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47 地球は誰のもの

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映像では、地球の歴史の中で様々な出来事がトゥールラーク人の仕業、または策略だとされていた。
恐竜の滅亡はもちろん彼らが地球にやってきたせいだし、、氷河期の始まりも彼らが地球の気候を操作しようとして失敗したということになっていた。
ペストなどの疫病の流行は、彼らが地球人の体を作り変えようとした弊害の結果で、魔女裁判はトゥールラーク人の子を身籠ることを拒絶した女性を、見せしめにした結果だと言っていた。
戦争は全て「ホワイトブラッド」とトゥールラーク人の抗争とされ、二度の大戦は「ホワイトブラッド」の中では聖戦とされていた。
地球上にある宗教も、元はトゥールラーク人を受け入れやすくするための思想を植え付けるため、政治家が説く政策も、トゥールラーク人に操られているということだった。
地球温暖化や環境破壊、続く災害もすべて恐竜滅亡の時と同じように、トゥールラーク人のせい。
勧善懲悪のドラマはスカッとするが、その映像はトゥールラーク人への悪意が一方的過ぎて、和音は胸がムカムカし始めた。
それが映像に対する嫌悪なのか、それとも悪阻なのかわからない。
しかし、ウトウトすると音量が大きくなり、すべて見終わるまで眠ることも許されなかったため、最後の方は意識が朦朧としていた。

ようやく映像の最後が「つづく」ではなく、「終わり」となり、画面が暗くなった瞬間、和音はパタリとソファに倒れ込んだ。

頭の中は映像の途中で聞こえていた音楽がずっとリフレインしていて、超絶な口調で語られるナレーションのセリフが重なって蘇る。

「うっ」

こみ上げる吐き気に耐えきれず、和音はバスルームへと駆け込んで、便座の蓋を上げるのももどかしく、便器に顔を突っ込んだ。

頭痛と繰り返し襲ってくる吐き気、涙まで流れてきた。

「大丈夫ですか?」

便器に齧りつくようにして込み上げる吐き気と戦っている和音に、バスルームの入口から声をかけてきたのは高野だった。

「大丈夫です」

口元を拭いむすっと無愛想に答えた。

「嫌われてしまったようですね」

和音の態度に高野が苦笑いする。

「逆に嫌われていないと思うほうがおかしいです」
「私は和音さんを助けたかったんです」
「助ける?」
「そうです」
「何から? 私は十分あのままで幸せでした」
「そんなものはまやかしです。あなたも観たんでしょ、あの映像を。何も思いませんでしたか? 無意識のうちに支配され、利用される。あなたは勝手に子種を植え付けられて、彼らの子孫を産まされるんです。それでいいんですか」
「いいとか悪いとか、誰が判断するんですか…う」

話をしながらまた吐き気が込み上げ、便器に顔を向けた。

「悪阻、酷いんですか?」

高野の声がさっきより近くで聞こえ、背中をさすってきた。

「触らないで」

振り返って彼女の手を跳ね除けた。

「触らないでください。助けはいりません」
「でも」
「放っておいてください。心配してくれるなら、私を彼の元へ帰してください」
「それは出来ません」
「どうして?」
「あなたは地球人なのですよ。地球人として、この地球を外敵のいいようにされて、いいと思いますか?」
「外敵ってトゥールラーク人は…」
「多くの地球人が、何の疑いもせずこの地球上で生活しています。自分たちの地球がすでに異星人に乗っ取られているとも知らずに」
「あなたも、あの映像を観たんですか?」
「はい。驚きました。無知というものがどれほど罪深いものか思い知りました」
「あなたは、そう受け取ったんですね」

だから彼女はホワイトブラッドに入ったのだろう。

「あなたは、違うのですか?」
「わかりません。でも、あなたのようには、すぐには思えませ…」

もう吐くものはないのに、吐き気がまた襲ってきて、和音は便器に顔を向けた。
まるでさっきの映像をすべて洗い流そうとするかのように。

「それはいけません」

和音が拒絶したので、高野はもう手を差し伸べることはしなかった。
代わりに厳しく張り詰めた声が降ってきた。

「真実はひとつなのに、何を迷っているんですか。あなたには地球人としての誇りがないんですか」
「地球人としての誇り?」
「そうです。この地球は、ここは私達が生きていく場所です。この惑星ほしは、私達のもの。異星人に支配されたままで良いわけがありません」
「でも、地球は、人間だけのものじゃないですよね。植物も、動物もいる。生物は人間だけじゃない」
「それはもちろん、でも共通しているのはこの地球で生まれたこと。あいつらとは違う」
「この子だって、地球で生まれ育つ。燕もそうやって生まれてきた。何が違うの?」

和音は自分のお腹に手を当てる。

「すでにあなたをそんなに苦しめている存在が、それほど大事ですか?」

目の前に立ち、和音を見下ろす高野の視線は氷のように冷たい。

「妊婦に悪阻は当たり前ですよね。この子が誰の子だろうと、それは同じです」

深々と高野がため息をついた。

「まだ説明が足らなかったようですね」
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