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テンプレってヤツですか?
あ、わかります。
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「私と君は政略結婚だ。私には愛する人が居る。君を愛する事は無い」
「右におなーじ!」
ズバッと勢いよく右手を頭上へ上げルナマリアは同意を示した。
「は…?」
唖然とした表情で、口をポカンと開け呆けたようにルナマリアを見つめるだけの旦那様。
ルナマリアは高貴な令嬢らしからぬ仕草で腕を組み、分かる分かるよと口にしながら、うんうんと頷いている。
「右におなじ…? どういう意味だ?」
「あ、こちらにはそのような同意を示す言葉は無いのですか?」
右に同じ同意を示す言葉として結構使い勝手いいのに。
「先程の発言の意味は、全く同意見だという意味です。旦那様」
「同意見…そうか。という事は、御令嬢、貴女にも他に心から愛する者が?」
「いいえ? 私と同意見であるのは“愛することはない”の所になりますね」
しっかり訂正しておこう。
「政略結婚ですし、婚約期間もたったの半年。しかも他国の相手である為に、絵姿は拝見しましたけれど、お会いしたこともない相手。その期間中に密に手紙のやり取りをした訳でもなく、婚約期間の最初と最後の挨拶程度の二通だけ。」
私も四通しか送ってないけども。
最初とそれから二通送ったけど、返事もないから送るのやめる事にしたのよね。
煩わしいと思われても嫌だし。
その時点で、政略以上の相手にはならなそうだな…むしろ寒々とした関係になるのではと、薄ら考え始めていたのだけれど。
同盟強化の為の大切な婚姻だと説明されていましたし。
他に候補もいないとなれば、腹も括りますとも。
まさかテンプレが待っていたとは。
二通との言葉に気まずそうに目線を下に下げる旦那様。
長い睫毛が影を落とし、秀麗な顔立ちが憂いを帯びる。
過去の私が見慣れた漆黒の髪がサラサラと流れ落ち旦那様の頬を掠める。
「苦情を言っている訳ではありませんので、そんなに落ち込まないで下さいな」
パッと顔を上げた旦那様。
感嘆の念を覚える美しい顔立ちに、流石は公爵家子息と思いながら、ルナマリアはそれを悟られる事なく淡々と話しを続ける。
「私が言いたいのは愛が無いのはお互い様で、この先も愛が芽生える事がないのもお互い様と言いたいのです。という訳で、白い結婚という事にしましょう」
「…それは私にとって願ってもない話だが、貴女はそれでいいのか?」
黄金を溶かしたような金色の瞳に凝視される。
目力半端ないな旦那様。
「後継はお相手の方の子とでもお作りになれば宜しいかと。子供とは授かりものですし、私とは残念ながら出来なかったという事で。
同盟強化は婚姻で果たされてますから」
「それはそうだが」
苦笑しながら気まずそうにする旦那様。
ズバズバ言い過ぎかな、私。
「流石に一年二年で第二夫人を迎えるのは醜聞なので、せめて三年間は努力した仲睦まじい夫婦を演じて下さいね。旦那様がちゃんと演技してくれないと、使用人や他貴族の方達から舐められますので」
「そうだな…それは確かにそうだ。しっかりと妻として尊重しよう」
うんうん、話せばちゃんと理解してくれるなら安心だ。
ホッとしたのが気の抜けたような笑顔まで浮かべている旦那様。
まだ17歳だもんね。
私は15歳ですけど、前世の記憶持ちだから三十路とっくに越えてますからね。
「それでは失礼して」
私は異世界魔法テンプレのアイテムボックスから短剣を取り出した。
「な!?」
旦那様が驚き警戒するのを面倒なのでスルーして、サッと己の人差し指の先を切る。
真っ白なシーツの中央よりやや下辺りに指を翳し、ポタポタと血を落とす。
白いシーツにそれっぽい感じに血を落としたら、ベッドのサイドテーブルに常備されていた、カットしたオレンジかレモンが沈めてある水差しを持ち上げる。
「香りが邪魔よね…」
これしかないから仕方ないか。
水を丸めた掌に垂らして、少量ずつシーツに撒く。
またまた唖然として固まっていた旦那様。
ようやく再起動したのか、
「何をしているのだ?」と不信感いっぱいの声色で質問してきた。
見てわからないのかな? 説明とか面倒なのだけど共犯者だし…仕方ない説明するか。
「偽装工作です」
「何の?」
「初夜のですよ。初夜に何もされてないのがバレたら、使用人に侮られます。」
「あ…そうだな。私の考えが足らなくてすまない。そのような工作は御令嬢の貴女ではなく、男の私が気を回すべきだった。申し訳ない」
旦那様謝ってばかりよね。
「気づいた者がすれば宜しいことです。私たちは共犯者なのですから、男とか女だからとかそういう括りはやめましょう」
「共犯者か…確かにな。了解した」
驚いて目を丸くした後、ニッコリと破顔した旦那様は可愛らしいと思った。
「あとは…シーツをくしゃくしゃにして…と。枕も少しへこませますか」
テキパキと偽装工作を済ませる。
「貴女は私より2歳年下だと聞いたが…物怖じしないし、手馴れていると感じるのは何故だろうか」
「?…考えすぎでは?」
前世の記憶持ちだと説明する訳にはいかないしな。
「そうだろうか…」
「いいではないですか、些末な事ですよ」
偽装工作を終えたからといって、これで終わりでは無い。
一応、事が起こっただろうくらいは時間潰しをしなければ。
自己紹介でもする?
