さて、今日も訓練は行われる。本当なら週に1日は休息日を設けたいところであるが、3週間ではできることが限られてくるため時間が惜しい。そのこともしっかりと伝えてあるし、訓練をしているメンバーも今のうちに訓練方法を覚えておきたいとのことなので、休み無しで行うことになっている。
ウルヴとアインとラヒラス達には各自で自由に行動してもらっているが、聞くところによると、特に変わったことはしておらず、いつも通りに過ごしているとのことだった。
いつもの場所に到着して、アッシュ達に今日から少し訓練のメニューを変更することを伝える。
「今日よりメニューを少し変更する。昼食まではいつも通りの内容だけど、昼食後では、アッシュは魔力から火を生み出す訓練を、5人は戦いにおける体の使い方を覚える訓練をする。これも大事なことなのでしっかりと身につけるように。最初の数日間はアッシュには私がついて確認する。5人にはジェミニとライムの体当たりを躱したりいなしたりする練習をしてもらう。一応伝えておくが、ジェミニもライムもただ可愛いだけではないので気をつけてくれ。」
内容を伝えると、アッシュ達は顔が赤くなった。次の段階に進めたことで興奮を抑えきれない様子だった。昼食前まではいつも通りの訓練を行ったが、流石に慣れたもので、アッシュもかなり上手に魔力を操れるようになっていた。アッシュも最近魔力が飛躍的に伸びているようで、嬉しそうにこちらに報告して来るようになった。
「さて、アッシュよ、今日から魔力を火に変える練習を行う。大事なのは火をイメージしながら魔力を手に集めることだ。」
「はい。」
なかなかイメージができないっぽいな。これは手本が必要かな。
「難しそうだね。では、マーブル、アッシュにわかるように色をつけて魔力の発生から火に変換するようにやってみて。」
「ミャッ!」
マーブルは心得た、とばかりに全身からこちらからも見えるように青い魔力を背中から出し、それを一旦全身に広げてから右手に集中させる。全ての青い魔力が右手に集中してからゆっくりと火に変えた。一連の動きを流れるようにやってみせるマーブルに対してアッシュは感心するばかりであった。
「操れるようになると、あそこまで簡単に使えるようになるのですね。」
「今のが魔力から火魔法を発生させるやり方だよ。流石にあそこまではすんなりといかないから、アッシュはとりあえず、今のを参考にゆっくりでかまわないからやってごらん。もちろん出来上がる火も、小さいのでかまわない。」
「はい!!」
始めこそ変化すらしなかった魔力が、次第に色が変わっていくのがわかったが、結局今日はこれ以上進展することなく終わった。アッシュも魔力を使いすぎてへとへとになっていた。
「はあ、はあ、上手くいきませんでした、、、。」
「気にすることはない、初日であれだけできたのは十分凄いとおもうぞ。あとは火に対するイメージがまだ足りていないのかも。これができるようになれば、無詠唱で火魔法を使うのと同義だからな、頑張れよ。」
「はいっ、兄上!!」
アッシュの訓練が終わる頃、5人も戻ってきたが、5人ともボロボロのへとへと状態だった。
「お、お前達、体の方は大丈夫か? 怪我はないか?」
アッシュが慌てて声をかける。
「ははっ、アッシュ様、お気遣いありがとうございます。我々は大丈夫でございます。しかし、ジェミニ教官もライム教官もすさまじいですね。われわれは防御するのが精一杯で反撃なんてとても、、、。」
「しかし、こんなに強い魔物が手加減をしてくれた状態で訓練をつけてくれるなんてまずあり得ないからなあ。」
見た目はボロボロでも、5人はすっきりしたような顔をしていた。
この訓練を行うこと数日、アッシュはついに魔力を火に変えることに成功した。
「兄上、兄上、やりましたよ!!」
「おお、アッシュよ、ついにできるようになったな。でも、これがゴールではなくスタート地点だ。さらに練習してさらに威力を高められるようにするんだ。」
「はい!! これで、私もついに無詠唱で火魔法が撃てるようになるんですね!!」
アッシュは興奮気味に言っていた。
「よし、この調子で続けていくぞ。」
その後のアッシュはコツを掴んできたのか、火の玉を大きくできるどころか小さくしたりと大きさも威力も少しではあるが調整できるようになっていた。他の5人も慣れてきたのか、多少疲労感はあったもののしっかりとした足取りで戻ってくるようになった。ジェミニもライムもこれ以上強く攻撃したら相手が怪我をしてしまうことがわかっているから、動きだけ速くして対応していたそうだ。
その次の日から担当を交代した。とはいっても、昼食前の訓練については私がアッシュについて、ジェミニが5人を先導して走るのは変更しない。
