23 / 48
レオポルド〜君に出会ってから
★レオポルドside6
しおりを挟む
二年半の外国での任期が開け、ようやく自国、メディデーシアに戻ってきた。
王都シャルブレの門を潜り、実家のスタニエス家でなくルブラン公の邸へ向かった。
会うのは二年半ぶりだった。
「お久しぶりです。閣下」
「息災だったか?」
「はい」
「希望を叶えてやれなくてすまなかった。だが、そなたほどの人材がなかなかみつからなかった」
友好国、イグレントに赴任して一年目。イグレント内の政情が怪しくなった。
イグレントはメディデーシアと同じく王権制をしいている。
イグレントは上質な貴金属が採掘されていて、それらは全て国が管理している。
王家の独占だと声高に叫ぶ者が現れ、国が荒れた。
そのせいで一時国交が途絶え、国境も封鎖された。
王権を覆そうとした首謀者も捕らえられ、政情が落ち着くのに一年かかった。
ようやく後任が赴任して引き継ぎを終えるのに、さらに半年がかかった。
「仕方ありません」
それが運命だったのだ。
帰国の準備を進めている時に、ルビウス公から届いた手紙には、二年半の間にルーファスに子どもが生まれ、そしてコリーナの父が再婚し、今度は弟が結婚するということが書かれていた。
彼女自身の結婚の噂は幸いなことに耳に入ってきていない。
聞くところによると、夜会にも滅多に顔を出さないらしい。
だからと言って、彼女が今も自分の言葉を信じて待っていてくれると楽観視もできない。
人の心の中までは誰にも探ることもできない。他に意中の相手が出来ていない保証はどこにもない。
ルビウス公への挨拶を終え、自宅へ帰りついた。
二年半の間、ほとんど連絡がなかった息子だったが、両親は温かく迎えてくれた。
ルブラン公が手を回し、無事なことを先に伝えてくれていたからだ。
それでもほんの少し前まで心配させていたことは事実だった。
息子のことを信じて取り乱すこと無く、冷静に受け止めてくれていた両親の賢明な対応が有り難かった。
彼らならコリーナのことも快く迎えてくれるだろう。
対応に困ったのは自分の世話係だったクラレスの方だった。
「若様……若様から何も便りが無く、クラレスは毎日毎日心配で心配で……体を壊していないか、何か危険なめにあっていないかと生きた心地がしませんでした」
確かに彼女は二年半前よりかなりやつれ、十歳は老け込んでいた。
「便りがないのは元気な証拠だと言うでしょうと、旦那様も奥さまも私が何度申し上げても何もおっしゃってくれなくて……」
「すまなかった。しかし、父上たちの言うことは間違っていない。何かあれば連絡は来ただろう」
「連絡が来てからでは遅いのです!」
クラレスがヒステリックに叫び、宥めるのが大変だった。
昔から自分に対する思い入れが強いと思っていたが、それだけ愛情深いのだと軽視していた。
「もう二度とこんなことはなさらないでください」
「クラレスの気持ちはわかるが、それは約束できない」
「若様!」
「クラレス、やめておけ。レオポルドをそれ以上困らせるな」
「そうよ。こうして無事に帰って来たのだから」
「旦那様も奥さまも、薄情過ぎます。大事なスタニエス家の若様に何かあったら……」
「我が息子はそんなやわではない。自分の身は自分で護れる。私たちは彼を信じている」
「レオポルドのことを私たちもあなた以上に心配していました。でも、こうして無事な姿を見られたのですから、それで納得してちょうだい。責めるのはレオポルドを追い込むだけよ」
「父上、母上……私を信じていただきありがとうございます。クラレス、悪かったと思っているが、どうか怒りを収めてくれ」
「怒っているわけでは……どうか頭を上げてください。私ごときにそのような……若様を困らせたいわけではございません」
頭を下げたことで、クラレスもようやく口を閉じた。
「クラレスにも困ったものね。あれでまじめに働いてくれるから無理に暇を出すこともできないし」
「少々レオポルドに対して過剰に反応しすぎる」
「私が……キャリーのことにかまけて、彼女に任せきりだったのが悪いんです。レオポルドにも悪いことをしたわ」
クラレスのことについて、両親が顔を曇らせる。
「キャリーのことは仕方ありません。妹を失うことになったかもしれないことを思えば、あれで良かったのだと思います。クラレスには折を見て話してみます」
「帰ったばかりですまない」
「いえ、母上もお気になさらず。今さら母親が恋しかったと泣くほど幼くはありません。私なりに父上と母上は尊敬し、敬愛しております」
「そう思っていてくれていると知って嬉しいわ。あなたは……そういうことを、あまり顔や態度に表さないから……」
「それは……私としては自然に振る舞っているつもりでしたが……」
家族愛というほどではないが、両親や姉妹のことは血の繋がった家族として、人並みの情愛は持っている。それをはっきり示さないだけだ。
両親に誤解させていたことを今になって知った。
「それで、これからどうする?」
「ルブラン公の計らいで、外務大臣補佐官の任をいただくことになりました。明日にも辞令が下りるでしょう」
「そうか……しばらくは落ち着いていられるのか?」
「はい。今回のようなことは恐らくもうないかと……長期間の出張ということで、一、二ヶ月の訪問はあるかと思いますが」
「まあ、それでは……花嫁となるご令嬢を探してもいいかしら。あなたにちょうどいいお相手が五人ほどいらっしゃるのですけど。歳も身分も問題なくて、世間の評判もいいのよ」
「そのことですが、私の希望を申し上げてもよろしいでしょうか」
「なんだ? 言ってみろ」
「じつは……ずっと思っている女性がおります」
王都シャルブレの門を潜り、実家のスタニエス家でなくルブラン公の邸へ向かった。
