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24 母の遺影
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「一階が共有スペース、二階が客間、そして三階が燕様と和音様の居住スペースです」
階段を昇りながら、ルーラが大体の間取りを説明していく。
一階は台所や応接間、ダイニングルーム、ボールルーム、ゲームルームなどがある。
二階は客間でそれぞれ名前が付いていて、客のランクに合わせて使い分けられているという。
そして三階がプライベートルームで、主寝室を含めていくつか部屋があるそうだ。
「三階全部がですか?」
「はい。と言っても、今までは燕様だけでしたかから、東側の棟のみお使いで、それ以外は使われておりませんでした。これからは、ご夫婦としてお過ごしになる部屋を挟んで西側は和音様がお使いください」
「夫婦…え、ここ全部?」
案内された西棟には部屋が三つあった。そして中央には夫婦が使う部屋が更に三つ。反対側の東棟にも同じ数だけ部屋があるという。
もちろん、それぞれにバスルームもあるという。
「お子様が生まれたら子供部屋はあちらになります」
「もう子供部屋?」
「確かにお生まれになるまで三年はありますからね。でも必要になるのは間違いありませんから」
和音は自分のお腹を見て、そこに宿っているだろう子供のことを考える。
病院で診察を受けて依頼今のところ体調は安定している。
朝に夕にバイタルをチェックしてもらっているが、特に異常もない。
時折あの診断は本当だったのかと思うくらい何もない。
燕が和音に親切にしてくれるのも、キスしたりして甘やかしてくれるのも、すべて和音が彼の子を身ごもっているから。
可愛いとか、好きだと言ってくれるのも、和音に魅力があると思うほど自惚れてはいない。
「さあ、こちらがお部屋です」
そんな和音の不安に気づかす、ルーラは部屋の扉を開けて、中へ和音を案内した。
「わあ…」
続けて中に入った和音は、部屋の中を見て驚いた。
屋敷の大きさから想定して、部屋の広さも予想はできていたが、角部屋になっているそこは、明るい日差しが降り注いでいた。
開け放たれた窓からは優しい風が吹いて、カーテンを揺らしている。
天井には証明と一体型になったシーリングファンがゆっくりと周り、薄い花柄の壁紙に影を作っている。
花柄の布張りの付いたソファや光沢の美しいマホガニーの机、その上には色とりどりの花が生けられた花瓶が置かれている。
そして壁際の棚の上には、和音の母の遺影と位牌、そして骨壷が置かれていた。ご丁寧に小さな仏壇の中に収まっている。
「母の…」
「はい。二日前に届きました。作法がわからず、あそこに置かせていただきました」
母の笑顔が和音に向けられている。
遺影の写真は、和音が高校を卒業した時に校門の前で一緒に撮ったものを使った。
バタバタしていて、じっくり考える時間もなかったが、母が亡くなってまだ四十九日も済ませていないうちに、地球の裏側まで来てしまった事実に、今更ながら驚かされる。
「ありがとうございます」
「いえ、私共は燕様に指示された通りにさせていただいたまでです」
「でも、部屋に遺骨なんて、困りますよね」
和音に取っては唯一の母だったが、彼らにとっては会ったこともない他人の遺骨を置くなど、気持ち悪く思われても仕方がない。
「お気を遣われる必要はございません。燕様は私達の主。燕様には和音様の望みは出来得る限り叶えよと仰せつかっております。それに、お気持ちはわかります。それだけお母様を大切に思っていらっしゃる和音様は素晴らしいと思います」
母と近い年のルーラにそう言われ、和音は面映ゆい思いとともに、燕がそこまで気を遣ってくれていることに、先程のモヤモヤした気持ちが解消された。
「ここは居間です。あちらが寝室でその奥に浴室があります」
窓と反対側にある扉を指し示す。
ルーラに付いて奥へ向かうと、そこにはダブルベッドがあり、四隅に柱があって、上からカーテンが取り付けられたベッドがあった。
(あれって天蓋付きベッド? いわゆるプリンセスベッドってやつだ)
「水回りは最新のものに取り替えております。家具などはお気に召さなければ新しいのと交換せよと、燕様から仰せつかっております」
「そんな必要は…とても素敵です」
「それはようございました。何しろ急なことで、色々準備不足はお許しください」
「いえ、色々ありがとうございます。母のことまで…」
「これからはここが和音様の家です。私達は和音様に仕える者です。いちいちお礼は不要でございます」
「でも…」
「それより、移動でお疲れでしょう。入浴の用意が出来ております。お風呂に浸かってゆっくりされてはいかがでしょうか」
ルーラが奥の方へ歩いていくのに付いていく。
扉を開けるとそこは部屋と言ってもいいくらい広い洗面所になっていた。
大きな鏡が壁に取り付けられていて、何人も並んで使えるくらい広い洗面台があり、その奥のすりガラス向こうは浴室になっていた。