「今日から昼食後の訓練の担当を変更する。アッシュは自分で作った火魔法でジェミニやライムを狙って当てていく訓練だ。ジェミニとライム、頼んだよ。あと、マーブルは周りに被害が出ないように結界を頼むね。」
3人は嬉しそうに敬礼で応える。うん、いつ見ても可愛い。
「兄上、ジェミニとライムを狙って放つのはいいけど、ライムはスライムですよね?」
「その点については大丈夫だ。確かにスライムは魔法に弱いところがあるけど、ライムはそこらのスライムとは比べものにならないほど強い。ちなみに、ライムはドラゴンのブレスも耐えられるぞ。ついでに言っておくと、マーブルとジェミニは単体でドラゴン倒せるからな。」
アッシュ達はマーブル達の強さは知っていたつもりだったが、まさかそこまで強いとは思わなかったのだろう、言葉を失っていた。
「5人については、私と戦闘訓練を行う。みんなも知っていると思うが、私は武器を扱うスキルはないから、武器を使った訓練は行えない。だから格闘術を学んでもらう。仮に武器を使わない訓練でも基本的な体の使い方など参考に出来る部分は多いはずだから、しっかりと身につけてもらいたい。」
「「「「「お願いします!!」」」」」
全員が素直に応じた。
訓練内容は、最初は1人ずつ戦っていき、順番に行っていく。これは彼らの休憩も兼ねている。最後に全員で私に攻撃してきてもらう。最初の数日間は体の使い方を覚えてもらうため、武器なしで戦ってもらう。慣れてきたら武器を使って戦ってもらうつもりだ。
最初はおっかなびっくりだった彼らも、何度か戦ううちに慣れていった。数日もしたら、ある程度戦えるようになってきたので、武器使用で私と戦ってもらった。戦い方を理解してきたのだろうか、しっかりと体重を乗せて攻撃できるようになっていた。もちろん、私が本気で戦ったら彼ら程度では勝負にすらならないから、加減はしているよ。それでも、領内であればかなり無双出来る状態までは成長してきたと思う。
残りが3日となり、彼らも十分戦えるようになってきた。あとは、実践あるのみ! ということで、いつもの場所へと移動する。
「さて、アッシュ達、よくここまで頑張ってきた。お前達は修行前に比べると飛躍的に強くなった。それをこれから証明したいと思う。」
「兄上、これからどうするのです?」
「もちろん、魔物退治だ。まずは最初に戦ったゴブリン3体から始めて、さらには数を増やしたりしてお前達がどれだけ強くなったかを見つつ、できたらオーク達とも戦ってもらう。恐らくオークまでなら倒せると思っている。魔物との戦いだから、連携を意識しつつ自分を信じて戦ってもらいたい。」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
うん、みんなやる気だ。非常にいいことだ。
訓練初日と同じようにマーブルの案内で進んでいく。初日とは違うのは、アッシュ達の心構えだ。みんな気を抜くことなくしっかりとついてきている。
しばらくして、ゴブリン達を気配探知で確認する。やはり3体から5体の部隊があちこちにいた。ゴブリン3体がやや孤立状態になっている場所を確認したのでそっちを目指す。
「アッシュ達。この先200メートル先にゴブリン3体を発見した。先日と同じようにまずはアッシュから火魔法でゴブリンを倒せ。残りのゴブリン達がこちらに来たら、お前達が相手をしてやれ。状況は先日と同じだが、違うのはお前達の強さだ。どれだけ強くなったかを確認して欲しい。」
敵が近くにいるのを理解しており、以前と比べていい緊張感を持っているらしく、声を出すことなく頷いた。まずアッシュが魔力を全身に纏い火魔法の準備をする。ゴブリンが射程圏内に近づいてくるのに合わせて魔力を火魔法に変化させていく。射程圏内に入ると火の槍に変化させてゴブリンめがけて放つ。火の槍は狙い通りに先頭にいたゴブリンに命中してゴブリンは倒れた。それに気付いた2体のゴブリンはこちらに向かってくる。前回と同じく、1人はアッシュのそばに控え、のこりの4人でゴブリン達を迎撃する。心身ともに著しく成長した彼らはゴブリン2体を見事な連携で問題なく倒した。
「お見事、自分たちがどれだけ成長したか実感できたかな?」
アッシュ達は嬉しそうに頷く。
「しかし、油断は禁物だ。今は6人で3体を倒したようなものだから楽勝だっただろうけど、これから数を増やしていくから、調子に乗ることなくさっきのような緊張感をもって戦ってくれ。」
アッシュ達はわかっている、と言わんばかりに素直に頷く。うん、相手を侮っていない上に気負いもあまり感じられないな。では、これからガンガン狩ってもらいましょうか。
ゴブリンの編隊を確認しつつ、そちらに向かってアッシュ達に戦ってもらう。その間、私達は彼らが倒したゴブリンの耳を取りつつ、ジェミニの土魔法で穴を開けて、ゴブリン達をそこに入れて、マーブルの風魔法で埋めていく作業を行っていた。
