出戻り王女の恋愛事情 人質ライフは意外と楽しい

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
81 / 102
第九章

しおりを挟む
「大将、街の方も探しましたが、王女様らしき人物を見た者はおりません」
「念の為、隣街にも人をやりますか?」
「どうされますか、このこと、エレトリカにも伝えたほうが…」

 ボルトレフの邸に戻ると、ジゼルの姿が消えたという知らせがユリウスを待っていた。
 すぐさまユリウスは街中へと戻り、自ら陣頭指揮を取り隈なく捜索した。
 しかし、結果は芳しく無く、ジゼルの行方は依然としてわからなかった。

「一体どうやって、誰がこのようなこと」
「予想はついている。ボルトレフに出入りしてジゼルを狙う人物は、一人だ」

 ユリウスの言葉に、ランディフも思い当たる人物の名を口にした。

「……オリビア」
「そうだ。だが、動機はあっても彼女が一人でそのようなことを出来るとは思っていない」
「協力者ですね」
「そうだ。彼女の実家で見つけたも、そこから手に入れたのだろう」

 カルエテーレとの交渉を済ませてから、ユリウスは仲間を近くの村で待機させ、ランディフだけを連れてオリビアの実家に向かった。

「ユリウス様、どうされたのですか」
「前触れもなく悪い」

 突然のユリウスの訪問に、リアとオリビアの両親でユリウスの義理の両親でもあるビアマン夫妻は驚いていた。

「少し気になることがあって、オリビアの部屋を見させてくれ」
「オリビアの? あの子が何か?」

 いきなりの訪問とその理由に、当然のごとく彼らは戸惑いを見せた。

「確かめたいことがある」

 真剣な面持ちで、総領にそう言われれば、一族のものとしては従わざるを得ない。

「わかりました。こちらへ」

 夫人の案内で二階の彼女の部屋へとランディフと共に向かった。その後をビアマンもついてくる。

「ここは元々リアの部屋だったのですが、あの子がお嫁に行った時にオリビアがこの部屋がいいと言いまして」

 夫人が案内してくれたのは、日当たりのいい庭が一望できる部屋だった。

「では、それまでの部屋は?」
「この向かい側です」
 
 夫人が廊下を挟んだ扉を指し示す。

「ランディフ」
「はい。では、私はそちらを」
「床や壁も隈なく探せ」 

 ユリウスが名前を呼ぶと、意図を察したランディフが向かいの部屋に入った。

「あの、ユリウス様? 娘…オリビアの部屋に何があるのですか?」

 夫人が問いかける。娘婿ではあるが、ユリウスは彼ら一族の総領でもあるため、敬称を付けて呼んでいる。

「少々部屋を荒らす。後で修理させるので、容赦願いたい」

 ユリウスとランディフは引き出しや収納庫から始まり、部屋の中を捜索し始めた。  
 枕や寝具にも刃物を突き立て、中身を全て引きずり出す。壁や床も注意深く観察して、時折あちこち壊していった。
 ビアマン夫妻が何度理由を尋ねても、それには答えず二人は黙々と何かを探していた。

「大将!」

 向かいの部屋からランディフが叫び、何かを手にしてユリウスの元へと駆けてきた。

「見つかったか」
「はい」
「ユリウス様?」

 廊下でランディフが見つけた小さな小瓶を受け取り、目当てのものを見つけたことに二人で満足していると、怪訝そうにビアマン夫妻が近づいてきた。
 ランディフと顔を見合わせてから、ユリウスは二人に向き直った。

「二人には申し訳ないことだが、今更ながら、俺はリアの死に不審を抱いている」
「リアの?」
「あの子は事故死…」
「いや、リアは事故死ではない。ミアやリロイのために伏せておくつもりだったが、リアの死は単なる事故ではない。自分から命を絶ったのだ」
「えっ!!!」
「そ、そんな、嘘ですわ、そんなこと」

 ユリウスの言葉に二人は一瞬にして顔面蒼白になり、動揺する。 
 夫人は体から力が抜け、夫に倒れかかる。

「マーガレット!」
「場所を移そう」

 ユリウスが言い、四人は下に降りて居間に向かった。

「当時は無用な混乱を避けるのと、俺も気が動転していて、リアの死の真相を伏せることだけを考えていた。大事な娘を、俺に嫁いだばかりに失ったお二人にも、申し訳ない気持ちだった。総領などと担がれ、妻一人守れない無能な人間だと、己を恥じてもいた」
「そんなこと」

 ビアマン夫妻は気遣いを見せたが、ユリウスは無用なことだと首を振った。

「妊娠や出産は、それだけで大変なことだ。気鬱になる者もいると聞いていたので、リアもその類いだろうと思っていたが…」

 彼は先程見つけた小瓶を目の前の机に置いた。
 
「それは? オリビアの元の部屋で見つけたものですね」
「床板の下に隠してありました」
「床下に、それはなんですか?」
 
 見たこともない代物に、夫妻は答えを知っていそうなユリウスに尋ねる。

「はっきりしたことは調べなければわからないが、俺はリアの気鬱の原因は、この薬のせいだと思っている。そして、これをオリビアが隠し持っていたということは、彼女がリアに、これを盛ったと推測される」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...