上 下
61 / 102
第七章

2

しおりを挟む
「あなたのことは好きです。あなたとのことは後悔しておりません。でも、私はボルトレフの総領の妻になる素養はありません」
「素養? 俺の伴侶になる素養とは、なんだ? あなたが女で俺が男で、互いに好意を持っている。それではだめなのか? それとも、子持ちは嫌か?」
「そ、そんなこと、少しもあなた自身のことを嫌とは思っていません。お子様がいることも、問題ではありません。むしろ、お子様たちとあなたの関係は好ましく思います」
「では、ボルトレフの総領の伴侶という地位が嫌なのか?」
「それも、嫌だとかではなく、そのように考えたことがないのです」
「俺はボルトレフの総領を辞めるわけにはいかない。だが、あなたに総領の伴侶として難しいことをしろと言っているのではない。俺の側にいて、俺をただのユリウスとして、見てくれる人を求めているだけだ」
「ただの……ユリウス?」

 意外な言葉にジゼルが問い返す。それに対してユリウスは頷いた。

「あなたを抱いた俺は、ボルトレフの総領だったか? どこかに総領ぶったところがあったか?」

 そう問われ、ジゼルはふるふると首を横に振った。

「あなたは……私のことをまず考えて、私があなたを受け入れられるように、尽くしてくださいました」
「いや、そんな聖人君子ではない。あなたに触れたい。あなたの中に己の欲の塊を突き立てたい、あなたの乱れた姿を見て、その可憐な唇から、快感に喘ぐ声を聞きたかっただけだ」

 自分のためでもあるのだと、ユリウスは言い切った。

「それでも、それが出来たのはあなたが私のことを優しく扱ってくれたからです。あ、あんな……あんな快楽があるのだと、教えてくれ体験させてくれたのは、あなたの思いやりだと思っています」
「気に入ってくれたと、言うことか?」
「気に……ええ。あなたに触れられるのは心地良くて、私もあれ一度きりなのは残念だと……おも……思います」

 何度でも体験したいと、ジゼルは照れながらも素直な気持ちを告げた。

「そんな可愛いことを言ってくれるのか。お陰でまた興奮してきた」
「え?」

 ジゼルが驚いて彼を見ると、すっとシーツを太もも辺りまで下ろす。すると、熱り立ったユリウスのものがそこにあった。

 ジゼルはそれを無言で見つめる。なぜまた彼のあそこが復活したのだろうか。

「一応言っておくが、俺が特別なわけではない。個人差はあるが、他の男もほぼこんなものだ」
「そ、そうなのですね」

 ジゼルの考えが見透かされているようだ。

「あなたの基準がすべて大公だというのはわかる。しかし、あなたの言動から察すると、大公こそが稀なようだ。だからと言って彼を蔑んだり馬鹿にするわけではないが」
「ドミニコが……彼のほうが……」
「そうだ。だが、ここにいない者のことを気にすることはない。するだけ無駄だ」
「む、無駄?!」
「そう、大公のことなど考えるだけ、無駄だ。それより俺とあなたのこれからについて考えるほうが遥かに有益だと思わないか?」
「あなたと……私のこれから」

 ユリウスは身を寄せて、自分の熱り立ったものをジゼルの蜜口近くに当てた。
 あからさまな誘惑。無言で見つめるその瞳には、滾る欲望が見えている。
 それだけでジゼルの体に火照りが生まれ、敏感な場所がジワリと潤い、肌が粟立った。

「わ、私と…あなたの……これから?」
「そうだ。取りあえずは喫緊の問題として、こいつを収めさせてくれると嬉しいのだが」
「お、収める……とは?」

 ドギマギしながらも、ジゼルは期待に胸が膨らむ。

「あ……!」

 ジゼルが戸惑っているうちに、ユリウスの手が湿り気を帯びた場所に触れた。

「ほら、ここはもう準備を始めている。体は正直に反応しているな」
「あ、は、……あ……」

 指がズブリと滑り込む。体が震え、声が漏れる。

「ボルトレフがどうとかではなく、男と女として、求め合う。俺をただの男として、見てくれればいい。あなたの色香に惑わされた男の、ささやかな願いを叶えてほしい」
「い、色……香。そんなもの……わ、私には……」

 容姿は褒められることはあるが、女としてそんなふうに直接言われたことはジゼルにはない。
 湧き上がる欲望にボーッとなる頭で、何とか言葉を絞り出す。

「自覚しろ。あなたはいい女だ。硬い蕾が開けば、これ以上ない芳香を放つ大輪の花だ。男はそれに抗いようもなく引き寄せられる」

 首筋に軽く歯を当てられ、ジゼルはそれたけでジュンと奥から蜜が流れてくるのを感じた。
 シーツに擦れて乳首も敏感に反応する。
 潤む瞳でユリウスを見つめ、必死で目で訴える。

(お願い、この熱を冷まして) 

 考えなければならないことは、たくさんあった。
 ユリウスとこうなったことを、メアリーや、ケーラたちに知られたら、どんな顔をすればいいのか。
 父たちは何て思うだろうか。
「人質」として来たジゼルを、意外にも温かく迎えてくれた人達だが、ボルトレフの総領の相手として見たとき、彼らの彼女を見る目は、がらりと変わってしまうのではないだろうか。

 しかし、ユリウスがボルトレフの総領としてではなく、ただの男としてジゼルの側にいたいと思うように、ジゼルもエレトリカの王女ではなく、一人の女として求められたいと思う。

「ユリウス、まだ私は、ボルトレフの総領としてのあなたに応える自信はありません」
「わかっている」
「でも、あなたの腕の中はとても居心地が良くて、この腕から抜け出したくないと思う。私……わがままで都合のいいことを言っていますね」
「この程度のわがままなど、俺の中ではわがままの内に入らない。それも俺にはとてつもなく可愛くて愛おしく思える」
「ユリ……んん」

 まだ話したいと思うことはあったかも知れない。しかし、そんなジゼルの口をユリウスが唇で塞いだため、それ以上は何も言えなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...