嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
25 / 48
幕間〜ロクサーヌ

しおりを挟む
「オクタヴィアと言います。どうかそんなに堅苦しく考えないでくださいね」
目の前の女性は鮮やかな赤毛と緑の瞳をしていて、肌は透けるように白かった。
私が知っている貴婦人は数少ない。
トレイシーやルーファスの友人、ルディやマーガレットの友人、レオポルドのお母様、それからアンセンヌ夫人。
でもその中で彼女は一番位が高い。
オクタヴィア・ルース・ルブラン。ルブラン公爵夫人にお茶に誘われて再び公爵邸を訪れていた。
「気になさらないでください。私はまだこれしか食べられなくて…」
お茶が運ばれ、美味しそうなお菓子がたくさん並べられたが、オクタヴィア様の前には素朴なビスケットが置かれている。
クリームたっぷりのケーキやサクサクのデニッシュにどっしりと重いマフィンは私のためなのだとわかる。
彼女は今ルブラン公の子どもを妊娠している。
「少し前は見るのも嫌だったのだけど、ようやく平気になったの。でも食べるのはまだ勇気がいって」
砂糖を入れない紅茶に小さく割ったビスケットを少し浸して口に運ぶ。
「本当に…あなたはしっかり食べてくださいね。私も気を遣わせたくないので…」
遠慮するとかえって彼女に気を遣わせてしまうと気づき、マフィンを手に取った。
「つわり…大変そうですね」
「そうね…こんなに苦しいなんて想像していなかったわ。軽い人もいるというのに…」
愚痴のように聞こえるが、彼女の表情は少しも嫌がっていない。
すでに母親の顔をしている。
「赤ちゃん、楽しみですね。無事に生まれるよう祈っています」
「ありがとう…あなたもスタエレンス卿との間にできるのではなくて? お二人随分仲が良さそうですから、案外早いかも知れませんね」
「は、はい・・・」
子どもがどういうことをすればできるのか百も承知で、確かに私とレオポルドはすでにそういう仲だから、否定もできない。
「ごめんなさい。からかったわけではないのよ。仲睦まじくていいことだわ」
顔を赤くした私を見て、オクタヴィア様が笑った。
「オクタヴィア様も公爵様とは仲が良いと伺っております」
「そうね。仲は良いかも…でも、あなたたちのように婚約時代から蜜月を過ごしていたわけではないわ」

レオポルドが公爵夫妻の間にロマンスがあると言っていた。
彼女の顔に見えた愁いが、ただ楽しいことばかりでなかったことを匂わせる。

「でも、今はとても幸せよ。こうしてあの人との子どもも出来たし」

それも嘘でなく真実だと思う。

「それより違う話をしましょう。ここにあるものは全部悪阻が収まったら食べたいと思っているの。今はまだ無理だけど、良かったら感想を聞かせてくださる?」

私が食べにくいだろうとあえてそう言った彼女の優しさだろう。

「食べているのを見るだけでもお辛いのでは?」

トレイシーが妊娠していた頃のことを思い出す。
食べ物のことを考えるだけで吐き気がすると言っていた。

「大丈夫よ。随分楽になったと言ったでしょう。だから遠慮なく食べて下さい」

このまま平行線を辿っても仕方ない。
言われたとおりすることにした。

食べながらオクタヴィア様の様子を見ていたが、痩せ我慢でもなく、終始にこにこと私の感想を喜んで聴いてくれていた。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。