4 / 61
4男の正体
しおりを挟む
「ここは?」
目が覚めると、知らない部屋だった。広いベッド、豪華な応接セットと特大のテレビ。天井から下がるシャンデリアの照明。
「和音、目が覚めたか!」
声がして手を握られそちらに目を向けると、そこにはあの男性がいた。
和音のお腹の子の父親だと主張する男。
和音は国立健康管理センターの特別室にいた。
一流ホテルのスイートルームかと思うような豪華なベッドは、とても病院とは思えなかったが側にいたのが白衣の看護士なので、そこはコスプレではない限り病院だと思った。
「良かった。どうやらお腹の子がわたしの波動に呼応したようで、君の体が驚いたようだ。ママを驚かせるんじゃないぞ」
男は和音のお腹に向かって言った。
「あ、君はもう下がっていい」
男に言われて看護士は和音達を置いて出ていった。
知らない男性と二人きりになり、しかも手を握られている。手を抜こうとするが、男は離すつもりはないらしい。
「あの」
「ああ、そうだ。まだ名乗っていなかったな。わたしの名前は燕だ。本名は地球の言語では表現しづらいので、ここでは燕で通っている。漢字だとツバメとも読む。他の国に行けば別の呼び名もあるが、ここは日本だから燕で」
「地球…? 燕?」
「そうだ。姓はここでは使っていない。しかし、燕と読んでいいのは和音だけだ。他の者は別の名前で呼ぶ。いわゆる通り名だ。客人様とか、殿下とか、直接的にエクストラ テレストリアルとか、EBE(イーバ)、ETとか、色々ある」
「E…T?」
色々言われたが、最後の言葉だけは和音も聞いたことがあった。
昔のアメリカ映画に出てきた地球の外からやってきた地球以外の星の住人のことだ。
「君にはどんな呼び方をされてもいいが、できれば燕と呼んでくれ。あ、君独自にわたしに名前を付けてくれてもいいぞ」
和音の枕元で頬杖をついて、彼はにこりと笑った。
「あの…地球の人では…ないんですか?」
「地球でいう、人、ヒューマン、ホモ=サピエンスかということなら、違うな。わたしは太陽系の遥か向こう、地球の言葉で発音するならトュールラークという星から来た」
「え、え…え」
妊娠からの理解が追いつかないうちに、まさかの宇宙人が目の前にいる。
「あ、あの…ドッキリ…ですよね」
妊娠していることも宇宙人現るも、どこかでカメラがあって「信じる」「信じない」がクルクル回っているんじゃないか。
今にもあの扉の向こうから、仕掛け人が出てくるのではと、扉を睨みながら口を閉じてひたすら待った。
「何を睨みつけているのだ?」
「燕」という名の自称宇宙人が、黙り込んだ和音の視線の先を観て不思議そうに首を傾げる。
絹のように美しい銀髪は、部屋に射し込む光を浴びて七色に輝く。
毛穴?ないない、みたいな透き通った肌に整った顔。そして瞳は…美しい透き通ったブルーで猫の目のような形をしている。
そこだけが、和音の知る人間とは違うところだ。
「えっと…」
コンタクト? 特殊メイクなのかな。宇宙人らしく見せるための仕掛けなら、どこかにその片鱗が見えないかと視線を彼に注ぐ。
「和音、そんなに見つめるな。照れるではないか」
あまりに注視していたので、燕がそういう。
「しかし、そなたの気の済むまで見てくれていい。そなたはわたしの子の母。わたしの番なのだからな」
和音の頬に手を当てた燕の手はヒヤリとしていた。
「やめて、触らないで!」
その手を和音は払い除ける。
「だ、騙されないから、わたしはただの一般人です。こんな大掛かりな仕掛けをして騙すなら芸能人にしてください!」
「和音」
「近寄らないで、な、なんなんですか、子供とか、宇宙人とか、何が目的なんですか」
「騙すなど、これは真実だ」
「嘘よ!」
「なら、こうすれば少しは信じるか?」
そう言うと、燕は和音の腕を掴んだ。
「はなし…」
そして次の瞬間、和音はさっきまでいた部屋ではなく、ビルの屋上にいた。
