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スナック眞緒 ~ オープン前日の物語 ~

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0―1

「ふぅ……。これで全部……かしらね? あぁ……疲れたぁ~……」
 一通りの準備を終えた眞緒はカウンター席に突っ伏す。
「知らなかったわ……。お店開くのってこんなに大変だったのね……」
『やりたい』が先行して下調べをしなかったのが良くなかった。立地だ、資金だ、法律だ、と。まぁ、やることが盛りだくさん。結果お店を開けたのは企業に就職してから大分経ってからだった。
 あの時、番組で何気なく口にした妄想。それがいつしか番組の企画となって、今では本当のお店になっている。そう考えるとやはり感慨深いものがある。
 カウンターに突っ伏した状態のまま、眞緒はカウンターに広げていた写真へと手を伸ばし、一枚一枚、店内の景色と見比べるようにしてめくっていく。
「……うん。大体再現できたかしらね?」
 それはとても大切な思い出。後にも先にもこれ以上無いくらいに大切な思い出。
 結局、あれから一度も会えていない。
 芸能人と一般人。そもそもスケジュールを合わせること自体が難しいのに加え、たまにスケジュールが合いそうな時も、何だかんだと理由を付け、会わなかった。
 どんな顔をして会えばいいのか、分からなかった。会っていいのかが、分からなかった。
 会いたいと言ってくれ、実際に会おうとしてくれていた彼女たちに対して、とても失礼なことをしてしまった、という自覚はある。だがどうしても、会う勇気を持てなかった。
 このお店のことも、彼女たちには伝えていない。本当は一番に伝えたい相手なのに、伝えていいのかが分からない。
 言えばきっと来てくれるだろう。それくらいには優しい人たちだ。でもだからこそ、伝えるのを躊躇ってしまう。彼女たちも色々多忙だろう。その多忙なスケジュールの合間を縫ってもらうのは忍びなかった。自分の好きなことにその時間を使って、そう思ってしまう。
 自分のためより、誰かのため。誰かのためならいくらでもポジティブになれるが、自分のためではポジティブになれない彼女は、誰も聞いていない店内だからこそ、ポツリと本音を零した。
「…………会いたい、な」
 その呟きとともに、彼女はそっと目を閉じた。

?―1

「……おちゃん。……眞緒ちゃん。……眞緒ちゃんってばっ!」
「…………んっ、んん?」
 誰かに肩を揺さぶられながら耳元で名前を叫ばれ、眞緒はカウンター席でうつ伏せになっていた自分の体をゆっくりと起こし、大きな大きなあくびを一回。ついでと言わんばかりに両手をぐいーんと伸ばす。
 と、そこまでやってようやく気付いた。はて? 今耳元で私の名前を呼んで肩を揺さ振ってきたのはどこのどなただ? 不審者の予感にとりあえず大声で悲鳴を上げる準備だけして、眞緒が自分の肩を触ってきた相手の方を見てみると、

「やっと起きたぁ~……。もう、ビックリしたぁ~。パッと横見たら眞緒ちゃん寝てるんだもん」

 悲鳴の準備をしていたにも関わらず、驚きのあまり眞緒は口をパクパクさせるのが精一杯で、何一つ声を発することができなかった。人って本当の本当に驚いた時って声すら出ないんだなー、と眞緒は変なところに感心する。
 変わっていない、と言えば語弊がある。あれから何年も経っているのだ。彼女の容姿はそれに相応しく大人びたものになっている。だが、やはり昔の面影も大きく残している。可愛らしく頬を膨らませている姿などまさに昔のそれだ。
 眞緒の視線の先に居た人物。どうにかこうにか眞緒は彼女の名前を口にする。
「まな、も……?」
「そうだよ? バイトの愛萌ちゃんです。……何でそんな驚いた顔してるの?」
 逆に聞こう。なぜ驚かないと思うのか。眞緒はほとんど掴み掛かるようにして愛萌の方へと近付くと、
「え? えっ? な、何で愛萌がここに?」
「何でって……、スナック眞緒にバイトの愛萌ちゃんが居るのは当然じゃないですか。……ひょっとして、寝惚けてます? 顔でも洗ってきます?」
 寝惚けているのか? と訊かれれば、恐らく寝惚けているのだろう。そうでもなければ目の前に愛萌が居ることに説明がつかない。
 さっきもちょっと言ったが、このお店のことはメンバーの誰にも教えてはいない。そしてこのお店はまだ開店準備段階。オープンしていないのだから口コミなんかでその情報が入ってくるわけもない。
 また、百歩譲ってこのお店に居ることは納得してもいいが、バイトとして働いているのはおかしい。自慢ではないがバイトを雇う余裕など無い。そのためバイトを募集した覚えもなければ、採用した覚えだって当然無い。
 どう考えても愛萌が我が物顔でこのお店で働いていることの方がおかしいハズなのだが、愛萌は完全に眞緒が寝起きで頭が回っていないと思っているらしい。おしぼりを一個眞緒の方に渡してきた。
 色々納得はできないながらも、とりあえず眞緒は渡されたおしぼりで自分の顔を拭いていると、

