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第十一章
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「出来るだけ早く帰る。後は頼む」
「承知しました。お気をつけて」
「おーじょさま、ぜったい戻ってきてね。リロイと待ってるから」
「ボク、もっともっと元気になってるから、帰ってきたらまた遊んでね」
「ええ、約束するわ」
ミアとリロイがジゼルにギュッと抱きつき、ジゼルも抱き締め返す。
ユリウスに対する愛情が増すと同時に、ミアたちにも深い情が生まれていた。
「リロイ様、かなりお元気になられて、良かったですわ」
「そうだな」
メアリーは気を遣って別の馬車に乗り、王都までジゼルはユリウスと二人きりで馬車に乗った。
途中の村々を、逆に辿ってボルトレフ領に向かったのは、まだひと月程前だが、あの時はこの先の自分の身の上がどうなるかが気になり、景色をゆっくり見る余裕などなかった。
初めてユリウスたちと食事を共にした湖の見える丘近くに来た時、雨が降り出したので、そこに寄るのは王都からの帰りにということで、お預けとなった。
しかし、すぐにボルトレフに戻れるかもわからない。ジゼルとユリウスのことを、国王たちはすぐに認めてくれるだろうか。
「ジゼル、元気だったか」
「はい、お父様」
「ジゼル、無事で良かったわ」
「ご心配をおかけしました、お母様」
「姉上、お体は大丈夫なのですか」
「ありがとう、このとおりよ」
ユリウスと共にジゼルが王宮に入ると、すぐに彼と引き離されると、家族だけが入れる王の私室に連れて行かれ、ジゼルは父達に取り囲まれた。
約一ヶ月ぶりの再会に、彼らは口々に競ってジゼルに話しかけた。
「あの、ち、父上」
「少し痩せたのではないか? お前の好物をたくさん作らせてある」
「そうよ。それともゆっくりお風呂に入る? いつでも用意できているわ」
口を挟む余裕もないくらい話しかけられ、ユリウスがどうしているかを尋ねる暇がなかなかなかった。
「あの、父上、彼はどうしたのですか?」
強い口調でそう尋ねると、父は一転険しい表情を見せた。
母とジュリアンも目配せし合い、気まずそうにジゼルから目を逸らす。
「暫く放っておけ」
「放って、って…お父さまに会うために、彼も一緒に来ているのは知っているでしょ」
「ふん、ボルトレフが聞いて呆れる。偉そうなことを言って、お前一人満足に護れなかった」
「そ、それは…彼だって万能じゃないのよ。誰にだって間違いはあるわ。それに、あれは彼のせいじゃない。ドミニコが暴走したから」
「それでも、ボルトレフの人間も係わっていたのだろう? 王族を危険な目に合わせたのだ。即刻極刑にされてもおかしくない」
「でもそれも」
ジゼルが尚も食い下がると、父は彼女に向かって手を翳し制した。
「これまでの彼の、彼らの働きに免じて、監禁だけで済ませているのだ。これが精一杯の譲歩だ」
「酷いことはしていない?」
「お前は優しいな。お前を人質だと言って連れ去った人間を、そんな風に心配するのか」
「『人質』じゃないわ」
「どういう意味だ」
「あの人は、私は彼の未来の妻です。そして彼は、私の夫になる人です」
ジゼルの告白に、三人は目を見開いて驚いている。
「お、お前…まさか」
「ジゼル」
「姉上」
父王は口をパクパクさせ、驚愕に震えている。母もジュリアンも同様だ。
「私は…私は彼のことを一人の男性として、愛しています」
「な、なんだと!?」
「そして彼も、同じ気持ちでいてくれています。わ、私たちは、既に愛を確かめ合って」
「そこまでだ」
またもや父はジゼルの言葉を制した。
母も慌ててジュリアンの耳を塞ぐ。
「ジュリアン、お前は席を外せ」
「父上」
追い出されることに、ジュリアンは異議を唱えるが、彼は「黙って従え」と、強い口調で命じた。
ジュリアンは渋々部屋を出て行く。
三人になると、ゴホンゴホンと、気まずそうに国王が咳払いした後、頭を掻いたり視線を泳がせたりしながら暫く沈黙していた。
「お前はもう少し、慎重だと思っていた」
ようやく口を開いた父が発したのは、そんな言葉だった。
「よりによってユリウス・ボルトレフとは」
「あら、コルネリス。それほど意外とは思いませんわ。野性的で素敵な方ですもの。ときめく女性は大勢いる筈よ。甘やかされて母親に逆らえなかったドミニコとは、全く正反対ね」
「フィエン、お前もか」
「一般的な話をしているだけです。私には尊敬して止まない夫がすでにおりますから」
妻の言葉に、国王は顔を赤らめる。しかし娘と目が合うと、にやけた票所を引き締めた。