目が覚めると、知らない部屋だった。広いベッド、豪華な応接セットと特大のテレビ。天井から下がるシャンデリアの照明。
「和音、目が覚めたか!」
声がして手を握られそちらに目を向けると、そこにはあの男性がいた。
和音のお腹の子の父親だと主張する男。
和音は国立健康管理センターの特別室にいた。
一流ホテルのスイートルームかと思うような豪華なベッドは、とても病院とは思えなかったが側にいたのが白衣の看護士なので、そこはコスプレではない限り病院だと思った。
「良かった。どうやらお腹の子がわたしの波動に呼応したようで、君の体が驚いたようだ。ママを驚かせるんじゃないぞ」
男は和音のお腹に向かって言った。
「あ、君はもう下がっていい」
男に言われて看護士は和音達を置いて出ていった。
知らない男性と二人きりになり、しかも手を握られている。手を抜こうとするが、男は離すつもりはないらしい。
「あの」
「ああ、そうだ。まだ名乗っていなかったな。わたしの名前は燕だ。本名は地球の言語では表現しづらいので、ここでは燕で通っている。漢字だとツバメとも読む。他の国に行けば別の呼び名もあるが、ここは日本だから燕で」
「地球…? 燕?」
「そうだ。姓はここでは使っていない。しかし、燕と読んでいいのは和音だけだ。他の者は別の名前で呼ぶ。いわゆる通り名だ。客人様とか、殿下とか、直接的にエクストラ テレストリアルとか、EBE(イーバ)、ETとか、色々ある」
「E…T?」
色々言われたが、最後の言葉だけは和音も聞いたことがあった。
昔のアメリカ映画に出てきた地球の外からやってきた地球以外の星の住人のことだ。
「君にはどんな呼び方をされてもいいが、できれば燕と呼んでくれ。あ、君独自にわたしに名前を付けてくれてもいいぞ」
和音の枕元で頬杖をついて、彼はにこりと笑った。
「あの…地球の人では…ないんですか?」
「地球でいう、人、ヒューマン、ホモ=サピエンスかということなら、違うな。わたしは太陽系の遥か向こう、地球の言葉で発音するならトュールラークという星から来た」
「え、え…え」
妊娠からの理解が追いつかないうちに、まさかの宇宙人が目の前にいる。
「あ、あの…ドッキリ…ですよね」
妊娠していることも宇宙人現るも、どこかでカメラがあって「信じる」「信じない」がクルクル回っているんじゃないか。
今にもあの扉の向こうから、仕掛け人が出てくるのではと、扉を睨みながら口を閉じてひたすら待った。
「何を睨みつけているのだ?」
「燕」という名の自称宇宙人が、黙り込んだ和音の視線の先を観て不思議そうに首を傾げる。
絹のように美しい銀髪は、部屋に射し込む光を浴びて七色に輝く。
毛穴?ないない、みたいな透き通った肌に整った顔。そして瞳は…美しい透き通ったブルーで猫の目のような形をしている。
そこだけが、和音の知る人間とは違うところだ。
「えっと…」
コンタクト? 特殊メイクなのかな。宇宙人らしく見せるための仕掛けなら、どこかにその片鱗が見えないかと視線を彼に注ぐ。
「和音、そんなに見つめるな。照れるではないか」
あまりに注視していたので、燕がそういう。
「しかし、そなたの気の済むまで見てくれていい。そなたはわたしの子の母。わたしの番なのだからな」
和音の頬に手を当てた燕の手はヒヤリとしていた。
「やめて、触らないで!」
その手を和音は払い除ける。
「だ、騙されないから、わたしはただの一般人です。こんな大掛かりな仕掛けをして騙すなら芸能人にしてください!」
「和音」
「近寄らないで、な、なんなんですか、子供とか、宇宙人とか、何が目的なんですか」
「騙すなど、これは真実だ」
「嘘よ!」
「なら、こうすれば少しは信じるか?」
そう言うと、燕は和音の腕を掴んだ。
「はなし…」
そして次の瞬間、和音はさっきまでいた部屋ではなく、ビルの屋上にいた。
11
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる