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幕間〜ロクサーヌ
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その後、どうやって部屋に戻ったのか覚えていない。
スタエレンス家にはもう少し状況がわかってから遣いを送るとかどうとか言っていたように思う。
パライン卿は豪雨の中、再び捜索に出かけていったが、この雨の中、夜になった今はさらに捜索が難しいのは私でもわかる。
私の次はレオポルドが危険な目に会う。
レオポルドなら私を救い出すために動けたが、私はそうはいかない。
捜索に加わることも出来ず、不安に押しつぶされそうになる。
何かあればすぐに動けるようにと寝支度もせず、降り続く雨を眺め、祈りながら夜明けを迎えた。
激しい降りは収まったが、夜が明けてもいぜんとして雨は降り続いた。
運ばれた朝食を食べることすら出来ず、ようやく昼前に雨が止み明るくなっていく空を見つめていた。
オクタヴィア様にお昼を誘われたが、何を食べたかよく覚えていない。事情を知っているオクタヴィア様は食べることが大事だと言って、私の態度に理解を示してくれた。
動きがあったのは昼過ぎ。
早馬が公爵邸にやって来た。
広い邸宅なので私がいる部屋から玄関の様子はわからなかったので、再び公爵に呼ばれるまで気づかなかった。
はしたないと思いながら逸る気持ちを押さえられず小走りで閣下の待つ部屋へと向かった。
「川の下流で女性の遺体が上がった」
待っていた情報とは違ったが、それでも新情報には違いない。
「ソフィー…ですか?」
「それはわからない。昨日からの雨で川の水嵩が増して、少し水位が下がったがまだ流れも早い。死んで落ちたのか落ちて死んだのか、濁流に揉まれて遺体は辛うじて女性だとわかるが損傷がかなり激しく誰かわからない」
「………じゃあ…」
「状況から見てクローデルの可能性は高いが、見つかったのは女性だけで、スタニエスの情報は今のところない」
「生きて…います。きっと」
『生きていますか?』と疑問は言わない。諦めるようなことを言ったら現実になりそうだ。
「引き続き捜索は続ける。周辺の集落に聞き込みも行っている。無人の狩猟小屋や廃墟も当たらせている」
しかし捜索の甲斐も無く、丸一日経ってもレオポルドは見つからなかった。
レオポルドの行方がわからなくなってから二日が経った。
「ここまで探していないということは、もしかしたらどこか我々が捜索できない場所にいるのかも知れない」
国境警備からもそれらしき人物を見かけたという報告は上がっていない。
密入国する手立てがまったくないわけではないが、国内にいる可能性は高い。
「捜索できない場所…というのは」
「誰かが保護…あるいは監禁している。もしくはスタエレンスがこちらにも報告できずに逃げ回っているか…だな」
後者ならいずれは連絡があるだろうが、意識がない場合もある。前者…何者かに監禁されているなら、向こうから何か連絡してくるのを待つしかない。
「スタエレンス家にはまだ彼が行方不明であることは伝えていない。今のところは陛下が何とか外部に洩れないよう戒厳令を出されている。実はソフィー・クローデルは其方に危害を加えようとした意外に、密かに隣国のイグレントの反乱分子と通じていた疑いもでてきていた」
イグレントの内紛が起こり外交に対して意見が二つに割れたと聞いた。
「イグレントの反乱が起こって、我が国の貴族は三つに別れた。イグレントとの国交を断ち切ろうとする強硬派。国交を保つべきだとする慎重派。どちらにつくか得になる方につこうとする傍観派。イグレントとの反乱分子が制圧されて表面上は元通りになったように見えるが、一度抱いたわだかまりは消えない。今でも互いに腹の探り合いをしている」
「まだ火種は残っているということですね」
そしてはっきりと確信したわけではないが、レオポルドはルブラン公爵の下で、そういった国政の混乱を未然に防ぐことために動いていたのではないだろうか。
ルブラン公がここまで私に親切にしてくれるのは、私が彼の婚約者だから。そしてそうしようと思えるほどに彼がレオポルドを買っている。つまりは腹心の部下だと思っているということではなかろうか。
「レオポルドも自分のせいで不要な混乱を招くのは望んで居ないと思います。閣下のご判断を尊重いたします」
逆の立場だったらレオポルドは何を置いても私を助けるために奔走してくれただろう。
