上 下
19 / 48
レオポルド〜君に出会ってから

★レオポルドside2

しおりを挟む
二度目に彼女を見たのはルーファスの結婚式当日だった。

その数日前、来月の予定だった海外赴任が急に前倒しになり、急遽ルーファスの結婚式翌日の出立となった。

慌てて諸々の段取りをして、トラブルもあって大幅に遅刻した。

式が執り行われている祭壇に向かう途中で、誰かにぶつかった。

泣き腫らして目を真っ赤にし、化粧が剥がれてしまった花嫁の姉。

大抵が自分に良く見せようとしてくるのに、彼女は素顔を晒している。
自分も泣き腫らしているのに、汗を掻いた自分にハンカチを差し出す気遣いもある。

家族とは言え自分のことでもないのに、他人のことでこんなに感動することが出来るのが不思議だ。

自分が感情をあまり面に出さないのはわかっている。

反対に彼女はとても感情豊かだ。

その場で別れ、主役に挨拶してヘイルズ家の披露宴に向かった。

披露宴では互いに花婿側、花嫁側に分かれて座っていることもあり、彼女と接触する機会はなかった。

話そうと思っていたわけでもないが、ひとことハンカチの礼は言うべきだと思っていたが、人に囲まれて対応している内に、元の席から彼女は居なくなっていた。

父親や弟と踊っていたように思ったが、どこに行ったのか。よもや帰ったわけではないだろうし、昨日からヘイルズ邸に泊まっているとルーファスが言っていた。

特に探そうと思っていたわけではない。

これを機に親しくなろうとする女性たちや、次はお前だと言う親戚たちから逃れる意味もあって、人気のない場所に逃げ込んだ。

朝には任務のために国外に行かなければならない。これ以上酒を飲まされるのも遠慮したい。

行き場を探して温室に入ると、そこに先客がいた。

気配だけで立ち去ろうとしたら、聞こえてきた声に立ち止まった。

コリーナ嬢がそこにいた。

「私………頑張った?」

姿は見えないが、誰かと話をしているようだ。
しかし相手の声は聞こえない。

ハンカチの礼を言っておくべきだ。

明日から国を出てしまう。時間を置いて言うほどのこともない。ひとこと言うだけだ。

近づくと、彼女は一人だった。

「私の選択、間違ってなかったよね。ちゃんといいお姉さん出来てる?」

ワインの瓶を直接口にしながら、花壇の縁に腰掛けて、宙に向かってぶつぶつと言っている。

「後悔してないよ。トレイシーもルディも可愛い。大切な家族だもん。お母様に言われたからだけじゃなくて、私が自分で選んだことだもの……ヒック。お父様だって、不器用だけど……ヒック……私たちを愛してくれてるもの……」

グビグビと酒をあおって、ぷはぁと言いながら、尚もぶつぶつ話している。

「だから、誉めて~お母様ぁ……頑張ったねって、頭撫でてぇ……」

先ほど会った時に綺麗に結い上げていた髪も乱れ、せっかく手直しした化粧も、涙でまたもや崩れまくっている。

どうやら天国の母親に向かって話しているようだ。

「あ……」

ここはそっとしておいた方がいいかと踵を返そうとしたが、人の気配に気づいた彼女がこちらを向いた。

「…………………」

何て言葉を掛けたらいいかわからず、その場に立ち尽くし、暫く見つめあった。

「あ~~冷徹貴公子だぁ~」

にへらと笑い、影で言われているあだ名を口にする。

普段は勝手に言っておけばいいと思っているのに、なぜか彼女の口からそう言われるのが気に障った。

「やっぱり男前ねぇ………もてもてでいいわねぇ。選り取り見取り……羨ましいわぁ」

グビグビとまたもや瓶を傾けて直接飲みする。

「あれぇ……もうないや」

瓶を逆さに振り、最後の一滴が滴るのを仰向けになって、小さな舌を出して受け止める。

細く白い喉元が顕になり、ごくりと飲み込む。

ドレスのスカートは膝まで捲れ上がり、靴もどこかにやったのか、白いタイツを履いた裸足の爪先をピコピコと動かしている。

「ちょっとぉ……突っ立ってないで、お酒、持ってきなさい」

ばたばたと手足をバタつかせ、抗議する。

これまでも多くの酔っぱらいを見てきたが、その中でもダントツに可愛い。

「…………?」

その瞬間、胸がざわりと動いた。
体調に異変でも起こったのかと胸を掴む。

心臓は……特に痛みはない。

だが、少しの酒で酔ったのか、どきどきと脈打つ。

どさり。

音がして彼女を見ると、手足を広げて後ろの花壇に仰向けに倒れ込んでいた。

「おい、大丈夫か!!」

驚いて駆け寄った。

花壇に倒れ込み、ガーターベルトと太ももまで見えている。

「たおれちゃったぁ」

「手を貸そう」

ケラケラと笑い転げている彼女のスカートを黙って引き下ろしてやり、手を差し伸べた。

「だっこぉ」

「は?」

「抱っこしてよぉ」

小さい子が駄々をこねるように両腕をこちらに突き出し、甘えてくる。

「酔っぱらいだな…」

とろんとした目付きに舌足らずな言動。明らか飲み過ぎだ。

「ほら、起き上がって」

手を掴み引っ張ると、小柄な彼女は簡単に起き上がり、力の加減を間違えて勢い余って引っ張り過ぎて今度はこちらに倒れかかってきた。

「すまない」

謝ったが、自分に体を密着させ倒れかかってきた彼女から何の反応もない。

肩に乗った彼女の顔を覗き込むと、目を閉じて眠りこけている。

「眠ってしまったのか」

さて、この状態からどうすればいいか。

ワインの香りと彼女自身の香りが混ざり、鼻腔を擽ると同時に、密着する彼女の体の感触に、更に胸が高鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。