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34 再び日本へ

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「和音は立派に成人した女性だし、ちゃんとパスポートを使って出国しているから、事件としては扱われていない。今のところは彼が一方的に騒いでいるだけだ。警察も和音と彼が長い間会っていなかったことも、お母上のお見舞いに一度も来なかったこともわかっている。そして彼の経済状況や、和音がお母上の死亡保険金を受け取っていることを考えて、金銭目的のパフォーマンスということも理解している」

父の訴えについて日本の警察も闇雲に信じず、きちんと調べて対処してくれていると聞いて安心した。

「ただね。警察がそんなことはない。娘さんはちゃんと自分の意志で行動して日本を出た。誰にも強制されていないし、騙されているということもないと、いくら言っても、納得しないそうだ。警察もグルだとか、SNSを使って配信して、訴えているそうだ」
「何だか・・すみません」

和音は恥ずかしくなった。一体父は何を考えているのか。

「彼を納得させるためにも、一度話し合いの場を設けてはと言うのが日本の警察の意見だ」

その提案ももっともだが、和音は気が向かなかった。父とまた対峙することを思うと、どうしても最後に会った場面を思い出す。

「私も君と彼を会わせたくはない。君が嫌なら無理にとは言わない」

確かに会いたくはないが、和音がきちんと会って話をしなければ、父はずっと騒ぎ続けそうだ。

「ビデオ通話という手もあるが、それだとフェイクだと言われかねない」

どこかの国の指導者があたかも発言しているように見せるフェイクニュースがあった。燕の言うように、きっと父もそう思う可能性はある。

「気がかりなのは和音の精神状態と体調だ。もちろん私も一緒に行く」
「わかりました」

心配してくれる人がいることに心強さを感じる。
母が入院中、自分の生活のこと、母の病状のこと。これからの自分の未来のこと。すべて自分一人で抱え、不安だらけの毎日だった。
そのことを思えば、今の自分は恵まれている。

「いいのか?」
「はい。先延ばしにしても何も解決はしません。父には私がもう父とは何の関係もない人間であることをちゃんと伝えます」
「わかった。しかし、もし、話が平行線になるなら、私の能力の限りを尽くしてどうとでもする」
「え、それはどういう意味?」

それがトゥールラーク人としての能力のことなのか、地球での財力や権力のことを言っているのかわかりかねて、和音は問い返したが、燕は意味深な笑みを浮かべ「和音の悪いようにはしない」と言っただけだった。

(何だか怖いんですけど…)

その後は急いで準備が進められ、ニューヨークから来たのとは反対のルートを辿り、またたく間に和音は日本へと舞い戻った。

成田からリムジンに乗り、都内の高層ホテルのスイートルームにチェックインし、そこから和音は燕と共に警視庁に向かった。警視庁は東京都を管轄区域とする警察機関で、今回父が和音が東京都にある国立健康管理センターでの受診後にいなくなったとここに訴えたためだった。
車は正面玄関ではなく、地下の駐車場へと入って行った。そこで彼らを待ち構えていた人がいた。

先に着いた護衛が車を降りて、和音達が乗る車のドアを開ける。
燕にエスコートされて和音が外に出ると、待ち構えていた人の中から女性が前へ一歩進んで挨拶した。

「お待ちしておりました」
「お出迎えありがとう」

制服警官ではなく、グレーのスカートのスーツと黒のローヒールのいかにも公務員という感じの女性と、スーツの男性。
女性は高野と名乗り、警察庁の警視正だという。年齢はまだ二十代後半くらい、そして大平と名乗った男性は、年は四十くらいだろうか。警視庁の警部だということだった。
警察ドラマなどで見るキャリアと呼ばれる人たちだと一目でわかった。

「警視庁の方と警察庁の方?」
「訴えを受けたのは警視庁ですが、今回は特殊なので警察庁の方でも立ち会わせて頂きます」
「特殊?」
「はい」

高野はちらりと燕に視線を向ける。
燕がどういう存在なのか、どうやら二人は知っているようだ。

「お父様は少し前に来られてお待ちです」

ジャッカル意外の警護を残し、エレベーターの方へ向かう・

「このたびは、ご迷惑をおかけしました」

エレベーターに乗り込むと、和音が頭を下げた。

「和音が謝ることではない」
「でも・・」

頭を下げた和音の肩に触れ、燕が高野達に「そうだな」と確認した。

「お金が絡むと身内ほど揉めるようです。残念ですがそれで殺人に至る場合もあります。本来なら民事の範囲だと思います。ですが、警察機関は何もしてくれないと、マスコミまで巻き込んでのことでしたので、上が事態を重く見て話し合いの場を設けよという命令を下しました」
「上?」
「警察機関のトップは警視総監だ」
「警視総監!?」

和音と驚きの声に、エレベーターが目的の階に着いた音が重なった。
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