上 下
21 / 61

21 宇宙船?!

しおりを挟む
それから一時間もしない内に、再び車に乗って辿り着いたのは、主要空港ではなく、小さな飛行場だった。

「ここは?」
「ここは我々が所有する空港だ。普段は個人客や企業のちょっとした荷物を運送したりしているが、私達が本部のある島へ行く時の出発地でもあります。ここ以外にもアメリカ国内には何箇所かこういう施設があります」

一見すると日本でいう小さな地方空港よりはこじんまりとしている小さな飛行場。平屋の建物は受付カウンターと事務所などがあり、滑走路にはセスナやプロペラ機が並んでいる。

『燕様』
「クラーク」

出迎えたのは体の大きなクマみたいな体格の、カウボーイハットを被った男性。
彼が恭しく燕に頭を下げ、それから和音を見た。

「和音、彼がここの責任者のクラークだ」

燕が和音に彼を紹介する。

「ア、アイム カズネ ナイス トゥー ミーチュー」

思い切りたどたどしい英語で挨拶すると、クラークも「ナイス トゥー ミーチュー」とゆっくり言った。

(もうちょっと英会話とか勉強しておくべきたった)

今までそういう時間もなかったが、これから三年の妊娠期間中、語学の勉強をしようと和音は思った。

「燕、あの、お願いがあります」
「なんですか?」
「もし良ければ私に言葉を教えてくれますか? まずは英会話から、それから色々何でもやってみたい」

これまで学校では義務だから仕方なく勉強をしてきた。成績は悪くはなかったが、特に頑張ってきた感じはない。
けれど英会話などなら、必要になる場面も多いだろうし、習って損はない。

「ええ、あなたが望むなら、いくらでも。でもあまり根を詰めすぎないでくださいね」

燕はまた和音の額にキスをした。
少しずつ、彼からのスキンシップも、戸惑うことなく受け入れられている。

(でも、まだ私からは無理だ)

燕のように自然に出来たらいいが、きっと身構えてしまうだろうと和音は思った。

クラークさんに案内されて、事務所のある建屋の奥へ進む。
社長室っぽい部屋を通り抜け更に奥へ進むと、そこは小さな小部屋になっていた。
てっきり外の滑走路へ向かうと思っていたのに、何をするのだろう。
打ち合わせとかかなとか、でも机とかもないし。そう思いながら和音は黙って付いていく。
何しろ燕に手を握られていて、離れられないのだ。
何もないその部屋に全員が入ると、扉がパタンと締り、部屋全体が動き出した。

「え、な、なんですか?」

和音は思わず燕にしがみついた。

「これはエレベーターです。我々はこれから地下へ行きます」
「地下?」
「ええ、そこに本部へ向かう乗り物があります」
「乗り物?」

和音が知っているエレベーターは、行き先の階の数字があって、今何階か表示があるもので、それとは違う。
感覚としては地下一階か二階分降りただろうか。
部屋式エレベーターが止まり、さっきと反対側が開いた。

「………!!」

そこは学校の体育館くらいの広さがあり、天井も高い空間。
そして目の前には、銀色に輝く飛行船のような卵型の乗り物があった。
飛行機のような羽はなく、ヘリコプターのようなプロペラもない。
空気より軽い気体で飛ぶ飛行船は、大きな気球という感じだが、それはその気体を入れる部分がなかった。
例えるならそれはクジラのようで、お腹の部分が開いて、そこに階段が付いている。恐らくそこから中へ入るのだろう。

驚きつつも燕に手を引かれてその場に足を踏み入れる。

「う、宇宙船?」

思わず和音は呟いた。

「我々は飛空艇と呼んでいます。あれで宇宙にはいけません。そういうふうに造っていませんから。でも、行けますよ」

少し手を加えれば、と燕は言った。ということは、形は宇宙船と言うことだ。

飛行機やヘリコプター、気球、それから最近は見ないが飛行船は知っている。
しかし、目の前の乗り物が空を飛んでいるのは見たことがない。
大きさはジャンボジェット機よりは少し小さ目だろうか。

「あれはレーダーにもひっかからない。人の目にも見えないように工夫がされています。稀にカメラなどで捉えられる時がありますが、地球の技術では、まだ実現は不可能なものです」

さらりと言っているが、レーダーに引っかからないのは違法じゃないのか。

「え、じゃ、じゃあ…」
「たまに未確認飛行物体か、とか騒がれたりしますね。流れた情報はこちらでわかる範囲で揉み消しますが、人の記憶までは如何ともし難いですけど。人の口に戸は立てられませんから」

未確認飛行物体…別名U.F.O。それでは本当に宇宙船?

「本部にはあれに乗って行きます」

目の前のその乗り物に向かって燕は指さした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...