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幕間〜ロクサーヌ

10 ★レオポルド2

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数日ぶりに見るソフィーは想像よりも元気そうだった。もっとやつれてみすぼらしくなっていると思っていたので少し驚いた。

「レオポルド。ようやく会えた」

簡素な木綿のワンピースに身を包み、髪は後ろでひとつに纏めていて、化粧はしていないが、顔立ちがはっきりしているので素顔でもそれなりに美人と言える。

「ごめんなさい。こんな格好で…いつもはもっとちゃんとしているのよ。でも、ここの人は何度言ってもこれしか着せてくれないし、化粧品も櫛もくれないの」

キッと入り口に立つデライルや見張りの者を睨みつける。

「規則だから仕方ない」

罪人に豪華な衣装や身なりを整えるための物資を与えるはずもない。
それでも捕虜にしてはかなりの好待遇を受けているだろうが、彼女の要求を断る彼らの苦労が目に浮かぶ。

「私に会いたいと言っていたそうだが」

扉を開けたまま、入り口を背にして話を切り出す。出入り口はここだけなので、逃亡を図ってもすぐに捕まえられる。

「二人きりにして」
「悪いがそれもできない。規則だ」
「あ~、規則規則規則!頭が堅くていやになるわ」
「罪人に自由が認められていると思っているのか」
「私がどんな罪を犯したというの?」
「自分がしたことを覚えていないのか」
「覚えているわよ。でも何が悪いのよ。誰でも自分に害を与えるものは始末するでしょ。家畜を狙う狼や作物を荒らす鳥や虫を…人は守るために駆除してきたじゃない。それと同じことを私はしただけ」

自分の置かれた状況をまるで理解していないどころか、その行動を正当化しようとしている。
なんて自分勝手なのだと呆れてしまう。

「コリーナが害獣と同じだと言うのか」

コリーナに手を出した時点で彼女は万死に値すると思っている。しかも反省するどころか開き直っている。

「あなたの人生にあの女はいらない。目障りなものを排除して何が悪いの」

「コリーナが君に何をした。君をばかにしたのか? コリーナがいようがいまいが、私が君に目を向けるとは限らない。コリーナに手を出して私が黙っているとでも?」

もともと計算高く自分の得になることにしか興味がない女だった。
ここまで自分の欲望のため、なりふり構わず動くことを予測できなかったのは自分の失態だ。

「あなたはあの女に騙されているのよ。一時の気の迷いだわ。焦って婚約だなんて…あなたは大事なものを見失っている」
「私は何も見失っていない。見失っているのは君の方だ。女優としての成功を捨ててまであんなことをする価値があったのか」
「女優ね…私の夢が何か知っている?」

ソフィーに訊かれて言葉に詰まる。彼女個人への興味などまるでなかった。いつも会うのは仕事絡み。必要最低限のことしか話さなかった。
だから逆に彼女が自分の何を見て執着しているのかわからない。

「君の夢には興味がない。その夢を叶えるとでも言われたか」

コリーナを拐ったことは予定外だったかもしれないが、その夢のために彼女は国を裏切ろうとした。

「動機に興味はない。聞いたところでただの言い訳だ。知りたいのは誰に唆されたのか。誰が君に協力しろと持ちかけたのか。それだけだ」
「聞き出して…それで用済みになったら私を殺すの」
「私にとってはコリーナに手を出した時点で殺す理由は充分だが、私の一存でそれを決めることはできない。しかし生かすも殺すも君の出方次第だ。このまま黙秘を続けてもいいが、君が話すのを拒んでもいずれ調べがつく」

彼女の証言をただ待ち続け時間を無駄にしているわけではない。
このまま彼女が口を割らない可能性も考えて、打てる手はすべてうっている。

「話せば…罪を軽くしてくれるとでも言うの」
「君の出方次第だと言った。強制はしない」

押してもだめなら引くのも手段だ。これまで彼女が捕らえられたにも関わらず強気でいたのも、自分の証言が重要だと思っていたからだ。

「話したら…あなたは何をしてくれる?」
「まだそんなことを…」
「私にはもう捨てるものがない。最後に足掻いてもいいでしょ」
「先に話すのが条件だ。それに白状したからと言って全てなかったことにはできない」

彼女が何を望むのかわからないが、ようやく話す気になったようだ。

「私の…」

ドカン!!!!
その時、大きな爆発音とともに建物が大きく揺れた。

「きゃあ!」

振動で天井から細かい石の欠片が落ちてきて、ソフィーが悲鳴を上げた。

「何が起こった!」

デライルと見張りの一人が状況を探るために上階へと走っていった。

その間にも音は二回、三回と聞こえ、そのたびに石の礫が天井から降り注ぐ。

「こっちへ!」

地下室にいては大きな瓦礫が落ちてきたらひとたまりもない。
レオポルドはソフィーの手を掴み走り出した。
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