「愛萌ちゃ~ん。お料理できたよ~」

 聞くだけでリラックス効果があると有名なおっとりボイスとともに、厨房から愛萌が着ている制服とはまた微妙にデザインが異なる制服に身を包んだ一人の女性が料理を乗せたお盆を持って出てきた。
 声だけでおよその予測はできていたが、一応目で見て確認しようと、眞緒はおしぼりを顔から退けて相手の顔を見る。相手は愛萌の方を見ていたため、眞緒と目が合うことはなかったが、その顔をしっかりと認識した眞緒は、
「紗理菜ちゃんっ!?」
 今度はちゃんと大声が出た。しかもさっき出せなかった大声がお腹の中にでも残っていたのか、自分でもびっくりするぐらいの大音量で。が、当然、叫んだ側より叫ばれた側の方がびっくりするわけで、紗理菜は持っていたお盆と一緒にその場でびくぅっ!? と大きく飛び上がった。
「わぁっ!? び、びっくりしたぁ~……。急に大声出して、どうしたの眞緒ちゃん?」
「いやいやいやいやっ! な、何で紗理菜ちゃんがこのお店にっ!?」
「えっ? え、ええっと……?」
 控えめな『この子は何を言っているのだろう?』という顔を紗理菜はこれまた控えめな笑顔とともにしている。そして紗理菜は助けを求めるかのような眼を、突然の井口砲で床に尻もちをついていた愛萌の方へと向けるが、愛萌は小さく首を横に振りながらお尻を叩いて立ち上がると、
「さっきからこんな感じで、私も困ってるんだ……。多分寝ぼけてるんだとは思うんだけど……」
「寝ぼけてる??」
 厨房に居てその辺のやり取りを見ていなかった紗理菜は首を傾げる。そこで愛萌は思い出したように紗理菜に向かって、
「そう! 聞いてよ紗理菜ちゃん! 眞緒ちゃんがちょっと目を離した隙に寝てたの!」
「え~っ!? せっかくみんなオープン記念で遊びに来てくれるんだから、寝ちゃダメだよ~っ!!」
「いや、それ以前に従業員働かせておいて寝ちゃダメでしょっ!?」
 うん。まぁ二人の言い分は正しい。それは眞緒も分かる。が、そもそもの大前提、何故この二人がこのお店に居るのかをいい加減誰か説明してくれないだろうか? 何故二人して『居るのが当たり前』みたいなテンションで来るのだろうか? というか、今一個聞き逃せない単語があった。まだオープンしてません、とかその辺の些事はもうどうでもいいが、
「えっ? みんな来る……?」
「そうだよ? だからさっきから準備を頑張ってるんじゃん。も~、今日の主役は眞緒ちゃんなんだからしっかりしてよね!」
 愛萌に肩をポンと叩かれる。
 言われて店内を見渡して気付いた。眞緒の知っている店内の様子と微妙に違う。
 基本的な内装は同じだ。だが何やら色々知らない装飾が施されている。誰かの誕生日でも祝うつもりなのか、壁や天井には折り紙や画用紙、バルーンなどで飾り付けがなされている。
 お客さんの誕生日でも祝うのかしら? と眞緒は思っていたが、誰の誕生日なのかはすぐに分かった。なにせ一番目立つところに大きくデカデカと『祝! スナック眞緒オープン!!』の文字がある。知らない間にお店がオープンしていたと思ったら、知らない間にオープン記念のパーティを開催予定らしい。
 また、お店のテーブルには敷いた覚えのないお洒落なテーブルクロスが敷かれており、見覚えのないメニュー表が置かれている。試しに近くにあったテーブルのを取って見てみると、メニューは全部手書きでジャンルごとに綺麗に色分けされており、オーソドックスな飲み物や食べ物はもちろん、あまりスナックで作るのは珍しいであろうラーメンやパンやお寿司、ゲテモノ……、なんてジャンルまである。
 メニューを閉じて、テーブルに戻し、眞緒はいい加減気付いた。これはきっと夢だろう。そう考えれば、いやに自分にとって都合のいいことだけ起こっているこの状態に説明がつく。逆に言うと、そうでもなければ説明がつかない。
「ほらほら。早く用意しないとみんな来ちゃうから。急ご急ご」
 愛萌が急かすように眞緒の背中を押し、紗理菜が眞緒の手を引っ張る。その時、眞緒は二人には見えないように、どこか寂しそうに、だけど確かに嬉しそうに笑った。
 夢だとは分かっている。これは現実ではない。だが、夢の中だけでもいい。
 みんなに、もう一度だけ会いたい。
 だからせめて、みんなに会うまでは覚めないでほしい、全てが自分の思い通りになるハズの夢の世界で、何故か眞緒はそんなことを真剣に、そして切に願っていた。

