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第一章 突然の異世界
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「は? た、他人だと、ならば…」
「強いて言えば…」
彼は肩より少し長めのふわりとした黒髪に、少し茶色がかった瞳の少女をチラリと見る。
「同じ国の人間だ」
明らかに外国人風の彼らよりは、同じ日本人である紫紋の方が、半分ロシア人の血が混ざっていても同じ国籍だし、近いと言える。
「た…他人なら口出しするな」
「まあ、デュナンよ。彼の言うことも一理ある。失礼した。私はブラウスタイル国の国王、ヘルフリート・レイムン・バスタラッシュだ」
赤味がかった金髪を、首の後ろで大きくひとつに束ねた深い藍色の瞳をした、中年男性が自己紹介した。
俗に言うイケオジで、品もいい。宝石が付いた王冠がとても豪華だ。
「国…王? ブラウスタイル?」
国王と聞いて紫紋も少女も眉をひそめる。しかも彼が口にした国名も、聞いたことがないものだった。
もちろん地球にはたくさんの国があるから、すべてを知らなくても仕方がないが、メジャーな国ではないことは確かだ。
「そんな国、聞いたことがない。君は?」
紫紋が知らないだけなのかと、自分よりは賢そうな少女に尋ねるが、彼女もフルフルと首を振っている。
「それから…」
国王は隣を見る。
「私はブラウスタイル国の大神官、デュナンと申します」
「神官?」
「さあ、我々は名乗ったぞ」
道理を通したのだから、こちらも相応の礼は尽くさないといけない。
「構わないか?」
再び振り返って紫紋が尋ねると、少女はコクリと頷いた。
「村咲…飛花です」
「ムラサキ殿か」
少女の名前がわかり、国王と大神官は頷いた。
「あ、えっと家名が村咲で、名前が飛花です」
「どんな字を書くんだ?」
紫紋が尋ねる。
「きへんの『村』に、花が咲くの『咲』、飛ぶに草かんむりにカタカナのイヒの『花』です」
「可愛い名前だな。俺は門構えの『門』と、月編に力三つの『脇』、紫紋は紫と、糸偏に文章の文だ」
「紫紋さん、かっこいいですね。ハーフですか?」
「母親がロシア人だ。でも生まれも育ちも日本だから、日本語しか話せない」
「二人は何を言っているのだ?」
漢字の話をしていて二人で盛り上がっていると、国王と大神官が囁きあった。
「そういえば、皆日本語を話しているみたいだな。これって何かのイベントか何かか? 俺達は歩道橋にいたと思ったが、記憶が飛んだのかな」
彼らと会話が成り立っていることにようやく気づき、紫紋が飛花に尋ねた。
「あの、先ほど『聖女』という言葉を耳にしましたが、もしかして、ここは日本でも地球でもないのではないでしょうか?」
「え?」
怯えた様子はそのままだが、気丈な性格なのか、飛花が紫紋や国王だと言う人物に問いかけた。
「どういう…」
「アスカ殿はなかなか聡明でいらっしゃる。おっしゃる通り、ここはロランベル。アスカ殿のいた世界はチキューと仰るのか? チキューとは別の異なる世界。そしてブラウスタイルはこの世界で最も古い歴史がある国」
「やっぱり、私は異世界召喚されたのね」
「は?」
一人話についていけないの紫紋が素っ頓狂な声を出したが、飛花は話はわかったとばかりに、頷いた。
「えっと、村咲さん?」
「御明察。素晴らしい」
国王達は飛花の言葉を聞いて、手を叩いて喜んだ。
「言葉が通じるのは、召喚の際に術か何かを使ったのですか?」
「その通りです。どのような異世界から来ようと、意思疎通が出来るように、召喚の術には言語理解の術も取り入れています」
三人目の男性が目をキラキラさせて会話に割って入った。
「わ、な、何だ急に」
警戒して、紫紋は構えの姿勢を取る。
「これは失礼いたしました。私は召喚の術を執り行った一人、副神官長のファビアン・クルーチェと申します」
「お、男か」
長い銀髪が肩からサラリと流れる。最初どこかの歌劇団の男役かと思ったが、間違いなく男性だ。
「異世界…異国じゃなく、世界が違う? 召喚って、俺達は…」
「そうです、門脇さん。私達、地球とは違う世界に連れてこられたんです」
「正確には、召喚したのはそちらの『アスカ殿』だけで、そちらは召喚した覚えはないのだがな」
