48 / 48
幕間〜二人何があっても
6
しおりを挟む
「私は君の親や姉弟じゃない。血の繋がりがない他人として、たとえ紙切れだけの契約に過ぎなくても、現時点で私が成れるのは夫と呼ばれる存在だけだ」
強い眼差しで私の手を掴み、見つめてくるレオポルドから、目が離せない。
「私のために君が傷ついてきた過去のことを、君が受け入れそれでも私がいいと言ってくれたことで、どれほど私が救われ有頂天になっているか。でも心優しい君だから、きっと私に気を使って同情しているだけかも知れない」
「それは違うわ。お父様やトレイシーやルディのように、始めから与えられた家族以外で、傍にいて欲しいと思うのは、これから先も共に生きて行きたいと思うのはレオポルドだけ」
お父様やトレイシーたちは大事な家族。これまで私が心に留め、気にかけてきた人達。今でもそれは変わらない。
でも、彼らには私以外にも大切に思い合う人たちがいる。それぞれの伴侶であり子どももそうだ。
私の役割は変わり、彼らの生活の中で私の占める割合はどんどん狭くなっている。
それは私も同じ。
私の中で家族への義務感は狭くなり、家族としての愛情だけが占め、レオポルドの存在がその大半を占領するまでになっていた。
「コリーナ、私は君の愛を受け止めるに相応しい人間になりたい。そう成れるだろうか」
「とっくにそうなっているわ」
彼の手を握り返して微笑む。彼の手は私の手では隠しきれないほど大きく、力強く、そして温かい。体だって彼よりは小さくて、両手を広げて彼に抱きついても、持ち上げることすら出来ない。彼に寄りかかられれば、支えきれずに倒れてしまうだろう。
それでも、今彼は私の目の前で必死に私の愛を乞おうとしている。
単なる好意でしかなかった彼への気持ちが、今では彼への想いが体から溢れるほどになっている。彼を想うと切なくて狂おしくなる。
「それに私はそれほど立派な人間ではないわ。私の愛を受け止めるに相応しいとか、そんな風に思われても困ってしまう。あなたは充分素敵な人。私にはもったいないくらい」
「お互い相手に対して卑屈になりすぎだな」
「そうよ。ただ、私が女であなたが男。そして私達は出会い、互いに思い合っている。ただそれだけ」
「ただそれだけでも、想いを寄せる相手に想いを返してもらえるなら、それは最高なことだ」
「そうね。それは私も思うわ」
きっとレオポルドもソフィーやロクサーヌさんのことを思い出しているのだろう。
ソフィーはレオポルドと結ばれることで、自分が価値ある存在だと認めさせたかった。自分は彼に相応しい相手であり、一番理解しているのだと思い込み、私を何もわかっていない愚か者だと罵った。
ロクサーヌさんがレオポルドのことをどこまで想っていたのかはよくわからない。
ただ、人生の選択肢としてレオポルドとの未来を掴むことが出来ず、アンセンヌ伯爵と共に破滅の道へ進んでしまった。彼らはその道が栄光へと続く道だと信じていたのだろうか。
「何を考えている?」
レオポルドが、思考を探るかのように私のブルーグレイの瞳を覗き込み、尋ねた。
「私は幸せものだなぁって思っていたの」
これくらいならお父様も許してくれるかな。そう思いながらレオポルドの首に腕を回し、そっと引き寄せて額を彼の顎に擦り付ける。
本当は額同士を擦り付けたかったが、如何せん身長差という、私にはどうしょうもない格差がそれを許さない。
「それは私の台詞だ」
私の意図を汲み取り、レオポルドが私の腰を掴んで軽々と持ち上げた。
途端に身長差は縮まり、私の目線が彼と同じ高さになる。
視線があったところで、互いに顔を近づけて唇を重ねた。
彼とのキスはいつも私を心地よくさせてくれる。啄むような軽いキスも、舌を絡める深いキスも。
「いくらお父上でも、これくらいのことは大目に見てくれるだろうか」
唇を少し離し口角を上げてレオポルドが言った。
「私も今、そう思っていたの。これも駄目なんて言われたら、私は人生で初めて『お父様なんて大嫌い』って叫ぶわ」
「それは…お父上も困るだろうな」
初めての娘の反抗に、父はどんな顔をするだろう。
「嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン~相手が誰か記憶がありません」
これにて完となります。
お読み頂き、ありがとうございます。
引き続き他の作品もよろしくお願いします。
七夜かなた
強い眼差しで私の手を掴み、見つめてくるレオポルドから、目が離せない。
「私のために君が傷ついてきた過去のことを、君が受け入れそれでも私がいいと言ってくれたことで、どれほど私が救われ有頂天になっているか。でも心優しい君だから、きっと私に気を使って同情しているだけかも知れない」
「それは違うわ。お父様やトレイシーやルディのように、始めから与えられた家族以外で、傍にいて欲しいと思うのは、これから先も共に生きて行きたいと思うのはレオポルドだけ」
お父様やトレイシーたちは大事な家族。これまで私が心に留め、気にかけてきた人達。今でもそれは変わらない。
でも、彼らには私以外にも大切に思い合う人たちがいる。それぞれの伴侶であり子どももそうだ。
私の役割は変わり、彼らの生活の中で私の占める割合はどんどん狭くなっている。
それは私も同じ。
私の中で家族への義務感は狭くなり、家族としての愛情だけが占め、レオポルドの存在がその大半を占領するまでになっていた。
「コリーナ、私は君の愛を受け止めるに相応しい人間になりたい。そう成れるだろうか」
「とっくにそうなっているわ」
彼の手を握り返して微笑む。彼の手は私の手では隠しきれないほど大きく、力強く、そして温かい。体だって彼よりは小さくて、両手を広げて彼に抱きついても、持ち上げることすら出来ない。彼に寄りかかられれば、支えきれずに倒れてしまうだろう。
