嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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レオポルド〜君に出会ってから

★レオポルドside5

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空が白み始めた頃、浅い眠りから覚めた。

腕の中でコリーナが小さな寝息を立てて、すやすやと眠っている。

唇はキスの余韻で少し腫れぼったく、それが妙に官能的だ。

ちらりとシーツを上げてそこにくるまれた肢体を覗き込めば、情事の名残である赤紫の斑点が白い肌に散らばっている。

主に胸に集中しているのは、自分の執着の差だろう。
三度精を放っても、また彼女を見て触れると、また欲しくなった。

無垢だった体が次第に開かれ、童顔であどけない表情と妖艶さを併せ持つ美しい恋人に変わっていった。

「コリーナ…」

閉じられた瞼がふるふると震える。

目を開けたら、もう一度彼女と繋がりたい。
でも、それをするには時間が足りない。

刻一刻と迫る出発の時。

目覚めて欲しいのか、欲しくないのか。

「う…ん」

ブルーグレイの大きな瞳が開かれたが、ぼんやりと焦点は定まっていない。

寝ぼけているのだろう。

「みず……」

喉が渇いているようで、手を伸ばし水を探す。

「水が欲しいのか。ほら、水だ」

傍に置いてある水をコップに注ぎ、彼女に差し出すが、まだ現実と夢の間で漂う彼女は「みず」と呟くだけだった。

暫く考えて水を口に含み、彼女に口移しで飲ませた。

ごくりと喉が動き飲み込むと、もっととせがまれ更にもう一口飲ませた。

満足して夢うつつの中で彼女は笑った。

「コリーナ」

もう一度彼女の名を呼び、頭を撫でる。

「んん」

気持ちいいのか嬉しそうに笑う彼女の笑顔を、ずっと見ていたいと思った。

「なるべく早くに必ず君の元に帰ってくる。それまで待っていてくれるか」

そんな頼みを自分がする日が来ようとは夢にも思っていなかった。
自分勝手だとは思う。
彼女を縛り付けることになると思いながら、請わずにはいられなかった。
彼女は二十代半ば。世間的には結婚は遅い方だ。自分のいない間に誰かに奪われる可能性は十二分にある。
彼女のしどけないこんな姿を、他の男が目にするなど、あり得ない。

ブルーグレイの瞳が微かに動いたように見えた。

その瞳に自分の姿が撮らえられ、じっと見返してきた。
覚醒しつつあるのだろう。

「コリーナ、約束してくれ。君の体に印を刻むのは私だけだ。必ず君を幸せにするから、少しでも、私のことを思うなら私の帰りを待っていてくれ」

「わかったわ」

にっこりと笑い、それからすぐに彼女はまた眠りについた。

「約束だ」

本当にわかってくれたのか、少し不安がないわけではないが、それでも残された時間は僅かで、慌ててその場にあった紙に伝言だけ残し、その場を離れた。


「一年で戻してください」

直属の上司であるルブラン公爵にそう願い出た。

「すぐに会いたいと言うから何かと思ったら…」

国王の伯父でこの国の将軍である彼は、戸惑いを見せた。
自分でも唐突なのはわかっている。
期間などあってないようなもの。暫くは帰れないと覚悟して引き受けた仕事だった。

彼もそう思っていた。夕べまでは。

「昨日までは何も言っていなかったではないか、出発の日になって突然だな」
「それは十分承知しています。ですが、事情が変わりました」
「理由をきいても? いや、是非聞かせてもらおう。でなければ考慮もできない。親が病気にでもなったか」

それはもっともだ。どこまで話すべきか迷っていられない。それに、公爵の持っている力を使えば、黙っていても彼女に辿り着くだろう。

「夕べ、ある女性と親密な関係になりました」

「夕べ? 確か昨日は従兄弟の結婚式ではなかったか?」

公爵が顎に手を当てて考え込む。

「はい」

「それで、従兄弟の結婚式で出会った女性と……そういうことか?」

「はい」

「らしくないな。酒にでも酔っていたか」

公爵は、自分のこれまでの女性とのつきあい方についてよく知っている。

公爵の下で訓練を受けて、外交の仕事の傍らで諜報員として働くようになって三年になる。

時には色仕掛けで情報も得、逆に色仕掛けに掛かった振りをして相手から必要な情報を聞き出した。

高官にある立場の者の妻や愛人から、娘から情報を得るために、こちらに好意を向けさせるように謀ったこともある。

溺れさせても自分は溺れない。

最近の女性関係はそんなことばかりだった。

仕事より優先させなければならない女性などいなかったのもある。

何の損得もなしに女性と一夜を過ごしたことに、公爵は驚いていた。

「いえ、酔っていたのは向こうです」

大事な任務が控えている前の日に泥酔するわけにはいかない。

「また、らしくないな。酒でも女でも賭け事でも、過ぎて溺れる者には容赦なかったではないか」

快楽や遊興にのめり込み、身を滅ぼす者を軽蔑してきた。
そんな自分が、酔った相手と一夜を共にしたとなれば、腑に落ちないのも無理はない。

「それで、その相手がどうかしたか? 責任を取って結婚しろとでも言ってきたか。よもやそのことで、君が窮地に立ったのか?」

「子が出きたやもしれません」

自分は避妊はしなかった。
考えなかったわけではないが、結果、何度も彼女の中に放った。
どうみても初めての彼女が、避妊について対策を講じていたとは思えない。
妊娠しづらい時期かも知れないが、定かではない。

「またまた、君らしくない。一体全体どんな女性に誘われたのだ。余程のやり手か」

興味津々な様子で訊ねられた。

「花嫁の姉です」
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