22 / 48
レオポルド〜君に出会ってから
★レオポルドside5
しおりを挟む
空が白み始めた頃、浅い眠りから覚めた。
腕の中でコリーナが小さな寝息を立てて、すやすやと眠っている。
唇はキスの余韻で少し腫れぼったく、それが妙に官能的だ。
ちらりとシーツを上げてそこにくるまれた肢体を覗き込めば、情事の名残である赤紫の斑点が白い肌に散らばっている。
主に胸に集中しているのは、自分の執着の差だろう。
三度精を放っても、また彼女を見て触れると、また欲しくなった。
無垢だった体が次第に開かれ、童顔であどけない表情と妖艶さを併せ持つ美しい恋人に変わっていった。
「コリーナ…」
閉じられた瞼がふるふると震える。
目を開けたら、もう一度彼女と繋がりたい。
でも、それをするには時間が足りない。
刻一刻と迫る出発の時。
目覚めて欲しいのか、欲しくないのか。
「う…ん」
ブルーグレイの大きな瞳が開かれたが、ぼんやりと焦点は定まっていない。
寝ぼけているのだろう。
「みず……」
喉が渇いているようで、手を伸ばし水を探す。
「水が欲しいのか。ほら、水だ」
傍に置いてある水をコップに注ぎ、彼女に差し出すが、まだ現実と夢の間で漂う彼女は「みず」と呟くだけだった。
暫く考えて水を口に含み、彼女に口移しで飲ませた。
ごくりと喉が動き飲み込むと、もっととせがまれ更にもう一口飲ませた。
満足して夢うつつの中で彼女は笑った。
「コリーナ」
もう一度彼女の名を呼び、頭を撫でる。
「んん」
気持ちいいのか嬉しそうに笑う彼女の笑顔を、ずっと見ていたいと思った。
「なるべく早くに必ず君の元に帰ってくる。それまで待っていてくれるか」
そんな頼みを自分がする日が来ようとは夢にも思っていなかった。
自分勝手だとは思う。
彼女を縛り付けることになると思いながら、請わずにはいられなかった。
彼女は二十代半ば。世間的には結婚は遅い方だ。自分のいない間に誰かに奪われる可能性は十二分にある。
彼女のしどけないこんな姿を、他の男が目にするなど、あり得ない。
ブルーグレイの瞳が微かに動いたように見えた。
その瞳に自分の姿が撮らえられ、じっと見返してきた。
覚醒しつつあるのだろう。
「コリーナ、約束してくれ。君の体に印を刻むのは私だけだ。必ず君を幸せにするから、少しでも、私のことを思うなら私の帰りを待っていてくれ」
「わかったわ」
にっこりと笑い、それからすぐに彼女はまた眠りについた。
「約束だ」
本当にわかってくれたのか、少し不安がないわけではないが、それでも残された時間は僅かで、慌ててその場にあった紙に伝言だけ残し、その場を離れた。
「一年で戻してください」
直属の上司であるルブラン公爵にそう願い出た。
「すぐに会いたいと言うから何かと思ったら…」
国王の伯父でこの国の将軍である彼は、戸惑いを見せた。
自分でも唐突なのはわかっている。
期間などあってないようなもの。暫くは帰れないと覚悟して引き受けた仕事だった。
彼もそう思っていた。夕べまでは。
「昨日までは何も言っていなかったではないか、出発の日になって突然だな」
「それは十分承知しています。ですが、事情が変わりました」
「理由をきいても? いや、是非聞かせてもらおう。でなければ考慮もできない。親が病気にでもなったか」
それはもっともだ。どこまで話すべきか迷っていられない。それに、公爵の持っている力を使えば、黙っていても彼女に辿り着くだろう。
「夕べ、ある女性と親密な関係になりました」
「夕べ? 確か昨日は従兄弟の結婚式ではなかったか?」
公爵が顎に手を当てて考え込む。
「はい」
「それで、従兄弟の結婚式で出会った女性と……そういうことか?」
「はい」
「らしくないな。酒にでも酔っていたか」
公爵は、自分のこれまでの女性とのつきあい方についてよく知っている。
公爵の下で訓練を受けて、外交の仕事の傍らで諜報員として働くようになって三年になる。
時には色仕掛けで情報も得、逆に色仕掛けに掛かった振りをして相手から必要な情報を聞き出した。
高官にある立場の者の妻や愛人から、娘から情報を得るために、こちらに好意を向けさせるように謀ったこともある。
溺れさせても自分は溺れない。
最近の女性関係はそんなことばかりだった。
仕事より優先させなければならない女性などいなかったのもある。
何の損得もなしに女性と一夜を過ごしたことに、公爵は驚いていた。
「いえ、酔っていたのは向こうです」
大事な任務が控えている前の日に泥酔するわけにはいかない。
「また、らしくないな。酒でも女でも賭け事でも、過ぎて溺れる者には容赦なかったではないか」
快楽や遊興にのめり込み、身を滅ぼす者を軽蔑してきた。
そんな自分が、酔った相手と一夜を共にしたとなれば、腑に落ちないのも無理はない。
「それで、その相手がどうかしたか? 責任を取って結婚しろとでも言ってきたか。よもやそのことで、君が窮地に立ったのか?」
「子が出きたやもしれません」
自分は避妊はしなかった。
考えなかったわけではないが、結果、何度も彼女の中に放った。
どうみても初めての彼女が、避妊について対策を講じていたとは思えない。
妊娠しづらい時期かも知れないが、定かではない。
「またまた、君らしくない。一体全体どんな女性に誘われたのだ。余程のやり手か」
興味津々な様子で訊ねられた。
「花嫁の姉です」
