嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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幕間〜ロクサーヌ

5 ★ロクサーヌ

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ロクサーヌ・デラ・アンセンヌ。元の名をロクサーヌ・フォン・アウェイン。父は子爵だ。
我が家は父と母、そして兄の四人家族だ。
父と母は親が決めた婚約者同士で、特に愛情があって結ばれたわけでなかったが、特に仲が冷え切っているわけでもなかった。

三つ上の兄は馬鹿ではなかったが、特段優秀でもなく将来子爵家を今以上に盛り上げていく才能はなさそうだった。

兄が家庭教師に付いて勉強している側で聞いているだけの私のほうがよっぽど出来が良かった。
兄が苦労して読んだ本を兄の半分の時間で読破し、計算も兄よりずっと速く、そして間違いなくこなすことができた。

そんな私を両親は苦い顔をして見ていた。

女に学はいらない。必要最低限の知識と愛嬌、詩を読み、刺繍して、音楽を嗜む。女としての成功は良い相手と結婚することだ。

そう刷り込まれるように育てられた。

幸いなことに容姿にある程度恵まれていた私は、両親を失望させることなく、少しでも格上の相手と結婚できる可能性に彼らは期待を膨らませた。

歳を重ねるに連れ、その期待は確実なものになり、デビュー前から多くの男性の注目を集めるに至った。

そんな私に機会が訪れた。

異性にチヤホヤされる女性はとかく同性に嫌われるものだ。
けれど私はあからさまに男性に媚びたりせず、女性たちとも親しくして影口を言われないように気を遣っていた。
皆が胸をときめかせて語る貴公子の話題にも身を乗り出したりせず、努めて冷静に対応していた。

その甲斐があってか、知り合いから友人の弟の学園の卒業パーティーのパートナーを頼まれた。

相手はスタエレンス家のレオポルド様だ。

ダークブロンドの髪に菫色の瞳。成績も優秀で将来有望と噂をされる人物

他にも候補がいたが、他の令嬢は彼に熱を上げすぎて話にならない。私ならそんなことをしないだろうということだった。

「ただの卒業パーティーのパートナーでしょ」

何でもない風を装ったが内心は私も穏やかではなかった。
彼は同年代の令嬢たちの間で密かに人気があったのを知っている。私もその中の一人だった。

何でもパートナー選びになかなか乗り気にならないことに業を煮やした彼の姉が友人達に弟の相手を探してほしと頼んだらしい。
条件は彼に見惚れることなく冷静に振る舞えること。

「レオポルド・ダッラ・スタエレンスです」
「ロクサーヌ・フォン・ダウェインです」
「今回は無理を言って申し訳ない」
「いいえ、私の方こそ光栄ですわ」

初めて彼に引き合わされた時、私は浮き立つ心情が顔に出ないようにするのが精一杯だった。

愛想は良くなかったが、彼はとても丁寧に接してくれた。
良きパートナーは互いのことをよく知る必要がある。
周りからそう言われたからだとわかっていたが、彼にエスコートされて何度かデートらしきするものを経験して、私は有頂天になった。

彼のエスコートは完璧。会うときには必ず花束を用意してくれて、私の話に耳を傾けて熱心に聞いてくれた。
出来る男は女をばかにする人が多い中で、彼は女だからとかで私の意見を捻じ伏せることもなく、君はどう思うのかと、ことあるごとに意見を聞いてくれた。
だからと言ってすべてを私の言いなりにするのではなく、さりげなく主導権を握ってデートを進めてくれる。

会う回数を重ねるうちに笑顔を見せてくれるようになり、それが彼の上辺の優しさだったとは気が付かず、もしかしたら人生のパートナーになるのではと思っていた。

彼は将来について一言も言わなかったが、愚かにも私は自分が彼にとって特別なのだと勘違いしていた。

「ロクサーヌさん、スタエレンス家のレオポルド様のパートナーなんて羨ましいわ」
「あの方、ガードが堅くて個人的なお誘いには滅多に応じていただけないのよ」
「本当に、どうしたら彼とお近づきになれるのかと、皆さん知恵を絞り出しても、大勢が集まるときにしか参加されなくて、なかなかお近づきになれないのよ」

皆に羨ましいと言われ悪い気はしなかった。

「何も特別なことはしておりませんのよ。でも、お話してみたらかなり博識で、話題も豊富でパートナーとしては申し分ない方ですわ」

既に彼に夢中になっていたが、卒業パーティーが終わるまでは変わらない態度で接しようと心に決めていた。

「もしかしたら、本当のパートナーになるのではないかしら? 実は私も今回のパーティーが終わった後も会ってくれないかとお誘いを受けていますの」
「あら、私もよ」
「まあ、あなたも…もしかしたら続けて婚約発表となるかも知れませんわね」
「そうなったら素晴らしいわね」

きっとこれからも付き合いを続けたい。彼からそう言ってくれる筈だ。

卒業パーティーは最高の思い出になるはずだった。
実際、パーティーでは彼は良きパートナーだった。

誰もが私とレオポルドがお似合いだと言い、レオポルドも最高のパートナーだと自慢気に言ってくれた。

「今日は本当にありがとう。お陰で無事に卒業を迎えられそうだ」
「レオポルド様も首席で卒業されると聞きました。パートナーとして鼻が高いですわ。卒業後はどうされるのですか?」

パーティーが終わり、帰りの馬車の中で彼は感謝の言葉を何度も言った。

「外交の道に進むつもりです」
「まあ、さすがですわ」
「それほどではありません。そのために勉学に勤しんできたのですから。それに他にも何人か同じ進路の者はおりますから私が特別なのではありません」
「努力が実ったのですね」
「あなたがパートナーを勤めてくれて本当に助かりました。他の方ならこうはいかなかった」
「そんな…私も楽しかったので、おあいこですわ」
「いいえ、他のご令嬢は私の私的なパートナーになりたがり、あれこれと私に意見を押し付けてくることが多くて、でもあなたはそんなこともなく、あくまでも役割としてパートナーに撤してくれました」

彼の言い方が気になった。
役割としてのパートナー?
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