嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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幕間〜ロクサーヌ

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「君たちはこっちへ…外に救護を待たせてある」

パライン卿たちが走って向かうのを見送ってからルブラン公が私達に言った。

「私は平気です。でもレオポルドが」
「大丈夫だ。これくらい大したことはない」

見えている部分にも擦り傷がいっぱいあって、自分で歩いているので骨などは折れていないようだが、それでも心配だ。

「言うとおりにしなさい。これは命令だ」

互いに大丈夫だと意地を張る私達に、ルブラン公は穏やかだが為政者としての威厳を見せた。

「わかりました。この度はご迷惑をおかけしました」

ルブラン公に強く言われてレオポルドも引き下がった。

「謝る必要はない。川でクローデルらしき遺体が発見されて肝を冷やしたぞ」
「ソフィーの…では、彼女は…助からなかったのですね」

遺体の話を聞いたレオポルドが、その遺体がソフィーで間違いないと認めた。

「詳しいことは後で聞こう。とにかく手当が先だ。本当に…無事で良かった」

ルブラン公はもう一度そう言ってレオポルドを抱きしめた。

ルブラン公が手配してくれていた救護班に軽く診察してもらい、私は特に異常はなかった。
レオポルドは打ち身と裂傷、それから左肩の脱臼と背中に大きな打撲傷という診断だった。
ちらりと見たが広い範囲に渡って青痣があった。

脱臼は数日前のもので、落馬が原因だった。一応自分で元には戻していたが、癖にならないために暫く固定しておく必要があった。

「襲撃されてソフィーを連れて馬で走っている時に大きな雷鳴がして、馬が驚いて後ろ立ちになった。私はその場で落馬したが、狭い崖上だったため、ソフィーはそのまま谷底へ落下してしまった」

手当を受けながらレオポルドが教えてくれた。

あの遺体はソフィーで間違いなかった。
レオポルドなら馬が暴れても落馬することはないが、落ちる際にソフィーがレオポルドを思い切り掴もうとして引っ張られたため、落馬してしまったということだった。

頭を庇い背中を思い切り打ち付け気を失い、気がつけばあそこにいたということだった。

「君の声が聞こえてきた時はまさかと我が耳を疑った。アンセンヌが君を拉致してくるようなことを言ったが、ルブラン公の邸で匿われている限りは安全だと思っていたのに」
「ごめんなさい。罠だとしてもレオポルドを見つける手がかりならと…」
「気持ちは有り難いが、いくら私のためでも二度とこんなことはしないでくれ。君にまで何かあってはお父上たちに何て言えばいいのか…」
「わかっています。今回もたまたま運が良かっただけ」

そうたまたま…

私が短剣を持っていてそれが見つからなかったから。
レオポルドの鎖が外れていたから
ルブラン公の所に監禁場所を知らせる手紙が届いたから。

色々とこちらに都合のいいことが重なった。

でもそれは本当に偶然だろうか。

「コリーナが悪いわけではない。悪いのは私だ。情けない」

レオポルドは唇をギュッと噛み締め自分自身を責める。

「私は…君にとって疫病神だな」

「レオポルド…そんなことは…」

うち震えるレオポルドの肩に触れようとした時、捜索を終えたルブラン公とパライン卿が私達の側にやってきた。

「怪我の具合はどうだ?」
「はい。肩の脱臼と打撲、擦り傷があるだけで命に別状はございません」
「そうか」

怪我の状態を聞いてルブラン公は安堵のため息を漏らした。

「閣下、折り入ってお話があります」

レオポルドが立ち上がってルブラン公に申し出た。

「……わかった。パライン、ペトリ嬢を向こうの馬車に案内してくれ」
「承知致しました。さ、ペトリ嬢、あちらの馬車に」

私はパライン卿に促され、少し離れた場所に待機していた馬車に案内された。
何か私に聞かせられない重要な話があるのだとは思ったが、大きな怪我がなかったとは言え無傷ではないレオポルドのことが心配だった。

「私は外で待機しております」

そう言って私は馬車の中に一人残された。

ルブラン公が用意しくれていた馬車は派手ではないが、造りはしっかりしており中の座席も座り心地がよかった。

背もたれにもたれながら一人でレオポルドが来るのを待った。

一人になるとあの店員のことか思い出された。
目の前で人の命が消えていくのを見た。

人の死を目の当たりにするのは母の死で経験しているが、病と闘い力尽き、心残りがあったとしても家族に看取られて亡くなった母とは違う。

不条理に突然、命を奪われて躯となった名も知らないあの店員の死に顔が脳裏に浮かんだ。

薄情かもしれないが、もし、レオポルドがあんな風になっていたらと思うと、そうならずに済んだことに安堵が込み上げた。
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