嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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幕間〜二人何があっても

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私の中には、それを崩してしまいたいという意地悪な気持ちが湧き上がっていた。
私の拙い誘惑の手に必死で抗おうとするレオポルド。
本当に嫌なら私の手をはたき落として距離を取ればいいだけなのに、甘んじてその甘美な責め苦に耐えている。
額と首筋に浮き出た筋と、噛み締めた唇をそっと指先でなぞると、ごくりと大きく唾を飲み込んだ。
眼鏡の向こうの菫色の瞳が、色濃くなる。

「嫌なら私の手を払い除けてくれればいいのよ」
「それは…しない。君が望んでしていることなら、それを止めるつもりはない。私が耐えればいいだけだ」

体は間違いなく反応しているのに、レオポルドの意思は鉄のように固かった。

「ごめんない。あなたを試すようなことをして…ただちょっと意地悪をしてみたくなったの」

これ以上彼を追い詰めることに気が引けて、触れていた手を自分から引き離した。

「こんな意地悪ならいつでも…第一こんなの意地悪でもなんでもない。コリーナが私に興味を持ってくれているということだから」

彼は怒るどころか私の意地悪とは言えない行動を喜んでいる。

「君が望むことならなんだってやっていい。今すぐ裸になって逆立ちしろと言われてもやるつもりだ」

レオポルドが着ているものをすべて脱ぎ捨てて裸で逆立ちする姿を思い浮かべた。

「いえ…それは…見てみたい気もするけど…そこまでは望んでいないわ」
「そうか」

どうしてそんな発想になったのか。

「それなら、他のことをお願いしていい?」
「例えば?」
「えっと…もっと一緒に色々な所へ出かけたい。国立劇場は…ちょっとまだ行くのは怖いけど、もう一度植物園にも行きたいし、馬にも乗せてほしい。一緒に剣の練習もしたい」

トレイシーやルディから聞いたデートの話を思い出し、あれこれと案を捻り出す。

「それは構わない。いや、私もそうしたい。しかし、最後の剣の練習は」

レオポルドの顔が険しくなる。女が剣を振り回すのは気に入らなかっただろうか。
私としては昔に齧った程度だったが、筋がいいと褒められし、レオポルドには敵わないまでも、少しでも彼と共に出来ることをしたかった。

「やっぱり…女が剣なんて、反対?」

心配になって彼の顔色を窺う。

「そうでは…誤解しないでほしい。コリーナが…いや、女性が剣を習うことが嫌とか悪いとかではない。余所の国では剣を握っている女性もいる」
「話には聞いたことがあります。レオポルドは実際そんな国へ行かれたことがあるのですか?」
「ああ。理由はそれぞれだ。戦争や疫病などで男手が減って、男だ女だと言っていられなくなったり、後宮など王以外の男性が出入りできないところでは、武芸に秀でた女性が護衛として必要になる」
「そうなんですね」
「以前話したと思うが、女性にだけ貞操を求める考え方は好きではない。男にも同じだけ貞操観念があって然るべきだ」

私が男性と一夜を共にした経験があると告白した時、確かにレオポルドはそう言った。

「あれは、君の覚えていない相手が自分だから問題ないと言ったわけではない」
「そ、それは…ごめんなさい。お詫びのしようもないわ」
「それはまあ…かなり堪えたが、今は思い出してくれたのだし、こうして結婚することになったのだから、思い出として将来は笑い合えるだろう」
「そうね…それにいい教訓だわ。お酒が弱いなら弱いなりに適度な量を見極めるべきよね」
「話は戻るが…」

軽く話の筋道がずれたため、レオポルドが本題に戻した。

「貞操観念のことだが、浮気は男の甲斐性だとか、自分の行いを正当化して開き直るのは間違っていることだ。二人以上の妻を娶ることが普通と考える国もある。そういう場合は、そうやってその国がその制度を続けてきた歴史と伝統があるわけで、本人たちが納得しているならそれでいいと思っている。自分の考えや主張を押し付けるつもりはない。同じように剣を女性が扱うことを悪いことだとは思っていない」

レオポルドが外交に携わってきた中で、様々な価値観があって、一概に何が悪いとか良いとかは言えないと思っていることはわかった。なら、なぜあのような反応をしたのか。

「私が剣を握ることを特に反対されていないのはわかりましたが、ではなぜあんな渋い顔をされたのですか?」

「そんなの決まっている。…怪我でもして結婚式が今以上に延びるのは困るから」

少し口を尖らせるように顔を曇らせた理由を話してくれた。

「それは…私も困ります」

その言い方が拗ねた子どものようで、思わず笑ってしまった。レオポルドもそのことは自覚しているのか、照れ隠しに咳払いする。

「婚約者と夫という立場は違う。赤の他人が法的に夫婦となれば、時にそれは親子や姉弟の絆よりも強いものになる。私は早く君とそういう関係になりたいんだ」
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