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第四章 騎士団の洗礼
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明らかに自分のことが話題になっているのに、話の内容についていけない。
「すみません。話が見えませんよね」
「まあ…」
「騎士団長が話していたのは、聖女様とあなたの護衛のことです」
「それは何となくわかった。それで、その候補だとかいう相手というのは?」
「ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェンボーンという名の人物です」
「ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェ?」
大袈裟で長ったらしい名前だ。
「偉くご立派な名前だな。どういう人物なんだ?」
「陛下の再従兄弟に当たる方で、辺境伯。そしてこの国唯一のソードマスターです」
「ソード……マスター?」
名前も大仰だが、その肩書きは厨二病みたいだ。思わず吹き出しそうになったが、ここで笑ってはだめだと堪えた。
「ソードマスターは、『剣を極めし者』に与えられる称号です。この世界にある伝説の魔剣『黒狼』に選ばれた方です」
「魔剣…『黒狼』」
ますます厨二病っぽい。が、彼らは至って真面目だ。なので紫紋は心の中でツッコむだけにした。
「それで、その人は今どこに?」
「今は世界樹の瘴気化により生まれた魔獣の討伐に、遠征しております。聖女召喚までには戻る予定が、悪天候などにより帰還が遅れております」
「彼一人で騎士団の精鋭十人…いや、二十人の武力に匹敵すると言っていい。それほどの実力の持ち主だ」
「そんなに…」
騎士団の精鋭の武力がどの程度かわからないが、凄いことはわかる。
「でも、何か問題があるようだけど」
二人の先ほどの会話から、それを察して言った。
「申しました通り、彼は辺境伯ということで生まれながらに地位もあります。しかも唯一のソードマスター。たとえ国王陛下の命であっても、彼が気にそまないと思えば、それを拒否することが出来ます」
「つまり、彼が俺達の護衛が嫌だと言えば、無理強いはできない?」
「さよう。騎士団二十人分の武力があるということは、彼一人でそれだけの働きが出来るということ。実力の伴わない者が同行することを嫌い、基本討伐の際は単騎で斬り込んでいくことが多い。他の者はついて行っても足手まといになると言って、後方支援程度しか許されない」
つまりは完全な一匹狼。群れを嫌うタイプだ。
紫紋も喧嘩は強かったが、常に仲間に囲まれ、慕われて来た。仲間のためだと思うと力も湧いたし、助け合いながらやってきた。そんな紫紋とは逆のタイプのようだ。
「ぞろぞろ世界樹救済ツアーの同行を嫌がると?」
「ぞろぞ…言い方は不適切ですが、そうです」
「多分、世界樹への行軍には参加してくれるだろうが、護衛は無理だと言うのは目に見えている」
「仕方ありません。やりたくないことを強要できません。話してみて嫌だと言うなら、それはそれでどうにかするしかありません」
「そう言ってくれると助かる」
紫紋の言葉に団長は安堵したようで、ほっと息を吐いた。
「その代わりと言っては何だが、騎士団からも精鋭を派遣しよう。アシェンボーン卿の足元にも及ばないが、見事な働きをしてくれるだろう」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは早いぞ。騎士団の者は、アシェンボーン卿よりは柔和だが、守護騎士の座を奪われ、気が立っている者もいるからな」
どちらにしても、紫紋には試練だということだ。
「シモンさん、団長の言葉すべてを鵜呑みになさいませんように。団長も、シモンさんに対して意地悪が過ぎますよ」
団長の物言いに対し、副神官が顔を顰める。
「副神官殿は、この者を随分買っていらっしゃるようだな」
「もちろんです。意図的ではありませんでしたが、召喚してしまったからには、この世界に住む我々が責任を持って対処しなければなりません」
「それだけか?」
「それだけでは、もちろんありません。出会ってまだほんの数刻ですが、シモンさんは立派で潔い方だと思います。聖女様にもお優しく、初めは大神官に対し厳しいものがあり、色々口論めいたことをされていましたが、きちんとご自身から歩み寄られました」