「右におなーじ!」
ズバッと勢いよく右手を頭上へ上げルナマリアは同意を示した。
「は…?」
唖然とした表情で、口をポカンと開け呆けたようにルナマリアを見つめるだけの旦那様。
ルナマリアは高貴な令嬢らしからぬ仕草で腕を組み、分かる分かるよと口にしながら、うんうんと頷いている。
「右におなじ…? どういう意味だ?」
「あ、こちらにはそのような同意を示す言葉は無いのですか?」
右に同じ同意を示す言葉として結構使い勝手いいのに。
「先程の発言の意味は、全く同意見だという意味です。旦那様」
「同意見…そうか。という事は、御令嬢、貴女にも他に心から愛する者が?」
「いいえ? 私と同意見であるのは“愛することはない”の所になりますね」
しっかり訂正しておこう。
「政略結婚ですし、婚約期間もたったの半年。しかも他国の相手である為に、絵姿は拝見しましたけれど、お会いしたこともない相手。その期間中に密に手紙のやり取りをした訳でもなく、婚約期間の最初と最後の挨拶程度の二通だけ。」
私も四通しか送ってないけども。
最初とそれから二通送ったけど、返事もないから送るのやめる事にしたのよね。
煩わしいと思われても嫌だし。
その時点で、政略以上の相手にはならなそうだな…むしろ寒々とした関係になるのではと、薄ら考え始めていたのだけれど。
同盟強化の為の大切な婚姻だと説明されていましたし。
他に候補もいないとなれば、腹も括りますとも。
まさかテンプレが待っていたとは。
二通との言葉に気まずそうに目線を下に下げる旦那様。
長い睫毛が影を落とし、秀麗な顔立ちが憂いを帯びる。
過去の私が見慣れた漆黒の髪がサラサラと流れ落ち旦那様の頬を掠める。
「苦情を言っている訳ではありませんので、そんなに落ち込まないで下さいな」
パッと顔を上げた旦那様。
感嘆の念を覚える美しい顔立ちに、流石は公爵家子息と思いながら、ルナマリアはそれを悟られる事なく淡々と話しを続ける。
「私が言いたいのは愛が無いのはお互い様で、この先も愛が芽生える事がないのもお互い様と言いたいのです。という訳で、白い結婚という事にしましょう」
「…それは私にとって願ってもない話だが、貴女はそれでいいのか?」
黄金を溶かしたような金色の瞳に凝視される。
目力半端ないな旦那様。
「後継はお相手の方の子とでもお作りになれば宜しいかと。子供とは授かりものですし、私とは残念ながら出来なかったという事で。
同盟強化は婚姻で果たされてますから」
「それはそうだが」
苦笑しながら気まずそうにする旦那様。
ズバズバ言い過ぎかな、私。
「流石に一年二年で第二夫人を迎えるのは醜聞なので、せめて三年間は努力した仲睦まじい夫婦を演じて下さいね。旦那様がちゃんと演技してくれないと、使用人や他貴族の方達から舐められますので」
「そうだな…それは確かにそうだ。しっかりと妻として尊重しよう」
うんうん、話せばちゃんと理解してくれるなら安心だ。
ホッとしたのが気の抜けたような笑顔まで浮かべている旦那様。
まだ17歳だもんね。
私は15歳ですけど、前世の記憶持ちだから三十路とっくに越えてますからね。
「それでは失礼して」
私は異世界魔法テンプレのアイテムボックスから短剣を取り出した。
「な!?」
旦那様が驚き警戒するのを面倒なのでスルーして、サッと己の人差し指の先を切る。
真っ白なシーツの中央よりやや下辺りに指を翳し、ポタポタと血を落とす。
白いシーツにそれっぽい感じに血を落としたら、ベッドのサイドテーブルに常備されていた、カットしたオレンジかレモンが沈めてある水差しを持ち上げる。
「香りが邪魔よね…」
これしかないから仕方ないか。
水を丸めた掌に垂らして、少量ずつシーツに撒く。
またまた唖然として固まっていた旦那様。
ようやく再起動したのか、
「何をしているのだ?」と不信感いっぱいの声色で質問してきた。
見てわからないのかな? 説明とか面倒なのだけど共犯者だし…仕方ない説明するか。
「偽装工作です」
「何の?」
「初夜のですよ。初夜に何もされてないのがバレたら、使用人に侮られます。」
「あ…そうだな。私の考えが足らなくてすまない。そのような工作は御令嬢の貴女ではなく、男の私が気を回すべきだった。申し訳ない」
旦那様謝ってばかりよね。
「気づいた者がすれば宜しいことです。私たちは共犯者なのですから、男とか女だからとかそういう括りはやめましょう」
「共犯者か…確かにな。了解した」
驚いて目を丸くした後、ニッコリと破顔した旦那様は可愛らしいと思った。
「あとは…シーツをくしゃくしゃにして…と。枕も少しへこませますか」
テキパキと偽装工作を済ませる。
「貴女は私より2歳年下だと聞いたが…物怖じしないし、手馴れていると感じるのは何故だろうか」
「?…考えすぎでは?」
前世の記憶持ちだと説明する訳にはいかないしな。
「そうだろうか…」
「いいではないですか、些末な事ですよ」
偽装工作を終えたからといって、これで終わりでは無い。
一応、事が起こっただろうくらいは時間潰しをしなければ。
自己紹介でもする?
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