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レオポルド〜君に出会ってから

★レオポルドside7

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両親はその言葉を聞いて、あからさまに驚いていた。

「まあ、どこのお嬢様? 私も知っている人かしら」
「驚いた…そんな顔もするのだな」
「顔?」

父に言われて自分の顔に触れる。
自分では何も変わっていないと思ったが、コリーナのことを思い出して、何か表情に変化があったのだろうか。

「何か変ですか?」

「変だと言っているのではない。それにお前が思うほど劇的に変わっていない。だが、瞳の色が……柔らかくなった」
「あなたにそんな顔をさせるなんて……それだけで私は賛成よ。あなたのことを信じていますから」
「おい、まだ相手の名前も聞かない内から、認めてしまうのか?」

相手のことも聞かず、あっさりと受け入れた母に父が止めるが、父も反対する気がないのは、顔を見ればわかる。

「ありがとうございます。私を信用していただけて」
「でも、一応相手のことも聞いてからにしよう」
「そうね、そのお嬢さんはどなた?」

「コリーナ・フォン・ペトリです」
「コリーナ? 確か……ルーファスの……」
「ええ、ルーファスの妻の姉です」
「確か……ルーファスの子どもの洗礼式で見かけたな」
「あの、小柄な……」

コリーナのことを両親が思い出して互いに確認し合う。

「あの……反対するわけではないけど…彼女とあなた、いつの間にそんな……以前から知っていたの?」

コリーナと私との出会いがルーファスと彼女の妹のトレイシーとの結婚を機に始まったにしては、そこまで発展していることに疑問を持つのもわかる。

「いいえ、親族の顔合わせとルーファスの結婚式。彼女と会ったのはこの二度だけです」

「二度……だけ?」

両親が互いに顔を見合せ、心配そうに振り返る。

「それで……コリーナさんは……どのように思っていらっしゃるのかしら」
「それはまだわかりません。これから確かめるところです。ですが、互いに成人して時間も経っておりますので、二人で決めたいと思っております」

この件に関して家同士のかかわり合いは抜きにして、決めたいという自分の意を両親は汲んでくれた。

「それで、いつコリーナさんにお会いするの?」

「ルーファスに頼んで、場所を借りようと思っています。彼女もいきなり私が呼び出すより、妹の所で落ち合う方が気が楽でしょうから」



ルーファスに事情を話し、協力してもらうことになり、その二日後に彼女との思い出の温室で先に行って待った。

まさか、彼女が何もかも……相手が私だったことを忘れているとは思わなかった。

彼女は自分が不利になるとわかっていながら、正直にもう乙女ではないことを話した。

その考えの中に、断られても構わないという思いが含まれていることに腹が立った。

この二年半、彼女が自分以外の相手に思いを寄せ、その相手と結ばれたらという焦燥感を持ち続けていたのに。

彼女は誰も相手にしなかったどころか、自分のことすら気にもしてくれていなかった。

相変わらず可愛くていじらしい。憎さ余って可愛さ百倍とはこのことだ。

両家の顔合わせの日、彼女をエスコートして庭に出た時、一陣の風が吹き、彼女の大きな目に土埃が入った。

目を擦る仕草が可愛らしく、気がつけば唇を重ねていた。

しっとりと甘い味がした。
これをずっと欲していた。
すっぽりと小さな体を腕に包み込む。

ここまでしても、まだ彼女はあの日のことを思い出してくれない。

ブルーグレイの瞳に映るのは戸惑いと、少しの苛立ち。
なぜこんなことをするのかと訊ねられ、気があることを伝えても、なかなか信じてくれない。

愛しさと、もどかしさが交錯する。

あの日の相手は自分だと言ってしまったら、彼女はどんな顔をするだろう。

彼女の弟の結婚式。

愛情深い彼女は、きっと今回も感極まって泣くだろう。
それをからかわれてムキになるのも可愛らしい。
泣くか泣かないか、賭けをした。

勝算がなければ賭けなどしない。コリーナにとっては勝ち目のない賭けなのに、本気で泣かないと思っているのか。

案の定、泣いてしまったことで、彼女は負けを認めた。

彼女の父上から酒を飲もうと引き留められ、晩酌に付き合った。

「レオポルド…そう呼んでも構わないか?」
「もちろんです。義理の息子になるのですから」

ウイスキーをグラスに注ぎ、二人でまずは一杯飲んだ。

「その……本当に、娘でいいのか」

空になったグラスを弄び、子爵が呟いた。
それが訊きたくて、引き留められたのだった。

「もちろんです」

「あの子は……心優しくて愛情深い、いい娘なんだ」
「わかっています」
「母親の代わりにと、あの子にはろくに社交界にも出してやるこもが出来ず、あの歳まで結婚相手を見つけてやることも出来なかった。もし、母親が今でも健在なら、きっととっくに嫁いでいただろう」

「それはそうでしょう。ですが、彼女が今まで婚約者もいなかったことは、ひとつの面から見れば、残念なことかもしれませんが、私にとっては、それが幸いでした。こうして彼女と出会い、婚約できたのですから」

これまでの互いの人生の歯車がひとつでも狂っていたなら、彼女をこの手に抱くことも出来なかったかもしれない。

「そう言ってくれて嬉しいよ。娘を頼むよ」
「はい」

もう一杯飲み干し、子爵はもう寝ると言ってその部屋を出て行った。

無性にコリーナに会いたくなった。
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