腕の中でコリーナが小さな寝息を立てて、すやすやと眠っている。
唇はキスの余韻で少し腫れぼったく、それが妙に官能的だ。
ちらりとシーツを上げてそこにくるまれた肢体を覗き込めば、情事の名残である赤紫の斑点が白い肌に散らばっている。
主に胸に集中しているのは、自分の執着の差だろう。
三度精を放っても、また彼女を見て触れると、また欲しくなった。
無垢だった体が次第に開かれ、童顔であどけない表情と妖艶さを併せ持つ美しい恋人に変わっていった。
「コリーナ…」
閉じられた瞼がふるふると震える。
目を開けたら、もう一度彼女と繋がりたい。
でも、それをするには時間が足りない。
刻一刻と迫る出発の時。
目覚めて欲しいのか、欲しくないのか。
「う…ん」
ブルーグレイの大きな瞳が開かれたが、ぼんやりと焦点は定まっていない。
寝ぼけているのだろう。
「みず……」
喉が渇いているようで、手を伸ばし水を探す。
「水が欲しいのか。ほら、水だ」
傍に置いてある水をコップに注ぎ、彼女に差し出すが、まだ現実と夢の間で漂う彼女は「みず」と呟くだけだった。
暫く考えて水を口に含み、彼女に口移しで飲ませた。
ごくりと喉が動き飲み込むと、もっととせがまれ更にもう一口飲ませた。
満足して夢うつつの中で彼女は笑った。
「コリーナ」
もう一度彼女の名を呼び、頭を撫でる。
「んん」
気持ちいいのか嬉しそうに笑う彼女の笑顔を、ずっと見ていたいと思った。
「なるべく早くに必ず君の元に帰ってくる。それまで待っていてくれるか」
そんな頼みを自分がする日が来ようとは夢にも思っていなかった。
自分勝手だとは思う。
彼女を縛り付けることになると思いながら、請わずにはいられなかった。
彼女は二十代半ば。世間的には結婚は遅い方だ。自分のいない間に誰かに奪われる可能性は十二分にある。
彼女のしどけないこんな姿を、他の男が目にするなど、あり得ない。
ブルーグレイの瞳が微かに動いたように見えた。
その瞳に自分の姿が撮らえられ、じっと見返してきた。
覚醒しつつあるのだろう。
「コリーナ、約束してくれ。君の体に印を刻むのは私だけだ。必ず君を幸せにするから、少しでも、私のことを思うなら私の帰りを待っていてくれ」
「わかったわ」
にっこりと笑い、それからすぐに彼女はまた眠りについた。
「約束だ」
本当にわかってくれたのか、少し不安がないわけではないが、それでも残された時間は僅かで、慌ててその場にあった紙に伝言だけ残し、その場を離れた。
「一年で戻してください」
直属の上司であるルブラン公爵にそう願い出た。
「すぐに会いたいと言うから何かと思ったら…」
国王の伯父でこの国の将軍である彼は、戸惑いを見せた。
自分でも唐突なのはわかっている。
期間などあってないようなもの。暫くは帰れないと覚悟して引き受けた仕事だった。
彼もそう思っていた。夕べまでは。
「昨日までは何も言っていなかったではないか、出発の日になって突然だな」
「それは十分承知しています。ですが、事情が変わりました」
「理由をきいても? いや、是非聞かせてもらおう。でなければ考慮もできない。親が病気にでもなったか」
それはもっともだ。どこまで話すべきか迷っていられない。それに、公爵の持っている力を使えば、黙っていても彼女に辿り着くだろう。
「夕べ、ある女性と親密な関係になりました」
「夕べ? 確か昨日は従兄弟の結婚式ではなかったか?」
公爵が顎に手を当てて考え込む。
「はい」
「それで、従兄弟の結婚式で出会った女性と……そういうことか?」
「はい」
「らしくないな。酒にでも酔っていたか」
公爵は、自分のこれまでの女性とのつきあい方についてよく知っている。
公爵の下で訓練を受けて、外交の仕事の傍らで諜報員として働くようになって三年になる。
時には色仕掛けで情報も得、逆に色仕掛けに掛かった振りをして相手から必要な情報を聞き出した。
高官にある立場の者の妻や愛人から、娘から情報を得るために、こちらに好意を向けさせるように謀ったこともある。
溺れさせても自分は溺れない。
最近の女性関係はそんなことばかりだった。
仕事より優先させなければならない女性などいなかったのもある。
何の損得もなしに女性と一夜を過ごしたことに、公爵は驚いていた。
「いえ、酔っていたのは向こうです」
大事な任務が控えている前の日に泥酔するわけにはいかない。
「また、らしくないな。酒でも女でも賭け事でも、過ぎて溺れる者には容赦なかったではないか」
快楽や遊興にのめり込み、身を滅ぼす者を軽蔑してきた。
そんな自分が、酔った相手と一夜を共にしたとなれば、腑に落ちないのも無理はない。
「それで、その相手がどうかしたか? 責任を取って結婚しろとでも言ってきたか。よもやそのことで、君が窮地に立ったのか?」
「子が出きたやもしれません」
自分は避妊はしなかった。
考えなかったわけではないが、結果、何度も彼女の中に放った。
どうみても初めての彼女が、避妊について対策を講じていたとは思えない。
妊娠しづらい時期かも知れないが、定かではない。
「またまた、君らしくない。一体全体どんな女性に誘われたのだ。余程のやり手か」
興味津々な様子で訊ねられた。
「花嫁の姉です」
36
お気に入りに追加
4,723
あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。