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39 口から溢れそうになった言葉
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「燕、能力を使って大丈夫だったんですか?」
気を失う直前、父が窓に磔にされ苦しんでいたのは、燕の力によるものだとわかる。
あの場には高野たち警察関係者もいた。
彼らはどこまで燕の正体について知っているのか。
「それに、人を傷つけて大丈夫だったの?」
父のせいで燕が犯罪者の烙印を押されたら、和音は燕彼にどう償えばいいのかわからない。
そもそもは自分が彼を巻き込んだのだ。
「心配ない。彼らはトゥールラーク人の存在について知っている。公にはされていない特殊任務の担当者たちだ。トゥールラーク人のことも良く知っていて、日本でトゥールラーク人について一般人が通報してきたりしたら、対処している」
「対処?」
「そうだ。宇宙人を見た。とか、超能力者がいる。とか通報してきたり、SNSなどで呟いたりされたら、上手く揉み消したりしている」
「揉み消す?」
「変に騒がれても困るからね。もちろん、犯罪を見逃したりとかではないよ。もしトゥールラーク人の血を引く者が犯罪を犯せば、他の人と同じように処罰される。ただ、トゥールラーク人だということは秘されて」
「じゃあ、今回のは…あの人は?」
和音はもう父を父とは呼べなくなった。
もともと縁は薄かった。和音がこの世に生を受けるためには必要な人だったが、ただそれだけだ。
「まあ、それは大丈夫。彼の方の記憶も少し操作して、私が怒って殴り飛ばしたという話にしてもらった。もちろん、暴力は良くないから、今回は状況を考えて厳重注意という対応だ」
「記憶操作?」
何だか物騒な単語が聞こえた。
脳裏には例のアメリカ映画で、宇宙人を管理する捜査員が一般人にライトをピカッと光らせ、偽の記憶を受け付けるシーン。
○ー○ーマンに実在のモデルがいたように、あの映画もまったくのフィクションではないのかも知れない。
「不思議な力で磔にされたと言っても、頭がおかしくなったと思われるだけで、誰も信じてくれない。娘の夫に殴られて怪我をしたということにした方が、周りも信じるだろう」
「それってよくあること何ですか?」
「どうしても、という時だけだ。もちろん、和音にはしないよ。嘘の記憶で好かれても嬉しくない」
「私に宇宙人だと信じさせるために瞬間移動したでしょ? あの時はあんな瞳の色をしていませんでした」
青の中に金色の炎が灯っていた。
「普通に使う時はああはならない。あの時は、かなり怒っていたから」
「怒るとあんな風になるんですね」
「怖がらせたかな」
少し不安げに燕は和音を見た。
「しかし怒りが抑えられなかった。和音のことをあんな風に・・和音がどれだけ苦しんだか。それをあの男は・・」
怒りがまた蘇ったのか、燕の瞳に再び炎が煌めきだした。
「怖くない。綺麗だと思う」
それは嘘ではない。日本人にもこの地球の誰もこんな風に瞳が輝く人はいない。それを和音は綺麗だと思った。
「それで、あの人は?」
「そのまま警察で拘留された。横領をした会社に警察から連絡を入れてもらい、会社から訴えられるだろう。当然仕事は解雇。横領した分の返却も要求される」
職を失ったのに横領したお金も返さなくてはならなくなる。解雇なのだからもちろん退職金ももらえないだろう。
「燕は、あの人がああいうことをしていたって気づいていたんですか?」
調べるように命じたと言うことは、何かを疑っていたと言うことだ。和音は息子の学費のためだと言う言葉を信じていた。
「何かあるとは思っていたが、あそこまでとは思わなかった。聞いた時はびっくりした」
「私もです。驚きました。でも、意外だとか、やっぱりとか、他の感情はなかった」
「どうして?」
「よくテレビで犯罪を犯した人のことについて、『意外だ。そんな人に見えなかった』『いつかやると思った』とかインタビューに答える人を見ますけど、そこまで判断できるほど、私はあの人のことを知らなかった」
血の繋がりも大事だ。けれど、相手のことを知らなければ他人も同然。和音にとって遺伝子上の父、尊がそうだ。
そして尊の浮気相手、現在の妻もその息子も。
「あの人たちがこれからどんな苦労をするか。経済的にも世間的にもきっと大変な日々を過ごすと思います。でも、可哀想とか、私が出来ることがあれば助けたいとか、思えない私は、冷たいですか?」
「そんなことは思わない。どんな和音でも、私の愛しい和音に変わりは無い」
炎が小さくなり、燕から怒りの表情が消えた。そしていつもの優しい笑顔を和音に向ける。
