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44 窓のない部屋

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ガタガタと和音は何度も扉の取手を動かすが、まったく微動だにしなかった。

窓の方もガラスのあった場所には分厚い壁で塞がれている。

「だめね。どこからも出られない」

部屋の中を見回し、和音は深々とため息を吐いてソファにぽすんと座り、背もたれに頭を預けて天井を仰いだ。

部屋の中にはトイレもバスルームもある。ベッドもソファもあって、広めのワンルームマンションだと思えば暮らすには困らない。
そして壁には大きなモニターが取り付けられている。探したがリモコンらしきものは見当たらないので、和音からは操作できないのかも知れない。

ただ、問題は和音がここに閉じ込められているということだった。

携帯電話は没収されてしまい、時計もなく陽の光も差さない部屋で、今が一体昼なのか夜なのかもわからない。

もう一度部屋を見回し、和音はこれまでの経緯について思考を巡らせた。

和音の対応に激怒した父が怒鳴り散らしているところに入ってきたのは、高野だった。

「たか…」
「連れて行って」

彼女はガラスの向こうの制服警官に指示する。彼はまだブツブツ言っている尊を扉の向こうに引っ張っていった。

「まだ話は…」

と文句を言っていたが、それは無視された。

「使えない男ね」

高野がチッと舌打ちした。

「高野さん?」
「親子の情に期待したけど、そもそもクズだったわ。交渉にすらならないなんて」

父がいた側には誰もいない。空になったその場所から視線を移し、現れた高野を見上げる。後ろには大平もいる。
謁見はもう終わりと考えていいのだろうか。

「あの、もう帰っていいのですか?」

和音としては言いたいことは言ったつもりなので、後は父の問題だ。

「お帰りになる前に少しよろしいですか?」
「はい」

そう言われて、和音は彼女の後ろについて外へ出た。

「あれ、坂口さんは?」
「少し用があると言って、外へ出ていかれました。戻ってくるまでこちらで用意した部屋でお待ち下さい」
「わかりました」

用とは何だろうと思いながらも、和音のためにバミューダまでついてきてくれ、ずっと和音につきあわされているのだ。彼女も済ませたい用事だってあるだろう。

そしてそのまま高野たちに挟まれてエレベーターに乗った。

「あの、どこへ」

上に行くのか下に行くのかわからず、高野の方を向いた瞬間、顔に何かを吹きかけられてそのまま意識を失ったのだった。

そして目覚めたらこの部屋だった。しかも腕にはデジタル時計のような物を嵌められていた。試しに画面に触れてみると、脈拍や体温が表示された。スマートウォッチのようだが、バンドは留め具もなく腕にぴったりなため抜くこともできない。

高野達が和音をここへ連れてきたと考えて間違いないが、わからないのはここがどこかと、何故和音を、ということだ。

「燕・・」

父との面会に高野が燕の同行や送迎を断ったのは、最初から和音をここに連れてくるつもりだったからだろうか。

「馬鹿だな私」

こんな単純な罠にはまってしまって、どうすればいいかわからないが、自分が馬鹿だったことはわかる。

自己嫌悪に陥っていると、パッと目の前のモニターが点いた。

アメリカ大統領が政見放送をする時のような、大きな机の前に座ったサングラスを掛けた男性が映っている。

「お目覚めですか、城咲さん」

機械で声を変えているため、年齢はわからない。前髪をオールバックにし、きっちりと固め、机の上で組んでいる指には大きくて太い指輪をいくつも嵌めている。上半身しか見えないが恰幅も良くマフィアのドンのようだ。

「ご気分はいかかですか」
「ここはどこですか?」

質問に質問で返す。

「その時計、あなたの脈拍や体温、酸素濃度もわかりますので、体調はわかります」

そう言われて左の手首を見る。

「妊婦さんですから、大事になさってください」
「なら、こんなところへ閉じ込めないで帰してください」
「すみません。そのご要望にはお応えできません」
「ここはどこなんですか?」
「それも言えません。ただ日本であることは確かです」

とりあえずまだ日本にいると聞いてほっとする。

「私はどれくらい眠っていたのですか?」
「半日、というところでしょうか」
「ここへ私を連れてきて、どうするつもりなんですか?」

ここがどこかも教えてくれないし、簡単に帰してもらえないことはわかったが、相手の目的くらいは聞いておきたい。

「それも答えられませんか」
「いいえ、あなたに我々の活動を知ってもらい、味方になってもらいたいと思っています」
「活動? 味方って…」
「我々の活動はトゥールラーク人の支配から地球を救うというものです。あなたには是非それに賛同してもらいたい」
「支配?」
「ええ、この地球は我々地球人の物です。外から来た異星人にいいように支配されるつもりはありません」

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