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16 ごちそうさま

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過干渉にならず、トゥールラーク人は、適材適所で地球における技術の進化に関わってきたという燕。

「我々のことはおいおい知って行ってくれればいい。興味があればね。何しろ何万年の歴史だ。とても数時間では語り尽くせない。それより今は私達のことだ」

人類の歴史の話でうまく誤魔化せたと思ったが、そうは行かなかったらしい。
燕は更に和音に身を寄せてくる。
燕の体とソファに挟まれて、和音は前にも後ろにも逃げられない。

「三年待つと言うのは、地球人のあなたのことを配慮してのことです。トゥールラークのことわりに当て嵌めるなら、当に私達は夫婦です」

こんな至近距離でも燕の肌には毛穴すら見当たらないくらいきめ細かく、対して和音はうっすらファンデーションしか塗っていないうえ、長時間のフライトで化粧直しすらしていない。

「あ、あのですね・・え、んんぐぐ」

頤に手が触れたかと思うと、顔を上向きにされて唇を塞がれた。
驚いて和音は目を見開き息が止まった。

(キス? 私、キスされてる?)

男性経験はないが、キスは高校生の時に一度したことがある。和音は、キスの味がレモンの味とか、色々妄想が膨らんでいたが、実際は相手も初めてだったためか、歯がぶつかったことしか憶えていない。
今では顔も名前も思い出せないファーストキスの相手。

燕の唇は柔らかくてしっとりしていて、そんな過去の悲しい体験など吹き飛んでしまうくらい甘かった。

しかし、いかんせん、経験値のない和音は、どうやって呼吸をしたらいいかわからない。

(え、こういうのって、息するの? 止めるの?   私、何食べた? 最後に食べたのってティラミス? でも歯は磨いたけど…)

などと頭の中をグルグル色んな考えが浮かんできてパニックである。

いつまで続くかと思っていたキスは、ピンポーンというチャイムの音によって終止符を打った。

「今はここまでだ、和音。ごちそうさま」

唇を離し、すっと和音の唇に指を当て、残念そうに燕は言った。その顔は惚れ惚れするくらい妖艶だった。

(ごちそうさま? ごちそうさまって何?)

もう一度ピンポーンという音が鳴り、舌舐めずりしながら覆いかぶさった髪をかき上げ、「入れ」と燕が言った。
決して大きな声ではなかったのに、それも彼の能力なんだろうか、広い部屋から入口にいる彼らに聞こえたようだった。

『失礼いたします』

燕が和音の前から移動し、隣にもう一度座り直したと同時にコンシェルジュの二人が入ってきた。

『宝石商がまいりました』
「すまないが、ここからは日本語で話してほしい。和音には早口の英語は聞き取れない。ジェネラルマネージャーには、それを条件に君たちを付けてもらったんだ」
「し、失礼いたしました」
「申し訳ございませんでした」

燕が注意すると二人は慌てて謝った。
日本語が話せる人たちだったんだと、和音は思った。

「わかればいい。では、宝石商を」
「はい。お願いします」

ブラウンが声をかけると、アタッシュケースを提げた外国人の男性が二人現れた。
アメリカだから私が外国人なのかと、心の中で自ら和音はツッコミを入れた。

「ここへ持ってきてもらって」

燕がそう指示すると、ブラウンが彼らに英語で伝え、二人は和音たちの向かい側にやってきて、アタッシュケースを二つ置いた。
現金でも入っているのかと思う頑丈なその鞄には、金庫のようなキーボードが付いていて、なんと彼らと手錠で繋がっていた。
ブラウンたちはそれを見届け、部屋を出ていく。

そして二人は頭を下げ、年配の方の男性が英語で燕と話を始めた。
「エンゲージ」とか「バースストーン」とかの単語が聞こえ、にこやかに話を終えると、和音を見てニコリと微笑み「コングラッチュレーション」と言った。
それは和音にもわかる。「おめでとう」という意味だ。

「さ、さんきゅー」

それに対して和音はおもいっきり和製英語で答えた。

「和音、彼はマーカス、君に見せた宝石店のディーラーだ」

燕が男性を紹介する。

「え、あのお店の?」
「そう、今日はお勧めの指輪をいくつか持ってきてもらった『プリーズ』」

そう燕が言うと、マーカスさんともう一人の男性は、鞄のキーを操作する。すると、ピーと音がしてロックが外れた。それを確認して彼らは手錠を外す。

「和音、誕生日は七月だったね」
「え、ええ」
「やはりこういうのは誕生石がいいかな、ダイヤモンドとかも有りだけど」

彼らが鞄を開けて、その中身をこちらに向けると、一見本物かと疑うほど大きな、どこかの有名ホテルチェーンの女社長の指に嵌っているような、宝石の数々が並んでいた。

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