「私も。どんな燕でも、私の・・・」
『愛しい』という言葉が思わず口から溢れそうになって、和音は自分で驚いた。
気を失う直前、父が窓に磔にされ苦しんでいたのは、燕の力によるものだとわかる。
あの場には高野たち警察関係者もいた。
彼らはどこまで燕の正体について知っているのか。
「それに、人を傷つけて大丈夫だったの?」
父のせいで燕が犯罪者の烙印を押されたら、和音は燕彼にどう償えばいいのかわからない。
そもそもは自分が彼を巻き込んだのだ。
「心配ない。彼らはトゥールラーク人の存在について知っている。公にはされていない特殊任務の担当者たちだ。トゥールラーク人のことも良く知っていて、日本でトゥールラーク人について一般人が通報してきたりしたら、対処している」
「対処?」
「そうだ。宇宙人を見た。とか、超能力者がいる。とか通報してきたり、SNSなどで呟いたりされたら、上手く揉み消したりしている」
「揉み消す?」
「変に騒がれても困るからね。もちろん、犯罪を見逃したりとかではないよ。もしトゥールラーク人の血を引く者が犯罪を犯せば、他の人と同じように処罰される。ただ、トゥールラーク人だということは秘されて」
「じゃあ、今回のは…あの人は?」
和音はもう父を父とは呼べなくなった。
もともと縁は薄かった。和音がこの世に生を受けるためには必要な人だったが、ただそれだけだ。
「まあ、それは大丈夫。彼の方の記憶も少し操作して、私が怒って殴り飛ばしたという話にしてもらった。もちろん、暴力は良くないから、今回は状況を考えて厳重注意という対応だ」
「記憶操作?」
何だか物騒な単語が聞こえた。
脳裏には例のアメリカ映画で、宇宙人を管理する捜査員が一般人にライトをピカッと光らせ、偽の記憶を受け付けるシーン。
○ー○ーマンに実在のモデルがいたように、あの映画もまったくのフィクションではないのかも知れない。
「不思議な力で磔にされたと言っても、頭がおかしくなったと思われるだけで、誰も信じてくれない。娘の夫に殴られて怪我をしたということにした方が、周りも信じるだろう」
「それってよくあること何ですか?」
「どうしても、という時だけだ。もちろん、和音にはしないよ。嘘の記憶で好かれても嬉しくない」
「私に宇宙人だと信じさせるために瞬間移動したでしょ? あの時はあんな瞳の色をしていませんでした」
青の中に金色の炎が灯っていた。
「普通に使う時はああはならない。あの時は、かなり怒っていたから」
「怒るとあんな風になるんですね」
「怖がらせたかな」
少し不安げに燕は和音を見た。
「しかし怒りが抑えられなかった。和音のことをあんな風に・・和音がどれだけ苦しんだか。それをあの男は・・」
怒りがまた蘇ったのか、燕の瞳に再び炎が煌めきだした。
「怖くない。綺麗だと思う」
それは嘘ではない。日本人にもこの地球の誰もこんな風に瞳が輝く人はいない。それを和音は綺麗だと思った。
「それで、あの人は?」
「そのまま警察で拘留された。横領をした会社に警察から連絡を入れてもらい、会社から訴えられるだろう。当然仕事は解雇。横領した分の返却も要求される」
職を失ったのに横領したお金も返さなくてはならなくなる。解雇なのだからもちろん退職金ももらえないだろう。
「燕は、あの人がああいうことをしていたって気づいていたんですか?」
調べるように命じたと言うことは、何かを疑っていたと言うことだ。和音は息子の学費のためだと言う言葉を信じていた。
「何かあるとは思っていたが、あそこまでとは思わなかった。聞いた時はびっくりした」
「私もです。驚きました。でも、意外だとか、やっぱりとか、他の感情はなかった」
「どうして?」
「よくテレビで犯罪を犯した人のことについて、『意外だ。そんな人に見えなかった』『いつかやると思った』とかインタビューに答える人を見ますけど、そこまで判断できるほど、私はあの人のことを知らなかった」
血の繋がりも大事だ。けれど、相手のことを知らなければ他人も同然。和音にとって遺伝子上の父、尊がそうだ。
そして尊の浮気相手、現在の妻もその息子も。
「あの人たちがこれからどんな苦労をするか。経済的にも世間的にもきっと大変な日々を過ごすと思います。でも、可哀想とか、私が出来ることがあれば助けたいとか、思えない私は、冷たいですか?」
「そんなことは思わない。どんな和音でも、私の愛しい和音に変わりは無い」
炎が小さくなり、燕から怒りの表情が消えた。そしていつもの優しい笑顔を和音に向ける。
「私も。どんな燕でも、私の・・・」
『愛しい』という言葉が思わず口から溢れそうになって、和音は自分で驚いた。
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