嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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幕間〜二人何があっても

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ひとつのものを二つに割り、また合わせるとピタリと形が揃うように、この世には最初は別々の存在なのにまるで初めから同じもの、合うのが当たり前のような存在があるとしたら、それが私とレオポルドならいいと思った。

私の胸は豊満と言うには少し足らないが、決して小さいわけではない。
もう少しあってもいいと思いながら、それが初めから彼の手に合わせたかのようにすっぽりと収まるのが、かえって互いが相手のために存在しているような気分になる。
レオポルドの手によって引き出されるこの反応は何と呼べばいいのだろう。

「コリーナ」
「レオ…」

ゆっくりと彼の指が肌を滑り、私の体は次第に熱を増していく。
布地越しに触れる彼の体もさっきより熱量が増した気がする。
互いに熱に浮かされたかのように夢中で唇を重ねた。

「コリーナ、今はここまでにしよう」
「でも…」
「これ以上続けると歯止めが効かなくなる。お父上との約束を破るわけにはいかない」

レオポルドのトラウザーズの生地が盛り上がり、そこから解放されるのを待っているものの存在を確認する。口元が引き結ばれ、こめかみに血管が浮き出ている。彼が精神力を駆使して耐えている証拠だ。
結婚式が終わるまで一線は越えないこと。それが父とレオポルドが交わした約束。

「でもそれは、お父様とレオポルドの間との約束でしょ」

男性だけでなく女性にも性欲というものがあるのだと今実感している。レオポルドにだけ反応する私の欲望が体に渦巻く。

「まさか、君から誘われるとは思わなかった」
「いけないことだと思う?」
「いけなくはないが…」

いたずらを持ちかけているような気持ちだった。自分でも男性に誘いをかける日がこようとは思わなかった。
レオポルドも女性から行為を持ちかけるのははしたないと思っているのだろうか。

「君が私を求めてそう言ってくれるのは嬉しい。だが、これは私とお父上との信頼の問題だ」

誰かに求められ、自分が伸ばした手を取ってくれる人がいるという幸福。ソフィー・クローデルに捉えられていた時に私に触れてきたあの男や、アンセンヌ伯爵に触れられた時はただ嫌悪しかなかった。
記憶の中にある、レオポルドとの一夜を思い起こす。
私の中に身を埋める快感に頬を上気させ、目を潤ませていたレオポルド。
腰を動かすたびにパンパンと肌を打ち、繋がった場所から聞こえる二人の体液の泡立つ音や互いの激しくなる呼吸が耳に残っている。
鼻は匂い立つ汗と性液の独特な香りに満たされた。
指を絡め合い、肌と肌を重ね合わせ擦れ合わせる。
互いに申し合わせたように、何度も何度も唇を寄せて舌が絡まり合った。
五感のすべてがレオポルドを意識していた。それがまざまざと蘇り、肌が粟立った。

「私は一度お義父上の不興を買っている」

それはトレイシーの結婚式の夜、私たちが初めての夜を過ごしたことを言っている。
忘れてしまっていた出来事を思い出し、恥ずかしくて実家に逃げ帰ったが、レオポルドが恋しくて、飲み過ぎた勢いで自分から過去の出来事をお父様たちの前で暴露してしまった。

「私にも責任があることよ。お互いすでに大人だったし、それにしゃべったのは私だもの」

私は酔い潰れてしまっていたが、レオポルドはどちらも素面だった。
酔っ払った方にも責任がないとは言い切れないけど、素面だった方が理性を働かせるべきだと思うだろう。
しかもレオポルドは何も失わないが、純潔を失った私の方が被害は大きいと考えるのが普通だ。
けれど、社交界にデビューしたての十代ではなく、もう充分大人だった。どちらもお酒の上の出来事だったとしても、それを過ちにしたくはなかった。

「レオポルドは、もう私のことを愛していないの?」
「そんなことはない!」

私の問いに直ぐさまレオポルドが反論した。

「愛している。君しかいない」
「私も愛している」

二人で黙って見つめ合う。眼鏡越し、菫色の瞳に私が写っている。私のブルーグレイの瞳にはレオポルドが写っているのだろう。

「なら、もう迷わないで。私は引くつもりはありません。色々ありましたが、私にとってレオポルドはただ一人の人です。レオポルドと結婚できないなら、誰とも結婚しません。嫁き遅れどころか、ずっと嫁けない、嫁かないまま一生を終えることでしょう」

脅迫みたいな言い方だったが、実際そうなのだから仕方がない。
私が誰かの花嫁になる。
少し前は現実味のない話だった。
いずれは誰かにと何となく思っていても、具体的な絵は描けていなかった。
愛し愛される実感はすでにこの身で嫌というほど味わっている。ペトリ家の長女としてまじめに生きてきた私が、父親の言いつけにこんな風に反抗するのは初めてのことだった。
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