40 / 48
幕間〜ロクサーヌ
16
しおりを挟む
「君たちはこっちへ…外に救護を待たせてある」
パライン卿たちが走って向かうのを見送ってからルブラン公が私達に言った。
「私は平気です。でもレオポルドが」
「大丈夫だ。これくらい大したことはない」
見えている部分にも擦り傷がいっぱいあって、自分で歩いているので骨などは折れていないようだが、それでも心配だ。
「言うとおりにしなさい。これは命令だ」
互いに大丈夫だと意地を張る私達に、ルブラン公は穏やかだが為政者としての威厳を見せた。
「わかりました。この度はご迷惑をおかけしました」
ルブラン公に強く言われてレオポルドも引き下がった。
「謝る必要はない。川でクローデルらしき遺体が発見されて肝を冷やしたぞ」
「ソフィーの…では、彼女は…助からなかったのですね」
遺体の話を聞いたレオポルドが、その遺体がソフィーで間違いないと認めた。
「詳しいことは後で聞こう。とにかく手当が先だ。本当に…無事で良かった」
ルブラン公はもう一度そう言ってレオポルドを抱きしめた。
ルブラン公が手配してくれていた救護班に軽く診察してもらい、私は特に異常はなかった。
レオポルドは打ち身と裂傷、それから左肩の脱臼と背中に大きな打撲傷という診断だった。
ちらりと見たが広い範囲に渡って青痣があった。
脱臼は数日前のもので、落馬が原因だった。一応自分で元には戻していたが、癖にならないために暫く固定しておく必要があった。
「襲撃されてソフィーを連れて馬で走っている時に大きな雷鳴がして、馬が驚いて後ろ立ちになった。私はその場で落馬したが、狭い崖上だったため、ソフィーはそのまま谷底へ落下してしまった」
手当を受けながらレオポルドが教えてくれた。
あの遺体はソフィーで間違いなかった。
レオポルドなら馬が暴れても落馬することはないが、落ちる際にソフィーがレオポルドを思い切り掴もうとして引っ張られたため、落馬してしまったということだった。
頭を庇い背中を思い切り打ち付け気を失い、気がつけばあそこにいたということだった。
「君の声が聞こえてきた時はまさかと我が耳を疑った。アンセンヌが君を拉致してくるようなことを言ったが、ルブラン公の邸で匿われている限りは安全だと思っていたのに」
「ごめんなさい。罠だとしてもレオポルドを見つける手がかりならと…」
「気持ちは有り難いが、いくら私のためでも二度とこんなことはしないでくれ。君にまで何かあってはお父上たちに何て言えばいいのか…」
「わかっています。今回もたまたま運が良かっただけ」
そうたまたま…
私が短剣を持っていてそれが見つからなかったから。
レオポルドの鎖が外れていたから
ルブラン公の所に監禁場所を知らせる手紙が届いたから。
色々とこちらに都合のいいことが重なった。
でもそれは本当に偶然だろうか。
「コリーナが悪いわけではない。悪いのは私だ。情けない」
レオポルドは唇をギュッと噛み締め自分自身を責める。
「私は…君にとって疫病神だな」
「レオポルド…そんなことは…」
うち震えるレオポルドの肩に触れようとした時、捜索を終えたルブラン公とパライン卿が私達の側にやってきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「はい。肩の脱臼と打撲、擦り傷があるだけで命に別状はございません」
「そうか」
怪我の状態を聞いてルブラン公は安堵のため息を漏らした。
「閣下、折り入ってお話があります」
レオポルドが立ち上がってルブラン公に申し出た。
「……わかった。パライン、ペトリ嬢を向こうの馬車に案内してくれ」
「承知致しました。さ、ペトリ嬢、あちらの馬車に」
私はパライン卿に促され、少し離れた場所に待機していた馬車に案内された。
何か私に聞かせられない重要な話があるのだとは思ったが、大きな怪我がなかったとは言え無傷ではないレオポルドのことが心配だった。
「私は外で待機しております」
そう言って私は馬車の中に一人残された。
ルブラン公が用意しくれていた馬車は派手ではないが、造りはしっかりしており中の座席も座り心地がよかった。
背もたれにもたれながら一人でレオポルドが来るのを待った。
一人になるとあの店員のことか思い出された。
目の前で人の命が消えていくのを見た。
人の死を目の当たりにするのは母の死で経験しているが、病と闘い力尽き、心残りがあったとしても家族に看取られて亡くなった母とは違う。
不条理に突然、命を奪われて躯となった名も知らないあの店員の死に顔が脳裏に浮かんだ。
薄情かもしれないが、もし、レオポルドがあんな風になっていたらと思うと、そうならずに済んだことに安堵が込み上げた。