「あの大神官と口論…」
団長の紫紋を見る目つきが変わった。
「すみません。話が見えませんよね」
「まあ…」
「騎士団長が話していたのは、聖女様とあなたの護衛のことです」
「それは何となくわかった。それで、その候補だとかいう相手というのは?」
「ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェンボーンという名の人物です」
「ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェ?」
大袈裟で長ったらしい名前だ。
「偉くご立派な名前だな。どういう人物なんだ?」
「陛下の再従兄弟に当たる方で、辺境伯。そしてこの国唯一のソードマスターです」
「ソード……マスター?」
名前も大仰だが、その肩書きは厨二病みたいだ。思わず吹き出しそうになったが、ここで笑ってはだめだと堪えた。
「ソードマスターは、『剣を極めし者』に与えられる称号です。この世界にある伝説の魔剣『黒狼』に選ばれた方です」
「魔剣…『黒狼』」
ますます厨二病っぽい。が、彼らは至って真面目だ。なので紫紋は心の中でツッコむだけにした。
「それで、その人は今どこに?」
「今は世界樹の瘴気化により生まれた魔獣の討伐に、遠征しております。聖女召喚までには戻る予定が、悪天候などにより帰還が遅れております」
「彼一人で騎士団の精鋭十人…いや、二十人の武力に匹敵すると言っていい。それほどの実力の持ち主だ」
「そんなに…」
騎士団の精鋭の武力がどの程度かわからないが、凄いことはわかる。
「でも、何か問題があるようだけど」
二人の先ほどの会話から、それを察して言った。
「申しました通り、彼は辺境伯ということで生まれながらに地位もあります。しかも唯一のソードマスター。たとえ国王陛下の命であっても、彼が気にそまないと思えば、それを拒否することが出来ます」
「つまり、彼が俺達の護衛が嫌だと言えば、無理強いはできない?」
「さよう。騎士団二十人分の武力があるということは、彼一人でそれだけの働きが出来るということ。実力の伴わない者が同行することを嫌い、基本討伐の際は単騎で斬り込んでいくことが多い。他の者はついて行っても足手まといになると言って、後方支援程度しか許されない」
つまりは完全な一匹狼。群れを嫌うタイプだ。
紫紋も喧嘩は強かったが、常に仲間に囲まれ、慕われて来た。仲間のためだと思うと力も湧いたし、助け合いながらやってきた。そんな紫紋とは逆のタイプのようだ。
「ぞろぞろ世界樹救済ツアーの同行を嫌がると?」
「ぞろぞ…言い方は不適切ですが、そうです」
「多分、世界樹への行軍には参加してくれるだろうが、護衛は無理だと言うのは目に見えている」
「仕方ありません。やりたくないことを強要できません。話してみて嫌だと言うなら、それはそれでどうにかするしかありません」
「そう言ってくれると助かる」
紫紋の言葉に団長は安堵したようで、ほっと息を吐いた。
「その代わりと言っては何だが、騎士団からも精鋭を派遣しよう。アシェンボーン卿の足元にも及ばないが、見事な働きをしてくれるだろう」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは早いぞ。騎士団の者は、アシェンボーン卿よりは柔和だが、守護騎士の座を奪われ、気が立っている者もいるからな」
どちらにしても、紫紋には試練だということだ。
「シモンさん、団長の言葉すべてを鵜呑みになさいませんように。団長も、シモンさんに対して意地悪が過ぎますよ」
団長の物言いに対し、副神官が顔を顰める。
「副神官殿は、この者を随分買っていらっしゃるようだな」
「もちろんです。意図的ではありませんでしたが、召喚してしまったからには、この世界に住む我々が責任を持って対処しなければなりません」
「それだけか?」
「それだけでは、もちろんありません。出会ってまだほんの数刻ですが、シモンさんは立派で潔い方だと思います。聖女様にもお優しく、初めは大神官に対し厳しいものがあり、色々口論めいたことをされていましたが、きちんとご自身から歩み寄られました」
「あの大神官と口論…」
団長の紫紋を見る目つきが変わった。
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