次々にゴブリン達を倒してはいったけど、何かおかしい感じがした。こちらがわざわざ移動することなくゴブリン達の数が増えているのだ。気がついたら1隊で20体とか、ノーマル種だけだったのが、リーダー種がいたりしたのだ。しかしアッシュ達は怯むことなく上手く連携して倒していった。処理班として頑張っていた私達だったが、数の多さに一々埋めたりするのが面倒になったので、マーブルとジェミニには耳を切ってもらい、ライムに洗浄がてら集めてもらい、残った部分は私が水術で凍らせてからその氷を破壊して手間を最低限に押さえることにした。それでも数が減らなかったので、流石にアッシュ達だけでは荷が重くなってきたので、私達も参戦してリーダー種などの特別種を優先的に倒したりした。
これだけの数を相手にしていたので、アッシュ達に疲労の色が見えてきた。私達も参戦したとはいえ、私達はリーダー種などの比較的強い種類しか倒していないので、数的にはそれほど倒していないが、アッシュ達は通常種だけしか倒していないとはいえ、その数はもの凄い。それでも落ち着いてゴブリンを倒していたアッシュ達はかなりいろいろな意味で成長していたと思う。
ゴブリンの残りが少なくなってきたと思ったら、その少ない数がそれぞれ存在感の強い種類だった。ゴブリンエンペラーが1体、ゴブリンキングが4体、という内訳だった。ゴブリンとはいえエンペラーやキングクラスとなると、威圧感がやばいみたいで、流石のアッシュ達も焦りの色が見えた。私達? 問題ないです。
「あ、兄上、な、何かもの凄い殺気を感じます、、、。わ、私達では、あ、あんなのは、倒せません。ど、どうしましょうか、、、。」
アッシュを筆頭に取り巻き達は恐怖で硬直している。
「うん、自分では勝てないとしっかりと認識できているね。ヤバイと思ったら逃げるのも大事だよ。」
「あ、兄上は、へ、平気なのですか?」
「まあ、あの程度ならどうにかなるからね。それほど時間はかからないから、落ち着いて戦いを観戦してくれ。」
では、運良く大物が出てきてくれたので頑張りますか。
「さて、相手はゴブリンのエンペラー種1匹とキング種4匹です。いい感じで2、1、2と分かれていますね。まあ、大した相手ではないので、サクッといってしまいましょうか。では、マーブル隊員は左側にいるキング種2匹をお願いします。ジェミニ隊員は右側にいるキング種2体です。素材は今の時点では有用ではありませんので、好きに倒して下さい。とはいえ、彼らはいい装備を持っていますので、できるだけ装備は傷つけないようにお願いします。私は正面のエンペラーを倒します。ライム隊員はアッシュ達の護衛をお願いします。」
「ミャア!」
「キュウ(了解です!)!」
「ピー!」
いつものごとく敬礼で応えてくれる3人。可愛すぎる。
「では、張り切っていきましょう! 戦闘開始!!」
結果から言うと、全く話にならなかった。マーブルは魔法を使うまでもなくすれ違いざまに爪でキング種2体の首をはね、ジェミニなんかは自慢の牙を使うまでもなく体当たりでキング種2体の頭を吹き飛ばして終了。エンペラー種は剣術に自信があったらしいけど、あの程度では手応えがなく剣で切りつけようとしたけど、内側に潜り込んで掴んで、近くに手頃な岩があったので、それに叩きつけるように裏投げをキメて終了。先程言った通りいい装備を持っていたので、それを頂いて、ライムに綺麗にしてもらってから収納。ちなみにゴブリン達上級種の持っていた武器はそれぞれ、ミスリルを少しだけ含んでいる剣、同じく槍が2本、長めの棒が1本、ありがたいことに弓が1張りあった。ただ、弓の弦はボロっちく、すぐに使用出来ない状態だった、残念。
アッシュ達はといえば、あまりにも呆気なく倒したのを見て驚いていた。
「あ、兄上、兄上達が、た、倒したのって、、、。」
「ああ、マーブルとジェミニが倒したのはキング種だね。私が倒したのはエンペラー種だったかな。それがどうかしたのか?」
「い、いや、どうかしたの? じゃないでしょう!! 何であんなやばい魔物を当たり前のように倒しているんですか!!」
「何でって、倒せるから倒しただけだよ。」
「マーブルとジェミニはともかく、兄上がここまで強いなんて聞いてませんよ!!」
「まあ、言ってなかったからね。それはそうと、流石に疲れたでしょ? これだけゴブリンを倒したんだから戻って精算しますか。」
アッシュは驚いたのやら呆れたのやらで、「あ、はい。」と返事を返すのが精一杯だったようだ。
さて、トリニトに戻って精算しないとね。アッシュ達もよく頑張った。
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