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46 真実の歴史とは

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Xは和音のお腹の子を交渉の道具として使おうとしていると、はっきり言った。
和音は画面の向こうのXから守るように両手をクロスして、お腹に当てた。

「そうそう、高野と大平のことですが、仲間で間違いありません」
「彼らは特殊任務でトゥールラーク人に関する事案を担当していると聞きました」
「それも間違いありません」
「警察関係者は全員『ホワイトブラッド』の人たちなんですか?」
「そう、と言いたいところですが、違います」

ということは、警察組織全体がトゥールラーク人に敵意を持っているわけじゃないことか。警察関係者が全国にどれくらいいるのかわからないが、全てを敵にするわけじゃなさそうで和音は安心した。

(私、燕のことを心配してる)

Xがトゥールラーク人が悪のように言っているのを聞いても、和音は燕のことをそこまで悪く思えない。それどころか燕を心配していることに気づく。

「しかし、我らの組織は日本だけでなく全世界に散らばっている。ニューヨークにもね」
「ニューヨーク?」
「ヘリコプターでニューヨーク観光とは、随分呑気ですね」
「え?」

なぜ彼がそれを知っているのか。和音は身を固くした。

「言ったでしょ。我々の仲間は世界中にいる。そして見張っている。ニューヨークの仲間があいつを見つけて、ヘリを攻撃したそうです」
「攻撃?」

和音はあの時揺れたヘリのことを思い出す。

「攻撃、あれはあなたたちが? どうやって?」
「我々の仲間には技術に長けた者がおります。ヘリの計器に少し細工をしただけです。本当に落とすつもりはなかったようですが」

あの時の恐怖が蘇り、体が震えた。落とすつもりはなかったと言われても、ひとつ間違えば落ちていたかも知れないのだ。
燕を攻撃したにしろ、パイロットも坂口も和音もいた。なのに彼らは和音達のことを考えなかったのだろうか。

「彼らは長い年月を掛けて地球に住み着き、統治者気取りで我が物顔で人の領域を闊歩している。地球を動かしているのは自分たちだと驕り、我々地球人を手駒か何かと勘違いしているのだ」

Xはトゥールラーク人を悪し様に言っているが、彼は自分たちが地球人の和音やパイロットたちが巻き添えになって死んだかもしれないとは思わないのだろうか。

彼が熱く語れば語るほどに、和音はその主張のずれに違和感を感じた。

「でも、彼は共存しているだけで支配はしていない。地球人の進化に応じて手助けはしてきたけど、過度な干渉はしないって」
「いいように騙されているだけだ。単純な者ほど洗脳しやすいようだ」
「・・・・」

単純な者というのは和音のことを言っているのだろうか。失礼な物言いにむっとなる。
燕から聞いた話と、Xから聞かされた話は少しずつずれているのがわかる。
どちらが正しいのだろうか。
仮に燕が嘘を言っているとして、本当にトゥールラーク人が地球を牛耳っているとするなら、和音にあんな風に話した理由は何だろうか。
和音を信用させるため? 
そもそも勝手に妊娠させた時点で、燕に対する和音の心象は悪い。どんなに正当性を訴えても、その時点で身勝手だと和音が思って拒絶すれば終わりだ。
権力に興味はないが、絶対的な支配者だと言った方が、和音はなびいたかもしれない。
あくまで共存だと言い切る真意はどこにあるのか。

「今すぐ判断がつかないなら、考える時間をあげましょう。我々がいかに正しいか。トゥールラーク人がどれだけ卑劣で狡猾か、今からじっくり教えてあげましょう」

和音が黙ったまま自分の言葉に同意しないので、彼は少し苛立っているようだ。

「何を教えるというんですか?」
「今から流す映像を見れば、あなたも納得するでしょう」

それだけ言ってXは画面から消え、次に画面に映し出されたのは「トゥールラーク人の実体~水の星地球を我らの手に取り戻そう~①」というタイトルだった。

「何これ」

それは恐竜の時代の終わり。トゥールラーク人がこの地球に現われてから今日に至るまでの、長い歴史の中でトゥールラーク人がやってきただろうとされる支配の歴史と、地球人に対する迫害や支配の記録をドキュメンタリー形式で作成したものだった。

映像の中でトゥールラーク人の姿は蜥蜴で、これでもかというほど残虐に描かれていた。
①が終わると、次は②が始まり、和音は途中で睡魔に襲われながら、⑤までの映像を見せられた。

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