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第2章 新しい生き方

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 白い薄衣を身に着け、仮面を付けた男女が、寝台の上で正面から抱き合っている。
 服を着ているとは言え、男が着ているものは胸は開け、丈が短いため角度によってはお尻が丸見えだ。
 女性が着ているものも、結び目が簡単に解ける細い肩紐で釣った腿までの長さしかない。
 そして二人は下着を着けていない。
 
「ハア、はあ、はあ」

 ブチュ、ブチュ

 そして今まさに男の陰茎が女の秘部に挿入されていて、一心不乱に男が腰を振っている。男と女の結合している部分から水音が聞こえ、女の腰も震える。

「う…だめだ…もう…まだですか?」

 食いしばった歯の隙間から、男が苦しげに訴え、寝台の脇に控えているヴェールを被った人物を見る。

「まだです。そこでもう少し力を込めてください」
「…さ、さっきも…そう言ったじゃ…ないか」

 恨みがましい視線で男が睨む。

「でも、奥様はですよね」

 女性はそう言って組み敷かれている女性に視線を向ける。

「ええ…まだ…です。もう少し」
「な、なんだと…一体どれだけ…かかる」
「腰が止まっていますよ。その無駄口を止めて、ほら、奥様の胸を弄るとか口づけをしてあげてください」
「……くそ、忌々しい!!」
「女性がイクのには時間がかかるのです。そんなことも知らずに何年も夫婦をしてきたのですか。自分だけ果ててさっさと寝てしまうから、奥様は満たされず愛想を尽かそうとしているのですよ」
「………そうよ。あなたったら、自分だけイッテ満足して寝てしまうのですもの…」
「夫婦の生活を取り戻す。そのためにここに来たのですよね。言うことがきけないなら…」
「わかった。わかったから、やればいいのだろう」

 男は豊かな妻の胸に齧り付き、先端を舌で転がし始めた。

「あ、んん、あぁあなた…いい、いいわぁ」

 妻は嬌声を上げ、胸を夫の胸にさらに押し付けるように背中を反らす。
 妻の乱れた姿に、夫の腰を振る速度が増す。
 バチュンバチュンと肌がぶつかる音と、女の嬌声が部屋に響く。
 
「ああ…イく……いく…イく…」
「さあ、後少しです。頑張ってください」

 男の額から汗が飛び散り、ポタポタと女の肌に落ちていく。

「ああ、あなたぁ、口づけ…唇に…」

 妻が叫び夫は胸から顔をあげて、待ち受ける妻の唇を奪う。

「………!、!」

 夫の腰に巻き付けた妻の足がピンと張り詰め、浮かした体がビクビクと震える。
 
「今です」

 ヴェールの女が叫び、引いた腰を男が思い切り打ち付ける。尻の肉に力が入るのがわかる。
 
「ああ…あぁ、感じる。あなたのものが…熱い…あああぁ」
「うう…そんなに、締め付けるな…熱い…搾り取られる」

 妻のお腹の奥深くに突き刺した夫が、今まさに精子を注入している。それを妻が絞りとろうと力を込めている。
 ほどなくして二人の体からどっと力が抜けて、妻の胸に夫が顔を埋めてはあはあと肩で息をした。
 妻はそんな夫の体を愛おしそうに抱きしめた。

「あなた。素敵だったわ。こんなに満たされたのは初めて」

 妻よりも夫のほうが息が上がっている。

「一時間ほどしたら、隣にお湯を用意しておきます。お体を拭いて着替えてから下にお出でください。飲水もこちらに置いておきます」

 ヴェールの女が立ち上がり、二人に声をかけてそのまま部屋を出ていこうとする。

「あり…がとうございます。半信半疑でしたけど、ここに来て良かった」

 妻が女性に話しかける。

「こんなに…満たされるものなのですね。初めてです」
「これはまだ序の口です。男女の交わりは奥深いのですよ」
「ふん。大金を払っているのだ。結果が伴わなければ詐欺で訴えてやるところだ」
「あなた、そんなこと…」
 
 ひたすら感謝する妻とは反対に、夫の方は悪態をつく。
 それを妻が嗜める。

「構いませんよ。よくあることですから、慣れております」

 そう言って女は部屋を出ていった。

「ふう…」

 部屋を出ると、女はヴェールを取り払って深く吐息を吐いた。
 それから階段を降りていく。

「お疲れ。うまくいった?」
「なんとか。なかなか堪え性のない旦那さんでした」

 階下ではアネカが待ち受けていた。

「仕方がないよ。うちにくるお客の男性は、大抵が独りよがりの性交で、満足しているんだから」
「奥様のほうは、初めてイッと仰っていました」
「すっかり慣れたみたいただね」
「お陰様で、師匠が厳しいので」

 イヴォンヌは、肩を回して体を解しながら言った。

「もう半年かぁ…イヴォンヌが来て」
「イビィです。それと、半年ではなく明後日で一年になりますよ」
「へえ、もうそんなに経ったのかい」

 相変わらず大雑把で適当だなと、イヴォンヌはアネカに笑った。
 初めてアネカと出会ってからもうすぐ一年。
 最初は彼女の商売をなかなか受け入れられず、ここを出るべきか本気で悩んでいたイヴォンヌだったが、住めば都とはよく言ったもので、すっかりここの雰囲気に慣れてしまっていた。
 今日のように対応するようになったのは、まだ一ヶ月程で、今の客はまだ五組目だったが、仕事と割り切れば、意外と平静な自分に彼女自身驚いていた。
 「素質あるよ」とアネカに太鼓判を押され、処女なのに、耳年増になりつつある。
 人生って何があるかわからないと、感慨深くため息を吐きながら、アネカと暮らし始めた頃の自分に、イヴォンヌは思いを馳せた。
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