11 / 61
11 ただのゆりかごだから
しおりを挟む
プライベートジェット機。
ハリウッドセレブやCEOなんて言われる人が乗るもの。
今から自分がそれに乗る?
タラップの下にはパイロットとキャビンアテンダントだろう制服を着た男性二人と女が一人、そしてスーツを着た男女が一組が立って、和音と燕にお辞儀をした。
「本日の操縦士を勤めさせていただきます高瀬です。こちらは副操縦士の香川、キャビン・クルーの安藤です」
「香川です」
「安藤です。よろしくお願いします」
「私は産科医の桃田です」
「看護師の坂口です。助産師の資格も持っております」
高瀬氏は五十代くらい、香川氏は三十代? 安藤さんも桃田氏も坂口氏も四十代くらいだろうか。
いずれにしても和音よりは年上の彼らが、丁寧に挨拶してくれた。
それはきっと和音にではなく、隣にいる燕に対してだ。和音にはそんな価値はない。
燕といることで、和音もセレブに見えるんだろう。
「よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
燕が声をかけると、皆緊張した面持ちで頭を下げた。
「和音、桃田と坂口は君の専属で雇った。向こうにも医療スタッフはいるが、日本人の方が言葉も通じて安心だろうから」
「わ、私の専属?」
もちろん子どものためだろうが、贅沢すぎる。
「和音です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
「では、行こうか」
「え、きゃあ、え、燕」
そう言うと、燕はさっと和音を抱き上げた。
「自分で上れますよ。お、降ろして」
二人きりのリムジンの車内ならまだしも、周りにはたくさんの人がいる。リムジンの運転手や護衛の人たちもいる前でいきなりお姫様抱っこは恥ずかしすぎる。
「だめだ、転ぶと大変だ」
「こ、こんな階段くらい・・」
「夫の財力も腕力も甘くみないでほしい」
和音の抵抗も虚しく、燕は長い足を無駄にしない一段飛ばしでさっさとタラップを上がってしまった。
「また、日本に戻ってこられますか?」
ジェット機の中は広々としていて、席は十席ほどしかない。さらに奥には寝台も置かれていてビジネスホテル並みの雰囲気だった。
ゆったりとしたシートに座って窓から外を見る。離陸準備がまだ済んでいないので、機体はまだ動かない。
「和音が望めば、いつでも。寂しいですか?」
実はそれほど日本に未練はない。和音の唯一の肉親だった母もいない。遺骨は和音の側に保管できるよう燕が手配してくれている。
父たちとはずっと疎遠だし、友人として連絡を頻繁に取っていた人もいない。
(何だか、寂しい人生だな…)
燕と関わらなければ、こんな待遇でここにいることもない。
「人生、ほんとに何があるかわかりませんね。生きるのに必死だったのに、こんな豪華なシートのプライベートジェット機で日本を飛び立つ日が来るなんて」
「これくらいで驚いてはだめだ。こんなのは普通だ。これからあなたは私の子どもの母として、そしてゆくゆくは私の伴侶として、私が与えられる限りの贅沢と特権を受ける」
「値段を気にせず買い物したり、こんな豪華なジェット機に乗ったりする以外に?」
「ええ、こんなものは贅沢のうちに入らない」
贅沢な病院の特別室もリムジンもジェット機も、専属の医師や看護師も、少し前までは思いもしなかった。
すべてが目の前で微笑む2.5次元の世界から来たのかと思う人物の子どもを妊娠したから起ったこと。
和音自身が何かを成し遂げたわけでもない。
彼の子どもを妊娠できるだけでも稀なことだと言うが、それだってあの薄情な父と母からもらった体お陰だ。
待遇が良ければ良いほどに、和音は心の中で後ろめたさを感じる。
自分はただ、子どもの母親として選ばれただけ。
大事にされるのは子どもが生まれるまでの三年の間だけ。
子どもが生まれたら、母親として側にいる権利はあるだろうが、きっとその存在価値はなくなってしまう。
(流されちゃだめ。この人もただ私が自分の子を妊娠しているから大事にしてくれているだけ。私は、ただのゆりかごなのだ)
ハリウッドセレブやCEOなんて言われる人が乗るもの。
今から自分がそれに乗る?
