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6.母の作戦
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「それで、私はなぜあなたの子供を妊娠したことになっているんですか?」
巨大隕石が落ちてきて生態系が変わり、恐竜たちが絶滅した説が、実は宇宙から来た宇宙人のせいだったとか、ダーウィンの進化論が実は彼らが手を加えていたとか、知っていた知識の新たな真実にびっくりだが、壮大すぎる。
それに真実がどうであれ、和音が今知りたいのは、知らぬ間に妊娠させられていた理由だ。
「そうしてこの地球に住む人類を、我らと子を成せるようになるまで進化させ、最初の頃はうまく行っていた。しかし、歴史はまた繰り返すと言いますし、我らの子を成せるだけの力があるかどうか人によって個体差があります。そのため、女性たちに検査を受けさせ、我らの子を成すことが出来うるかどうかを確認してきた」
「それが、女性だけが人間ドックを受けることを強制されていた理由ですか?」
「そうですが、あなたの場合は、それより前、あなたのお母様が余命僅かと診断されたときに、一度受検していますよね」
母の和美がもって後半年と診断されたとき、母の薦めで一通り検査させられた。あんたは健康でいてね。と言われたからだ。
「あの検査であなたが健康で、かつ、私の子の母となるに相応しい遺伝子を持っているとわかりました」
「私?」
「我々」から急に「私」に言い方が変わった。
何が違うんだろう。
「私はトゥールラーク人というだけでなく、地球でいうところの、王族。つまり地球にいる全てのトゥールラーク人の子孫たちの代表なのです」
「それが?」
「先程あなたが体験した力は、王族のみが使えるもの。他の者はテレパシーで互いに意思疎通できる程度なのです。そのせいで、子の母体となる女性も、誰でもいいというわけではありません」
頭では地球にやってきた某映画の胸にSマークを付けたキャラクターを思い描く。
玉より速く空を飛んで、目からレーザーを出したり、大きな岩を砕いたり。
「何を想像しているか予測はつきます。あれも私を見た者が独自の解釈で描いたものです」
「○ー○ーマンに実在のモデルがいた!」
頭にそんなゴシップ雑誌の見出しが浮かんだ。
「話が反れましたね。あなたの検査結果はすぐに私のところ届けられました。何しろ長い間、母体に相応しい存在が現れなかったので、小躍りしました。そして私達は保護者であるお母上のところへ行きました」
「そんなこと、お母さんは何も…」
「ええ、もしかしたら最初は我々の話を信じていなかったのかも知れません」
それはそうだろう。
夫に裏切られ、一人娘を育てるために、生きていくために苦労してきた母は、夢みたいな荒唐無稽な話を信じる人ではない。
「でも同時にこうも仰っていました。自分がいなくなれば、娘は天涯孤独になる。遺伝子学上の父や異母兄弟はいても、他人より酷い。もし、娘に家族ができるなら…自分がこういう状態では、相手を探して手順を踏んでお付き合いから始まるような関係は難しいだろうとも」
病院と家、職場を行ったり来たりの和音の生活に、確かに男性と付き合ってデートする余裕などなかった。
「もちろん、確実に妊娠する可能性はありませんから、やってみて駄目、ということも」
「やってみて?」
「この前の人間ドック。あの時、あなたに私の子種を仕込ませていただきました」
「ど、どうやって…」
「もちろん、ここに、直接私の体液…精液を注入して」
燕は和音のお臍の下辺りを指でつついた。
「わ、私…同意して…ませんけど」
本人の了承なしにそんなことが通るとはとても思えない。
和音は震える声で抗議した。
「サインはいただいていますよ。もちろん、お母上のサインも」
「え?」
まったく覚えがない。一体いつ?
