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第1章 悪夢の結婚式
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「え、今、何て仰ったの?」
イヴォンヌは、居間のソファーに座り、たった今父親から聞いた言葉を聞き返した。
「パーシーとの結婚は予定通り行う。しかし、花嫁はお前ではなく、ミランダとする」
「そ、そんな…馬鹿な」
信じられない。挙式前日になって花嫁が変わるなど、何の冗談だろう。
イヴォンヌは彼女の言葉に同意してくれそうな人物を探して、その場にいる面々の顔を見廻した。
今話した父親は無理だ。
隣にいる義母は、そもそもイヴォンヌの味方になど成りえない。
前妻の忘れ形見であるイヴォンヌに、一度も微笑みかけたことも、優しい言葉を掛けてくれたこともない。
彼女がイヴォンヌに向ける言葉は、「あれをするな」「これをするな」「ダリアーニ子爵家の娘として弁えろ」「姉なのだから妹に譲れ」だった。
そう、いつも義母のエラは自分の連れ子である三歳下のミランダに、イヴォンヌのものを譲れと命令する。
父が買ってきた土産の一番いい物はミランダに。イヴォンヌの亡くなった母親の遺した物ですら、ミランダが欲しいと強請れば、取り上げられる。
これは私のお母様の物だからと言っても、容赦はない。しかし泣く泣く譲った物なのに、ミランダはイヴォンヌから取り上げると、すぐに飽きて捨ててしまうのだ。
「ミランダは妊娠している。パーシーの子だ。生まれてくる子供のためにも、お前が譲ればすむことだ」
「で、でも…お客様は…そんなこと…司祭様だって…ド、ドレスだって…」
支離滅裂になってイヴォンヌは呟く。
「ドレスは少し詰めれば何とかなりますわ。他人のためのドレスだけど、我慢してねミランダ」
「仕方がありませんわ、お母様。愛するパーシーと結婚出来るなら我慢します」
「本当はきちんと支度をし直してやりたいところだが、遅くなるとお腹が目立つしな」
父たちの間では、すでに花嫁交替が決まったとばかりに話す。
ー我慢? ミランダが我慢?
イヴォンヌは最後の頼みの綱と、サットン夫妻に目を向ける。
しかし、彼らはイヴォンヌから視線を反らし、顔を合わせようとしない。
サットン家は貴族ではない。
このブロムダール王国でも五本の指に入る商家で、パーシーはそこの次男だ。
サットン家の目的は貴族と縁続きになることで、ダリアーニ子爵家はサットン家からの経済的援助が必要なのだ。
互いに家同士の利益が絡んだ縁組ではあったが、父親が望むならとイヴォンヌも受け入れたのだった。
「う、うちは、予定通りダリアーニ子爵家との縁組が整うなら、相手はミランダさんでも…」
苦しげにサットン氏が言う。
「で、でも…ミランダは…ダリアーニ家の…お父様の実の娘では…」
「イヴォンヌ!」
父が立ち上がって、バシンとイヴォンヌの頬に平手を打ち付けた。
火花が散り衝撃で体が揺らいだ。口の中が切れたのか、血の味が広がる。
「お前は、そのような心無い人間なのか!」
「ひどいわお姉様…うう、確かに私は…お父様とは血は繋がっていません」
「エラと私は正式に夫婦だ。その娘のミランダも、実の娘だと思っている。すでに共に暮らし始めて十年だ。それなのに、お前はまだ二人を家族と認めないというのか」
父親の激した声が夜中の子爵家に響き渡る。
住み込みの使用人たちも既に起きてきて、開いた扉の隙間から様子を窺っている。
ヒリヒリと痛む頬を、イヴォンヌは手で抑えながら、激高する父を見上げた。
「イヴォンヌさん、寂しいですわ。あなたは今でも私のことを母とは認めてくれないのですね」
「ひどいわお姉様…わ、私は…お姉様が出来たと喜んでいたのに…わ、私は…」
「イヴォンヌ、僕がミランダに惹かれたのは彼女が魅力的だからだが、それだけではない。僕も君と婚約して五年になるが、いつまで経っても打ち解けてくれず、つれない君の相手に疲れたんだ」
「パ、パーシー…でも、でも私は…」
男性慣れしていないイヴォンヌは、パーシーに対してどう付き合えばいいのかわからない。
その上、母親を亡くした幼い娘をどう扱えばいいのかわからなかった父は、母方の祖母に暫く彼女を預けた。
祖母は利口であったが、厳格な面もあって、貞淑であることを孫に教え込んだ。
だからなのか、イヴォンヌの貞操観念はかなり古いと言えるかもしれない。
それでも、正式な夫婦となれば、すべてパーシーに任せて何とか切り抜けようと思っていたが、それすらもイヴォンヌはきちんと彼と話せていなかった。
式までにすることが多く、最近は父の代わりに子爵家の業務もこなしていたこともあり、彼とはすれ違いが続いていたことも要因だ。
しかし、そのすれ違いもイヴォンヌが思っていたものではなく、ミランダと会う時間のためにイヴォンヌと会う時間を削っていたのだと気づいた。
「まったくこのような冷たい心の娘だとは思わなかった。イヴォンヌと結婚していたら、パーシーを不幸にするところだったよ。申し分ない、パーシー」
「い、いいえ、その、僕ももっと早くにミランダとのことを話すべきでした。でも、イヴォンヌは忙しいと言ってなかなか取り合ってくれなくて…」
