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幕間〜ロクサーヌ

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伯爵から奪った鍵で彼を閉じ込め、地下室に向かった。

途中誰かに出くわすのではと身構えながら廊下を曲がると、そこで階段から上がってきたレオポルドを見つけた。

「レオポルド!」
「コリーナ…無事だったのか…」

レオポルドはいつからここに閉じ込められていたのか。元は白かっただろうシャツは薄汚れボタンが引きちぎられている。トラウザーズもボロボロで裾が破れていておまけに裸足だ。
顔を見れば頬が痩せているし髪もボサボサで、体のあちこちに傷がある。

「レオポルド!」

駆け寄り彼に抱きついた。本当にレオポルドなのだろうかと疑ってしまう。

「コリーナ、大丈夫か、何もされていないか」

レオポルドの方がひどい状態なのに、先に私の様子を確認して心配をしてくれている。

「君がここにいると言っているロクサーヌの声が聞こえて、それから君の悲鳴が聞こえた。何もなかったのか」
「大丈夫です。こうして逃げ出してきました」
「アンセンヌ…ロドリオ…やつの声も聞こえた。やつは女性に酷い仕打ちをすると影で噂されている。やつが何かされなかったか?」
「大丈夫です」
彼に詰め寄られたときの嫌悪感は言葉では言い表せない。それでもレオポルドが生きて目の前にいることの方が私には重要なことだから、それは記憶の端に追いやった。
「本当に…大丈夫なんだな」
「はい、私は大丈夫です。レオポルドこそ」

彼の体を前から後ろから確認するが、目立った所に大きな傷はないし、今すぐ死ぬような怪我はなさそうだ。
二人で互いの無事を確かめ合う。
「抱きしめたいが、今の私の格好はまるでゴミ溜めのようだから」
私に手を伸ばしかけて躊躇する。
「そこまで酷くありませんよ」
彼の胸にそっと手を置いて、耳を当てる。生きている証拠に心臓が鼓動を打つ音が響く。
「無事で良かった」
「心配をかけたな」
彼の胸に耳を寄せる私の頭をレオポルドが撫でてくれる。
「それより人の気配がしないが…」
「それは私も思いました。連れ込まれた部屋からここへ来るまで誰にも会いませんでした」
なぜ誰もいないのだろう。ロクサーヌさんはレオポルドに何かしようと地下へ行ったのではないのか。

「そう言えば、どうしてレオポルドは逃げられたのですか」

鎖に繋がれていた筈なのに、何があったのか。

「ロクサーヌが…鍵を床に投げて何もせずに出て行った。何とか拾って鎖を外して上がってきた」
「それは彼女がわざと逃したということですか?」
「そういうことになるのか…わからないが、君はどうやって」
「この短剣を…ルブラン公から持っていくようにと言われ隠し持っていたので、これでアンセンヌ伯爵を脅して逃げてきました」

隠し持っていた短剣をレオポルドに見せた。

「王家秘蔵の薬もいただいて…お陰で彼女に呑まされた薬の効き目も殆ど効果がありませんでした」
「薬を呑まされた?一体どんな薬を?」
「あの…多分睡眠薬だと…そのようなことを言っていたので…それで薬が効いた振りをしていたらここに…」
「なんて無茶な…ルブラン公は何を考えていらっしゃるのか。コリーナを危険な目に会わせるなんて」
「ルブラン公は最後まで渋っておられたわ。私が志願したの」
「余計に悪い」

はあっと大きなため息を吐いてレオポルドは目を覆った。

「いや、悪いのは私だ。私が捕まったから…すまない」

その時大勢の足音が遠くから聞こえてきた。

「こっちだ」

誰かが廊下の向こうで叫び、レオポルドが咄嗟に私を背後に庇った。

彼は何の武器も持っていないのに、私のことを身を呈して庇おうとしてくれる。
けれど現れたのはパライン卿を始めとしたルブラン公の私兵の面々だった。

「スタエレンス卿、ペトリ孃」

パライン卿は私達の姿を認めて安堵の吐息を漏らした。

「閣下、二人は無事です」

そして私兵たちの間を割ってルブラン公が現れた。

「スタエレンス、ペトリ孃…無事で何より」

「閣下…なぜ閣下がここに」

パライン卿ならわかるが、指揮官であるルブラン公まで来ていることに驚く。

「か弱い女性のペトリ孃が自ら敵地に乗り込んで囮になってくれているのに、私が邸で安穏としていられるわけがないだろう」

そう言うルブラン公の傍らでパライン卿の諦めた顔が目に入った。
きっとルブラン公が彼らに混じってここに来ることに対してあれこれ言い合いがあって、最後にはパライン卿が根負けしたのだろう。

「コリーナをつけてきたのですよね」
「投書があったのだ。だからペトリ孃がここに連れてこられる前に部隊を送ることができた」
「投書? 誰が…」
「そこまではわからない。だが、敵が大勢いることも考慮して警備をいくらか邸に残してほぼ全員で来たのだが」
「邸はもぬけの殻。ここまで誰にも会いませんでした」
「念の為周囲を見張らせ、他の部屋も探らせていますが、おそらく誰もいないでしょう」

ルブラン公からパライン卿が話を引き継ぎ、状況を語った。

「そんな…だってアンセンヌ伯爵たちが…レオポルド…ロクサーヌさんはどこに…」

本当にレオポルドに鍵を渡し彼女はどこかへ行ってしまったのか。

「確かにロクサーヌは来たが、なぜか鍵を置いて立ち去った」

彼女の行動についてレオポルドがルブラン公たちにも説明した。

「なぜそんな回りくどいことを…最初から逃がすつもりだったのか」
「わかりません。彼女が先に地下から出ていき、外にいた見張りもいなくなっていて、ここまで来たらコリーナに出くわしたのです」

話を聞いているとロクサーヌさんがレオポルドを逃してくれたみたいだ。始めからそのつもりだったんだろうか。でも伯爵はそうは言っていなかった。

「閣下、伯爵はコリーナが殴って気絶させているそうです」
「それはどこだ」
「あ、あのその先を左に曲がった所の最初の部屋です。か、鍵はこれです」
「パライン」
「はっ」
「アンセンヌ伯を捕らえて連れてこい」

私が差し出した鍵を閣下に言われてパライン卿が受け取った。
彼は何人かを連れて私が逃げてきた部屋へと向かった。
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