「お母上には、亡くなる一ヶ月前にいただきました。あなたからも、ほら」
そう言って彼は和音に一枚の紙を見せた。
「同意書」
と書かれたその紙の下には確かに母の名前と和音の名前が書かれている。
亡くなる一ヶ月前というと、母は力も弱くなりお箸も持ちにくくなっていた。
ボールペンの線がガタガタ歪んでいる母の字。その字には見覚えがあった。母に必要な書類だからとにかく署名して、と迫った。
「同意書」は入院の際にも欠かされたので、急かされたこともあり、さっと署名した記憶がある。
それが母の作戦だったと、和音は悟った。
巨大隕石が落ちてきて生態系が変わり、恐竜たちが絶滅した説が、実は宇宙から来た宇宙人のせいだったとか、ダーウィンの進化論が実は彼らが手を加えていたとか、知っていた知識の新たな真実にびっくりだが、壮大すぎる。
それに真実がどうであれ、和音が今知りたいのは、知らぬ間に妊娠させられていた理由だ。
「そうしてこの地球に住む人類を、我らと子を成せるようになるまで進化させ、最初の頃はうまく行っていた。しかし、歴史はまた繰り返すと言いますし、我らの子を成せるだけの力があるかどうか人によって個体差があります。そのため、女性たちに検査を受けさせ、我らの子を成すことが出来うるかどうかを確認してきた」
「それが、女性だけが人間ドックを受けることを強制されていた理由ですか?」
「そうですが、あなたの場合は、それより前、あなたのお母様が余命僅かと診断されたときに、一度受検していますよね」
母の和美がもって後半年と診断されたとき、母の薦めで一通り検査させられた。あんたは健康でいてね。と言われたからだ。
「あの検査であなたが健康で、かつ、私の子の母となるに相応しい遺伝子を持っているとわかりました」
「私?」
「我々」から急に「私」に言い方が変わった。
何が違うんだろう。
「私はトゥールラーク人というだけでなく、地球でいうところの、王族。つまり地球にいる全てのトゥールラーク人の子孫たちの代表なのです」
「それが?」
「先程あなたが体験した力は、王族のみが使えるもの。他の者はテレパシーで互いに意思疎通できる程度なのです。そのせいで、子の母体となる女性も、誰でもいいというわけではありません」
頭では地球にやってきた某映画の胸にSマークを付けたキャラクターを思い描く。
玉より速く空を飛んで、目からレーザーを出したり、大きな岩を砕いたり。
「何を想像しているか予測はつきます。あれも私を見た者が独自の解釈で描いたものです」
「○ー○ーマンに実在のモデルがいた!」
頭にそんなゴシップ雑誌の見出しが浮かんだ。
「話が反れましたね。あなたの検査結果はすぐに私のところ届けられました。何しろ長い間、母体に相応しい存在が現れなかったので、小躍りしました。そして私達は保護者であるお母上のところへ行きました」
「そんなこと、お母さんは何も…」
「ええ、もしかしたら最初は我々の話を信じていなかったのかも知れません」
それはそうだろう。
夫に裏切られ、一人娘を育てるために、生きていくために苦労してきた母は、夢みたいな荒唐無稽な話を信じる人ではない。
「でも同時にこうも仰っていました。自分がいなくなれば、娘は天涯孤独になる。遺伝子学上の父や異母兄弟はいても、他人より酷い。もし、娘に家族ができるなら…自分がこういう状態では、相手を探して手順を踏んでお付き合いから始まるような関係は難しいだろうとも」
病院と家、職場を行ったり来たりの和音の生活に、確かに男性と付き合ってデートする余裕などなかった。
「もちろん、確実に妊娠する可能性はありませんから、やってみて駄目、ということも」
「やってみて?」
「この前の人間ドック。あの時、あなたに私の子種を仕込ませていただきました」
「ど、どうやって…」
「もちろん、ここに、直接私の体液…精液を注入して」
燕は和音のお臍の下辺りを指でつついた。
「わ、私…同意して…ませんけど」
本人の了承なしにそんなことが通るとはとても思えない。
和音は震える声で抗議した。
「サインはいただいていますよ。もちろん、お母上のサインも」
「え?」
まったく覚えがない。一体いつ?
「お母上には、亡くなる一ヶ月前にいただきました。あなたからも、ほら」
そう言って彼は和音に一枚の紙を見せた。
「同意書」
と書かれたその紙の下には確かに母の名前と和音の名前が書かれている。
亡くなる一ヶ月前というと、母は力も弱くなりお箸も持ちにくくなっていた。
ボールペンの線がガタガタ歪んでいる母の字。その字には見覚えがあった。母に必要な書類だからとにかく署名して、と迫った。
「同意書」は入院の際にも欠かされたので、急かされたこともあり、さっと署名した記憶がある。
それが母の作戦だったと、和音は悟った。
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