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プロローグ
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―――――――――――――――――――――――――
青々とし芝生の匂い。
風がフワリと吹き木々の葉が心地よい音を立てた。
葉の影模様が少女の薔薇色の頬にそっと触れるように揺れる。
陽射しの高さから、そろそろ正午の時間を告げていた。
「ん……」
久々に長い時間をかけてぐっすり眠った気がする。
思いのほか深い眠りだったようで、一度も目覚めなかったな…と考えながら、瞼をこしこしと擦りながらムクリと上半身を起こす。
固い床で寝ていたのか、体中がカチコチしているようで、「んんーーーーっ」と言葉にならない声を出しながら、ぐぐっと頭上に背伸びをして目をパチリと開けた。
「あれ? 外?」
ポカンと口を開けたまま周囲をぐるりと見まわす。
一面に広がるは木、木、木。
今寝転がっていた場所は木々に囲まれる中、ここだけポツリと丸く拓けたような場所である。
「ここ、どこ……?」
過去の記憶を遡ってみるも、全く引っかからない。
こんなにたくさんの木々に視界が埋め尽くされるような鬱蒼とした森に来た記憶が欠片もない。
ポカリと開いたこの場には陽射しが入り込み明るい雰囲気だけれど、木々が立ち並ぶ方は暗く不気味な雰囲気である。
(まさに人っ子一人居ない雰囲気だわ……)
寝起きの働かない思考でも、こんな場に一人でやって来てグースカと寝るなんておかしな話が無い事くらいわかる。
誘拐とか……拉致とか……
物騒な単語を並べるも、この場に犯人らしき存在が皆無なのも気になる。
私を誘拐するメリットも拉致するメリットも無さそうだけど……
目の病気でも患ってるストーカーでも居たのだろうか。
しばらくの間、ああでもないこうでもないと状況把握に努めてみたが、
把握出来る証拠も根拠もなく、あっさりと思考放棄した。
こんな森に水も食料も地図も何もない中放り出されてる現実。
目の前には何かが出そうな鬱蒼とした森。
移動しなければならないけれど、誰か人が居る場所にすら無事に辿り付ける気もしない。
「詰んだなー…」
八方塞がりとはこの事である。
「もしかしたら、目の病気でも患ってるストーカーさんが戻って来るかもしれないし、しばらくココで待ってよう」
誘拐・拉致されたかどうかわからないが、それにストーカーとかではなく、人を殺してみたいという動機の殺人犯なら、そもそも傷ひとつ無く五体満足にここで眠らせてる訳がない。
「何の策もなく動く方が危険度増すからねぇ」
うむうむと誰が見てる訳ではないが頷きつつ、背後の大木に背中を預けるようにして座り直す。
それから――――陽射しが少し動いて、体感で一時間程の時間が経過した。その間、人の気配は微塵もない。
もっというなら生き物の気配も微塵もない。
待ちくたびれ、無駄に色々想像し過ぎて疲れ、ぼーっとする思考の中、耳元で何か音がした気がして、何の気なしに音がした方へと視線を向けて啞然とした。
「……えっ!?」
ふわふわと空中に浮かぶ小さな人間。
背中にトンボの翅のようなものを四枚背負い、それがパタパタと音を立てている。
どうみても某テーマ―パークの緑の衣装を着た妖精そのもの姿。
ただ衣装は某妖精よりは露出の少ない白いワンピース。
キラキラした黄金の粉を振りまく代わりに、小さな体全体が薄く発光してる気がする。
『お待たせ~! お迎えの準備が出来たよ! そろそろ移動しようか!』
小さくて翅を背後に背負い空中に浮く不思議な人間……
頭の中に直接響く声に思わずビクッと飛び跳ねてしまった。
『あれ? どうしたの?』
きょとんとした顔をしながら、私に話しかけているのは目の前の小さな人間でいいらしい。
唇の動きに合わせて私の頭の中に声が届く。
「あのー、貴女は妖精…さんって事でいいでしょうか?」
『ん? どうしたのそんな話し方しちゃって。妖精さん? って他人行儀よね。妖精は妖精だけど名前がありますぅー、名前忘れちゃった?』
拗ねたように唇を尖らせて、まるで仲良しの友達のように接してくる妖精。
誰かと勘違いしているのだろうか、妖精なんて物語でしか知らない存在であるのにこの不思議な存在に対して、不審や恐怖をまるで感じない私も大概だけれど。
会った事あるというより、さっきまで一緒に居てちょっと待ってて貰っただけのような会話に、頭の中にたくさんの?が並ぶ。
『メリア悲しいぃ~、そんな余所余所しい態度で話されるなんて、悲しくて涙が出そうだよぉ~』
泣く真似をするように目の下に両手を添えこするように手を動かす名はメリアというらしい妖精。
全く記憶にない。
記憶にないのが当然だ。だって、妖怪とか悪魔とか天使とか、そういう存在の妖精なんて現代日本で本の中以外で見た事などある筈もない。
「会った事ありましたっけ…」
思わずポロリと本音が漏れた。
わざとではない。
でも、もうわけのわからない今のこの状況から、自分で思うよりパニックになってるのかもしれない。
情緒は落ち着いてるけれど、脳内がパニック。
うん、訳が分からない。
漏れ出た本音を聞いた妖精メリアは、ウソ泣きを止めてガーンといった効果音が付くような表情をして、距離を詰め私の頬にびたんと貼りついた。
「ひいっ」
突然の事に思わす小さな悲鳴が漏れる。
『酷い! なんでそんな事言うの! 酷いひどい!ううっ、うぇぇん、ほんとうに、ひーどーいーっ!』
どうやら怒りながら泣いてるらしい。
ぐりぐりと頬に小さな顔を擦り付けられているのだけれど、少し水気を感じる。
泣かせちゃったよ……
でも、私も泣きたいよ……
「ごめんね……」
泣き喚く妖精に謝罪をし、あとは妖精ミリアが泣き止むまで静かに思考放棄したのだった。
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