「何があった」
そう尋ねられ、ジゼルは王都を出てからのことを父達に話した。
「承知しました。お気をつけて」
「おーじょさま、ぜったい戻ってきてね。リロイと待ってるから」
「ボク、もっともっと元気になってるから、帰ってきたらまた遊んでね」
「ええ、約束するわ」
ミアとリロイがジゼルにギュッと抱きつき、ジゼルも抱き締め返す。
ユリウスに対する愛情が増すと同時に、ミアたちにも深い情が生まれていた。
「リロイ様、かなりお元気になられて、良かったですわ」
「そうだな」
メアリーは気を遣って別の馬車に乗り、王都までジゼルはユリウスと二人きりで馬車に乗った。
途中の村々を、逆に辿ってボルトレフ領に向かったのは、まだひと月程前だが、あの時はこの先の自分の身の上がどうなるかが気になり、景色をゆっくり見る余裕などなかった。
初めてユリウスたちと食事を共にした湖の見える丘近くに来た時、雨が降り出したので、そこに寄るのは王都からの帰りにということで、お預けとなった。
しかし、すぐにボルトレフに戻れるかもわからない。ジゼルとユリウスのことを、国王たちはすぐに認めてくれるだろうか。
「ジゼル、元気だったか」
「はい、お父様」
「ジゼル、無事で良かったわ」
「ご心配をおかけしました、お母様」
「姉上、お体は大丈夫なのですか」
「ありがとう、このとおりよ」
ユリウスと共にジゼルが王宮に入ると、すぐに彼と引き離されると、家族だけが入れる王の私室に連れて行かれ、ジゼルは父達に取り囲まれた。
約一ヶ月ぶりの再会に、彼らは口々に競ってジゼルに話しかけた。
「あの、ち、父上」
「少し痩せたのではないか? お前の好物をたくさん作らせてある」
「そうよ。それともゆっくりお風呂に入る? いつでも用意できているわ」
口を挟む余裕もないくらい話しかけられ、ユリウスがどうしているかを尋ねる暇がなかなかなかった。
「あの、父上、彼はどうしたのですか?」
強い口調でそう尋ねると、父は一転険しい表情を見せた。
母とジュリアンも目配せし合い、気まずそうにジゼルから目を逸らす。
「暫く放っておけ」
「放って、って…お父さまに会うために、彼も一緒に来ているのは知っているでしょ」
「ふん、ボルトレフが聞いて呆れる。偉そうなことを言って、お前一人満足に護れなかった」
「そ、それは…彼だって万能じゃないのよ。誰にだって間違いはあるわ。それに、あれは彼のせいじゃない。ドミニコが暴走したから」
「それでも、ボルトレフの人間も係わっていたのだろう? 王族を危険な目に合わせたのだ。即刻極刑にされてもおかしくない」
「でもそれも」
ジゼルが尚も食い下がると、父は彼女に向かって手を翳し制した。
「これまでの彼の、彼らの働きに免じて、監禁だけで済ませているのだ。これが精一杯の譲歩だ」
「酷いことはしていない?」
「お前は優しいな。お前を人質だと言って連れ去った人間を、そんな風に心配するのか」
「『人質』じゃないわ」
「どういう意味だ」
「あの人は、私は彼の未来の妻です。そして彼は、私の夫になる人です」
ジゼルの告白に、三人は目を見開いて驚いている。
「お、お前…まさか」
「ジゼル」
「姉上」
父王は口をパクパクさせ、驚愕に震えている。母もジュリアンも同様だ。
「私は…私は彼のことを一人の男性として、愛しています」
「な、なんだと!?」
「そして彼も、同じ気持ちでいてくれています。わ、私たちは、既に愛を確かめ合って」
「そこまでだ」
またもや父はジゼルの言葉を制した。
母も慌ててジュリアンの耳を塞ぐ。
「ジュリアン、お前は席を外せ」
「父上」
追い出されることに、ジュリアンは異議を唱えるが、彼は「黙って従え」と、強い口調で命じた。
ジュリアンは渋々部屋を出て行く。
三人になると、ゴホンゴホンと、気まずそうに国王が咳払いした後、頭を掻いたり視線を泳がせたりしながら暫く沈黙していた。
「お前はもう少し、慎重だと思っていた」
ようやく口を開いた父が発したのは、そんな言葉だった。
「よりによってユリウス・ボルトレフとは」
「あら、コルネリス。それほど意外とは思いませんわ。野性的で素敵な方ですもの。ときめく女性は大勢いる筈よ。甘やかされて母親に逆らえなかったドミニコとは、全く正反対ね」
「フィエン、お前もか」
「一般的な話をしているだけです。私には尊敬して止まない夫がすでにおりますから」
妻の言葉に、国王は顔を赤らめる。しかし娘と目が合うと、にやけた票所を引き締めた。
「何があった」
そう尋ねられ、ジゼルは王都を出てからのことを父達に話した。
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