?―2

「え~、皆様のお手元にお飲み物は行き届きましたでしょうか?」
 スナック眞緒に用意されているカラオケ用のステージにて、愛萌はマイクを片手にみんなに確認を取る。その場で静かに頷いたり、持っているグラスを高く上げたり、『あるー!』と返事したりなど、反応は各々それぞれであったが、どうやら全員に行き届いたようなので、
「本日はお足元の悪い中、スナック眞緒オープン記念にお越しくださいまして、誠にありがとうございます」
『よーっ!』というヤジとともに店内に拍手が巻き起こる。愛萌は一通りその余韻に浸った後、
「本日に限りまして、お食事、お飲み物の代金は全て無料となっております。その代わり……、皆様には今度ともこのお店を御贔屓して頂きたいと思っております。個人で来るもよし、ご家族・ご友人と来るもよし、会社の新人会・送別会等、スナック眞緒は何でも受け入れております。皆様、何卒、何卒、御贔屓にお願いいたします」
 釣り師の腕前は健在らしい愛萌がウィンクとともにそう言った後、
「それでは皆様には、お時間が許す限り、ご歓談の方を楽しんで頂きたいと思います。えー、私ごときが大変恐縮なのですが、音頭の方を取らせて頂きます。乾杯!」
『かんぱぁーいっ!!』
 それを合図にみんながみんな一斉にグラスをぶつけ合う。と、そこで大事なことを言い忘れたことに気付いた愛萌は慌ててマイクを手に取り、そのボリュームを少し上げてから、
「あ、あ、あ。それから主役の眞緒ちゃんにつきましては、眞緒ちゃんの方から皆様のテーブルにご挨拶へと伺いますので、みなさん、くれぐれも眞緒ちゃんにお酒を注ぎに来ないように。眞緒ちゃんお酒飲めないのに勧められると飲んじゃってすぐ酔っぱらってぐでんぐでんになるんですから。面倒見るの大変なので、絶対に注ぎに来ないように。……史帆さん、鈴花、フリじゃないですからね?」
 ニヤリと何かを企んだ顔をした二人を見逃さなかった愛萌は即座に釘を刺す。刺された二人はサッ! と目を逸らした。また、それ以外にも純粋にお祝いの気持ちで眞緒のもとへと向かおうしていたメンバーも名残惜しそうにその足を止めた。が、足は止めても目線で『こっち来い、こっち』と眞緒に訴えかけてくる。
 さて、誰のところから行こうか、と。お酒に弱い眞緒は雰囲気を壊さないようにとだけ持ったウーロン茶を飲みながら考える。

