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第四章

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「あなたもまだ男として枯れる年ではないでしょう」
「サイモンにも同じことを言われた。隠居するには早すぎると」
「まあ、あの王女様がその相手になるかどうかは、まだわかりませんが、挑んでみてはいかがですか? 俺は応援します。ただ…」
「わかっている。そうなればエレトリカとの契約を考え直す必要がある。契約のことと、俺個人のことは別だと言っても、周りはそう思わないだろう」
「カルエテーレのことは、はっきり断るのですか?」

 もう一度ユリウスは手紙に目を通した。

「今回のエレトリカとのこと、カルエテーレが勘付いて、今が交渉の機会だとでも思ったようだな」
「ということは、ボルトレフの誰かがカルエテーレと通じていると?」
「まだわからないが、その線は濃いな。それを確かめるためにも、一度会ってみるか」
「では、そのように返事を出します」
「頼む」

 ランディフが立ち去り、ユリウスはフウっとため息を吐いた。
 
 初代ボルトレフの総領がエレトリカと契約を交わしてから数百年。
 その関係が自分の代で変わるかも知れない。
 それが一族にとって良いことなのか、悪いことなのか。
 最初にエレトリカとの契約を決めた初代も、自分のように悩んだのだろうか。

「彼女はどう思っているのだろう」

 自分だけがジゼルに対し一方的に思いを寄せているなら、まずは彼女の気持ちを確かめる必要がある。
 自分はリゼを亡くしてもう四年になる。彼女のことは思い出として懐かしくは感じるが、恋しくはないというのが正直なところだ。
 ランディフがリゼに対するユリウスの思いが、「恋」とは違うというのは、「恋」を経験している者だから言えるのかも知れない。
 ランディフは、彼の妻と今でもこちらが赤面するくらい仲が良い。ユリウスとリゼの関係とはまるで違った。 
 しかしジゼル王女は離縁してまだ半年。夫婦でいた時間より幼馴染として過ごした時間の方が長く、夫婦だったのはほんの僅かのユリウスとは違い、七年も共に過ごしたのだから、簡単には思いきれないだろう。
 しかも、ユリウスは「死」という人の力では到底太刀打ちできないものによって、その関係が終わったが、彼女は違う。

「俺がリゼにもっと寄り添えていたなら、彼女はあんなことにはならなかっただろうか」

 後悔はある。ファーガスが言うには妊娠出産で女性は体も変わり、それによって心も不安定になるらしい。その症状は軽い者もいれば、重症化する時もある。
 リゼは当に後者だった。
 一過性のものだからと軽視していた。
 妊娠出産は女性の分野だからと、他人任せにもしていた。
 リゼがあんな風だったから、生まれたばかりで母親に抱いてももらえない子供たちのことを憐れに思い、彼女は大人なのだからと放置したのかも知れない。
 
 自分の子を二人も生んでくれたリゼに、もっと心をかけ、側にいて励まし労うべきだった。なのにあんな形でその人生を終わらせてしまった。

 それほど丈夫な方ではなかったが、脆弱でもなかった。なのにリゼは死んでしまった。

 だから父親として、子供たちが寂しく思わないよう、心を砕いてきたつもりだ。
 苦手な読み聞かせも、せがまれれば何度もやった。

 それを無理をしているとは思わないが、やはりすべてのしがらみや重荷を捨て、弱いところを見せられる相手を求めてしまう。
 
 ジゼルに対し、頼られる人でありたいと思う反面、彼女の手で優しくあやしてもらいたいという、変な気持ちが芽生える。
 
 ただ男として女性の柔らかく温かい体に身を委ね、ただの男として己をさらけ出せる相手として、自分は王女を見ているのだろうかと、ユリウスは自問する。

 彼女の生まれたままの姿は、きっと美しいだろう。
 男の腕の中で、女としてどのように花開くのか見てみたい。
 
 だが、それも彼女が望んでくれるなら。

 強要するつもりは毛頭ない。

 ただ、そう思ってもらえるよう、自分の思いを口にしてみるべきだろう。
 ユリウスの腕の中にいることに気付き、驚いて恥ずかしがってはいたが、恐怖や嫌悪の様子は見られなかった。
 
 ならば、攻めてみるのも悪くないかも知れない。

 もし拒まれたら落ち込むどころではないだろうが、そんなことで躊躇いはしない。

 これまで勝てない戦はなかった。戦に出れば連戦連勝で、返り討ちにした者は数え切れない。

 しかし今回は、場合によっては負け戦になる可能性もあることを覚悟しなければならない。 
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