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お話、聞いていきませんか。
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あれ、こんな貧相な場所に来ちゃったんですか。周りには沢山、こんなのよりも面白い話をしてくれる人がいるというのに。
…まあいいでしょう。せっかくなので、僕の話を聞いていってはくれませんか。あはは、大した話ではありませんがね。
それでは、さっそく。
こんな僕の街にも、実は秘境みたいな場所があるんです。朝は四季を通してずっと霧の濃い、そんな山道を抜けて、まるでその道を通った時点で別の世界にいるんじゃないかという不思議な錯覚を覚えるでしょう。少し風が吹くたびに、その白い霧がひんやりと体の表面を冷やしますよね。聞こえてくるのは、コオロギとか鈴虫とか、多分そこらへんの虫達の鳴き声。不思議でしょう。年中ですよ、年中。春も、夏も、秋も、冬も。そう、朝だけは何も変わらないんです。
そんなのを感じながら、歩いたり、走ったり。少しずつ山道を登っていくでしょう。ほら、一メートル先なんて霧で真っ白なんですよ、面白くて面白くて。熊なんかが出たら、恐らく腰を抜かして動けなくなります。
そう、それで。いくらか進むと、少しずつ足元に芝生が見えてきます。今までは土肌が露わだったっていうのにね。その芝生の濃いところ濃いところを進んで行きますでしょう。そうしたら、気がつくとそこは、もう森を抜けた、開けた世界なんです。
あ、足元を見てみてください。それは芝生ですか。いいえ、多分芝生ではありませんよね。なんて言ったって、白銀色なんですよ、葉が。土は他と変わらず黒いのにです。不思議ですよねえ。
その原っぱを、霧に包まれた原っぱを、足元の芝だけを頼りに歩き回ります。さく、さく、さく、と、白銀色の葉の表面に立っていた霜の心地よい音が耳をくすぐります。まだ虫達の声は聞こえているのですよ。とても、とても不思議な感覚に陥ります。
静かです。余計な音は一つも存在しない。とてもとても、その原っぱは静寂に包まれています。
ここで一度、後ろを振り返ってみましょう。
…はい、白い霧です。くるくると辺りを見回しますよね、でも、そうすればそうするほど、帰り道が分からなくなります。
そんな時、ある一点に向けて視界が開けるんですよ。さーっと、霧が立ち退いていくように、いいえ、まるで霧に空気で穴を開けたように。今までは目の前の霧しか見えていなかったのに、今では数十メートル先の霧まで見えます。
でもちょっと待って下さい。その手前に、何か見えませんか。
え、何も見えない?
いやいやそんなはずはありません。
ほら、もっと目を凝らして、座りこんだ長い髪の少女がそこに見えるでしょう。明るい茶色の長い髪を霧の流れに揺らしながら、白いワンピースの裾を泥で汚していますよ。
そう、少女は座り込んで、何やら足元の土を掘り返しています。
ああ、気になりますか。そうですね、では少し近づいてみましょう。
霧のトンネルに踏み入ります。さく、さく、さく、と少女にだんだんと近づいて、その白いワンピースに編まれた白いバラの模様に目を惹かれますよね。でも、見るべきは少女の行動でしょう。
見てください、少女の爪は土で真っ黒ですよ。
白桃色の綺麗な肌に、その汚れた爪と指先は嫌に目立ちます。それにしても、これほどまでに綺麗な肌をした人間がこの世に存在していただなんて、まるで夢のようです。
顔は髪で隠れていて、斜め上からではよく見えません。
どうです、気になりますか、その少女の顔、行動、存在。そして、この原っぱについて。
ですが胸に手を当ててみてください。もう、ゆっくりですよね。呼吸もなんだか穏やかです。
さて、今日はこの辺でいいでしょう。
もしまた会えるときがあれば、続きはその時に是非ともお話しさせて頂きます。
それでは、おやすみなさい。
こっちの世界に、来てはいけませんよ。
…まあいいでしょう。せっかくなので、僕の話を聞いていってはくれませんか。あはは、大した話ではありませんがね。
それでは、さっそく。
こんな僕の街にも、実は秘境みたいな場所があるんです。朝は四季を通してずっと霧の濃い、そんな山道を抜けて、まるでその道を通った時点で別の世界にいるんじゃないかという不思議な錯覚を覚えるでしょう。少し風が吹くたびに、その白い霧がひんやりと体の表面を冷やしますよね。聞こえてくるのは、コオロギとか鈴虫とか、多分そこらへんの虫達の鳴き声。不思議でしょう。年中ですよ、年中。春も、夏も、秋も、冬も。そう、朝だけは何も変わらないんです。
そんなのを感じながら、歩いたり、走ったり。少しずつ山道を登っていくでしょう。ほら、一メートル先なんて霧で真っ白なんですよ、面白くて面白くて。熊なんかが出たら、恐らく腰を抜かして動けなくなります。
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あ、足元を見てみてください。それは芝生ですか。いいえ、多分芝生ではありませんよね。なんて言ったって、白銀色なんですよ、葉が。土は他と変わらず黒いのにです。不思議ですよねえ。
その原っぱを、霧に包まれた原っぱを、足元の芝だけを頼りに歩き回ります。さく、さく、さく、と、白銀色の葉の表面に立っていた霜の心地よい音が耳をくすぐります。まだ虫達の声は聞こえているのですよ。とても、とても不思議な感覚に陥ります。
静かです。余計な音は一つも存在しない。とてもとても、その原っぱは静寂に包まれています。
ここで一度、後ろを振り返ってみましょう。
…はい、白い霧です。くるくると辺りを見回しますよね、でも、そうすればそうするほど、帰り道が分からなくなります。
そんな時、ある一点に向けて視界が開けるんですよ。さーっと、霧が立ち退いていくように、いいえ、まるで霧に空気で穴を開けたように。今までは目の前の霧しか見えていなかったのに、今では数十メートル先の霧まで見えます。
でもちょっと待って下さい。その手前に、何か見えませんか。
え、何も見えない?
いやいやそんなはずはありません。
ほら、もっと目を凝らして、座りこんだ長い髪の少女がそこに見えるでしょう。明るい茶色の長い髪を霧の流れに揺らしながら、白いワンピースの裾を泥で汚していますよ。
そう、少女は座り込んで、何やら足元の土を掘り返しています。
ああ、気になりますか。そうですね、では少し近づいてみましょう。
霧のトンネルに踏み入ります。さく、さく、さく、と少女にだんだんと近づいて、その白いワンピースに編まれた白いバラの模様に目を惹かれますよね。でも、見るべきは少女の行動でしょう。
見てください、少女の爪は土で真っ黒ですよ。
白桃色の綺麗な肌に、その汚れた爪と指先は嫌に目立ちます。それにしても、これほどまでに綺麗な肌をした人間がこの世に存在していただなんて、まるで夢のようです。
顔は髪で隠れていて、斜め上からではよく見えません。
どうです、気になりますか、その少女の顔、行動、存在。そして、この原っぱについて。
ですが胸に手を当ててみてください。もう、ゆっくりですよね。呼吸もなんだか穏やかです。
さて、今日はこの辺でいいでしょう。
もしまた会えるときがあれば、続きはその時に是非ともお話しさせて頂きます。
それでは、おやすみなさい。
こっちの世界に、来てはいけませんよ。
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