?―3

 とりあえず、と言ってしまってはなんだが、一番初めに挨拶をしておいた方がいいだろう、ということで、眞緒はカウンター席に史帆と並んで飲んでいた久美のもとへとやって来た。
 眞緒の気配に気付いたのか、久美は眞緒が話し掛ける前に眞緒の方を振り返ると、
「眞緒ちゃんおめでと~」
 立ち上がって眞緒にハグしてきた。それを見ていた史帆も立ち上がると『ばうちゃんおめでと~』と眞緒にくっついてくる。
 ひとしきりくっつき終わった後、眞緒もカウンター席に座ると、久美が店内を見渡しながら、
「でもあれだね。ホントにあの時のセットのまんま作ったんだね。そのせいか、初めて来たのになんだか凄く懐かしい気がする」
 その言葉に史帆もしきりに頷いている。その二人の反応に眞緒は満足そうに微笑んでいる。当時あのセットに来たことがあるメンバーにそう思ってもらえているなら大成功だろう。当時スタッフさんから貰った写真をもとに忠実に再現してもらった甲斐があるというものだ。
「ばうちゃんの着物も当時のままだね」
「そうなのよ~。よく気付いたわね~。でもこれ結構値がするのよ?」
 なにせ当時の着物は美術さんが作ってくれていたものなので、あれと同じ物を再現しようとすると、オーダーメイドしか手が無かったのである。おかげで結構出費がかさんだものだ。
「けど正直な話。本当にお店を開くとは思ってなかったな~」
「そうなの?」
 久美の呟きに史帆が反応すると、久美は大きく頷いて、
「いや、ほら、お店開くのって結構大変じゃない? 開けたとしても開き続けるのはもっと。だから正直、現実的にはちょっと厳しいかな~って思ってたんだ」
「あ~確かに」
 久美の言い分に史帆は頷くと、眞緒の方を見て、
「大変だった?」
 端的に投げられたその質問に眞緒は少し回答に困る。というのもこの問い、現実世界の話でいいのであればいくらでも話せるが、ここは夢の世界。こちらの世界でどういう経緯でお店を開いたかなど、眞緒だって知らない。眞緒はなるべく矛盾が生じないよう、どっちの世界にも当てはまりそうな内容を選びながら、
「うん、まぁ、そうね。こんな色々手続き要るんだ、とか、こんなお金掛かるんだ、とか。初めてだったから知らないことだらけで、大変だったわね……。それに久美ちゃんも今言ってたけど、この先ずっとやっていけるって保証も無いしね……」
「あ、ごめん。そんな暗くしたかったわけじゃ……」
 久美が謝ってくるが、眞緒は首を横に振る。眞緒的にはこの話を続けて、何故かお店の従業員として働いている愛萌と紗理菜の話になると回答に凄く困るため、何とか話を変えたいのだが、露骨に変えるとそれはそれで久美に気を遣わせてしまう。
 どうしたものか、とあのバラエティ能力に富んだ眞緒が黙ってしまっていると、若干気まずくなった空気を変えたかったのだろう。史帆が一生懸命な笑顔で、
「まぁ、愛萌もなっちょも居るし、大丈夫でしょ」
「そうね。眞緒ちゃん一人だとちょっと心配だけど、あの二人が付いてるなら平気か」
 史帆と久美は楽しそうに笑う。眞緒も一応は笑みだけ返す。そして確かにそう思う。あの二人が一緒に居てくれるのであれば、何があっても平気だろうと。
 しかし、現実世界には、愛萌も紗理菜も居ない。
 そんな今更ながらの事実が、眞緒の胸を少しだけ締め付けた。
 少しだけ眞緒が気落ちしそうになっていると、それを助けようと思ったわけではないだろうが、結果的には助ける形で、
 すすすー、っと。何故か気配を消しながらひなのがカウンター席に近付いてきた。こういう意図しない変な挙動はいっそ彼女の通常運転とも言えるので、触れるべきかは悩んだが、一応社交辞令として、
「どうしたの?」
 と、眞緒が聞いてみると、今回の挙動にはちゃんと理由があったらしい。が、周りに聞かれてはことだと思ったのか、ひなのは周囲をキョロキョロ見渡し、誰にも聞かれていないことを確認すると、眞緒の耳元に口を寄せて小声で、
「眞緒さんに会いに来ました」
 変化球が売りの割には随分とドストレートな言葉が来たので、眞緒は面食らうのと同時に、何故小声なのかが気になったが、こっちは多分さっきの愛萌の言葉を気にしているのだろう。
 というか、そもそもの大前提として、
「えっと、……ひなの、……よね?」
「? そうですよ?」
 不思議そうに顔を傾げるひなの。確かにこういう仕草一つ一つは全然変わっていないのだが、
「何か……、凄い、大人っぽくなったわね……」
「あ、ありがとうございます。でもそれ会う度に言ってません?」
 どうやら会う度に言ってるらしい。まぁでも言いたくもなるだろう。何せ、眞緒の中ではひなのは当時の姿のまま止まっている。美人になるとは思っていたが、まさかここまで素敵な女性になるとは。ちなみに、中身は全然変わってないな、と思ったのは内緒である。
 そんな感じで眞緒がひなのと話していると、実はずーっと、ひなのが眞緒の所にすすすー、っと近付いて行った光景を羨ましそうに眺めていた明里がついに我慢の限界を迎えたのか、
「眞緒さん! 眞緒さん! 私はどうですか?」
 挙手しながらこちらは堂々と近付いてきた。そんな明里を見て、眞緒は一言、
「うん。丹生ちゃんは昔のまんまね」
「え~っ!? 大人っぽくなったって言ってほしいですっ!!」
 いや、悪いが明里を見ての正直な感想はやはり『昔のまんま』である。いい意味であのまんま歳を取ってきたのであろうことがよく分かる。同年代にこれだけ純真無垢な『にぱーっ!』という効果音が似合う笑顔ができる女性が何人居るだろうか?
「まぁまぁ。昔のまんま大好きってことよ」
「え~……。照れます……」
 明里はまんざらでもなさそうに頬に両手を当てて喜んでいる。そんな様子を見て、『うん、やっぱり昔のまんまね』と眞緒がこっそり思っていると、ひなのが控えめにメニューを胸の前で抱えながら、
「眞緒さん、お酒頼んでもいいですか?」
 ひなのが自主的にお酒を飲みたい、と言うのがちょっと眞緒には意外だったが、
「もちろん。何飲む? ……と言っても、私は作れないから……愛萌ー! 愛萌ー!!」
「作れないってどういうことっ!? 眞緒ちゃんお店開いたんだよねぇっ!?」
「あらやーね、愛萌。忘れてない? このお店のママは基本人の話を聞いて、ネガティブになっている人をポジティブにする程度のことしかできないのよ?」
「いや、それはそれで凄いけども……」
 何だかんだブツブツ言いながらも、愛萌は大人しくカウンターの裏へと移動する。ちなみにだが、もちろん眞緒は作れる。元々一人で経営していくつもりだったのだ。それくらいの知識は心得ている。だが、バイトの愛萌が居るのなら、これがスナック眞緒の正しい形だろうと思っただけのことだ。
「何飲もうかな? 何飲もうかな? ……うーん。眞緒さん、オススメなんですか?」
「色々あるけど、そうね~。普段は何を飲んでるの?」
 眞緒が何気なく聞いたその言葉に、どういうわけか明里とひなのは気まずそうな顔をする。はて? 何かマズいことでも聞いたかな? と眞緒が考えていると、ひなのがポソリと、
「………………お酒、まだ飲んだことないんです」
「えっ? うそっ? ほんとっ? 飲む機会なかった?」
 別にお酒を飲むことが偉いとは思わないが、それでも仕事の打ち上げとかで、飲む機会程度はありそうなものだが、と眞緒が思っていると、ひなのは、
「……初めてのお酒はこのお店で飲みたいなって。ずっと飲まなかったんです」
 そんな泣かせるようなことを言ってきた。すると会話を聞いていたらしい愛萌が、
「結構ネットニュースとかでも騒がれてたんだけど、知らない? 昔眞緒ちゃんも出たことがあるとある御殿の番組で、二十歳になったからお酒飲みに行こうみたいな話になった時に、『行かないです』ってハッキリ断ったの。私も一緒に出てたんだけど、もうその後のフォローがめちゃくちゃ大変で……」
「その節はご迷惑を……」
 ひなのが申し訳無さそうに両手を揃えて小さくお辞儀する。何だろう? 他のメンバーであれば、またまた~と冗談と思って聞き流せる内容なのだが、やりかねない辺りがやっぱり凄い。
 眞緒が色んな意味で感心してひなのを見ていると、横で人差し指を突き合わせてモジモジしている明里が視界に入った。
「丹生ちゃん、どうしたの?」
「いえ、あの……。そんなひなのみたいに強烈なエピソードがあるわけじゃないんですけど、その……、私もです……、みたいな? ……わぁっ! 何でもないですっ!!」
 言ってて恥ずかしくなったのか、両手で顔を覆ってカウンターにうつ伏せになる明里。何て可愛い生物だろうと、眞緒は蹲っている明里の頭を撫でてあげることにした。

