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幕間〜ロクサーヌ
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「オクタヴィアと言います。どうかそんなに堅苦しく考えないでくださいね」
目の前の女性は鮮やかな赤毛と緑の瞳をしていて、肌は透けるように白かった。
私が知っている貴婦人は数少ない。
トレイシーやルーファスの友人、ルディやマーガレットの友人、レオポルドのお母様、それからアンセンヌ夫人。
でもその中で彼女は一番位が高い。
オクタヴィア・ルース・ルブラン。ルブラン公爵夫人にお茶に誘われて再び公爵邸を訪れていた。
「気になさらないでください。私はまだこれしか食べられなくて…」
お茶が運ばれ、美味しそうなお菓子がたくさん並べられたが、オクタヴィア様の前には素朴なビスケットが置かれている。
クリームたっぷりのケーキやサクサクのデニッシュにどっしりと重いマフィンは私のためなのだとわかる。
彼女は今ルブラン公の子どもを妊娠している。
「少し前は見るのも嫌だったのだけど、ようやく平気になったの。でも食べるのはまだ勇気がいって」
砂糖を入れない紅茶に小さく割ったビスケットを少し浸して口に運ぶ。
「本当に…あなたはしっかり食べてくださいね。私も気を遣わせたくないので…」
遠慮するとかえって彼女に気を遣わせてしまうと気づき、マフィンを手に取った。
「つわり…大変そうですね」
「そうね…こんなに苦しいなんて想像していなかったわ。軽い人もいるというのに…」
愚痴のように聞こえるが、彼女の表情は少しも嫌がっていない。
すでに母親の顔をしている。
「赤ちゃん、楽しみですね。無事に生まれるよう祈っています」
「ありがとう…あなたもスタエレンス卿との間にできるのではなくて? お二人随分仲が良さそうですから、案外早いかも知れませんね」
「は、はい・・・」
子どもがどういうことをすればできるのか百も承知で、確かに私とレオポルドはすでにそういう仲だから、否定もできない。
「ごめんなさい。からかったわけではないのよ。仲睦まじくていいことだわ」
顔を赤くした私を見て、オクタヴィア様が笑った。
「オクタヴィア様も公爵様とは仲が良いと伺っております」
「そうね。仲は良いかも…でも、あなたたちのように婚約時代から蜜月を過ごしていたわけではないわ」
レオポルドが公爵夫妻の間にロマンスがあると言っていた。
彼女の顔に見えた愁いが、ただ楽しいことばかりでなかったことを匂わせる。
「でも、今はとても幸せよ。こうしてあの人との子どもも出来たし」
それも嘘でなく真実だと思う。
「それより違う話をしましょう。ここにあるものは全部悪阻が収まったら食べたいと思っているの。今はまだ無理だけど、良かったら感想を聞かせてくださる?」
私が食べにくいだろうとあえてそう言った彼女の優しさだろう。
「食べているのを見るだけでもお辛いのでは?」
トレイシーが妊娠していた頃のことを思い出す。
食べ物のことを考えるだけで吐き気がすると言っていた。
「大丈夫よ。随分楽になったと言ったでしょう。だから遠慮なく食べて下さい」
このまま平行線を辿っても仕方ない。
言われたとおりすることにした。
食べながらオクタヴィア様の様子を見ていたが、痩せ我慢でもなく、終始にこにこと私の感想を喜んで聴いてくれていた。
目の前の女性は鮮やかな赤毛と緑の瞳をしていて、肌は透けるように白かった。
私が知っている貴婦人は数少ない。
トレイシーやルーファスの友人、ルディやマーガレットの友人、レオポルドのお母様、それからアンセンヌ夫人。
でもその中で彼女は一番位が高い。
オクタヴィア・ルース・ルブラン。ルブラン公爵夫人にお茶に誘われて再び公爵邸を訪れていた。
「気になさらないでください。私はまだこれしか食べられなくて…」
お茶が運ばれ、美味しそうなお菓子がたくさん並べられたが、オクタヴィア様の前には素朴なビスケットが置かれている。
クリームたっぷりのケーキやサクサクのデニッシュにどっしりと重いマフィンは私のためなのだとわかる。
彼女は今ルブラン公の子どもを妊娠している。
「少し前は見るのも嫌だったのだけど、ようやく平気になったの。でも食べるのはまだ勇気がいって」
砂糖を入れない紅茶に小さく割ったビスケットを少し浸して口に運ぶ。
「本当に…あなたはしっかり食べてくださいね。私も気を遣わせたくないので…」
遠慮するとかえって彼女に気を遣わせてしまうと気づき、マフィンを手に取った。
「つわり…大変そうですね」
「そうね…こんなに苦しいなんて想像していなかったわ。軽い人もいるというのに…」
愚痴のように聞こえるが、彼女の表情は少しも嫌がっていない。
すでに母親の顔をしている。
「赤ちゃん、楽しみですね。無事に生まれるよう祈っています」
「ありがとう…あなたもスタエレンス卿との間にできるのではなくて? お二人随分仲が良さそうですから、案外早いかも知れませんね」
「は、はい・・・」
子どもがどういうことをすればできるのか百も承知で、確かに私とレオポルドはすでにそういう仲だから、否定もできない。
「ごめんなさい。からかったわけではないのよ。仲睦まじくていいことだわ」
顔を赤くした私を見て、オクタヴィア様が笑った。
「オクタヴィア様も公爵様とは仲が良いと伺っております」
「そうね。仲は良いかも…でも、あなたたちのように婚約時代から蜜月を過ごしていたわけではないわ」
レオポルドが公爵夫妻の間にロマンスがあると言っていた。
彼女の顔に見えた愁いが、ただ楽しいことばかりでなかったことを匂わせる。
「でも、今はとても幸せよ。こうしてあの人との子どもも出来たし」
それも嘘でなく真実だと思う。
「それより違う話をしましょう。ここにあるものは全部悪阻が収まったら食べたいと思っているの。今はまだ無理だけど、良かったら感想を聞かせてくださる?」
私が食べにくいだろうとあえてそう言った彼女の優しさだろう。
「食べているのを見るだけでもお辛いのでは?」
トレイシーが妊娠していた頃のことを思い出す。
食べ物のことを考えるだけで吐き気がすると言っていた。
「大丈夫よ。随分楽になったと言ったでしょう。だから遠慮なく食べて下さい」
このまま平行線を辿っても仕方ない。
言われたとおりすることにした。
食べながらオクタヴィア様の様子を見ていたが、痩せ我慢でもなく、終始にこにこと私の感想を喜んで聴いてくれていた。
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