浴槽は昔母と行ったスーパー銭湯で見たことがある、ジャグジーだった。
階段を昇りながら、ルーラが大体の間取りを説明していく。
一階は台所や応接間、ダイニングルーム、ボールルーム、ゲームルームなどがある。
二階は客間でそれぞれ名前が付いていて、客のランクに合わせて使い分けられているという。
そして三階がプライベートルームで、主寝室を含めていくつか部屋があるそうだ。
「三階全部がですか?」
「はい。と言っても、今までは燕様だけでしたかから、東側の棟のみお使いで、それ以外は使われておりませんでした。これからは、ご夫婦としてお過ごしになる部屋を挟んで西側は和音様がお使いください」
「夫婦…え、ここ全部?」
案内された西棟には部屋が三つあった。そして中央には夫婦が使う部屋が更に三つ。反対側の東棟にも同じ数だけ部屋があるという。
もちろん、それぞれにバスルームもあるという。
「お子様が生まれたら子供部屋はあちらになります」
「もう子供部屋?」
「確かにお生まれになるまで三年はありますからね。でも必要になるのは間違いありませんから」
和音は自分のお腹を見て、そこに宿っているだろう子供のことを考える。
病院で診察を受けて依頼今のところ体調は安定している。
朝に夕にバイタルをチェックしてもらっているが、特に異常もない。
時折あの診断は本当だったのかと思うくらい何もない。
燕が和音に親切にしてくれるのも、キスしたりして甘やかしてくれるのも、すべて和音が彼の子を身ごもっているから。
可愛いとか、好きだと言ってくれるのも、和音に魅力があると思うほど自惚れてはいない。
「さあ、こちらがお部屋です」
そんな和音の不安に気づかす、ルーラは部屋の扉を開けて、中へ和音を案内した。
「わあ…」
続けて中に入った和音は、部屋の中を見て驚いた。
屋敷の大きさから想定して、部屋の広さも予想はできていたが、角部屋になっているそこは、明るい日差しが降り注いでいた。
開け放たれた窓からは優しい風が吹いて、カーテンを揺らしている。
天井には証明と一体型になったシーリングファンがゆっくりと周り、薄い花柄の壁紙に影を作っている。
花柄の布張りの付いたソファや光沢の美しいマホガニーの机、その上には色とりどりの花が生けられた花瓶が置かれている。
そして壁際の棚の上には、和音の母の遺影と位牌、そして骨壷が置かれていた。ご丁寧に小さな仏壇の中に収まっている。
「母の…」
「はい。二日前に届きました。作法がわからず、あそこに置かせていただきました」
母の笑顔が和音に向けられている。
遺影の写真は、和音が高校を卒業した時に校門の前で一緒に撮ったものを使った。
バタバタしていて、じっくり考える時間もなかったが、母が亡くなってまだ四十九日も済ませていないうちに、地球の裏側まで来てしまった事実に、今更ながら驚かされる。
「ありがとうございます」
「いえ、私共は燕様に指示された通りにさせていただいたまでです」
「でも、部屋に遺骨なんて、困りますよね」
和音に取っては唯一の母だったが、彼らにとっては会ったこともない他人の遺骨を置くなど、気持ち悪く思われても仕方がない。
「お気を遣われる必要はございません。燕様は私達の主。燕様には和音様の望みは出来得る限り叶えよと仰せつかっております。それに、お気持ちはわかります。それだけお母様を大切に思っていらっしゃる和音様は素晴らしいと思います」
母と近い年のルーラにそう言われ、和音は面映ゆい思いとともに、燕がそこまで気を遣ってくれていることに、先程のモヤモヤした気持ちが解消された。
「ここは居間です。あちらが寝室でその奥に浴室があります」
窓と反対側にある扉を指し示す。
ルーラに付いて奥へ向かうと、そこにはダブルベッドがあり、四隅に柱があって、上からカーテンが取り付けられたベッドがあった。
(あれって天蓋付きベッド? いわゆるプリンセスベッドってやつだ)
「水回りは最新のものに取り替えております。家具などはお気に召さなければ新しいのと交換せよと、燕様から仰せつかっております」
「そんな必要は…とても素敵です」
「それはようございました。何しろ急なことで、色々準備不足はお許しください」
「いえ、色々ありがとうございます。母のことまで…」
「これからはここが和音様の家です。私達は和音様に仕える者です。いちいちお礼は不要でございます」
「でも…」
「それより、移動でお疲れでしょう。入浴の用意が出来ております。お風呂に浸かってゆっくりされてはいかがでしょうか」
ルーラが奥の方へ歩いていくのに付いていく。
扉を開けるとそこは部屋と言ってもいいくらい広い洗面所になっていた。
大きな鏡が壁に取り付けられていて、何人も並んで使えるくらい広い洗面台があり、その奥のすりガラス向こうは浴室になっていた。
浴槽は昔母と行ったスーパー銭湯で見たことがある、ジャグジーだった。
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