?―4

 ひなのと明里にお酒を提供した後、愛萌はテーブル席の方に座っていた菜緒、陽菜、芽実、ねる、美穂の方へと移動し、お酒を振舞っていた。
 それぞれのイメージに合わせて作ったというカクテルは確かにそれぞれの色を表すかのようにとてもカラフルで可愛らしく見える。
 が、一人だけどうも納得のいっていないメンバーが居るようで、
「何でねるのだけロックで焼酎なのかな?」
 ねるが膨れっ面で訴えかけるが、愛萌は華麗にスルーである。スルーされたのでねるはもう一回、
「ねぇ! 愛萌ちゃん! 何でねるのだけ焼酎ロックなのかなっ!? しかもビールジョッキにこんな並々! 和洋折衷とはこのことかっ!!」
「とか何とか言いつつ、ねるさんそれ2杯目じゃないですか……」
 最初は愛萌もちゃんとねるのカクテルも作っていたのだが、作るカクテル作るカクテル秒で飲み干していくので、段々作るのが面倒になり、もう質より量と度数で勝負することにした。が、あれだけガバガバ飲んでても顔色一つ変えないあたりはさすが九州出身ということなのだろうか。
 逆にお酒が弱くて一滴も飲めない、という芽実は愛萌が作ってくれたノンアルコールカクテルを飲みながら、
「ちょっと飲んでみてもいい?」
 と、ねるのジョッキへと手を伸ばす。『いや、止めた方が……』という美穂の静止を振り切り、芽実はジョッキに口をつける。すると、
「にっがぁ……」
 飲んだ、というか舐めた瞬間、芽実は思いっ切り顔を歪ませた。
 と、そこまでで止めておけば良かったのだが、
「よく『こんなの』飲めるね?」
 芽実に悪気はまったく無かったのだろうが、実は今ねるが飲んでいるのはねるの地元で作られているお酒。それを『こんなの』呼ばわりされたねるはムッとすると、
「まぁ、『お子様』にはまだ早いかなぁ~」
 と、言い放った。すると、
「ほ、ほほう?」
『お子様』呼ばわりにカチンと来た芽実はねるが既に空けていたビールジョッキに並々とそのお酒を注ぎ始める。
「め、芽実さん?」
 嫌な予感がした美穂は自分のグラスを置いて様子を見ていると、片手では重たくて上手く持てないのか、芽実は両手でビールジョッキを持ち、そのまま口へと近づけて、
「って芽実さんっ!? 何してるんですかマジでっ!!」
 口をグラスにつける直前、美穂が背後から芽実を破壊締めする。体格差もあるため、芽実ではどうやってもその拘束を解けないわけだが、芽実はなおも往生際悪く両足をバタバタさせている。
「は、放せっ! 私は大人なんだ! お酒くらい飲めるもんっ!!」
「いや『お子様』呼ばわりされてムキになるあたり子供ですって! とりあえず落ち着いて! お酒弱い人がそのお酒その量行ったら死にますって!!」
「そうですよ芽実さん。それに『お子様』の方が若く見られてていいじゃないですか」
「きぃっ!!」
「おのれ愛萌! 貴様さては確信犯だなっ! 芽実さんをこれ以上煽るじゃない! 本当に負けず嫌いなんだからっ!!」
 芽実がビールジョッキを持ったまま暴れるものだからお酒が辺りに飛び散っている。それを見た陽菜は颯爽とポーチへと手を伸ばすと、
「わっ! わっ! お酒がこぼれてる。拭かなきゃ」
 テーブルに零れたお酒を拭いている姿だけを見ているととても女子力が高い女子に見えなくもないが、菜緒には一個気になることがある。それは、
「……陽菜、何で雑巾持ち歩いとるの?」
 拭いているのが、ハンカチでもティッシュでもなく、雑巾ということである。が、陽菜はキョトンとすると、
「え? あ……っ」
 何故か気まずそうな顔をして、雑巾をそそくさと隠し始める。『?』と菜緒が首を傾げていると、カウンターの方から、
「あれ~? ねぇ~、愛萌ちゃ~ん。雑巾知らない~?」
「雑巾ならさっき掃除に使ったからその辺に置いてあるでしょ?」
「それが見当たらないの~」
「え~? 何でだろう? ちょっと待って、私も探すから」
「「………………」」
 ジーっと菜緒が陽菜を半目で見つめるが、陽菜はできもしない口笛を吹きながら必死に目を逸らしている。ほうそうか、黙秘するか、と。菜緒は頷くと、
「お巡りさ~ん。この人で~す」
「菜緒っ!? ちょっと待って! 違うんです! 私が雑巾をポーチに入れたんじゃなくて、雑巾がポーチに入ってきたんです!」
「ええい! 往生際が悪い! 犯人はみんなそう言うんだよ!」
「いや~! 久美さんには言わないでください~!!」
「何なのその久美さんに対する絶対的な服従心! 好花でもそこまでじゃないよ!」