パライン卿たちが走って向かうのを見送ってからルブラン公が私達に言った。
「私は平気です。でもレオポルドが」
「大丈夫だ。これくらい大したことはない」
見えている部分にも擦り傷がいっぱいあって、自分で歩いているので骨などは折れていないようだが、それでも心配だ。
「言うとおりにしなさい。これは命令だ」
互いに大丈夫だと意地を張る私達に、ルブラン公は穏やかだが為政者としての威厳を見せた。
「わかりました。この度はご迷惑をおかけしました」
ルブラン公に強く言われてレオポルドも引き下がった。
「謝る必要はない。川でクローデルらしき遺体が発見されて肝を冷やしたぞ」
「ソフィーの…では、彼女は…助からなかったのですね」
遺体の話を聞いたレオポルドが、その遺体がソフィーで間違いないと認めた。
「詳しいことは後で聞こう。とにかく手当が先だ。本当に…無事で良かった」
ルブラン公はもう一度そう言ってレオポルドを抱きしめた。
ルブラン公が手配してくれていた救護班に軽く診察してもらい、私は特に異常はなかった。
レオポルドは打ち身と裂傷、それから左肩の脱臼と背中に大きな打撲傷という診断だった。
ちらりと見たが広い範囲に渡って青痣があった。
脱臼は数日前のもので、落馬が原因だった。一応自分で元には戻していたが、癖にならないために暫く固定しておく必要があった。
「襲撃されてソフィーを連れて馬で走っている時に大きな雷鳴がして、馬が驚いて後ろ立ちになった。私はその場で落馬したが、狭い崖上だったため、ソフィーはそのまま谷底へ落下してしまった」
手当を受けながらレオポルドが教えてくれた。
あの遺体はソフィーで間違いなかった。
レオポルドなら馬が暴れても落馬することはないが、落ちる際にソフィーがレオポルドを思い切り掴もうとして引っ張られたため、落馬してしまったということだった。
頭を庇い背中を思い切り打ち付け気を失い、気がつけばあそこにいたということだった。
「君の声が聞こえてきた時はまさかと我が耳を疑った。アンセンヌが君を拉致してくるようなことを言ったが、ルブラン公の邸で匿われている限りは安全だと思っていたのに」
「ごめんなさい。罠だとしてもレオポルドを見つける手がかりならと…」
「気持ちは有り難いが、いくら私のためでも二度とこんなことはしないでくれ。君にまで何かあってはお父上たちに何て言えばいいのか…」
「わかっています。今回もたまたま運が良かっただけ」
そうたまたま…
私が短剣を持っていてそれが見つからなかったから。
レオポルドの鎖が外れていたから
ルブラン公の所に監禁場所を知らせる手紙が届いたから。
色々とこちらに都合のいいことが重なった。
でもそれは本当に偶然だろうか。
「コリーナが悪いわけではない。悪いのは私だ。情けない」
レオポルドは唇をギュッと噛み締め自分自身を責める。
「私は…君にとって疫病神だな」
「レオポルド…そんなことは…」
うち震えるレオポルドの肩に触れようとした時、捜索を終えたルブラン公とパライン卿が私達の側にやってきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「はい。肩の脱臼と打撲、擦り傷があるだけで命に別状はございません」
「そうか」
怪我の状態を聞いてルブラン公は安堵のため息を漏らした。
「閣下、折り入ってお話があります」
レオポルドが立ち上がってルブラン公に申し出た。
「……わかった。パライン、ペトリ嬢を向こうの馬車に案内してくれ」
「承知致しました。さ、ペトリ嬢、あちらの馬車に」
私はパライン卿に促され、少し離れた場所に待機していた馬車に案内された。
何か私に聞かせられない重要な話があるのだとは思ったが、大きな怪我がなかったとは言え無傷ではないレオポルドのことが心配だった。
「私は外で待機しております」
そう言って私は馬車の中に一人残された。
ルブラン公が用意しくれていた馬車は派手ではないが、造りはしっかりしており中の座席も座り心地がよかった。
背もたれにもたれながら一人でレオポルドが来るのを待った。
一人になるとあの店員のことか思い出された。
目の前で人の命が消えていくのを見た。
人の死を目の当たりにするのは母の死で経験しているが、病と闘い力尽き、心残りがあったとしても家族に看取られて亡くなった母とは違う。
不条理に突然、命を奪われて躯となった名も知らないあの店員の死に顔が脳裏に浮かんだ。
薄情かもしれないが、もし、レオポルドがあんな風になっていたらと思うと、そうならずに済んだことに安堵が込み上げた。
31
お気に入りに追加
4,723
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。