被っている帽子から見える申し訳程度しかない髪の大神官が、嘲りを込めて紫紋に言い放った。
「強いて言えば…」
彼は肩より少し長めのふわりとした黒髪に、少し茶色がかった瞳の少女をチラリと見る。
「同じ国の人間だ」
明らかに外国人風の彼らよりは、同じ日本人である紫紋の方が、半分ロシア人の血が混ざっていても同じ国籍だし、近いと言える。
「た…他人なら口出しするな」
「まあ、デュナンよ。彼の言うことも一理ある。失礼した。私はブラウスタイル国の国王、ヘルフリート・レイムン・バスタラッシュだ」
赤味がかった金髪を、首の後ろで大きくひとつに束ねた深い藍色の瞳をした、中年男性が自己紹介した。
俗に言うイケオジで、品もいい。宝石が付いた王冠がとても豪華だ。
「国…王? ブラウスタイル?」
国王と聞いて紫紋も少女も眉をひそめる。しかも彼が口にした国名も、聞いたことがないものだった。
もちろん地球にはたくさんの国があるから、すべてを知らなくても仕方がないが、メジャーな国ではないことは確かだ。
「そんな国、聞いたことがない。君は?」
紫紋が知らないだけなのかと、自分よりは賢そうな少女に尋ねるが、彼女もフルフルと首を振っている。
「それから…」
国王は隣を見る。
「私はブラウスタイル国の大神官、デュナンと申します」
「神官?」
「さあ、我々は名乗ったぞ」
道理を通したのだから、こちらも相応の礼は尽くさないといけない。
「構わないか?」
再び振り返って紫紋が尋ねると、少女はコクリと頷いた。
「村咲…飛花です」
「ムラサキ殿か」
少女の名前がわかり、国王と大神官は頷いた。
「あ、えっと家名が村咲で、名前が飛花です」
「どんな字を書くんだ?」
紫紋が尋ねる。
「きへんの『村』に、花が咲くの『咲』、飛ぶに草かんむりにカタカナのイヒの『花』です」
「可愛い名前だな。俺は門構えの『門』と、月編に力三つの『脇』、紫紋は紫と、糸偏に文章の文だ」
「紫紋さん、かっこいいですね。ハーフですか?」
「母親がロシア人だ。でも生まれも育ちも日本だから、日本語しか話せない」
「二人は何を言っているのだ?」
漢字の話をしていて二人で盛り上がっていると、国王と大神官が囁きあった。
「そういえば、皆日本語を話しているみたいだな。これって何かのイベントか何かか? 俺達は歩道橋にいたと思ったが、記憶が飛んだのかな」
彼らと会話が成り立っていることにようやく気づき、紫紋が飛花に尋ねた。
「あの、先ほど『聖女』という言葉を耳にしましたが、もしかして、ここは日本でも地球でもないのではないでしょうか?」
「え?」
怯えた様子はそのままだが、気丈な性格なのか、飛花が紫紋や国王だと言う人物に問いかけた。
「どういう…」
「アスカ殿はなかなか聡明でいらっしゃる。おっしゃる通り、ここはロランベル。アスカ殿のいた世界はチキューと仰るのか? チキューとは別の異なる世界。そしてブラウスタイルはこの世界で最も古い歴史がある国」
「やっぱり、私は異世界召喚されたのね」
「は?」
一人話についていけないの紫紋が素っ頓狂な声を出したが、飛花は話はわかったとばかりに、頷いた。
「えっと、村咲さん?」
「御明察。素晴らしい」
国王達は飛花の言葉を聞いて、手を叩いて喜んだ。
「言葉が通じるのは、召喚の際に術か何かを使ったのですか?」
「その通りです。どのような異世界から来ようと、意思疎通が出来るように、召喚の術には言語理解の術も取り入れています」
三人目の男性が目をキラキラさせて会話に割って入った。
「わ、な、何だ急に」
警戒して、紫紋は構えの姿勢を取る。
「これは失礼いたしました。私は召喚の術を執り行った一人、副神官長のファビアン・クルーチェと申します」
「お、男か」
長い銀髪が肩からサラリと流れる。最初どこかの歌劇団の男役かと思ったが、間違いなく男性だ。
「異世界…異国じゃなく、世界が違う? 召喚って、俺達は…」
「そうです、門脇さん。私達、地球とは違う世界に連れてこられたんです」
「正確には、召喚したのはそちらの『アスカ殿』だけで、そちらは召喚した覚えはないのだがな」
被っている帽子から見える申し訳程度しかない髪の大神官が、嘲りを込めて紫紋に言い放った。
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