?―5

「ぶえーくしょん!」
「どわぁっ! 汚いっ!?」
「あ、ごめん。風邪かな……」
「誰かに噂されたりして?」
「え~? 悪口? それやったら嫌やなぁ……」
「くしゃみ掛けられる方が嫌じゃ!」
 噂されたから、の因果関係はともかく(悪口かもともかく)、盛大にくしゃみをした好花はティッシュで鼻をかみ、そのくしゃみを掛けられた鈴花はおしぼりで顔を必死に拭いている。そんな二人を楽しそうに見ながら美玖は初ガツオのお寿司を口へと放っている。すると紗理菜がカウンターの方からやってきて、
「ごめん好花ちゃん~。雑巾見当たらないみたい~……」
「あ、そうなんですか? まぁでもじゃあティッシュで拭くんで大丈夫ですよ」
「だから代わりに紙やすり持ってきたの~」
「紙やすり……、は……、雑巾の代わりにはならない……、かなぁ……、っと」
 好花が物凄く控えめにツッコむと、紗理菜はショックを受けたように『え~』と呻く。それから顔を拭き終えた鈴花と目が合うと、
「鈴花ちゃん、使う?」
「拭けと? 紙やすりで顔を拭けと? おうおう、なっちょさんも中々アグレッシブなことをおっしゃる」
「でもでも、角質いい感じで取れそうじゃない? お肌綺麗になるかも~?」
「取れますね~。角質と一緒にその綺麗にしたいお肌ごとゴッソリ取れますね~」
 せっかく持ってきたのに行き場を失った紙やすりを紗理菜が持て余していると、今度は美玖と目が合った。美玖は若干身構えたが、紗理菜はにこぉ~っと、
「ねぇねぇ、美玖ちゃん。お寿司美味しい?」
「え? あ、はい。とっても美味しいです」
「ホント!? 良かったぁ~。それ実は私が握ったんだよ?」
「えっ!? そうなんですかっ!?」
 紗理菜と美玖がお寿司トークで盛り上がっている間に花ちゃんズは目だけで、さっきのなっちょさんの言動はボケなのか、マジなのかを緊急協議。結果、7対3でマジだろうという結論に至り、怖いのでその話には触れないでいると、
「紗理菜ちゃ~ん。雑巾あったよ」
 愛萌が雑巾片手にテーブルへとやってきた。
「あ、ホントだ~。見つかって良かった~。どこにあったの?」
「犯人が自首してきたの」
「犯人? 自首??」
 紗理菜の頭の周りには疑問符が飛び回っているが、愛萌は特に詳しく説明する気は無いらしく、雑巾を必要そうなメンバーを見渡してみるが、必要としていた好花はすでにティッシュで用を済ませてしまったらしい。せっかく持ってきたのに……、とは思いつつ、用が無いのでは仕方ないので、愛萌が頬を膨らませながらカウンターの方に戻ろうとすると、
「あ、愛萌ー。お料理って注文しても大丈夫?」
 後ろからひよりに呼び止められた。料理担当は紗理菜ちゃん、とは思ったが、オーダーを聞くくらいなら愛萌でもできるので、『大丈夫だよ』と答えると、
「え~っとね、『タランチュラの素揚げ』一つくださ~い。あ、みーぱんさんも食べます?」
「み、みーぱんは辛い料理食べてお腹いっぱいだからいいかな……」
「そうですか……。……半分こします……?」
「うぅ……っ。そ、そんな一緒に食べたいみたいな顔をされると……、されても……、う、うぅ……っ、……うん、食べる……」
 可愛い娘の頼みでは断れない、と言わんばかりに物凄く泣きそうな、というかぶっちゃけもはや泣いている顔で美鈴は必死に頷いた。
 一方、もう一人泣きそうな顔をしている愛萌はサッ! と紗理菜の方を見ると、
「…………紗理菜ちゃん。任せた」
「あらダメよ愛萌ちゃん? お客さんのオーダーにそんな人の咀嚼音聞いた後みたいな顔をしちゃ」
「お客さんには見せてないからいいんです」
 まぁ確かに角度的にひよりには見えていないが、そんな思いっ切り歪ませた顔を紗理菜の前で披露されても困るのだが。
「虫食って割と近い未来来るって言われてるけど、愛萌ちゃんそんなんで大丈夫なの? 克服がてら試しに一つ食べてみる?」
「その時は潔く餓死するのでご心配なく」
 梃子でも動かぬ、という顔を愛萌がしているのと、元々料理担当は紗理菜ということもあるので、紗理菜は料理を作りにカウンターの方へと向かった。

