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第一章 突然の異世界

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本日祝日ということで、追加更新します。
夜6時にももう一話更新します。



「俺は、呼んでない?」  
「そうだ。我々が求めるのは、この世界を支える世界樹の浄化を担う聖女一人。お前のような無礼者は、つまり用無しということだ」

 老人にしては背が高いが、百八十センチの紫紋よりは低い大神官は、彼を見上げながら意地悪く言った。

「俺が用無し? 村咲さんを呼ぼうとして、俺を巻き込んだということか?」
「そうだ。聖女と何の関わりもない、ただの雑魚だ」

 念を押す紫紋に、大神官がドヤ顔で鼻息荒く言った。

「ということは、あんた達は勝手に召喚とかで村咲さんを拉致したが、失敗して俺まで巻き込んだってことか?」
「し、失敗だと?」

 聞き捨てならない単語を聞いて、大神官が血相を変えて言った。

「だってそうだろ? そもそも、相手の承諾もなしにいきなり連れ去って、それは犯罪じゃないのか? 百歩譲ってそれを正当化したとして、無関係の俺まで引っ張ってきたということは、失敗じゃないのか?」
「な、なんだと…」

 茹でダコのように大神官は顔を真っ赤にする。

「ぶ、無礼な男だ。私を誰だと思っている、私は」
「大神官様だろ。さっき自分から名乗っていたのに、忘れたのか? 年長者は敬えと教えられたが、あんたみたいな態度は人に嫌われるぞ。もっと可愛らしい年寄りになったらどうだ」
「と、年寄り」
「まあ、二人共それくらいにしなさい」

 笑いをこらえながら、国王がいがみ合う二人の間に割って入る。

「陛下、この者の物言いは…」
「デュナン、この者の話も一理ある。我々は我々の勝手な事情で、二人をこの世界に呼び寄せた」
「し、しかし陛下、世界樹の浄化は、この国、いえ、この世界の存亡に大きく関わる問題です」

 大神官は納得がいかない様子だ。

「さよう。我々には必要なこと。それゆえ、我々は昔から神託により、その時々に相応しい聖女を召喚してきた」
「え、国を上げて拉致を続けてきたのか」

 ポロリと紫紋が呟いた言葉に、大神官はぎっと彼を睨みつけ、副神官も国王も苦笑いする。

「ふふ」

 そしてその側で飛花が、笑いをこらえきれずに吹き出した。

「門脇さん、面白すぎます」
「や、俺は真剣だが」

 至って真面目なつもりだが、飛花が思った以上に怖がっていないので、紫紋は少しほっとした。
 案外肝が座っているのだろう。

「カド、ワキ殿と申したな。そなたの言い分も正しいが、我々の事情も聞いてほしい。決して私利私欲でこのようなことをしたのではない。ここで立ち話もどうかと思うので、場所を移しても良いかな。美味しいお茶と菓子を振る舞おう」

 大神官の物言いは苛つくが、丁寧な国王の態度には好感が持てる。

「そちらの聖女殿、ムラサキ殿もよろしいか?」
 
 飛花は紫紋と二人、顔を見合わせた。

「どう思う?」
「私は構いません。というか、召喚されてしまったものは仕方ありません。門脇さんを巻き込んでしまってすみません」
「別に村咲さんが謝る必要はない。これもなにかの縁だし、話だけでも聞くか」
「よろしいかな?」

 国王が話しかけ、紫紋が飛花に主導権を渡し、どうぞと促す。

「よろしくお願いします」
「俺も、同席させて貰うが構わないよな」
「もちろんです。是非とも」

 国王が頷く。

「そっちの大神官様も、構わないよな」

 不満そうに口を引き締めている大神官に、紫紋が確認する。

「構わないな、デュナン」
「陛下が、お許しになったものを、私がどうこう言える訳ございません」
「では、案内しよう」 
 
 不承不承ではあるが、大神官も認めたことで、全員で移動を始めた。

「改めてよろしくな、俺のことは紫紋でいい。堅苦しいのは嫌いなんだ」
「じゃあ、私のことも飛花って呼んでください」
「飛花はいくつだ?」
「今年で二十歳になります」
「へえ、大学生か何か?」
「はい、〇〇大学の英文科です」
「すごいな。俺は高卒で、仲間と共同で実家の畑とかで農業をやってる」

 彼らがいた建物は地下だったらしい。
 
「光を」

 国王が手を翳すと、壁に取り付けられたランプに明かりが灯った。

「わ、〇〇クサみたい」
「俺もそう思った」
 
 二人でそんなことを囁やきあった。
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