タラップの下にはパイロットとキャビンアテンダントだろう制服を着た男性二人と女が一人、そしてスーツを着た男女が一組が立って、和音と燕にお辞儀をした。
「本日の操縦士を勤めさせていただきます高瀬です。こちらは副操縦士の香川、キャビン・クルーの安藤です」
「香川です」
「安藤です。よろしくお願いします」
「私は産科医の桃田です」
「看護師の坂口です。助産師の資格も持っております」
高瀬氏は五十代くらい、香川氏は三十代? 安藤さんも桃田氏も坂口氏も四十代くらいだろうか。
いずれにしても和音よりは年上の彼らが、丁寧に挨拶してくれた。
それはきっと和音にではなく、隣にいる燕に対してだ。和音にはそんな価値はない。
燕といることで、和音もセレブに見えるんだろう。
「よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
燕が声をかけると、皆緊張した面持ちで頭を下げた。
「和音、桃田と坂口は君の専属で雇った。向こうにも医療スタッフはいるが、日本人の方が言葉も通じて安心だろうから」
「わ、私の専属?」
もちろん子どものためだろうが、贅沢すぎる。
「和音です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
「では、行こうか」
「え、きゃあ、え、燕」
そう言うと、燕はさっと和音を抱き上げた。
「自分で上れますよ。お、降ろして」
二人きりのリムジンの車内ならまだしも、周りにはたくさんの人がいる。リムジンの運転手や護衛の人たちもいる前でいきなりお姫様抱っこは恥ずかしすぎる。
「だめだ、転ぶと大変だ」
「こ、こんな階段くらい・・」
「夫の財力も腕力も甘くみないでほしい」
和音の抵抗も虚しく、燕は長い足を無駄にしない一段飛ばしでさっさとタラップを上がってしまった。
「また、日本に戻ってこられますか?」
ジェット機の中は広々としていて、席は十席ほどしかない。さらに奥には寝台も置かれていてビジネスホテル並みの雰囲気だった。
ゆったりとしたシートに座って窓から外を見る。離陸準備がまだ済んでいないので、機体はまだ動かない。
「和音が望めば、いつでも。寂しいですか?」
実はそれほど日本に未練はない。和音の唯一の肉親だった母もいない。遺骨は和音の側に保管できるよう燕が手配してくれている。
父たちとはずっと疎遠だし、友人として連絡を頻繁に取っていた人もいない。
(何だか、寂しい人生だな…)
燕と関わらなければ、こんな待遇でここにいることもない。
「人生、ほんとに何があるかわかりませんね。生きるのに必死だったのに、こんな豪華なシートのプライベートジェット機で日本を飛び立つ日が来るなんて」
「これくらいで驚いてはだめだ。こんなのは普通だ。これからあなたは私の子どもの母として、そしてゆくゆくは私の伴侶として、私が与えられる限りの贅沢と特権を受ける」
「値段を気にせず買い物したり、こんな豪華なジェット機に乗ったりする以外に?」
「ええ、こんなものは贅沢のうちに入らない」
贅沢な病院の特別室もリムジンもジェット機も、専属の医師や看護師も、少し前までは思いもしなかった。
すべてが目の前で微笑む2.5次元の世界から来たのかと思う人物の子どもを妊娠したから起ったこと。
和音自身が何かを成し遂げたわけでもない。
彼の子どもを妊娠できるだけでも稀なことだと言うが、それだってあの薄情な父と母からもらった体お陰だ。
待遇が良ければ良いほどに、和音は心の中で後ろめたさを感じる。
自分はただ、子どもの母親として選ばれただけ。
大事にされるのは子どもが生まれるまでの三年の間だけ。
子どもが生まれたら、母親として側にいる権利はあるだろうが、きっとその存在価値はなくなってしまう。
(流されちゃだめ。この人もただ私が自分の子を妊娠しているから大事にしてくれているだけ。私は、ただのゆりかごなのだ)
11
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる