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第一章 突然の異世界
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頭が痛い。胸がムカついて吐き気がする。
経験はないが、人から聞いた酷い酒酔いに似ている。
もしくは思い切り頭を殴られた時によくある、脳震盪か。
ーおれ、あの後どうなった?
歩道橋で怪しい光に取り囲まれた若い女性の助けに応じ、手を伸ばしたところで、視界が真っ暗になった。
上か下かもわからない、何もない空間に放り出されたかと思うと、物凄い重圧に体が押しつぶされそうになった。
『大丈夫か?』
声を出そうとしたが、声帯がうまく動かない。
何とか顔を巡らせると、紫紋に助けを求めた少女が縋るように自分を見ていた。
紫紋は必死で笑顔を作り、繋いだ手に力を込め、無理に頭を動かし頷いた。
『絶対にこの手は離さない』
そう意志を込めた目で見つめる。すると繋いだ右手の甲に、チリリと火傷のような痛みが走った。しかし、ここで手を離すわけにはいかないと、強く握り込んだ。そのまま少女は安心したのか、すーっと目を閉じ意識を失った。
紫紋ももう限界だと思いかけた時、何もなかった空間に一筋の明かりが見えた。
ーあそこに行けばいいのか?
失いかけた意識を奮い立たせ、紫紋は空いた方の手を伸ばす。
すると流れが急に変わり、体がその光に向かって押し流されて行った。
ー眩しい。
対向する車のヘッドライトのような眩しさに、思わず目を閉じた。
「おお、成功したぞ」
「これでロランベルは救われる」
眩しさに目を閉じている紫紋の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。
「どういうことだ。男? 失敗か」
「いや、もう一人女性がいる。やはり成功したようだぞ」
ー一体ここはどこだ? 奴らは何を言っている?
そっと目を開けた紫紋の視界に飛び込んてきたのは、西洋風の顔立ちをした数人の男たちの姿だっと。
紫紋たちのいる場所は、広さは小学校などの教室ひとつ分くらいだが、高い天井と石の柱が並び立つ窓のない空間だった。
「歩道橋は? ここはどこだ?」
紫紋の声が、広い空間に反響した。
「ようこそ、ロランベルへ、聖女様」
そう話しかけてきたのは、長いローブを着たどこかの宗教の教皇のような服装をしたじいさんだった。
その側には他にも何人か、彼と同じような服装をした人物や、中世のヨーロッパ風のコスプレをした人物がいた。
男達は昔流行ったシリーズ物の冒険RPGゲームで見たような服装をしているのを見たことがある。
今でもそのゲームを愛する人達が集まって、コスプレイベントか何かしているのだろうか。
「聖女?」
「きゃっ、だ、誰?」
少女はいきなり話しかけてきた男性に驚いて悲鳴を上げた。
テレビで某教皇が被っているような高めの冠を着けた白髪ロン毛の男性が恭しく紫紋…正確には少女の前に傅いた。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
宗教家らしい、人の良さそうな表情ではあるが、どこか嘘臭い感じがして、紫紋はさっと二人の間に割って入った。
「門脇紫紋だ」
「いえ、そなたではなく…」
「人の名前を聞く前に、まず自分から名乗るのが礼儀だろう?」
「な、なんだと! そ、そなたは彼女とはどういう関係だ? 兄か何かか?」
顔を真っ赤にして震えながら怒りを何とか抑えた男性が、紫紋に尋ねる。
「まったくの赤の他人だ」
それに対し紫紋は堂々と答えた。
経験はないが、人から聞いた酷い酒酔いに似ている。
もしくは思い切り頭を殴られた時によくある、脳震盪か。
ーおれ、あの後どうなった?
歩道橋で怪しい光に取り囲まれた若い女性の助けに応じ、手を伸ばしたところで、視界が真っ暗になった。
上か下かもわからない、何もない空間に放り出されたかと思うと、物凄い重圧に体が押しつぶされそうになった。
『大丈夫か?』
声を出そうとしたが、声帯がうまく動かない。
何とか顔を巡らせると、紫紋に助けを求めた少女が縋るように自分を見ていた。
紫紋は必死で笑顔を作り、繋いだ手に力を込め、無理に頭を動かし頷いた。
『絶対にこの手は離さない』
そう意志を込めた目で見つめる。すると繋いだ右手の甲に、チリリと火傷のような痛みが走った。しかし、ここで手を離すわけにはいかないと、強く握り込んだ。そのまま少女は安心したのか、すーっと目を閉じ意識を失った。
紫紋ももう限界だと思いかけた時、何もなかった空間に一筋の明かりが見えた。
ーあそこに行けばいいのか?
失いかけた意識を奮い立たせ、紫紋は空いた方の手を伸ばす。
すると流れが急に変わり、体がその光に向かって押し流されて行った。
ー眩しい。
対向する車のヘッドライトのような眩しさに、思わず目を閉じた。
「おお、成功したぞ」
「これでロランベルは救われる」
眩しさに目を閉じている紫紋の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。
「どういうことだ。男? 失敗か」
「いや、もう一人女性がいる。やはり成功したようだぞ」
ー一体ここはどこだ? 奴らは何を言っている?
そっと目を開けた紫紋の視界に飛び込んてきたのは、西洋風の顔立ちをした数人の男たちの姿だっと。
紫紋たちのいる場所は、広さは小学校などの教室ひとつ分くらいだが、高い天井と石の柱が並び立つ窓のない空間だった。
「歩道橋は? ここはどこだ?」
紫紋の声が、広い空間に反響した。
「ようこそ、ロランベルへ、聖女様」
そう話しかけてきたのは、長いローブを着たどこかの宗教の教皇のような服装をしたじいさんだった。
その側には他にも何人か、彼と同じような服装をした人物や、中世のヨーロッパ風のコスプレをした人物がいた。
男達は昔流行ったシリーズ物の冒険RPGゲームで見たような服装をしているのを見たことがある。
今でもそのゲームを愛する人達が集まって、コスプレイベントか何かしているのだろうか。
「聖女?」
「きゃっ、だ、誰?」
少女はいきなり話しかけてきた男性に驚いて悲鳴を上げた。
テレビで某教皇が被っているような高めの冠を着けた白髪ロン毛の男性が恭しく紫紋…正確には少女の前に傅いた。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
宗教家らしい、人の良さそうな表情ではあるが、どこか嘘臭い感じがして、紫紋はさっと二人の間に割って入った。
「門脇紫紋だ」
「いえ、そなたではなく…」
「人の名前を聞く前に、まず自分から名乗るのが礼儀だろう?」
「な、なんだと! そ、そなたは彼女とはどういう関係だ? 兄か何かか?」
顔を真っ赤にして震えながら怒りを何とか抑えた男性が、紫紋に尋ねる。
「まったくの赤の他人だ」
それに対し紫紋は堂々と答えた。
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