?―6

 オープン記念の催しもそろそろ終盤に差し掛かってきた頃、まだまだ盛り上がっていくぞ、と。そう言わんばかりにカラオケの音楽が流れ始めた。
 イントロだけで誰が歌うのか分かるのも珍しい。眞緒の予想通り、マイクを持った京子がステージへと上がった。瞬間、ライブ会場かと錯覚するほどの割れんばかりの歓声が店内に響いたが、京子はそれに手だけでクールに返すと、いつも通りの高い歌唱力で歌い始めた。
 いや、いつも通り、というか、
「何か……いつもより凄いわね……」
 眞緒がポソリと呟くと、京子の推しメンタオルを握りしめていた彩花が、
「そりゃそうでしょ。『眞緒のお店で歌える』ってずっと楽しみにしてたんだから」
 その声が聞こえていたわけではないだろうが、京子がこちらの方を見て、笑顔で手を振ってきた。それにこちらも笑顔で手を振って応えると、
「今日はオーディションなんだって張り切ってたよ」
「オーディション?」
「良かったらスナック眞緒で雇ってもらうんだって」
 そういえばそんなこと言ってたな、と眞緒は懐かしくなる。てっきりお父さんに反対されて諦めたものだと思っていたが、
「まだ言っててくれたんだ……」
 眞緒が嬉しそうに零した言葉に、
「ずっと言ってたよ」
 どこか羨ましそうに彩花は補足した。
 2曲、3曲と歌い続け、最後の曲はバラード調の曲で締めた京子。そのため店内の雰囲気がどことなくしんみりとし始めた時、
「アゲてけ!!」
 急にアップテンポ調の曲が流れ始めたと思ったら、京子と入れ替わる形で、優佳、芽依、愛奈の3人がステージへと上がる。優佳はどこかで見覚えのあるハート型のサングラスをしており、恐らくは付き合わされたのだろう。一緒に壇上に上がった芽依と愛奈も同じサングラスをしている。
 ほとんどゲリラライブのようにして1曲歌い終えた三人ははしゃぎ過ぎて乱れた息を整えるように、
「さて。京子の後ということで私たち非常にやりづらいのですが、皆さん一緒にアゲていきましょう!」
 恐らくは次の曲を決めるまでの繋ぎだろう。優佳がメンバーを煽っていると、芽依がその袖を引っ張った。
「ねーねー、優佳ちゃん」
「ん? どったの? めいめい」
「芽依、これ歌いたい」
 そう言って芽依が指差した曲名を見て、愛奈と優佳は顔を見合わせる。
「……ええな、それ。どうせなら振り付けてやろ。……あ、優佳、踊れるん?」
「もちろ、」
『ん』と言い切らずに言葉を止めると、優佳はそこで眞緒の方を見て、
「まーおちゃん。この曲の振り教えて?」
「…………はいっ?」
 一瞬意味が分からなかった。急に会話を振られたこともそうだが、その内容も意味不明だ。優佳に教えてもらったことは数あれど、優佳に教えたことなどただの一回も無い。
 しかし、愛奈が眞緒に見えるように角度を変えた、選曲した曲名が映るディスプレイを見て、ようやく意味を悟った。
 そこには『夏色のミュール』と表示されていた。
 眞緒がようやく状況を飲み込めてきたのを見計らって、優佳はもう一度、とても優しい笑顔で、
「振り、教えてくれるんでしょ?」
 それは昔、優佳が休業していた時に眞緒が言った言葉。
 優佳ちゃんが戻ってきた時、優佳ちゃんに教えられるくらい上手くなる。
 結果、色々あってそれが叶うことは無かったが、それでも、教えられるよう、ある意味では一番一生懸命に練習した曲。
 そんな思いを知ってか知らずか、メンバー全員眞緒の方を見ると、促すように拍手を送ってくる。眞緒はその拍手に躊躇していたが、傍に居た彩花に背中を割と強めに叩かれ、その勢いでステージの方へと押し出される。それを見て、眞緒が自分の意志でステージへと向かったと勘違いしたメンバーはより一層の拍手を送ってくる。
 こうなってはもう後には引けない、と。眞緒は覚悟を決めてステージへと向かった。
 その日、その時、初めて、『夏色のミュール』という曲は完成したのかもしれない。