「そ、そんな」
忙しいと会ってくれなかったのは、パーシーのほうだ。結婚式のことで相談したいと声をかけても、君の好きなようにすればいいとしか言ってくれなかった。
イヴォンヌは、居間のソファーに座り、たった今父親から聞いた言葉を聞き返した。
「パーシーとの結婚は予定通り行う。しかし、花嫁はお前ではなく、ミランダとする」
「そ、そんな…馬鹿な」
信じられない。挙式前日になって花嫁が変わるなど、何の冗談だろう。
イヴォンヌは彼女の言葉に同意してくれそうな人物を探して、その場にいる面々の顔を見廻した。
今話した父親は無理だ。
隣にいる義母は、そもそもイヴォンヌの味方になど成りえない。
前妻の忘れ形見であるイヴォンヌに、一度も微笑みかけたことも、優しい言葉を掛けてくれたこともない。
彼女がイヴォンヌに向ける言葉は、「あれをするな」「これをするな」「ダリアーニ子爵家の娘として弁えろ」「姉なのだから妹に譲れ」だった。
そう、いつも義母のエラは自分の連れ子である三歳下のミランダに、イヴォンヌのものを譲れと命令する。
父が買ってきた土産の一番いい物はミランダに。イヴォンヌの亡くなった母親の遺した物ですら、ミランダが欲しいと強請れば、取り上げられる。
これは私のお母様の物だからと言っても、容赦はない。しかし泣く泣く譲った物なのに、ミランダはイヴォンヌから取り上げると、すぐに飽きて捨ててしまうのだ。
「ミランダは妊娠している。パーシーの子だ。生まれてくる子供のためにも、お前が譲ればすむことだ」
「で、でも…お客様は…そんなこと…司祭様だって…ド、ドレスだって…」
支離滅裂になってイヴォンヌは呟く。
「ドレスは少し詰めれば何とかなりますわ。他人のためのドレスだけど、我慢してねミランダ」
「仕方がありませんわ、お母様。愛するパーシーと結婚出来るなら我慢します」
「本当はきちんと支度をし直してやりたいところだが、遅くなるとお腹が目立つしな」
父たちの間では、すでに花嫁交替が決まったとばかりに話す。
ー我慢? ミランダが我慢?
イヴォンヌは最後の頼みの綱と、サットン夫妻に目を向ける。
しかし、彼らはイヴォンヌから視線を反らし、顔を合わせようとしない。
サットン家は貴族ではない。
このブロムダール王国でも五本の指に入る商家で、パーシーはそこの次男だ。
サットン家の目的は貴族と縁続きになることで、ダリアーニ子爵家はサットン家からの経済的援助が必要なのだ。
互いに家同士の利益が絡んだ縁組ではあったが、父親が望むならとイヴォンヌも受け入れたのだった。
「う、うちは、予定通りダリアーニ子爵家との縁組が整うなら、相手はミランダさんでも…」
苦しげにサットン氏が言う。
「で、でも…ミランダは…ダリアーニ家の…お父様の実の娘では…」
「イヴォンヌ!」
父が立ち上がって、バシンとイヴォンヌの頬に平手を打ち付けた。
火花が散り衝撃で体が揺らいだ。口の中が切れたのか、血の味が広がる。
「お前は、そのような心無い人間なのか!」
「ひどいわお姉様…うう、確かに私は…お父様とは血は繋がっていません」
「エラと私は正式に夫婦だ。その娘のミランダも、実の娘だと思っている。すでに共に暮らし始めて十年だ。それなのに、お前はまだ二人を家族と認めないというのか」
父親の激した声が夜中の子爵家に響き渡る。
住み込みの使用人たちも既に起きてきて、開いた扉の隙間から様子を窺っている。
ヒリヒリと痛む頬を、イヴォンヌは手で抑えながら、激高する父を見上げた。
「イヴォンヌさん、寂しいですわ。あなたは今でも私のことを母とは認めてくれないのですね」
「ひどいわお姉様…わ、私は…お姉様が出来たと喜んでいたのに…わ、私は…」
「イヴォンヌ、僕がミランダに惹かれたのは彼女が魅力的だからだが、それだけではない。僕も君と婚約して五年になるが、いつまで経っても打ち解けてくれず、つれない君の相手に疲れたんだ」
「パ、パーシー…でも、でも私は…」
男性慣れしていないイヴォンヌは、パーシーに対してどう付き合えばいいのかわからない。
その上、母親を亡くした幼い娘をどう扱えばいいのかわからなかった父は、母方の祖母に暫く彼女を預けた。
祖母は利口であったが、厳格な面もあって、貞淑であることを孫に教え込んだ。
だからなのか、イヴォンヌの貞操観念はかなり古いと言えるかもしれない。
それでも、正式な夫婦となれば、すべてパーシーに任せて何とか切り抜けようと思っていたが、それすらもイヴォンヌはきちんと彼と話せていなかった。
式までにすることが多く、最近は父の代わりに子爵家の業務もこなしていたこともあり、彼とはすれ違いが続いていたことも要因だ。
しかし、そのすれ違いもイヴォンヌが思っていたものではなく、ミランダと会う時間のためにイヴォンヌと会う時間を削っていたのだと気づいた。
「まったくこのような冷たい心の娘だとは思わなかった。イヴォンヌと結婚していたら、パーシーを不幸にするところだったよ。申し分ない、パーシー」
「い、いいえ、その、僕ももっと早くにミランダとのことを話すべきでした。でも、イヴォンヌは忙しいと言ってなかなか取り合ってくれなくて…」
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