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プロローグ

何かがおかしいんだが①

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「シモン兄貴、今度俺とも手合わせ願います」
「ああいいぞ」

 そう言って俺に懐いてくるのは、ここ異世界に来て、一番最初に兄弟の契りを交わしたピエール。
 彼は聖女の護衛騎士の最有力候補だった。彼自身もそのために、早くから準備を進めてきた。しかし、その座に紫紋が就いたことで、彼に敵意を向けてきたが、逆に紫紋にこてんぱんにされた。それ以来、兄貴と言って懐いてくるようになった。

「シモン、次の私との聖力交換は、いつにしますか?」
「そうだな。明日とかはどうだ?」

 神殿に戻ってくると、副神官長のファビアンが声をかけてきた。
 この世界に召喚されて、俺にはどうやら聖力というものが備わっているらしい。(精力ではない)
 その量が増えすぎると、体に不調をもたらすため、定期的に彼と聖力を交わらせ、その量を調整している。
 やり方は両手のひら同士を合わせ、プラスとマイナスに電流を流すように、片方の手から流し、相手の体を巡回し、反対側の手から戻すというもの。
 だが、聖力を流し合う者同士の力量に差があり過ぎると、弱い方に負担がかかり昏倒してしまう。これまでファビアンと並ぶ聖力を持つ者がおらず、軽く交換する程度しか出来なかったそうだ。
 彼が全力で聖力を交換出来たのは、紫紋が初めてだったらしい。
 余程それが嬉しかったのか。年も同じなこともあり、友人のように接してくれている。
 
「シモン、この前君が提案してくれた作物の栽培について、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか」
「それはいいが、それなら言ってくれれば俺から行くのに。わざわざ神殿まで悪いな」
「ちょうど弟に用があったものですから」

 ファビアンと別れ、部屋に戻ろうとした俺に会いに来たのは、この国の宰相、アーマドだ。
 ファビアンとアーマドは兄弟だ。ついでに言うとピエールもそうで、アーマドが長男、次男がファビアン、そしてピエールが末っ子の三兄弟らしい。
 日本で俺は農業を営んでいた。まだこの国では導入されていないが、有用な栽培の提案をしたところ、是非採用したいと言ってもらえた。
 紫紋は三流高校を何とか留年せずに卒業出来た程度の頭の出来だったが、好きなことはとことん突き詰めるタイプだ。本格的に祖父の土地を受け継いで農業などを一から勉強してきた。
 それがこの国で役に立つとわかり、紫紋も嬉しい。
 宰相と紫紋は年齢が同じということもあり、仲良くしてもらっている。

「紫紋お兄様、美味しいお菓子をいただきましたの。ご一緒いたしませんか?」
「いいね。ちょうどお腹が空いてたんだ」 

 次に声をかけてきたのは、紫紋と一緒に召喚されてきた(彼女が本命で紫紋が巻き込まれたというのが正しい)村咲飛花あすか。現役女子高生の彼女は、この世界ロランベルにある、世界樹の浄化を行う聖女として、ブラウスタイルという国に召喚された。
 紫紋とはひと回り以上も年齢が離れているが、一緒に日本から来た紫紋を、「お兄様」と言って慕ってくれる。
 彼には中学生になる異母兄弟がいるが、妹がいたらこんな風なのかなと、つい紫紋も彼女を可愛がる。
 けれど、ひとつだけ、彼女に困っていることがある。

「それで、私想像してみたの。どなたを『攻め』にしたカップリングが一番素敵かしら。あ、もちろん紫紋お兄様は絶対に『受け』一択よ」
「その……どうして俺が『受け』なんだ。どうみても俺は『攻め』だろう」

 彼女はBL好きで、紫紋を中心にしてこの世界で出会った者たちと彼をカップルにして、妄想するのを楽しんでいる。

「いいえ、ちょっとマッチョな受け主人公が、圧倒的攻めによって開発され蕩ける。それがいいんです」
「しかしだな」
「他の誰でもない。シモンの相手は私以外いないだろう」
「わっ!」

 突然気配もなく背後から抱きしめられ、紫紋は驚いて声を上げた。

「ヴィンセンツ、心臓に悪いからいきなりはやめてくれと、いつも言っているじゃないですか」

 声と気配で誰なのかはわかっていたので、振り返らず相手の名前を口にする。

「すまない。だが君を見るとつい、抱きつきたくなるんだ」
「ひゃあっ」

 首筋に軽く息がかかり、紫紋は悲鳴をあげた。
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