?―7

「え~、宴もたけなわではありますが、そろそろお開きの時間がやってまいりました」
 久美はカラオケ用のマイクを片手にみんなに語り掛ける。何年経っても相変わらず、こういう時に締めるのは久美の役割らしい。
「え~、最後にですね、皆さんで記念に写真を撮りたいなぁ、なんて思っているんですけども、……撮りたい人~?」
『は~いっ!!』
「よろしい! ではここにカメラをセットしますので、皆さん画角に入るよう移動してください」
 わぁ~っ、とみんながみんなカメラの前に移動する。すると、
「ちょっと! 眞緒ちゃんセンター行きなよ、センター」
「えっ、いや、お店のママがお客よりセンターに行っちゃマズいでしょ!?」
「おっ。眞緒にしては珍しく正論」
「いや、今日に限っては間違ってる。今日はスナック眞緒のオープン記念なんだから、主役は眞緒でしょ。ほら、センター行った行った」
「というか、そう言ってる愛萌と端っこに避難してる紗理菜も眞緒の横に行きなね?」
「「え~っ!?」」
 オープン記念の主役だというのに、中々センターに行きたがらない店の従業員三人を半ば強引に移動させ、動かないようにがっしりと横から捕まえた状態で、セルフタイマーをセットしたスマホで写真を撮る。
 撮れた写真を確認した久美はそのスマホを誰よりも高く掲げると、
「欲しい人~?」
 と、みんなに問う。すると全員が全員、同じように手を高く上げ。
『は~いっ!!』
 と返事をする。それを見て久美はニヤッと笑うと、
「どうしようかなぁ~?」
『えぇ~っ!?』
 今度は一斉にブーイングが起こった。打合せしたわけでもないのに、相も変わらず凄い団結力である。
「うそうそ。はい、送りま~す」
 その言葉と同時に、久美は先ほど撮ったばかりの写真を全員に一斉送信した。

0―2

 ブーッ……! ブーッ……! というスマホのバイブレーションの振動が響く。電話ではなく、メールなどの受信だったのか、振動自体はすぐに収まったが、カウンターの机に直置きされていた振動は結構激しく響き、
「……………ん。んんっ……」
 その振動に起こされるように、眞緒はカウンター席でうつ伏せになっていた自分の体をゆっくりと起こし、大きな大きなあくびを一回。ついでと言わんばかりに両手をぐいーんと伸ばす。
 と、そこまでやってようやく気付いた。
「…………あらやだ、寝ちゃってたんだ」
 開店準備がひと段落してカウンター席にうつ伏せになっていた記憶はあるが、どうやら気付かない間に眠ってしまっていたらしい。ちょっと不用心だったかな、と店の入り口の方をチラリと確認するが、ちゃんと施錠はされていた。
 当然、店内には誰も居ない。
 眞緒はもう一回大きくあくびをし、目尻に溜まった涙を指先でそっと拭うと、ノビをしながら立ち上がる。
「さて、っと。頑張りますか」
 いつになるかは分からない。そんな日が来るのかも分からない。
 だけどもし、胸を張ってこのお店に彼女たちを招待できる日が来たら、その時は、
「同窓会でもしたいな……」
 他の誰のためでもない、彼女たちにとっての憩いの場にしたい。
 その決意を胸に眞緒はカウンター席を立ち上がった。


 眞緒が立ち上がった後のカウンターの上。
 そこには先ほど店内の内装と比較するために見ていた写真たちが広がっている。
 しかし、その中に、妙に真新しい写真が一枚だけ混ざっている。
 その写真には22人全員がこれ以上無いくらいの笑顔で写っていた。
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