対して何もできず、ただ待つしかない自分が歯痒かった。
スタエレンス家にはもう少し状況がわかってから遣いを送るとかどうとか言っていたように思う。
パライン卿は豪雨の中、再び捜索に出かけていったが、この雨の中、夜になった今はさらに捜索が難しいのは私でもわかる。
私の次はレオポルドが危険な目に会う。
レオポルドなら私を救い出すために動けたが、私はそうはいかない。
捜索に加わることも出来ず、不安に押しつぶされそうになる。
何かあればすぐに動けるようにと寝支度もせず、降り続く雨を眺め、祈りながら夜明けを迎えた。
激しい降りは収まったが、夜が明けてもいぜんとして雨は降り続いた。
運ばれた朝食を食べることすら出来ず、ようやく昼前に雨が止み明るくなっていく空を見つめていた。
オクタヴィア様にお昼を誘われたが、何を食べたかよく覚えていない。事情を知っているオクタヴィア様は食べることが大事だと言って、私の態度に理解を示してくれた。
動きがあったのは昼過ぎ。
早馬が公爵邸にやって来た。
広い邸宅なので私がいる部屋から玄関の様子はわからなかったので、再び公爵に呼ばれるまで気づかなかった。
はしたないと思いながら逸る気持ちを押さえられず小走りで閣下の待つ部屋へと向かった。
「川の下流で女性の遺体が上がった」
待っていた情報とは違ったが、それでも新情報には違いない。
「ソフィー…ですか?」
「それはわからない。昨日からの雨で川の水嵩が増して、少し水位が下がったがまだ流れも早い。死んで落ちたのか落ちて死んだのか、濁流に揉まれて遺体は辛うじて女性だとわかるが損傷がかなり激しく誰かわからない」
「………じゃあ…」
「状況から見てクローデルの可能性は高いが、見つかったのは女性だけで、スタニエスの情報は今のところない」
「生きて…います。きっと」
『生きていますか?』と疑問は言わない。諦めるようなことを言ったら現実になりそうだ。
「引き続き捜索は続ける。周辺の集落に聞き込みも行っている。無人の狩猟小屋や廃墟も当たらせている」
しかし捜索の甲斐も無く、丸一日経ってもレオポルドは見つからなかった。
レオポルドの行方がわからなくなってから二日が経った。
「ここまで探していないということは、もしかしたらどこか我々が捜索できない場所にいるのかも知れない」
国境警備からもそれらしき人物を見かけたという報告は上がっていない。
密入国する手立てがまったくないわけではないが、国内にいる可能性は高い。
「捜索できない場所…というのは」
「誰かが保護…あるいは監禁している。もしくはスタエレンスがこちらにも報告できずに逃げ回っているか…だな」
後者ならいずれは連絡があるだろうが、意識がない場合もある。前者…何者かに監禁されているなら、向こうから何か連絡してくるのを待つしかない。
「スタエレンス家にはまだ彼が行方不明であることは伝えていない。今のところは陛下が何とか外部に洩れないよう戒厳令を出されている。実はソフィー・クローデルは其方に危害を加えようとした意外に、密かに隣国のイグレントの反乱分子と通じていた疑いもでてきていた」
イグレントの内紛が起こり外交に対して意見が二つに割れたと聞いた。
「イグレントの反乱が起こって、我が国の貴族は三つに別れた。イグレントとの国交を断ち切ろうとする強硬派。国交を保つべきだとする慎重派。どちらにつくか得になる方につこうとする傍観派。イグレントとの反乱分子が制圧されて表面上は元通りになったように見えるが、一度抱いたわだかまりは消えない。今でも互いに腹の探り合いをしている」
「まだ火種は残っているということですね」
そしてはっきりと確信したわけではないが、レオポルドはルブラン公爵の下で、そういった国政の混乱を未然に防ぐことために動いていたのではないだろうか。
ルブラン公がここまで私に親切にしてくれるのは、私が彼の婚約者だから。そしてそうしようと思えるほどに彼がレオポルドを買っている。つまりは腹心の部下だと思っているということではなかろうか。
「レオポルドも自分のせいで不要な混乱を招くのは望んで居ないと思います。閣下のご判断を尊重いたします」
逆の立場だったらレオポルドは何を置いても私を助けるために奔走してくれただろう。
対して何もできず、ただ待つしかない自分が歯痒かった。
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