それでも、今彼は私の目の前で必死に私の愛を乞おうとしている。
単なる好意でしかなかった彼への気持ちが、今では彼への想いが体から溢れるほどになっている。彼を想うと切なくて狂おしくなる。
「それに私はそれほど立派な人間ではないわ。私の愛を受け止めるに相応しいとか、そんな風に思われても困ってしまう。あなたは充分素敵な人。私にはもったいないくらい」
「お互い相手に対して卑屈になりすぎだな」
「そうよ。ただ、私が女であなたが男。そして私達は出会い、互いに思い合っている。ただそれだけ」
「ただそれだけでも、想いを寄せる相手に想いを返してもらえるなら、それは最高なことだ」
「そうね。それは私も思うわ」
きっとレオポルドもソフィーやロクサーヌさんのことを思い出しているのだろう。
ソフィーはレオポルドと結ばれることで、自分が価値ある存在だと認めさせたかった。自分は彼に相応しい相手であり、一番理解しているのだと思い込み、私を何もわかっていない愚か者だと罵った。
ロクサーヌさんがレオポルドのことをどこまで想っていたのかはよくわからない。
ただ、人生の選択肢としてレオポルドとの未来を掴むことが出来ず、アンセンヌ伯爵と共に破滅の道へ進んでしまった。彼らはその道が栄光へと続く道だと信じていたのだろうか。
「何を考えている?」
レオポルドが、思考を探るかのように私のブルーグレイの瞳を覗き込み、尋ねた。
「私は幸せものだなぁって思っていたの」
これくらいならお父様も許してくれるかな。そう思いながらレオポルドの首に腕を回し、そっと引き寄せて額を彼の顎に擦り付ける。
本当は額同士を擦り付けたかったが、如何せん身長差という、私にはどうしょうもない格差がそれを許さない。
「それは私の台詞だ」
私の意図を汲み取り、レオポルドが私の腰を掴んで軽々と持ち上げた。
途端に身長差は縮まり、私の目線が彼と同じ高さになる。
視線があったところで、互いに顔を近づけて唇を重ねた。
彼とのキスはいつも私を心地よくさせてくれる。啄むような軽いキスも、舌を絡める深いキスも。
「いくらお父上でも、これくらいのことは大目に見てくれるだろうか」
唇を少し離し口角を上げてレオポルドが言った。
「私も今、そう思っていたの。これも駄目なんて言われたら、私は人生で初めて『お父様なんて大嫌い』って叫ぶわ」
「それは…お父上も困るだろうな」
初めての娘の反抗に、父はどんな顔をするだろう。
「嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン~相手が誰か記憶がありません」
これにて完となります。
お読み頂き、ありがとうございます。
引き続き他の作品もよろしくお願いします。
七夜かなた
21
お気に入りに追加
4,731
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(136件)
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】お飾りの妻だったのに、冷徹な辺境伯のアレをギンギンに勃たせたところ溺愛妻になりました
季邑 えり
恋愛
「勃った……!」幼い頃に呪われ勃起不全だったルドヴィークは、お飾りの妻を娶った初夜に初めて昂りを覚える。だが、隣で眠る彼女には「君を愛することはない」と言い放ったばかりだった。
『魅惑の子爵令嬢』として多くの男性を手玉にとっているとの噂を聞き、彼女であれば勃起不全でも何とかなると思われ結婚を仕組まれた。
淫らな女性であれば、お飾りにして放置すればいいと思っていたのに、まさか本当に勃起するとは思わずルドヴィークは焦りに焦ってしまう。
翌朝、土下座をして発言を撤回し、素直にお願いを口にするけれど……?
冷徹と噂され、女嫌いで有名な辺境伯、ルドヴィーク・バルシュ(29)×魅惑の子爵令嬢(?)のアリーチェ・ベルカ(18)
二人のとんでもない誤解が生みだすハッピ―エンドの強火ラブ・コメディ!
*2024年3月4日HOT女性向けランキング1位になりました!ありがとうございます!
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
王子様と朝チュンしたら……
梅丸
恋愛
大変! 目が覚めたら隣に見知らぬ男性が! え? でも良く見たら何やらこの国の第三王子に似ている気がするのだが。そう言えば、昨日同僚のメリッサと酒盛り……ではなくて少々のお酒を嗜みながらお話をしていたことを思い出した。でも、途中から記憶がない。実は私はこの世界に転生してきた子爵令嬢である。そして、前世でも同じ間違いを起こしていたのだ。その時にも最初で最後の彼氏と付き合った切っ掛けは朝チュンだったのだ。しかも泥酔しての。学習しない私はそれをまた繰り返してしまったようだ。どうしましょう……この世界では処女信仰が厚いというのに!
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結おめでとうございます㊗️
本当に大好きな作品で毎朝の更新が楽しみで😆
コリーナとレオポルドが幸せになれてよかった。
番外編ぜひお願いします!
yukinko818さん、ありがとうございます。番外編年内には…
お疲れ様でした。このお2人が好きでした😊
いつきさん ありがとうございます。
また番外編など更新できたらと思います
(*´ω`*)完結ありがとうございました♪レオポルドとコリーナは無事に結ばれたんですね!ヨカッタ♡
( ꈍᴗꈍ)もっとずっとお話を読んでいたかったです。結婚式とか二人の子供とか見たかったなぁ
二人の子供なら、きっと行動力があって剣技とか優れた子供に成長しそう〜
(人 •͈ᴗ•͈)お疲れ様でした!
ちびさん、ありがとうございます。
番外編 また更新できたらと思います(◕ᴗ◕✿)