会うのは二年半ぶりだった。
「お久しぶりです。閣下」
「息災だったか?」
「はい」
「希望を叶えてやれなくてすまなかった。だが、そなたほどの人材がなかなかみつからなかった」
友好国、イグレントに赴任して一年目。イグレント内の政情が怪しくなった。
イグレントはメディデーシアと同じく王権制をしいている。
イグレントは上質な貴金属が採掘されていて、それらは全て国が管理している。
王家の独占だと声高に叫ぶ者が現れ、国が荒れた。
そのせいで一時国交が途絶え、国境も封鎖された。
王権を覆そうとした首謀者も捕らえられ、政情が落ち着くのに一年かかった。
ようやく後任が赴任して引き継ぎを終えるのに、さらに半年がかかった。
「仕方ありません」
それが運命だったのだ。
帰国の準備を進めている時に、ルビウス公から届いた手紙には、二年半の間にルーファスに子どもが生まれ、そしてコリーナの父が再婚し、今度は弟が結婚するということが書かれていた。
彼女自身の結婚の噂は幸いなことに耳に入ってきていない。
聞くところによると、夜会にも滅多に顔を出さないらしい。
だからと言って、彼女が今も自分の言葉を信じて待っていてくれると楽観視もできない。
人の心の中までは誰にも探ることもできない。他に意中の相手が出来ていない保証はどこにもない。
ルビウス公への挨拶を終え、自宅へ帰りついた。
二年半の間、ほとんど連絡がなかった息子だったが、両親は温かく迎えてくれた。
ルブラン公が手を回し、無事なことを先に伝えてくれていたからだ。
それでもほんの少し前まで心配させていたことは事実だった。
息子のことを信じて取り乱すこと無く、冷静に受け止めてくれていた両親の賢明な対応が有り難かった。
彼らならコリーナのことも快く迎えてくれるだろう。
対応に困ったのは自分の世話係だったクラレスの方だった。
「若様……若様から何も便りが無く、クラレスは毎日毎日心配で心配で……体を壊していないか、何か危険なめにあっていないかと生きた心地がしませんでした」
確かに彼女は二年半前よりかなりやつれ、十歳は老け込んでいた。
「便りがないのは元気な証拠だと言うでしょうと、旦那様も奥さまも私が何度申し上げても何もおっしゃってくれなくて……」
「すまなかった。しかし、父上たちの言うことは間違っていない。何かあれば連絡は来ただろう」
「連絡が来てからでは遅いのです!」
クラレスがヒステリックに叫び、宥めるのが大変だった。
昔から自分に対する思い入れが強いと思っていたが、それだけ愛情深いのだと軽視していた。
「もう二度とこんなことはなさらないでください」
「クラレスの気持ちはわかるが、それは約束できない」
「若様!」
「クラレス、やめておけ。レオポルドをそれ以上困らせるな」
「そうよ。こうして無事に帰って来たのだから」
「旦那様も奥さまも、薄情過ぎます。大事なスタニエス家の若様に何かあったら……」
「我が息子はそんなやわではない。自分の身は自分で護れる。私たちは彼を信じている」
「レオポルドのことを私たちもあなた以上に心配していました。でも、こうして無事な姿を見られたのですから、それで納得してちょうだい。責めるのはレオポルドを追い込むだけよ」
「父上、母上……私を信じていただきありがとうございます。クラレス、悪かったと思っているが、どうか怒りを収めてくれ」
「怒っているわけでは……どうか頭を上げてください。私ごときにそのような……若様を困らせたいわけではございません」
頭を下げたことで、クラレスもようやく口を閉じた。
「クラレスにも困ったものね。あれでまじめに働いてくれるから無理に暇を出すこともできないし」
「少々レオポルドに対して過剰に反応しすぎる」
「私が……キャリーのことにかまけて、彼女に任せきりだったのが悪いんです。レオポルドにも悪いことをしたわ」
クラレスのことについて、両親が顔を曇らせる。
「キャリーのことは仕方ありません。妹を失うことになったかもしれないことを思えば、あれで良かったのだと思います。クラレスには折を見て話してみます」
「帰ったばかりですまない」
「いえ、母上もお気になさらず。今さら母親が恋しかったと泣くほど幼くはありません。私なりに父上と母上は尊敬し、敬愛しております」
「そう思っていてくれていると知って嬉しいわ。あなたは……そういうことを、あまり顔や態度に表さないから……」
「それは……私としては自然に振る舞っているつもりでしたが……」
家族愛というほどではないが、両親や姉妹のことは血の繋がった家族として、人並みの情愛は持っている。それをはっきり示さないだけだ。
両親に誤解させていたことを今になって知った。
「それで、これからどうする?」
「ルブラン公の計らいで、外務大臣補佐官の任をいただくことになりました。明日にも辞令が下りるでしょう」
「そうか……しばらくは落ち着いていられるのか?」
「はい。今回のようなことは恐らくもうないかと……長期間の出張ということで、一、二ヶ月の訪問はあるかと思いますが」
「まあ、それでは……花嫁となるご令嬢を探してもいいかしら。あなたにちょうどいいお相手が五人ほどいらっしゃるのですけど。歳も身分も問題なくて、世間の評判もいいのよ」
「そのことですが、私の希望を申し上げてもよろしいでしょうか」
「なんだ? 言ってみろ」
「じつは……ずっと思っている女性がおります」
32
お気に入りに追加
4,723
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」


好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。